第二十九話~憧れの存在と出会いました~
昨日に引き続き立て込んでおり、短いです_(:3」∠)_
「死者、行方不明者は併せて三百と二名。カレンディル王国史上類を見ない大勝利ですな」
あの謎のデカブツを仕留めてからプッツリと魔物の増援が途絶え、昼前には王都アルフェンの大氾濫は収束した。
どうやらあのデカブツが王都アルフェンに押し寄せた魔物達を生み出していたか、率いていたかしていたらしい。
俺はというと国王やゾンターク、王都騎士団の騎士団長等のカレンディル王国の重鎮達が集まる会議に出席している。マールも俺の横に控えてもらっている。
「ただ、依然として王国内の各所では魔物の動きが活発です。テレスコ、グロウディス、ベルリオン、クロスロードには今現在も魔物が押し寄せています」
「部隊の編成はどうなっておる?」
「ハッ、機動力の高い軽騎兵を中心に正規兵二千五百を救援部隊として再編成を進めております。あと四半刻ほどで編成は終了する予定です」
「冒険者や市民兵にも救援部隊への参加希望者を募っておりますが、こちらの編成は少々時間がかかるかと」
他の街では未だ魔物の襲撃が続いているということは、あのデカブツが大氾濫の原因ではないということだ。
アレが母体なのか指揮官なのかはわからないが、あのデカブツと同等の存在が同時に世界中で活動を活発化させるのが大氾濫という現象なのだろうと思う。
この会議の議題はどの街にどれだけの戦力を振り分けるかというものだ。
先ほど会話に出てきた街はどれも立派な城壁を備えている城塞都市で、過去の大氾濫のデータに基いて考えれば最低でも一週間から二週間、最長で一月は魔物の襲撃に耐えられるはずだ。
ただ、救援部隊を動かすのにはどうしても時間がかかる。
また、転戦を繰り返せば消耗も激しくなるため、いつ、どこに、どれだけ戦力を振り分けるかを考えなければならない。
今の所比較的余裕があるのはクロスロードとテレスコの二つ。
グロウディスとベルリオンは押し寄せる魔物の質が高く、旗色があまりよろしくないらしい。
大まかな位置関係はクロスロードが王都の南西、テレスコが東、グロウディスとベルリオンはそれぞれ北西と西に位置している。
劣勢のグロウディスとベルリオンには北西にあるドワーフ達の王国、マウントバスより強力な魔物が押し寄せているのだとか。
「やはりグロウディスとベルリオンを最優先と考えて事に当たるべきでしょうな。あの二つが落ちればマウントバスとの交易や、山岳地帯から流入する魔物の対応に影響が出ます」
「問題は戦力の振り分けだ。匙加減を間違えれば押し潰される」
「それに……」
俺に視線が集まる。
そんなに見るなよ、照れるだろ。
というかこの流れは屋敷にも帰らずこのまま転戦する流れですよね、わかります。
休ませる気無いだろ、お前ら。
「勇者殿をどこに投入するか、ですな」
俺の存在はもはや戦略兵器扱いである。
さもありなん、単身で一個騎士団どころか一個軍団を凌駕するであろう戦果を上げたのだから、当然と言えば当然だ。
今回の戦いで国王を含め、カレンディル王国の全ての人間が俺という存在がどういうものなのかを正しく認識したことだろう。
これで今後の俺の平穏な生活はほぼ約束されたと考えて良いと思う。
「俺は単身でも構わんけどな」
正直、今となってはその方がずっと効率が良いと思う。
俺が一人で走っていって魔物を蹴散らすのが一番手っ取り早い。馬より早いしね、俺。
下手に手勢を連れて行って乱戦になってしまうと俺の力が十全に振るえないからな。
ただ、カレンディル王国としてはそうも行かないだろう。
それなりの数の増援を出さなければ地方都市を治める太守に面目が立たない。
幾ら俺が現在カレンディル王国が動かせる最大戦力とは言え、所詮俺は根無し草の部外者なのだ。
「軽騎兵の精鋭五百と勇者殿にベルリオンへと向かってもらい、残りの二千をグロウディスに送るという形でどうだろうか?」
妥当な判断だ、と会議に参加している全員が思ったのだろう。
反対意見は出なかった。
「うおー、すげぇ。あれ見ろよマール、ドラゴンだよドラゴン」
王都アルフェンを出て数日。
王都の西に位置するベルリオンが見えてきた頃、同時に目に入ってきたドラゴンに俺は思わず歓声を上げた。
ドラゴンと言えばファンタジー界の顔役、スター、王様だ。
リアルで遭遇して心躍らない男がいるだろうか? いや、いない。
「よ、余裕ですね、タイシさん」
「空飛ぶ火噴きトカゲが怖くて勇者やってられるかい」
そう言って俺は馬から降り、軽くストレッチをする。
そうしている間に軽騎兵大隊を率いる大隊長が俺に馬を寄せてきた。
「ゆ、勇者殿、どうされますか?」
「とりあえずあのドラゴンを叩き落としてから俺が突っ込んで敵を粉砕する。残敵の掃討は任せる、あと俺を誤射しないように防衛部隊に連絡しておいてくれ」
接合剣を抜き、ステータスを確認する。うん、MPは全快だ。問題ないな。
「マールは絶対に無理をするなよ。無理矢理着いてきたのに、こんなところで死んだら許さんからな」
「わかりました、タイシさんも気をつけてくださいね?」
「はっはっは、楽勝楽勝」
笑いながら俺は十歩ほど歩き、マール達と距離を取ってから走り始める。
最初は軽く、徐々にスピードを上げながら魔力を両足に篭める。蹴った地面が爆発でもしたかのように土砂を巻き上げる。
「ウィンドシールド!」
風の防壁を展開し、空気抵抗を減衰させる。更に加速して暫く進むとベルリオンを囲む魔物の群れが見えてきた。
どうやらベルリオンの守備隊は堅実に篭城しているようだ。
とは言え、あのドラゴンに上空から攻撃されているようなので厳しい戦いを強いられていることだろう。空からの攻撃には強固な防壁も意味を成さないからな。
走りながら極大爆破を発動させ、遥か前方に展開している魔物の群れに発射する。
着弾、閃光。
衝撃波と一緒に土砂やら魔物の死骸やらが飛んでくるが、ウィンドシールドがそれらを吹き飛ばす。
ドラゴンが俺の存在に気付いた。
城壁への攻撃を中断し、こちらに向かって滑空してくる。
良い度胸だ、気に入った。
俺は接合剣と左手の中指に嵌めている発動体の指輪に魔力を込め、滑空してくるドラゴンと相対するように地面を蹴る。
ドラゴンが顎を開いた。
喉の奥が光り、火炎が俺に向かって噴出してくる。
「おらぁっ!」
それに対して俺は魔力をめいっぱい篭めた接合剣を真横に薙ぎ払った。
剣を振ると同時に刀身から解放された魔力が衝撃波と化し、ドラゴンのブレスを吹き散らす。
だが、ドラゴンはそのまま俺を丸呑みにしようと顎を開いたまま迫ってきた。
俺はその口内に左手を向ける。
「かかったな阿呆が!」
左手から発射された爆裂光弾がドラゴンの口内に突き刺さり、喉の辺りで大爆発した。
ドラゴンの頭部があさっての方向に飛んでいく。
ふははは、その程度予想できないと思ったか。
「勝ったッ! 第二章完! ってギャーッ!?」
ドラゴンは倒したが、それでその巨体の持つ運動エネルギーが消えるわけではない。
俺はドラゴンの死体に吹っ飛ばされて宙を舞った。
「やー、死ぬかと思ったわー。マジ死ぬかと思ったわー」
ぺっと口に入った土を唾と一緒に吐き出しながら起き上がる。
元々農地だったから土が柔らかかったのか、それとも極大爆破で地面を耕したからか、あるいは四桁を超えたVITのお陰か地面に人型の穴をこさえるだけで済んだ。
ステータスを確認すると思ったよりHPが減っていない。VITによるダメージ減少補正でも働いているんだろうか。
身体についた土を軽く払ってあちこちを確かめる。
なんということでしょう、ミスリル製のプレートアーマーの一部がひしゃげてるっていうか千切れてます。
自分で買ったものじゃないからいいけどね。
とりあえずドラゴンの巨大な死体と、少し遠くに半ば埋まっているドラゴンの頭部をストレージに回収しておく。
これでドラゴン素材の武具が作れる。胸が熱くなるな。
「もう! ホントに心配したんですよ!?」
「正直すまんかった」
縦横無尽に暴れ回り大氾濫の魔物達をあらかた蹴散らした俺は今、ベルリオンの城門前で正座をしたままマールに説教を受けている。
ドラゴンと相打ちになったかのように吹っ飛ばされた俺を見て心臓が止まりそうになったとのことだ。
うん、俺が逆の立場なら失神するかもしれん。
その後何も無かったかのように立ち上がって高笑いしながら魔物を蹂躙しているのを見て、なんか腹が立ったらしい。サーセン。
「今度からはあんな無茶はしないで下さいね?」
「前向きに検討させていただきます」
「し な い で く だ さ い ね ?」
「イエス! マム!」
にっこり笑いながら極彩色に輝く液体が入ったポーション瓶を振り上げるのはやめてくれませんかねぇ、マジ震えてきやがりますんで。
ていうかなんなんですか、その物体Xは。なんか『懲罰用』ってラベルが張ってあるように見えるんですけど。
とりあえず俺の回答に満足してくれたようなので、立ち上がって辺りを見る。
今は戦場に残っている魔物達を王都からきた騎兵隊とベルリオンの騎馬部隊が共同で掃討している。
俺の説教される姿は城壁上で警戒を続けている兵達にバッチリ見られていた。
何見てんだよ金取るぞ。
「ここにはあのでっかい手は出てきませんでしたね」
「そうだな、何か出現条件があるのかもしれん」
ゲーム的に考えれば人間側の犠牲者が一定以下で、かつ一定以上の魔物が撃破された場合に出現するとか。
うーん、そんなゲームのイベントみたくなってるもんかねぇ?
検証するための情報が少なすぎてなんとも言えないな。うーん、次の目標はこの辺りの謎の解明にしようかね。
人跡未踏の秘境探索とかでもいいけど。
魔物の掃討は日が暮れるまで行なわれ、俺とマールはベルリオンに一晩の宿を取ることになった。
宿泊先はベルリオンを治める太守の館である。
夕食を共にした太守が言うには、真っ先に唯一の対抗手段と言って良い弩砲がドラゴンによって焼き払われてしまってジリ貧になっていたのだとか。
あのドラゴンは今朝早くにマウントバスのある山岳方向から飛来したらしい。
そこに颯爽と現れた俺がドラゴンをかっこよく討伐したというわけだ。
異論は認める。
この後は明日一日休息を取り、明後日にはグロウディスに転戦するとのこと。
今日の定時連絡によると、まだなんとか防戦できているそうな。
ベルリオンのほうが王都から近いらしく、グロウディスにはまだ王都からの増援が到着していないのだそうだ。
うーん、大丈夫だろうか。明日はマールを説得して俺一人先行してみようかね。
「というわけで、明日は俺一人先行しようと思うのだがどうか」
「ダメです」
即答だった。
「タイシさん鎧壊れてたじゃないですか。あんな状態の鎧を着て戦いにいくつもりですか? 今日の戦い方もそうでしたけど、タイシさん大氾濫が始まってからちょっと調子に乗りすぎです」
「ごめんなさい」
自覚もあるので素直に謝る。
だって仕方ないじゃない。レベルがぽんぽこぽんと上がりまくってステータスがインフレしてきたんだもの。
ちょっと無理をしたくなるお年頃だったんです。
「明日はお休みと、タイシさんの鎧の調達です。異論は認めません、いいですね?」
「はい」
マールには逆らえない。
マールは俺を心配してこう言ってくれているのだから、無碍にするわけにはいかないしね。
確かに最近調子に乗りすぎだ、自重しよう。幾ら強くなったとは言え、過信は禁物だ。
「修理できるみたいで良かったですね」
「うむ、マウントバスが近いからかドワーフの職人さんが多いよな」
朝一番に職人街でミスリルアーマーを修理に出し、俺とマールはベルリオンの街をブラブラと歩いていた。
二人とも目立たないように至って普通の衣装にしてある。前にクロスロードの古着屋で買った品だ。
俺が腰に差しているのはハンターナイフだけ。マールもミスリルショートソードだけなので、道行く人々は俺達が勇者だとは気付かない。
盛大にお披露目を行なった王都ではともかくとして、意外と俺とマールの顔そのものは広まっていないのかもしれない。
「タイシさんは大氾濫が終わったあと、どうするんですか?」
「んー、まずはマールの実家にご挨拶に行こうかな。その後は大氾濫について調べたり、人跡未踏の秘境に挑んだりしようかなと思ってる」
「ああ、それは楽しそうですね!」
「食い倒れグルメ旅とかもいいよなぁ」
他愛の無い話をしながら街をぶらついて適当に露店を冷やかしたり、屋敷で待っているフラムやメイベル、ジャック氏へのお土産を買ったりする。
久々に普通のデートをしてリフレッシュできた気がする。
ご休憩? 勿論致しましたとも。
「圧倒的という言葉すら生温いですな」
「まったく、味方に引き込んでよかった。あの力が我が国に向かっていたかと思うとぞっとするわ」
「ずっと縛り付けてはおけませんが」
「良い、あの力が我が国に向かわないだけでも僥倖だ。機嫌を損ねないよう最大限気をつけよ。あれに牙を剥かれれば我が国は一夜で滅びる」
「御意」