第三十六話~嫁に相談することにしました~
「まぁまぁ美味かったな」
「そうですね。黒パンはともかくスプリングラビットのシチューは絶品でした」
適当な食堂で食事を済ませた俺はフラムと連れ添って再びカレンディル王国の首都、アルフェンを練り歩いていた。
食ったランチメニューの内容はスプリングラビットとかいう魔物の肉と野菜を煮込んだシチューと黒パンだ。
スプリングラビットの肉は鶏の腿肉のような食感で、じっくり煮込んだ野菜の旨みと絶妙な塩加減でなかなか美味かった。
「よし、次は冒険者ギルドにいくぞ」
「はい、わかりました」
フラムを伴って再び雑踏を往く。
冒険者ギルドの周辺には冒険者向けの雑貨屋や武器防具屋、向かいには商業ギルドなどもあるので大変人通りが多い。
本来であればスリや痴漢なんかにも気をつけなければならないところなんだろうが。
「めっちゃ注目されてるなぁ」
「ご主人様はこの国の勇者ですからね」
なんというか人ごみが俺達を避けていく。俺も既に勇者として顔が知れ渡っているんだなぁと実感するね。
さっきの食堂でも混んでるのに相席を申し込んでくる人が居なかったし。
「普通の格好に剣を腰に下げてるくらいなら俺はそんなに目立たないと思うんだよ。これは寧ろフラムが目立って、連鎖的に俺が発見されてるんじゃないだろうか」
俺の言葉にフラムは笑みを浮かべるだけで何も言わなかった。否定はしないわけだね、まぁそうだよね。
メイドさんがそこらを歩いていないわけではない。食材の買出しか何かの用事かわからないが、そこそこにここら辺を歩いているのは普通に見かけるし。
問題はフラムの容姿だろうか。美人なのは勿論だが、女性としては結構背が高いのでメイド姿が凄まじく目立つ。
「まぁいいや、さっさと用事を済ませて屋敷に戻ろう」
フラムにそう言って冒険者ギルドへと足を向ける。おお、まるで海を割って歩くモーセの如き光景だ。
微妙な気分になりながら冒険者ギルドに入ると、館内を満たしていた喧騒が一瞬消えた。なんだよ、こっち見んなよ。
気にしていても仕方が無いのでそのまま素材買い取りカウンターへと向かう。何故ホッとした顔をしているんだ、依頼受付カウンターのヘタレ受付嬢。
「冒険者ギルドへようこそ、勇者様。本日はどういったご用件でしょうか?」
素材買い取りカウンターで俺の応対に当たったのは銀髪オールバックで怜悧な表情のイケメンだった。
「俺はしがないDランク冒険者だぞ、普通に対応してくれ」
「大氾濫をほぼ一人で押し返した方が何を仰いますか。上ではSランク冒険者への特別昇格が検討されているともっぱらの噂ですよ」
「マジか……まぁその件はいいや。とりあえずこいつを見てくれ、こいつをどう思う?」
そう言って俺は買い取りカウンターの上に竜魔人の死体と真っ黒い身体に異様にひょろ長い手足を持つ魔物の死体をストレージから放り出した。
銀髪イケメンはその死体を眺め、あちこちを触り、血液を採取して何か試薬のようなものと混ぜ合わせたりする。暫くそうしてから銀髪イケメンは目を瞑って少し考え込んだ。
「……この死体は」
「この死体は?」
「正体不明ですね」
ずっこけた。
見れば見慣れない魔物の死体を珍しがって野次馬していた冒険者達もずっこけている。
「期待させておいてそりゃあねぇだろうイケメンさんよぉ! それともあれか? お前は所謂残念なイケメンってやつなのか?」
「何かよくわかりませんが、屈辱的なことを言われている気がするので否定しておきます。この魔物は少なくともこの大陸で通常見られる種でないことは確かです。勇者様はこの魔物をどこで仕留めたのですか?」
憮然とした表情でそう言う銀髪イケメン。
む、流石に獣人の村って言うわけにはいかないな。適当に誤魔化すか。
「ギルドにも関連した依頼を出しているんだが、ビエット村に知り合いが居てな。それで今回の大氾濫でどうなっているか村の様子を見に行ったんだが、村を調査した後、帰ってくる途中で遭遇したんだ」
そう言って実際に魔物と戦ってみた時の所感なども伝える。
黒い魔物の方は弱すぎてよくわからなかったが、竜魔人の方は凄いタフな上に魔法まで使ってきたのでちゃんと話しておくべきだろう。
「頑丈で再生能力を持ち、しかも魔法らしきものまで行使ですか」
俺の証言をメモに取り、銀髪イケメンは眉根を寄せる。
割と全力の蹴りでも一撃で死ななかったのはかなりのものだと思うよ、実際。多分だけど魔力撃使わなくても石壁くらい粉砕できるからな。
「では、資料を当たって該当する魔物が今までに報告されていないか調べます。買取は詳細が判明してからでよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい。解体の手数料は買い取り額から引いておいてくれ」
「承知いたしました」
銀髪イケメンはそう言って他の職員に指示を出し、竜魔人達の死体を奥に運ばせていった。
アレの素材は何になるんだろうか。あの頑丈さからして革は防具に、再生力の部分は回復薬とか? なんか利用したくないなぁ。
「この後はどうされますか?」
「そうだなぁ、あとはペロンさんのとこにでも寄ってみるか」
「ミスリルより丈夫な防具ねぇ」
俺の注文にペロンさんは難しい顔をした。フラムは何を言うでもなく、俺の後ろに控えている。
「武器作ってるあんたもわかってると思うけど、ミスリルより丈夫となると黒鋼かオリハルコンかって話になるんだよね。金属素材だと」
「まぁそうだよな」
黒鋼は硬く丈夫で、しかも魔法に対する抵抗力が非常に高いため実に堅牢な防具素材だ。ただし、無茶苦茶重い上に身体からの魔力放出も阻害してしまうので俺のような魔法も使う戦士には向かない。
オリハルコンは黒鋼以上に硬くて丈夫、魔法に対する抵抗力も黒鋼に次ぎ、しかも着用者の魔力放出を遮らないという特殊性も持ち合わせている最高の素材だ。
ただし、オリハルコンの加工というのはとにかく手間がかかる。
炉の温度管理は繊細、叩く作業も繊細。弱すぎると叩いて伸ばすことが出来ず、強すぎるとオリハルコンが硬化してビクともしなくなる。
力任せにぶっ叩くと鎚が割れるか、槌の柄が折れるか、あるいはオリハルコンそのものが砕ける。
そう、このオリハルコンって鉱物は外部からの衝撃などを感知して硬度を変化させる実に厄介な物質なのだ。むしろこいつ生物なんじゃないかと思う。
魔力の通しも良いし、武器素材としても防具素材としても素晴らしい素材なのだが、兎に角面倒くさい。
え? なら熔かして鋳造すればいいんじゃないかって? それがこいつ鋳造にするとすっげー脆いんだ。鉄以上、鋼以下くらいにしかならない。
「黒鋼はちょっとなー、俺魔法使うし。オリハルコンは面倒くさいよね、扱うのが」
「面倒くさいわね。私は扱えるけど、できれば避けたいわ。オリハルコンは叩き始めるとそれにかかりっきりになっちゃうし」
まずオリハルコンを扱えるだけの職人が少ないのに、オリハルコンを扱い始めるとそれにかかりきりになってしまうので拘束時間が長い。それ故にオリハルコン製の武具というのはとにかく高い。
採算度外視で自分で作ればいいんだろうけど、正直面倒でオリハルコンは叩きたくない。マジで。
「そこで貴女にオススメしたい品がこちら」
そう言って俺はストレージから神銀のインゴットをゴロゴロと取り出す。
ペロンさんは怪訝な顔をしながら神銀のインゴットを手に取り、重さを確かめたり小さなハンマーで叩いたりし始めた。
「ミスリル……じゃあないね。それにしちゃ重いし。叩いた感じはオリハルコンに似てるような……?」
「魔力特性、硬度、靭性、重量、全てがミスリルを上回るミスリルとオリハルコンの合金だ。加工の手間もそれなりだけど、オリハルコンよりは随分マシになってる」
俺の言葉を聞いたペロンさんがビキリと固まる。
どうしたんだろうか。
「あ、あんた……自分の言ってることの意味が解ってるかい? それが本当なら、これはドワーフの鍛治師達が求め続けては挫折してきた神銀ってことだよ?」
なんてこった、神銀ってネーミングは既に考え出されてたのか。まぁ安直ではあったよね。
「それで合ってる、レシピは秘密だぞ。あと他にも素材があるんだけど」
「さらっととんでもない事を認めたね……まぁこれ以上驚くことはないさね。出してみな」
諦めたかのように溜息を吐いたペロンさんの前に、今度はドラゴンを解体して得た各種素材を積み上げていく。
革、骨、鱗に牙、爪に尾の先端、翼皮膜などだ。いつ解体したのかって? ストレージにある解体機能だよ。
あの馬鹿でかいドラゴンを手作業で解体とか苦行以外の何物でも無いだろう、常識的に考えて。
ちなみに肉は獣人の村に結講置いてきたけど、まだまだある。
「もう驚かないとは言ったけど、これはたまげたね。そう言えば勇者がドラゴンを倒したって話があったっけ」
「そうそれ。この辺も防具素材になるよな?」
「勿論さ。ドラゴンの素材は最高級の魔物素材だからね。それにしても随分と量が多いけど、私に何を作らせるつもりだい?」
ペロンさんはそう言いながらカウンターに積みあがったドラゴン素材の中からいくつかを抜き出し、その品質を確かめるかのように眺め始める。
「俺とマールの防具だな。マールには神銀を使ってバトルドレスの新型を。俺の方はペロンさんにお任せで。出来れば目立つ鎧と目立たない鎧の二種類が欲しいな。余った素材はそのまま進呈する」
「ならお金は要らないよ、これだけあれば鎧を二着作ってもまだ余るからね」
「ご主人様はこの後どうされるのですか?」
帰り道、隣を歩くフラムが唐突にそんなことを聞いてきた。
「あん? 屋敷に帰るけど?」
「いえ、そういうことではなく。身の振り方ですよ。このままカレンディル王国で過ごすのですか?」
「ああそういうことね。ここは重要な拠点の一つだし、これからもそうであり続けると思う。でも、ここにずっと留まるつもりは無いな」
獣人の村もどうにかしたいし、大氾濫の原因とやらにも興味がある。勿論マールの故郷であるミスクロニア王国にも行きたいし、ドワーフが多く住むマウントバスやエルフが住むっていう北部の大森林にも足を運んでみたい。
「そうですか……」
フラムはどこか沈んだ雰囲気だ。どうしたんだろうか?
「どうした?」
「いえ、私は……いえ」
フラムはそう言って黙り込んでしまう。んー? なんだろう? ああ、そういうことか。
俺はフラムの手を取って半ば無理矢理に手を繋ぐ。所謂恋人つなぎで。
「フラムも来るか?」
「えっ?」
「いや、フラムは俺の奴隷だし、俺はフラムのご主人様だし。考えてみれば傍に置いておくべきだなと思ってな。いや、嫌なら屋敷で待っててもらってもいいけど。転移魔法でちょくちょく帰るだろうし」
「いえ、いえ! ついていきます!」
弾んだ声で喜びを表すフラム。うーん? 自分で言っておきながらなんだが、なんでこんなに喜ぶかね? 屋敷で肩身の狭い思いでもしているんだろうか?
ジャック氏もメイベルもそんな人じゃないと思うんだけどな。
「いえ、ジャックさんもメイベルもよくしてくれていますよ。ただその、やはりお二人に比べると私は家事ができませんし、二人も気を遣ってあまり仕事を振ってこないので……」
ああ、まぁあの二人はプロだからな。
ジャック氏は当然ながら、メイベルもあの歳でメイドとしての仕事は完璧だ。ジャック氏に言わせればまだ詰めが甘いらしいが、素人目には完璧に見える。
やたらと俺を踏み――マッサージしたがるけどな。
「今度フラムの装備もペロンさんに作ってもらうか。ドラゴンの革鎧とか」
「い、いえ、流石にそれは……普通ので大丈夫です」
俺の言葉にフラムは慌てて胸の前でパタパタと繋いでない方の手を振る。普段クールな感じの女の人がこうやって慌てるのって可愛いな。
「いやいや、そういうところは妥協すべきじゃないだろ。フラム用の武器も作るか、ミスリルか神銀で」
「いえ、この前素晴らしい剣を頂きましたし。というか、神銀ってさっきのドワーフの女性が言ってた凄い金属ですよね? そんなのとてもいただけません」
「アレ鉄製じゃん? やっぱ最低でもミスリルの方が」
「ご主人様、ミスリルの剣なんて普通、大成した冒険者か騎士団長クラスの人間しか持ちませんからね?」
「俺大成してますしおすし。完 全 論 破」
「いえ、ですからそういうことでなく……!」
目を白黒させるフラムを弄るのが楽しくてそのままフラムをからかいながら屋敷まで戻った。
戻った、の、だが……
「おかえりなさいタイシさん」
扉の前には仁王立ちして俺達を待ち構えているマールさんがいらっしゃった。
「何かようかな?」
「私を差し置いてフラムさんとデートしましたか」
「してない」
「そうですかありがとう恋人つなぎすごいですね」
「それほどでもない」
「やはりデートでしたね!? ずるい! ずるーーーい! 私なんて朝からタヌキ親父達相手に必死に交渉してたのにー!」
マールが前傾姿勢を取って凄まじい勢いでタックルしてくる。
おい馬鹿、足に魔力込めるな。軒先の土が抉れてるんですがそれはやめろやめてください。
「ウボァーッ!?」
腰にタックルを受けて吹っ飛ばされる。
ズシャーと地面と背中が擦れて痛い。なんてことするんですか、この服を洗うのはメイベルなんですよ。
「……フラムさんでもメイベルでもない女の匂いがします」
「ファッ!? いやいやそんなの、は……」
まさか午前中の獣人の村でついたのか? 誰のだ? シェリーか? あのモフった犬娘のか!?
「ふふふ、タイシさん。ゆっくりと『OHANASHI』しましょうねー。実は壁内にすっごい良い場所があるんですよ。この時間は美味しいスイーツを出してくれるんです、個室で。ご休憩もできるんですよ」
「マールさん、それはいいけどほら、俺服が汚れちゃったし」
必死に逃げの一手を模索する。
「タイシさん魔法で浄化できるじゃないですか」
「はい」
無駄でした。
「いってらっしゃいませ。マール様、帰ってきたら私にも貸してくださいね」
いつの間にか距離を取っていたフラムは笑顔で俺達を送り出してくれた。覚えてろよ。
その後、俺は壁内の路地裏にある隠れ家的なレストラン(?)に連れ込まれる事になった。
「くっ、こんなことをされても俺は吐かないぞ!」
怪しげな台に固定された俺はマールを睨みつけて啖呵を切ってみせる。
舐められっぱなしではいられない、男として。
「ふふふ、そう言ってられるのも今のうちですよ」
「絶対に、マールなんかには負けないっ!」
「らめぇぇぇぇぇっ! もう出ないのぉぉぉぉっ! 全部、全部吐くからぁぁぁぁぁっ!」
マールには、勝てなかったよ……。
「まだまだ私のターンは終わっていませんよ」
「もう許して!?」
熱烈な愛を注ぎ込まれた結果、俺はマールに洗いざらい吐くことにした。ただし、獣人の村の位置を特定するような情報だけは死守した。
約束は守るよ、うん。危なかったけど。
今はご休憩室――というには趣味の悪い道具が沢山置いてあったが――から移動し、高そうな調度品の置かれた個室でお茶とお菓子を頂いている。
「また随分と思い切ったことを……本気なんですよね?」
「うむ、本気だぞ。で、領地を分捕る件は行けそうか?」
俺の言葉にマールは天井を見ながらうーんと唸った。
「カレンディル王国側からの許可は問題ないんじゃないでしょうか。問題はミスクロニア王国側の許可ですね。クロスロードとミスクロニア王国領を隔てている森は古くから不文律の緩衝地帯ですから、そこを領地とするのであればカレンディル王国だけでなくミスクロニア王国からも了解を取り付ける必要があると思います」
「そっちの方はどうだ? 見込みはあるか?」
「微妙なところですね。ただ、他国のこととは言えタイシさんには大氾濫を撥ね返したという実績があります。それに私とタイシさんが結婚すればタイシさんも王族ということになりますし、不可能ではないと思いますよ。ただ……」
そこまで言ってマールは表情を曇らせる。
「現状でカレンディル王国とミスクロニア王国を隔てる森というのは両国にとって『頭を悩ませる必要の無い』土地です。そこにタイシさんが領地を持ち、自治権を持つとなると両国共にタイシさんの自治領に対して注意を払わなければならなくなります」
「つまりその面倒を厭わなくなるくらいのメリットが無いとってことだよな」
「極論、そういうことですね」
マールと共に紅茶の入ったカップを傾ける。
なんというかアレな施設だが、意外と出てくるものの品質は悪くない。お菓子も蜂蜜や砂糖がふんだんに使われた贅沢な焼き菓子だ。
「安全な交易路の提供というのはどうだ。あの森に道を造ってカレンディル王国とミスクロニア王国の間に安全、且つ今の大回りルートよりも格段にコストの掛からない交易路を提供する」
「弱いですね。交易路はそのまま軍事的な脅威になりえますし、新しい交易路が定着することによって現在の大回りルートでの流通が下火になり、逆に国内経済に大きな影響が出かねません」
「ぐぬぬ……」
他には俺の作る武器の輸出とかも考えたが、これは俺がいなくなったら破綻するのであまり意味が無い。
「そもそも交易路を造るといっても、簡単なことじゃありませんよ? あの森にはかなりの数の魔物が生息しているという話ですし、そもそも住居を構えることさえ難しいんじゃないでしょうか」
「そこは大丈夫だ。道作りは俺が魔法を使ってやるから、手間も時間もそんなにかからない。安全な住居に関しては結界魔法の応用でなんとかなると思う」
フラムの所属していた暗殺者部隊と交戦したあの遺跡には魔物除けと魔力清浄化の効果を持つ結界が敷かれていた。
結界魔法のレベルを上げれば俺もあれと同じ結界を施せるようになるはずだ。
「うーん、一気に手を伸ばしすぎないでとりあえず領地を貰って村作りくらいに留めたらいいんじゃないですか? あの森の中で何が採れるかもまだわかりませんし、そもそも自活できるのかも不明です。まずはあの森の領有権を取得することに全力を傾けましょう」
「……反対しないのか?」
「? 反対して欲しいんですか?」
はてな? と小首を傾げるマールに俺は首を横に振って応える。
「私はタイシさんのやりたいことを最大限お手伝いというか、一緒にやって行きたいと思いますよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、マールにもやりたいことがあるんじゃないのか?」
「タイシさんのやりたいことを一緒にやるのがいいです。今、毎日が楽しくて私幸せですよ。あの時脱走してなかったら今頃あの馬鹿と結婚して……うわぁ、鳥肌が」
ぶるり、と身を震わせるマール。なんか今ゲッペルス王国の王子とやらに一瞬殺意が沸いた。遠くに居て尚俺のマールに害を為すとかこの世から抹消すべきじゃないだろうか。
とにかく、マールの言葉が嬉しい。さっき蹂躙されたけど愛しい。
「ありがとう。交渉事はマールに頼ることになる、すまん」
「いいんですよ、でもデートに行くなら私を一番にしてくださいね」
「はい」
にへら、と笑うマールに俺は素直に頷くのだった。