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第二十二話~大々的に発表することになりました~

「ほう、これは……」


 すらりと鞘を払い、刀身を眺めたゾンタークはそう呟いて目を見張った。

 刀身の中ほどから刃先に向かって反りを持つ片手剣。柄にはナックルガードがつけてある。

 俺がゾンタークに贈ったのは『超越的』な出来の騎兵用サーベルだ。

 素材は鋼鉄で、装飾は最低限に抑えたあくまで実戦仕様の品である。


「軽騎兵用に拵えたものだ。擦れ違いざまに斬りつけたり、静止状態で振り下ろしたりするのに威力を発揮する。現行の直剣よりは威力が高いはずだから、実験運用してみてくれ」


 そう言って俺は大きなテーブルの上にドカドカとサーベルを積み上げる。その数三十振り。

 この世界の武器を色々見ていて思ったのだが、基本的にこの世界の剣は直剣だ。曲刀の類が殆ど無い。

 いや、曲刀が直剣に対して優れていると言うわけではないのだけれど、少なくとも馬上で使うのであればサーベルのような曲刀の方が切れ味を活かせるのだ。

 直剣だと突きはともかく、斬りつけた際の威力はどうしても落ちる。

 騎兵で白兵戦を行うなら、サーベルはかなり役立つはずだ。今からならまだギリギリ試験運用して、実戦配備が間に合うだろう。


「わかった、早速手配しよう。それで、例の日程だが一週間後に決まった。こちらが詳細なスケジュールだ」


 スケジュール表に目を通す。

 五十数年ぶりにカレンディル王国で勇者が見出されたため、という名目で勇者のお披露目と観兵式を執り行う。また、同時に重大事項の発表も行う。

 そういう布告を今日にでもカレンディル王国の全域に出すらしい。

 他国も同じような内容で今日布告を行うようだ。

 その他当日のスケジュールが細かく記されている。

 大まかには王城から出発し、新市街まで行進。その後新市街で俺とマールのお披露目、大氾濫の発表を行って新市街から王城まで戻る。


「発表後、俺とマールにはどの程度の自由があるんだ?」


「基本的には軍や騎士団と行動を共にしてもらい、王都周辺の魔物を討伐してもらうことになるだろう」


「タダ働きは御免だぞ。それと、俺は高品質の武器を大量に作って全体の戦力を底上げするつもりだ、その作成時間は確保させてくれ」


「ああ、それは勿論だが……こんなに高品質の武器を量産できるというのか?」


 ゾンタークはそう言ってテーブルの上に積み上げてあるサーベルの山を見る。


「刀身だけは俺が作るから、拵えを作る職人を手配してくれ。槍と剣の刀身を作るだけならそんなに手間でもない。拵えを作るのが一番面倒なんだ。こいつがサンプルだ」


 俺はそう言って三振ずつロングソードとショートソードを、そして更に三本のロングスピアをテーブルの上に並べた。

 どれも『超越的』な品質の逸品だ。


「あと、魔力撃を扱える者の数と使用武器を集計してリストアップしてくれ。それらの人材にはミスリルで俺が武器を作る。これらの武器素材はそっちで手配してくれるよな?」


「あ、ああ……わかった」


 ゾンタークは顎に手を当てて考えながらそう返事をした。

 そこで俺は一つ条件を突きつけることにする。


「お値段は良心価格に設定してやる。ただ、これらの武器を供給するのには条件がある。カレンディル王国だけで独占はするな、他国にも供給しろ。無論、無償で供給しろとも、政治的なカードとして使うなとも言わない。ただ、出来るだけ行き渡らせて犠牲者を一人でも少なくしてくれ。これは俺の願いでもある」


「……守らなかった場合は?」


「聞きたいのか?」


 暫く俺とゾンタークは睨み合った。

 俺が作った武器には全て魔力的な目印を組み込んである。そう、いつか俺の追跡にも使われた追跡用の秘印というやつだ。

 秘印術はスキルというよりは学問、知識に近いものだ。仕組みさえ知っていれば使うのは比較的容易で、鍛冶レベル3と取得したときに発動体武器の作成方法と一緒に頭に入ってきた。

 俺が作った武器の刀身にはその秘印を組み込んである。削り取ったら使い物にならないレベルで。

 もしゾンターク、というかカレンディル王国が俺の要求を無視した場合はそれを使って全ての武器を叩き折って回る予定だ。


 ゾンタークは根負けしたように溜息を吐いた。


「我が国が多めに供給を受けるのは構わないか?」


「それくらいは良い。その辺の匙加減はそっちに任せるよ、プロだろ?」


「ああ、任せてくれ」


 そう言ってゾンタークはニヤリと笑う。

 ニヤリと笑うこいつの顔はどこに出してもおかしくない悪人顔だ。『計画通り』とか言い出しそう。

 俺も気をつけよう。こいつはビジネスパートナーにはなれるが、全幅の信頼を寄せるのは危険な手合いだ。


「刀身に関しては急ピッチで作っておくから、素材の提供は早めに頼む」


「勿論だよ、勇者殿」


 俺とゾンタークは固く握手をした。




「というわけで一週間後にお披露目という事になった。で、俺達は今から当日装備する鎧を発注しに行かなきゃならん」


「この前新調したばかりなんですけどね」


 マールはゾンタークから貰ってきたスケジュール表に目を通し、苦笑いした。

 俺もそう思う。折角金貨50枚も使ったのに。まぁあれはあれでいいんだがな。


「防御力はともかく、見た目が今ひとつだからなぁ」


 トロールハイドアーマーとミスリルチェインメイルの重ね着は、見た目はただの革鎧装備なので地味なのである。

 ゾンタークから国にツケることができる免状は貰っているので、金に糸目をつける必要は無い。

 一応壁内の防具屋を一通り回ってからペロンさんの所に行くとしよう。




「おう、毎度」


「毎度、ペロンさんいる?」


 壁内の防具店を一通り見て回り、俺とマールはペロン防具店に辿り着いた。

 俺の言葉にリッツ氏が鋭い視線を投げかけてくる。


「何の用だ、俺のかみさんはやらんぞ」


「いや、いらんから。俺にはマールがいるし」


「なんだとォ!? 俺のかみさんに魅力が無いとでも言うのか!?」


「ペロンさーん! 早く来てくれーッ!」


 話の通じないリッツ氏を無視して大声でペロンさんを呼ぶ。

 その瞬間、カウンターの奥の扉が勢いよく開いて何かが飛来しリッツ氏の頭に命中した。

 未精錬の鉄鉱石である。これは洒落にならない気がするんだが、ギャグ補正なのか元から頑丈なのかリッツ氏はカウンターに突っ伏しただけで血の一滴も流していない。


「いつもいつも馬鹿亭主がすまないね。で、今日はどうしたんだい? 鎧はこの前メンテナンスしたばかりだし、またダガーの納品かい?」


 そう言ってペロンさんはカウンター横に新しく設けられたダガーコーナーを見た。

 納品したダガーのうち何本かはもう売れたようで、いくつか空きスペースがある。


「順調に売れてるようで安心だな」


「そりゃ売れるさ。ある程度目の肥えたヤツなら即買いだね」


 そう言ってペロンさんは笑った。うむ、この笑顔にやられてしまうのはわからなくも無い。

 リッツ氏はちょっと業が深すぎると思うが。


「今日の用件は鎧の発注だ。華やかな見た目を保ちつつ、性能も限界まで追い求めて欲しい。俺の分は勇者っぽく、マールの分はこれでもかってくらいお姫様っぽい感じに」


 俺の注文にペロンさんは怪訝な表情をした。そりゃそうだろう、注文の内容が内容だ。


「予算と期限は?」


「一週間後に使うから、六日以内かな。予算はコレ」


 俺はゾンタークから預かった免状をペロンさんに見せる。

 ペロンさんはなんだこりゃ、という目で免状を受け取り、そして驚きの表情を浮かべた。

 免状に書いてある内容は掻い摘んで言うと『タイシ・ミツバとマールは王国公認の勇者とその従者なのでこの者らに技術の粋を凝らして望みどおりの品を作れ、金は国が持つ』というようなものだ。


「只者じゃないとは思ってたけどねぇ……へぇ」


 そう言ってペロンさんは俺をつま先から頭のてっぺんまでジロジロと見てくる。

 この舐め回すような視線にリッツ氏なら身を悶えさせるんだろうが、俺は居心地の悪さを感じるだけだ。

 流石に見られて悶える趣味は持ち合わせていない。見る方なら良いけどな。


「でも、ウチで良いのかい? 壁内にはウチよりも高級品を扱う店があるんだけどね」


「勿論見てはきたけどな。ペロンさんのとこが一番だと思ったんだよ」


「そりゃ光栄だねぇ、やっぱアンタ見る目あるよ」


 そう言ってペロンさんがニヤリと笑う。

 ニヤリと不敵に笑う幼女(仮)、なんというか世にも珍しいイキモノに見える。


「材質は何にするんだい? 重いけど魔法防御も物理防御も高い黒鋼、軽くてバランスの良いミスリル、滅茶苦茶重いけど魔力増幅性能のあるクリスタル、このどれかだね。オリハルコンは加工がどう考えても間に合わないから無理だよ」


「私はミスリル製がいいです!」


「うーん、魔力増幅効果のあるクリスタルも良いんだがなぁ。俺も軽いのがいいからミスリルだな」


「そうだね、見た目も良いし目的を考えればミスリルが良いだろうね。あんたらは軽い鎧が好みらしいし」


 俺とマールの言葉にペロンさんも同意した。

 鎧のサイズなんかは調整とメンテナンスの時に覚えているので、計りなおさなくても良いらしい。

 ミスリルチェインと重ね着できるように工夫もしてくれるそうだ。有難い。


「それじゃ、確かに承ったよ。出来たら屋敷の方に持ってくからね」




 それから俺とマールは商業ギルドで鉱石や薬草などの資材を買い、屋敷へと戻ってきた。

 そしてそこからはもう生産の日々である。

 ひたすらサーベルやロングソードやショートソードの刀身やロングスピアの穂先を作る。

 ハンマーを無心に振って振って振りまくった。

 疲れたら休憩し、マールといちゃついたり魔力交換をしたりする。

 マールはマールで色々な魔法薬を調合している。しかし何か考えがあるらしく、回復薬をかなり作って溜め込んでいるようだ。

 最近はマールの作る回復薬も『良い』とか『高品質』な物ができているようだった。

 たまに商業ギルドに出かけて納品の依頼をこなしているようだ。それを資金にして回復薬を溜め込んでいるらしい。


 ダメだ、どうしても元の世界のアレを連想してしまう。だってやってること一緒ですやん!


 そして日が暮れたら夕食をとり、風呂に入ってメイベルに踏ん――マッサージをしてもらう。

 最近俺をマッサージするメイベルの目付きが怪しい気がする。きっと気のせいだろう。


 勿論夜はマールといちゃつく。

 結局どちらからともなく始原魔法を使ってしまう。どハマりしてまっている、ヤバい。

 というか、始原魔法という名前の意味がわかってきた気がする。行為自体がある意味もうそれそのものなのだ。

 今までは存在を知らなかったから意識もされていなかっただけで、知ってしまえばもう逃れられない。

 そしてこの魔法、互いに魔力を交換し合えばし合うほど効率が良くなる。最初の日は一分にMPを5ほどやり取りするのがやっとだったが、今は一分に30はやり取りできるようになっている。

 あと、マールのMPが数値で把握できないのではっきりしたことは言えないが、お互いに同じ速度でMPを循環させあうと、恐らくMPが増幅されている。

 つまり始原魔法を使ってお互いにMPを循環させると、MPの回復が滅茶苦茶早い。理性を保つのが大分難しいけど。


 他にも驚くべきことに、魔法を使うように構成し、集中した魔力をマールを通して放出することによって魔法を発現させることができた。

 俺の左手からマールの右手を通し、マールの左手から魔法を発現するべく集中させた魔力を放出することによって、だ。

 ただ、これはかなり気分が悪くなるらしく、マールの顔が真っ青になっていた。でも、そのお陰で魔法を使う感覚がなんとなくわかったらしい。

 もしかしたら、この方法でマールに魔法を覚えさせられるかもしれない。負担が大きいみたいだから、暫く保留だけども。




 そしてお披露目当日。


「おー。まるでお姫様みたいだぞ、マール」


「お姫様ですから! タイシさんもまるで勇者みたいですよ」


「勇者だからな!」


 そう言って二人で笑いあう。

 俺とマールはペロンさんの作ってくれたミスリル製の鎧に身を包み、屋敷の玄関ホールに待機していた。

 俺が装備しているのは白銀に輝く板金鎧だ。

 主要な部分はミスリル製の板金鎧で覆い、間接部はミスリルチェインメイルで覆うことによって全身の防御性を高めている。

 いかにもヒロイックなデザインで、ブレストプレートにはいくつかの青い鉱石が埋め込まれていた。

 この鉱石、前に商業ギルドの倉庫で見た浮く石を精製したものである。名前もそのまま浮遊石と言うらしい。

 産出量が少なく、べらぼうに高いが鎧に仕込むことによって鎧の重量を軽減できる。

 実際、板金鎧なのにトロールハイドアーマーより軽く感じるくらいだ。


 マールが装備しているのは緑がかった光沢のミスリルアーマーだ。

 ミスリルアーマーとは言っても、装甲は胸とか腹とかの必要最低限の部分しか覆っていない。

 一見すると、美しいドレスの一部を装甲で覆っているだけだ。だが、このドレスが実は曲者である。

 このドレス、ただの絹とかそんなもので出来ているのではなく、糸状にしたミスリルで織られているミスリルメッシュなのである。

 下手な板金鎧より防御力がある上、裏地に物理防御アップの魔法を付与する術式が編みこまれているので下手すると俺のミスリルアーマーより固い。

 そして、額には俺が作ったサークレットが輝いている。

 こいつは攻撃を感知して自動的に防御障壁を展開する優れものだ。とはいっても、そんなに強い防御障壁を発生するわけではない。

 ゴブリンの攻撃程度なら問題なく防げるだろうが、トロールの攻撃は防げないだろう。

 まぁヘルメット代わりみたいなものである。

 マールは単純にアクセサリとしてもかなり気に入ってくれたようで、渡したその日は一日中にこにこしていた。夜のサービスも凄かった。吸い尽くされるかと思った。


 ちなみに、俺の方はともかくマールのミスリルアーマーに関しては実戦使用するかどうか悩んでいる所である。

 何故かって? 目立ちすぎるからだ、色々な意味で。


「お館様、侯爵閣下からの迎えが到着いたしました」


「わかった、行って来る」


「行って来ます!」


「お気をつけて!」


 ジャック氏とメイベル、フラムに見送られて屋敷を後にする。

 フラムは一言も喋らなかったが、静かに頭を下げていた。やはりどこか複雑な部分もあるのだろう。

 コミュニケーションはちゃんと取れているんだけどね。性的な意味では一切触れてないけど。

 というかスキンシップが皆無。そういえば最近メイベルが俺に懐いているけど、スキンシップをちゃんと取ってるからだろうか。割と一方的なスキンシップだけど。

 うーん、どうもなぁ。相手が大人の女性なだけにスキンシップと言っても困ってしまうな。何か考えるべきか。

 まぁ、出会いが出会いでその後の経緯も経緯なので無意識に俺も避けてしまってる部分があるのかもしれない。

 これじゃいかんね、やっぱ何か考えよう。




「いやー、これはなんというか。微妙な気分だなぁ」


「あはは、私は実はこういうの初めてじゃないので! でもわかりますよ、その気持ち」


 俺とマールは騎兵と一緒に豪華な二頭立ての馬車に乗って王都アルフェンを行進していた。

 俺達の周りの騎兵達は腰にサーベルを下げている。俺がゾンタークに渡したものだ。

 勇者とその従者に視線を向け、歓声を向けている人も多いが冒険者や職人らしき人々の中には騎兵が腰に下げている見慣れない刀剣に目を向けている者もいた。


 俺達は、というと完全に見世物である。

 というか、隣のマールが華やかすぎて俺が目立たない。仕方ないけどな!

 贔屓目に見ても可愛いマールがドレス仕立ての可憐な鎧を着ているのだから、目立たないはずが無い。

 俺はいくらヒロイックなデザインの鎧着てるとしても中身が普通だしな。そこまで不細工ってことはないと思うが、お世辞にもイケメンではない。

 いいんですよ、俺は。マールが愛してくれればそれ以上望むことはありません。


「あれが勇者か? 冴えねぇツラだなぁ」

「隣の子すげぇ可愛い。あんな冴えない男より俺の彼女になってくれよ!」


 あァ!? 今なんつったコラ!?


「うわ、あの目は絶対人何人か殺してるよ」

「つかあれ、『トロール砕き』じゃね?」

「なにそれ」

「トロールを素手で殴り殺せるらしい」

「ギャハハ! 絶対嘘だろそれwwww」

「ホラ話にも程があるだろ。もっと騙しやすいネタ持って来いよ!」

「いや、この前素手でメイス握り潰してた。マジで」

「「「えっ、何それ怖い」」」


 ほらこんなもん。

 何か色々間違ってる気がするが、威厳は保てた気がする。




 行進とお披露目が終わったあとは壁内の中央広場で発表である。

 壁内には広大な中央広場がある。伝統的に国事に関する発表などが行われてきた場所らしい。

 新市街にも同規模の広場があるが、あちらは新広場と呼ばれている。

 この場には王族をはじめ、貴族達も多く出席しているようだった。カレンディル国王の姿も見える。あとは聖職者だろうか? それっぽい衣装の老人達も見える。

 そして、発表が始まった。


 仰々しい言い回しでこの国で五十数年振りに勇者が見出されたことや俺の名前、冒険者となってから間もないのにも関わらず単独で三匹のトロールを屠り『トロール砕き』の二つ名を持つ剛の者だということなどが紹介された。

 次に、俺の隣に控えているマールの紹介である。勇者の従者を勤めているのは隣国の第一王女マーリエル=ブラン=ミスクロニアその人だと言うこと。

 そしてマーリエル第一王女が神託を受けて一人祖国を後にし、勇者である俺を見出し、俺を支えてきたことを事実より200%くらい水増しした美談として紹介する。

 そして、カレンディル王国はこの勇者タイシとミスクロニア王国第一王女にして神託の聖女でもあるマーリエル王女を全面的に支援すると。


 この発表しているおっさんは吟遊詩人として食っていけるんじゃないだろうか。

 まるで他人の物語を聞いている気分だ。


「くっ……ぶふっ!」


「ちょっ、タイシさんズルいです! 私も必死に笑いを堪えてるのに!」


 耐え切れず噴いてしまった俺にマールが殆どにこやかな表情と口元を動かさないで器用に非難してくる。

 神託の聖女とか頭おかしい。

 出会った初日に宿の人間を懐柔して勇者を前後不覚にした上に美味しく頂いてくる聖女とか新しすぎる。『せい』の字に重大な間違いがあるとしか言いようが無い。

 あっさり策にかかっていいようにされる俺も勇者(笑)だけどな。いいコンビだ。

 話が終わり、歓声が上がる。

 俺は噴出して思わず出た笑みをそのままに民衆に手を挙げて応えた。あー、腹痛ぇ。


 続いて、王様からのお言葉である。


「王都アルフェンの市民よ! 今日、皆を集めた理由はもう一つある! 心して我が言葉に耳を傾けよ!」


 王様本来の声か、あるいは魔法か何かを使っているのか、妙に響く声で王様が演説を始めた。


「これから約二ヶ月の後に大氾濫が起きると神託が下った!」


 王の言葉に民衆は一瞬静まり返り、そして急激にざわつき始めた。

 ざわつきは次第に怒号へと変わり、広場を満たして揺るがし始める。

 広場の怒号が恐慌に変わろうとした瞬間、轟音が広場に響いた。どうやら国王が指示をし、銅鑼のようなものを鳴らさせたらしい。


「案ずるな、民よ! 先の大氾濫には無かった物が今回の我々にはある! それは、勇者と第四城壁だ!」


 王の言葉に民衆の動揺が収まっていく。

 その様子に満足した国王、カレンディル四十一世は満足そうに頷き、言葉を続けた。


「明日より、第四城壁の構築に従事したものに今までの倍の褒美を取らす! また、城壁の構築に貢献したものには別途褒章を取らす事とする! 詳しくは役所、商業ギルド、冒険者ギルドにて確認できるようになっておる! 皆の者、家族のため、愛する者のために奮起せよ! 余を含め、皆でカレンディル王国を守るのだ!」


 王の言葉に歓声が上がり、王国万歳、陛下万歳、という声もまたあちこちで上がる。

 こうして、カレンディル王国は大氾濫に向けて本格的に動き始めたのだった。

「で、勇者の名前ってなんだっけ?」


「タ、タ……タイツ?」


「タイガーじゃなかったか?」


「なんだっけ。ってか顔もよく覚えてねぇや。マーリエル王女可愛すぎで男なんて見てなかったし」


「聖女様で第一王女って凄いよな。ウチの国の王女じゃないのが残念だけど」


「ウチの王女様はなぁ……」

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『神託の性女』此方が正しい ‼︎ (断言)
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