表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/134

第二十八話~大氾濫が始まりました~

すいません、今回はちょっとリアルが立て込んでまして。

ちょっと短いです_(:3」∠)_

 大氾濫発生日の前日、宵闇迫る王都アルフェンは熱気に包まれていた。あちこちで酒や料理が振舞われ、人々は踊り、熱狂している。

 壁外の人間が全員新市街に入って人口密度が高くなっているのも一因か。


 明日からの大氾濫を生きて乗り越えることが出来るかはわからない。


 その不安を前に人々は今生の最後の宴と言わんばかりに熱狂し、恋人達は愛を育む。

 事実、大氾濫の発生が発表されてから冒険者ギルド等の避妊魔法を施術できる施設にはその解除に訪れるカップルが押し寄せていた。

 多くの男達が明日からの大氾濫で武器を手に戦うからだ。

 この二ヶ月で今まで武器を手にしたことの無かったような男達も、武器を手に訓練に励んだ。

 大氾濫で戦う義勇兵として志願した者には家族も含め衣食住が提供されたというのも大きいだろう。


「凄い騒ぎだな」


「なんせ大氾濫ですからね」


 俺とマールは第四城壁上に設けられた俺達専用の詰め所からその光景を見ていた。

 詰め所、というか城壁の上に作られた見張り小屋のようなものだ。ここからは城門から先の壁外と内側の新市街を見渡すことが出来るようになっている。

 部屋にあるのはちょっと大き目のベッドと簡素なテーブル、あとはそんなに大きくない棚が一つきり。

 なんだかクロスロードで泊まっていた灼熱の金床亭を思い出すような内装だ。


 俺とマールはラフな格好でそんな人々をぼんやりと眺めている。

 今日一日は緊急事態が起きない限り誰もこの詰め所に近づかないように言ってある。俺とマールは二人きりでただ静かに過ごしていた。


「タイシさんは、何故大氾濫で戦うんですか?」


 唐突なマールの言葉に俺は首を傾げた。

 俺の態度を見てマールは言葉を続ける。


「タイシさんはこのカレンディル王国の国民ではありませんし、そもそもこのエリアルドの人間でもないじゃないですか。タイシさんがわざわざ先頭に立って、一番危ないところで戦う理由は無いんじゃないでしょうか。逃げ回っていればきっと誰かが大氾濫を止めてくれますよ」


 マールの突然のネガティブな発言に内心首を傾げながらも考える。


「そう言われればそうかもしれんなぁ。でも、色々と俺なりに理由はあるぞ。自分の力を試したいとか、カレンディル王国から報酬をぶん取ってやろうとか、色々な」


 俺の言葉にマールは今ひとつ納得していないようで、眉根に皺を寄せている。

 前日になっていきなりどうしたんだろうか? 今まで何も言わなかったのに。


「あとは、俺が戦うことによってマールや、屋敷の人間を守れるだろ。ま、皆のヒーローになりたいっていう英雄願望は全く無い、と言うと嘘だけどな」


 男の子と英雄願望というのは切っても切れない関係なのだ。

 小さな子供からお年寄りまで、男ならば心のどこかに必ず存在する願望だと思う。

 それを満たせる機会と、それを為す力を持っているのにそれを満たさないなんてことは俺には出来ない。


「死んじゃうかもしれないんですよ?」


「その可能性はゼロではないな。俺は強いという自覚があるが、それを上回る相手が出てこないとも限らないし」


 或いは数の暴力で押し潰されるかもしれない。戦いは数だよ、なんていうあの方の言葉もあるからな。

 だが、俺はただの一兵卒ではない。単身で魔物の群れを消し飛ばすことのできる勇者だ。


「心配するな、死にそうな時にはちゃんと逃げるから」


 きっとマールも不安なのだろうと思う。全部投げ出して俺と二人で逃げてしまいたいのかもしれない。


「ここで逃げたら俺はずっと後悔し続ける事になると思うんだよ。これは確信を持って言える」


 きっと見殺しにしたという罪悪感がずっとついて回るだろうなと思う。

 しかしこの話はアレだな、うん。


「やめやめ、この話は不毛だ! それよりも腹ごしらえをしよう。よーし、久々に腕を振るっちゃうぞー」


 俺はそう言って立ち上がり、詰め所の扉へと向かう。

 だって不毛なんだもの。今更ぐちぐち言ったって仕方ないじゃない!


「ちょ、タイシさん……もう、真面目な話をしてるんですよ!」


「はっはっは、そんなに不安に思ってると胃が痛くなるぞ。なんとかなるなる」


 俺はぶー垂れるマールを宥めながら久々に自分で料理を作った。

 食材はストレージに沢山入っているし、調理道具も突っ込んだままだから第四城壁の上で料理をするのは実に容易い。

 刻んだ野菜とスモールボアの肉を炒めてから鍋で煮てスープを作り、更にスモールボアの肉を塩と香辛料で味付けしてステーキを作る。

 それにストレージから出した焼きたてのパンを添えれば立派な夕食の完成だ。大雑把だけど。


「今更理屈を捏ねたって仕方ないさ。腹いっぱい食ってしっかり寝て明日に備えようぜ! あ、でも少しだけ怖いから今晩はぎゅっとして寝てくださいお願いします」


「はいはい」


 ちょっと呆れた様子ながらも、マールは笑みを浮かべてくれた。

 うん、やっぱマールには笑顔で居て欲しいからな。生き残ろう。




 マールとたっぷりいちゃついて夜を明かした翌日。日も上がらない未明に俺はふと目を覚ました。

 何か予感がする。

 俺はマールを揺り起こす。


「うぅん……どうしたんですか?」


「起きて装備を整えろ、何か感じる」


 明かりの魔法を付与したライトダガーを鞘から抜いてテーブルの上に置く。詰め所の中が着替えるのに十分な光に照らされた。

 マールも素早くベッドから飛び起きて身支度を整え始める。

 俺もほぼ素っ裸なので急いで服や鎧を身に着けた。接合剣とハンターナイフを腰に帯び、詰め所の外に出る。


「まだ何も起きてないみたいですね」


「どうかな」


 第四城壁の外側に目を凝らしながらそう言うマールに朝食代わりの果物をストレージから出して渡す。

 多分危険察知が俺を起こしたんだと思う。寝ていたから絶対とは言い切れないが、多分そうだろう。

 果物を齧りながら俺は魔力眼で第四城壁の外に視線を巡らせる。

 不自然な点は……あった。

 

 南西方向の上空に魔力反応が沢山視える。

 距離はまだかなりあるようだが、飛行型の魔物となるとすぐ来てもおかしくない。


「南西方向の空に魔力反応多数発見だ。すまんがマール、騎士団長のところに報告に行ってくれ」


「わかりました。タイシさん、気をつけてください」


「任せておけ。ついでに皆を叩き起こしてやろう」


 俺は接合剣を鞘から抜き、高く掲げて魔力を集中し始める。

 接合剣の剣芯であるクリスタルが青い光を迸らせ、神銀の刀身も眩い光を放ち始めた。

 剣を掲げた先に拳大の真っ白い輝きを放つ光弾が発生する。


「そぉいっ!」


 掲げた接合剣を振り下ろすと同時に眩く輝く光弾が南西の空に奔っていった。

 光の尾を引き、時間が経つごとに更に光が強くなっていく。


 着弾。


 まるで昼間になったかのように大地を照らす爆発が南西の空で発生した。

 遅れて轟音と衝撃波が到達する。

 爆発に巻き込まれた魔力反応は消滅、そうでない反応も衝撃波で全て墜落したようだ。

 それなりの高さだったから幾ら魔物とはいえ生きてはいまい。

 あ、レベルが三つも上がってる。ラッキー。


 光か轟音に気付いたのだろう、新市街が騒がしくなり始める。

 すぐに王都アルフェンの防衛準備は整うだろう。

 この日の為に綿密な連絡網も構築されているし、なによりマールがすぐに王都騎士団の騎士団長に報告に行ったからな。

 さぁ、初手は闇夜に紛れた飛行型の魔物による奇襲。俺ならそれで混乱しているところに大兵力をぶつけて一気に蹂躙するが。


 と、そういう風に考えていると王都から遠く離れた南東の森から多数の魔力反応が現れた。

 その数は次第に増え、視界の一部を覆いつくさんという勢いだ。


「ありゃちょっと遠いなぁ」


 さっきの飛行型の魔物よりずっと遠い位置であるため、流石に長射程の極大爆破でも届かない。

 見る見るうちに魔力反応の数は増え、王都アルフェンを包囲するかのように横に広がり始める。

 一体何匹いるのか数える気にもならない。


「どれだけ減らせるかねぇ」


 こうして大氾濫が始まった。




 迫り来る魔物の群れ。

 その数およそ二万。


 対する王都アルフェンの防衛戦力は騎士団をはじめとするカレンディル王国の正規兵が約四千人。

 これに冒険者が約一千人、市民兵が約三千人、正規兵と併せて約八千人というのが王都アルフェンの戦力だ。

 魔物の数はこちらの二倍強。防壁があることを考えれば決して分の悪い戦いではないが、今目の前にいる魔物が敵戦力の全てとは限らない。

 当然、厳しい戦いが予想される……のだが。








「はーっはっはっは! 魔物がゴミのようだ!」





 俺の頭上から複数の光弾が飛翔し、魔物の群れに突き刺さって大爆発を起こす。

 弾け飛ぶ魔物達、舞い上がる肉片と臓物、後に残される半径100メートルの多数のクレーター。


 魔物の群れに遠距離砲撃を行なう→当然多数の魔物が吹っ飛ぶ→経験値ウマー。


 遠距離砲撃美味しいです。どんどんレベルが上がる。

 まるで生簀に満杯になっている魚を網でガボガボ乱獲している気分だ。


 無論、俺の極大爆破のみで全ての魔物が片付くわけではない。

 極大爆破の間隙を突いて魔物は突破してくる。


「騎兵隊抜剣! 突撃ー!」

「構えぇ! ってぇー!」

「オラオラ野郎ども! 槍を構えろ! 盾をかざして戦友を守れ!!」

「イヤッハー! 稼ぎ時だぜぇ!」


 爆発の余波で傷つき、フラフラの魔物達が士気が限界突破しているカレンディル王国軍や市民兵、冒険者達に蹂躙されていく。

 軽騎兵の抜剣突撃で蹂躙され、市民兵部隊の放つクロスボウのボルトの雨を浴び、それすらも突破したところで冒険者や正規兵の槍や剣を突きこまれる。

 油断して負傷したり、調子に乗って前に出すぎて死ぬ者も居るようだが流石にそこまでは俺の手の届く範囲ではない。

 俺の役目は大群に極大爆破を撃ちまくることである。

 とは言え、俺の魔力も無限ではない。


「タイシさん、魔力は大丈夫ですか?」


「うーん、半分切ったくらいかな」


 極大爆破は最上級魔法なだけあって、消費魔力が大きい。魔力辺りの効率は凄いけども。

 一発辺りの消費魔力は何の発動体も持たない状態で200、発動体を使用することによって二割から三割カットになるのだが、接合剣の場合は二割半カットになって150になる。

 今現在の俺はバリバリ上がってレベルが50、最大MPが3528とか凄いことになっている。

 で、有り余るスキルポイントで魔力回復を最大のLV5まで上げたのだが、一分辺り8から9ほど回復している。単純計算で一時間当たり500くらい回復する計算だ。

 一時間に三発分は回復するのである。


 ひっきりなしに撃っているわけではないので、まだまだ戦えそうだ。

 魔物の勢いも衰えてきているし。

 というか、魔物のこの行動の目的が本当によくわからない。

 俺の魔法でアレだけ吹き飛ばされれば魔物も怖気づいて逃げそうなものなのだが、愚直にこちらへと突っ込んでくる。

 まるで死ぬために突っ込んできているようにすら見える。


 そんなことを考えながら戦場を見ていると、ゾクリと急に背筋が震えた。


「ん?」


「どうしました?」


「いや、なんか嫌な予感が」


 俺がそう言った直後、戦場に黒い球体が現れた。

 いや、球体? 円? それとも穴か?

 よくわからない、突如として夜空のような黒い闇のようなものが現れた。危険察知がビンビンとアレが危ないものだと伝えてくる。


「何だあれ、すっごい嫌な雰囲気なんだが」


「わかりません……確かに、よろしくない雰囲気ですね」


 そう話しているうちに黒い闇から赤黒い『手』が飛び出してきた。

 それは血塗れの腐肉に覆われて、ところどころ肉が削げ落ちて骨も見えているような、おぞましい『手』だ。

 『手』は黒い闇を押し広げるように闇の縁に手をかける。闇がたわみ、拡大する。

 何かがその黒い闇から出てこようとしているのは明白だった。






「極大爆破を相手のゴールにシュゥゥゥーー!」


 俺は正義のヒーローの変身シーンを優しく見守る悪役のような寛大な心は持ち合わせていないので、容赦なく何かが出てこようとしている黒い闇に極大爆破をぶち込んだ。

 それも一発ではない、合計五発だ。

 闇の奥から極大爆破が炸裂したような轟音が連続で響いた。五回。

 赤黒い巨大な『手』が力を失って闇からぽとりと落ちてくる。手首から先が吹っ飛んでいるようだった。

 ちなみに『手』の下にいた魔物が結構な数押し潰されていた。なんということでしょう。


「超! エキサイティン!」


 念のため、ぼとりと戦場に落ちた『手』も極大爆破で吹き飛ばしておく。

 手だけ動き出したら困るからね。


「えーっと……」


「悪は滅びた。さぁ、大氾濫はまだまだ始まったばかりだぞ」


 俺はわざわざ強敵を出現させて喜ぶドMではない。

 あ、レベルが一気に3も上がってる。

「なんだったんだ、今のは」


「知るかよ……とりあえず勇者様がぶっ飛ばしてくれたみたいだし、問題ねぇだろ」


「だな。おっと、次が来るぜ」


「ヒャッハー! 稼ぎ時だぜぇ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 前話で魔力回復はLV5になっていましたよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ