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第二十三話~自作の武器を作ることにしました~★

挿絵とは言っても剣です、すみません(´・ω・`)

「つかれた」


 ようやくゾンタークから要請された量の武器の刀身を作り終え、俺はそのまま横に倒れた。

 もう何もやる気が起きない。槍はもうやだ、槍はもうやだ。


「タイシさんファイト! あ、疲労回復薬ありますよ! さぁさぁ!」


「やめて! また無理矢理飲ませるつもりでしょう! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」


 マールが倒れる俺のマウントを取って黄色く輝く液体が入った小瓶を俺の口に突っ込もうとしてくる。

 必死に抵抗する俺。いつの間にか現れたメイベルがマールに加勢していた。抵抗する俺を押さえつけようとするメイベルの目が据わってる! コワイ!

 やめろ、その手を離せ! HA! NA! SE!


「がぼぼあば」


 最近、マールは俺を新薬の実験台――いや、廃棄処分場として使ってくれている。

 確かに、言いましたよ。俺には毒が効かないってね。マールが調合した毒薬を飲み干して見せましたよ。

 だからって効果はあるけど副作用の強いクスリの処理に使うのはやめてくれませんかねぇ? 俺は廃液処理マシーンじゃねぇぞ。


「ほーら! 元気百倍ですよね? ね?」


「確かに不自然なくらい体の疲れが抜けた気がするが……ちなみにどんな副作用があったんだ?」


 俺は緩められた拘束から抜け出し、立ち上がる。凝り固まった背中や肩、腕まで丹念に揉み解されたかのような心地よさだ。

 メイベルさん、なんで残念そうな顔してるんですか? ホントに君目覚めちゃったの? 


「大丈夫です、ほんのちょっとだけ依存性があるだけです!」


「それ麻薬の類じゃないの!? ねぇそれ麻薬でしょ!?」


 悪びれもせず発せられたマールの言葉に思わず幼児退行しそうになる。どんどん俺の扱いが雑というか、容赦なくなってきている気がするんだが。


「まぁ、でもこいつを見てくれよ。俺頑張っただろ?」


「そうですね、確かに」


 鍛冶工房の片隅には木箱に整然と詰められた刃物が積み重ねられていた。

 サーベルの刀身、ロングソードの刀身、ショートソードの刀身、槍の穂先をそれぞれ輸送しやすいように箱詰めしたのだ。

 ショートソードの刀身は多少加工すれば槍の柄の先につけて大身槍としても使えるだろう。

 槍の穂先はショートスピアにしてもよし、ロングスピアにしてもよし、もっと長いパイクにしてもよしだ。

 槍は恐らく国家戦力の大半を占めるであろう歩兵に多く利用されるだろうから、一番多く作った。

 できればもう槍の刀身は暫く作りたくない。槍の刀身だけで1000本近く作ったと思う。

 これを買い取ってもらうわけだから、我が家の財政はオーバーヒート気味だ。そろそろ部屋いっぱいに敷き詰めた金貨の海にダイブできると思う。

 まぁ、ゾンタークというかカレンディル王国は俺の作った武器を他国に売りさばいて濡れ手に粟状態らしいけどな。ヤツの高笑いが聞こえる。

 最近は軍部でもサーベルを考案したり、高品質な武器を優先的に回してくれるということで俺の評判が高まっているらしい。少なくとも、表立って俺を排除しようとする勢力はもういないのだとか。

 俺を排除しようとしてたのは軍部でも特に実力のある連中だったらしいからね。ミスリル製の高品質武器を贈ったお陰か、覚えも良くなったらしい。人間って単純だよな!


「で、だ。そろそろ俺とマールを本格的に強化して行こうと思う」


 俺が例の名状し難いアレからお告げを受けてそろそろ二十日だ。あと一ヶ月とちょっとしかないのである。

 今のレベルは俺が20、マールが11。

 正直、俺一人が生き残るだけならそんなに心配は無いんじゃないかと思っている。それくらいに俺は個人としての強さがある。

 問題はマールだ。俺と同じように最前線で戦ってもらうつもりはないし、恐らく立場的にもそうはならないだろうが万一という事もある。

 やはりマールのレベルアップと装備の強化は必須事項だろう。無論、俺にだって万一のことがあるかもしれないので強化はすべきだ。


「まずはすぐにできるのは装備の強化だな。俺とマール用により強力な武器を作る」


「えっと、でも私にはタイシさんから貰ったこれがありますし」


 マールはそう言って腰に下げたミスリルショートソードをそっと撫でた。

 うむ、俺も贈ったその剣は使って欲しい。


「わかってる。だから、マールが良ければその剣を素材にして剣を打ち直したいと思うんだ」


「なるほど……はい、わかりました。お願いします!」


「任せてくれ。何か希望はあるか?」


 マールが渡してくれたミスリルショートソードを受け取り、その刀身を眺める。

 今の俺ほどじゃないが、この剣を作った職人も良い腕だ。


「えっと、そうですね。やっぱりもう少し刀身を長くして欲しいんですけど……でもそれじゃ短剣じゃなくなってしまうんですよね」


 確かになぁ。

 この世界のプロポーズはあくまでもミスリルの短剣を贈ることによって成り立つものだから、それを長剣に打ち直してしまうのはなんとなく憚られる。

 だが、相手は大氾濫なのだ。そういうことに拘って、取り返しのつかない事態になったら悔やんでも悔やみきれない。


「よし、じゃあこの剣はこのまま打ち直すだけにする。マール用にもう一本剣を打とう。この剣をこのまま長くしたような形で良いか?」


「はい! お願いします!」


 満面の笑みを浮かべるマール。はっはっは、この笑顔の方があんな怪しげな薬より俺に活力を与えてくれる気がするぜ。

 さて、受け取ったマールのショートソードを仔細に眺める。この細かい装飾も目に焼き付けておこう。今の俺なら完全に再現できるはずだ。できる! できる! できる! よし。

 実は、ミスリルという金属は精錬時と鍛造時に属性魔力を付与することで特殊な効果を付与できる。所謂魔力付与品となるのだ。

 例えば、マールのこのショートソードのように風の魔力を込めれば重量軽減と使用者の敏捷度を増加させることが出来る。

 そして、ミスリルの色も変わる。このショートソードは風の魔力が付与されているので薄っすら緑色の光沢を放っているのだ。

 このショートソードは若干の反りを持つ片刃だ。サーベルほどの反りはないから曲刀というのは無理があるが、近いものがある。

 ショートソードを分解し、刀身を柄から抜き取る。そこにこのショートソードを打った刀工の銘が刻んであった。その銘を心に刻む。

 そして、俺はそれを精錬用の炉に入れてミスリル鉱石を足し、俺の魔力を込めてインゴットにする。


 そして、打つ。

 繰り返し繰り返し何度も打ち、魔力と魂を込める。

 これはマールの護り刀なのだ。丹精込めて打ち上げる。

 そして打ち上がったのは、打ち直す前の面影を残しつつも更に強い魔力を宿した逸品だ。

 鑑定眼で見てみる。

 武器の軽量化と使用者の速度増加、風属性の付与がついていた。先ほどまでよりも効果は強力になっている。勿論品質は『超越的』だ。

 そして俺は元々の作成者の銘を刻み、更に俺が打ち直したと追記した。刀身の装飾も元と同じようなものを施す。

 元通りの柄に差し込み、調整をすれば出来上がりだ。

 鞘にも問題なく納まった。さすがは鍛冶レベル5、超人レベルは伊達じゃない。


 続いてマール用の長剣を打つ。

 ショートソードと対になるように、同じようなデザインにしよう。

 そうだな、もう少し刀身を長く、反りも多く、かつ切断力を高め、貫通力も増すために先端は少し幅広に、かつ両刃にしよう……うん、カットラスみたいな感じだな。

 刀身にはショートソードと同じような装飾をして見た目も少し華やかに。ナックルガードもそんな感じで。よし、イメージできた。

 先ほどのショートソードの時と同じように打つ。

 力強く、かつ繊細に。

 剣速を保てるように、且つ高い切断力を得られるように。

 刀身の先を作るのに意識を集中する。ここがこの剣のキモだ。


 出来た、我ながら良い出来だ。

 あれだな、この剣とさっきのショートソードで二刀流とかしたら絶対かっこいい。

 マールがやると自分を斬りそうだが。


「よし、できたぞ」


 マールはずっと俺の傍で見守っていたらしい。

 俺が打ち上げ、打ち直した二振りの剣を神妙な表情で受け取り、腰に差す。

 そして、一本ずつ抜いて刀身を確かめるように目を細め、軽く振る。

 恐らく、ショートソードは前よりも軽くなってる。刀身を長く、幅も広く作ったカットラスでやっと前まで使っていたショートソードとほぼ同じ重さのはずだ。


「綺麗ですね……ありがとうございます! タイシさん!」


 そう言ってカットラス片手に微笑むマール。うん、可愛いけど絵面は怖いからね、それ。

 マールはそのまま「裏庭で練習してきます!」と言って飛び出していった。

 早速新しい剣の振り心地を確かめたいんだろう。熱心なのは良いことだ。

 さて、次は俺の武器を作るか。

 どうするかね。剣は単に打ち直せば良いとして、問題はバトルスタッフに使う素材だ。

 魔法の発動体とするのは当然として、素材としての靭性とか軽さとかを考えるとミスリルが安牌なのだが今ひとつ性能が物足りない。

 ただ、やっぱり物理的な強度では黒鋼に負けるし、魔力増幅という魔法的な特性で言えばクリスタルに負ける。

 でも黒鋼は絶望的に魔力との相性が悪いし、クリスタルは衝撃に弱いから刃物を作るならまだしも打撃武器には使えないんだよなぁ。

 オリハルコンはミスリルの完全上位互換だ。敢えて言えばミスリルに比べるとかなり重いところが唯一の欠点か。

 なんかなぁ……最強の代名詞みたいなもんだし、今ひとつ面白くない。なんというか品が無いというか芸が無いというか、趣味じゃないんだよな。

 とは言え、命がかかっているわけだし背に腹はかえられないか。

 いや、待てよ? オリハルコンとミスリルの合金にしてみたらどうだろうか?

 ミスリル2、オリハルコン1の合金にすればミスリルの軽さをある程度保ちつつオリハルコンの強靭性を獲得できないだろうか?

 ティンときた、やってみよう。


 というわけで早速ミスリルとオリハルコンの原石を精錬炉に投入して精錬を試みる。

 初の試みだが、鍛冶スキルレベル5は仕事をしてくれた。複雑な手順と緻密な温度調整を経てミスリル-オリハルコン合金が完成した。

 出来上がったインゴットを鑑定眼で見てみると、『神銀のインゴット』と表示された。

 ウホッ、なんて良い中二臭漂う素材。まぁオリハルコンのことを神鉄とも言うらしいし、ミスリルは真銀とも言うらしいからこれが混じったのかね。

 とりあえずインゴットに魔力を込めたり、熱して叩いたりして強靭性や硬度、重さや軽さや魔法特性を調べてみる。

 結果から言うと、ミスリルより少し重く、強靭性は硬度は向上、魔法特性としてはオリハルコンほどではないけれどもミスリルよりもずっと魔力を溜め込めるといった具合だ。

 スタッフを作る素材としては申し分ない、気に入った。よーし、パパこれで棍を作っちゃうぞー!

 というわけで神銀のインゴットを量産する。どうせなら剣もこれで打ち直そうということでミスリルソードもインゴットの材料にする。

 結局ビッグホーネットの巣の解体くらいにしか使わなかったなぁ。少々申し訳ないが、許せ。


 というわけで神銀を打つ。打ちまくる。

 ミスリルを打つよりは大変だが、オリハルコンやクリスタルに比べれば随分マシだ。

 オリハルコンは単純に硬いしなかなか伸びないので何度も打たなきゃならないので面倒くさい。

 クリスタルは力の加減や温度調整を間違えると砕け散るので気を使う。

 それに比べると神銀は素直で使いやすい素材だ。ただ、合金にする際の手法や温度管理が難しいので俺以外が作るのは難しいだろうなぁ。

 スタッフの両端は少し大きくして打撃部とする。金属の棒そのままだと硬いものを殴ったときに手が痺れそうだな、革でも巻けばいいか。

 しかし打撃部を設けたとはいえ、今ひとつ地味だな。装飾でも彫るか。マールのあのショートソードを参考にしよう。


「できたー!」


 鑑定眼で出来上がった神銀製のスタッフを見てみる。勿論品質は『超越的』で名前は神銀棍、捻りも何も無い。もっとこう、ミスリルコンスタッフとかあるだろ。いや、冗談だけど。

 そんなことを考えていると、神銀棍と出ていた名前がミスリルコンスタッフになった。えっ、なにそれ面白い。

 エターナルフォーススタッフとかでもいいのよ。いやごめん嘘、神銀棍でいいです。

 そう念じると名前が神銀棍に戻った。

 他のもので試してみると、どうやら自分で作ったモノの名前は変えられるらしいということがわかった。

 なるほど、でもこれ鑑定眼持ちにしかわからないから正直微妙だな。


 よし、次は剣を作るか。実は剣の方にはアイデアがある。

 クリスタルで剣の『芯』を造り、それに神銀の刃を被せて接合するのである。

 最初はオリハルコンでやろうかと思っていたのだが、加工が超絶面倒なので実はやめようと思っていたのだ。

 しかし、神銀であれば加工は比較的容易な上に強度も期待できる。これはやるしかない。

 というわけでまずはクリスタルの剣芯を作る。


 このクリスタルというモノなのだが、ガラスと金属の性質を併せ持っている不思議物質だ。

 高温で溶けるというのはガラスと同じなのだが、ガラスよりは遥かに強靭でハンマーで鍛えることが出来る。いや、何故かわからんけど出来る。

 で、冷えるとガラスみたいに透明になるんだけれども、クリスタルは鍛えれば鍛えるほど冷えたときに青くなるのだ。そして青くなれば青くなるほど魔力の増幅効率が上昇する。

 なので鍛える、鍛えまくる。ただあまり力を入れると砕け散ってダメになるので、細心の注意を払う必要がある。

 こうして『剣芯』部分が出来たら、今度は刃を構成する神銀を鍛える。

 この加工が思ったより難しい。なんせすっぽりと隙間無く被せる必要がある。

 隙間があると接合しようとしても外れてしまう。僅かなズレも許されない。


 何度も試行錯誤を繰り返し、ついに完成した。


挿絵(By みてみん)


 鍛冶レベル5であっても何度も試行錯誤が必要とは……自分のアイデアが怖い。

 出来上がったのは青く透き通る剣芯に白銀の刀身を持つ神銀とクリスタルの接合剣だ。

 片手でも両手でも扱えるように柄は少し長めに、刀身も含めて長さは130cmくらいにしてある。所謂片手半剣、バスタードソードだ。

 それにしてもなんという中二力、この剣の中二力は五十二万くらいあるに違いない。


 しかし、俺の思惑通りの性能が出ればこの剣は相当な威力を持つはずだ。

 柄からクリスタルの剣芯に魔力が通ると、そこで増幅が始まる。増幅された魔力は神銀の刃に蓄えられ、より強力な魔力撃を放てるというわけである。

 無論、発動体としての能力も持たせてあるのでこいつを使って魔法を放てば威力がかなり増幅されるはずだ。

 問題は、どの程度の威力があるかわからないので、迂闊に街中で使えないという点か。

 予想以上の威力が出てお隣さんの家屋を斜めに一刀両断とかしてしまったら怖い。全然上手く行ってなくて涙目になる可能性もあるけどね!

 よし、この剣には銘をつけよう。こんなに中二臭い剣なのに普通っぽい名前だなんてとんでもない。

 うーん、何にしようかな。エクスカリバーとかストームブリンガーみたいなカッコいい名前が良い。

 ああ、でも待てよ。まだどの程度の威力かわからないし、まだ名前をつけておくのはやめておこう。仰々しい名前をつけてショボかったら黒歴史になってしまう。

 そういえばゾンタークが近々騎士団と一緒に魔物の討伐に行ってくれと言っていたな。よし、そこで試そう。




「うわぁ! なんですかその剣! 綺麗ですね!」


 接合剣(仮)を手に裏庭に行くと、それを見つけたマールが駆け寄ってきた。

 どうやらアレからずっと剣の修練をしていたらしく、頬が上気して息も弾んでいる。

 見ると、裏庭の片隅にはフラムがいた。


「フラムさんに頼んで、剣を見てもらってたんですよ!」


 なるほど、そういえばフラムの剣術はレベル3だ。マールが剣を振っているのを見てコーチをしてくれてたのか。

 俺の視線にフラムは黙って頭を下げた。俺はそれに首肯して返す。


「この剣はまぁ、俺がアイデアを凝らして作ってみた剣だ。ちょっと振り心地を試しにな」


 そう言って、俺はマールと一緒に素振りをする。

 振り心地は悪くない。品質も『超越的』なので刀身やなんかのバランスも最適だ。

 試しに魔力をほんの少しだけ通してみたが、想像以上に増幅されて刀身に魔力が蓄えられた。

 これ、全力全開で魔力を送ったらどうなるんだろうか。やっぱ街中で振るうのはちょっと怖いな。

 その後、木刀に持ち替えた俺とマールは模擬戦を行なって汗を流した。

 マールは二刀流にも挑戦するらしく、両手に木刀を持って果敢に打ち込んできた。

 まだまだだった。これなら片手にだけ持って攻撃してきた方が強いな。


「マール様はまだ基礎を修得したばかりの状態ですから、もう少し正道の剣を修めてからそういうことをした方が良いですよ」


「俺もそう思うぞ、ぶっちゃけ片手だけで攻撃してきた方が強い」


「むぐぐ、わかりました」


 フラムと俺のアドバイスにマールは悔しそうにしながらも頷いた。

 とは言え、諦めたわけではないようだ。向上心があるのは良いことだと思う。

 その後はマールと一緒にお風呂で汗を流し、夕食を食べる。

 今日は白米にステーキ、昆布出汁の卵スープだった。実に食が進んだ。やはり米は良い。


 夜はついにいつぞや手に入れた踊り子衣装を着てもらった。

 やはり良いものだった。羞恥に染まるマールの表情も実に良い。全裸よりも実にエロい。

 脱がすなど言語道断。なのでずらして楽しんだ。


 実に実に良いものだった。

 惜しむらくは最後に意識が飛んだことか。


 翌日、マールのステータスを見ると始原魔法がレベル2になっていた。それが原因か。




 三日後、騎士団と合同で魔物の征伐に出た。

 自慢じゃないが、俺は馬に乗ったことなどない。乗馬なんて高尚な趣味は持ち合わせてなかったからね。

 どうも征伐の間は移動に馬を使うようだ。馬に乗れないとなると、騎士の後ろに跨るしかない。

 マールは乗馬経験はあったが、軍馬を操れるほどではなかった。よってマールも騎士の後ろに跨るしかない。

 これは由々しき自体である。というわけでなけなしのスキルポイントを使って騎乗のレベルを2に上げた。残ポイントはこれで1である。


「タイシさん、乗ったことないとか言ってたのにすごい上手じゃないですか!」


「はっはっは! 俺に不可能はないのだよ!」


 実のところ、見栄のためだけではなく移動手段として馬は有用なので騎乗スキルはそのうち取ろうと思っていた。

 それが早まっただけの話だ、うん。決して見知らぬ騎士の腰に抱きつくマールが見たくなかったとかそういうわけでは、なくもない。


 さて、戯言はこの辺にしておくとして。

 今、俺達が向かっているのはオークの集落である。

 オークは豚のような顔にでっぷり太った体躯を持つ豚獣人のような魔物だ。

 この世界には獣人という種族もいるのだが、こいつらオークは獣人とは似て非なる存在だ。

 およそ話し合いなどというものは通じず、群れでヒトの集落を襲い、略奪を行なう。山賊のように行商人やキャラバンを襲うことも珍しくない。

 また、奴らはヒト種の女を使って繁殖することが多い。メスが生まれる確率が非常に低いらしいのだ。

 全体的にゴブリンよりもずっと体格に優れているために力が強く、タフであるためその集落を潰すのは熟練冒険者でも難しい。


「というのがオークの概要ですね」


「弱点はあるのか?」


「特にこれといってはないですね。まぁ、魔法全般は良く効くみたいですよ!」


 そんな話をしながら俺達はオークの村落があるという盆地に向かう。

 この盆地には昔は街があったらしいが、前の大氾濫で滅びたらしい。オークはその滅びた街を拠点として周辺に被害を与えているのだとか。

 今まではごく散発的な活動しかしておらず周辺の村や街に駐在する騎士や兵、冒険者の活躍で何とかなっていたそうなのだが、最近になって活動が活発化してきたという話だ。

 大氾濫も迫っているので、今回は騎士団を派遣して一気に殲滅することにしたらしい。


「勇者殿、もう間もなく野営地に着く予定です」


「わかった」


 前方から走ってきた騎士が馬を寄せてそう伝えてくれた。

 今日はその野営地で一泊し、翌日の昼頃にはオークの集落に辿り着いて襲撃をかける予定ということだ。

 野営地に着いたら結界魔法を使って野営地全体を覆うとしよう。範囲を拡大すればなんとかなるはずだ、今日は殆ど魔力を使ってないし。

「どう見る?」


「さぁな、まだ剣を振るう所も見ていないし判断はつかんよ」


「今回新調した剣はあの勇者が作ったって話だぞ」


「今までの剣とは比べ物にならない業物なのは確かだな。だが、勇者としての力がどの程度のものかはまだ未知数だ」


「明日になれば見えてくるさ」

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