第二十一話~相方が魔法を覚えました~
「大々的に私の存在も公表ですか。うん、それしかありませんね」
マールはそう言って頷いた。
俺とマールがいるのは工房の奥、錬金術工房だ。
今朝と比べるとマールが買ってきたものらしい書物や薬草、試薬らしきものが各所に配置されて随分とそれっぽくなっている。
「ミスクロニア王国が私の捜索を各国に依頼しているのは明白ですし、大氾濫が来ているというのに見てみぬ振りをし続けていた事が発覚したら、カレンディル王国は困ったことになりますからね」
ゾンタークの提案というのはマールの言った通り、俺のお披露目と共にマールの存在を公表することだ。
マールは勇者を尊ぶミスクロニア王国の第一王女。
神託を受けて出奔し、見事勇者と出会って共をしていたとなれば、国民から見れば実に王道の物語のように感じられるだろう。
性別の違う勇者と従者の恋、というのも勇者物語の定番なので、事実上の婚約発表としての側面もある。
ミスクロニア王国に無断で行う以上ある程度の摩擦は発生するだろうが、そこはマールが是と言ってしまえばミスクロニア王家としては黙るしかない。
しかも、マールは正真正銘の勇者を伴侶として選ぶのだから隣国の王子と婚約云々に関しても有耶無耶になる可能性がある。
「私の件に関しては上手く行くかどうかは微妙な線ですけど、大氾濫で有耶無耶になる可能性も高いですし。なにより、私はタイシさん以外となんて嫌ですからね!」
そう言って抱きついてくるマールの頭を撫でる。
この娘可愛すぎるだろう常識的に考えて。天使か。
「改めて、不束者ですがよろしくお願いしますね? タイシさん」
「ああ、勿論だ」
今更という気もするが、俺はすっかりマールを受け入れていた。
マールの持っている懐柔スキルのせいだろうか…? そんな風に考えたことが無いわけではないが、今となってはもうどうでも良い些事に思える。
「タイシさん! 魔法修得を手伝ってください!」
考え事をしていると、マールがそう切り出してきた。
なんでも魔法書に誰でも簡単に行える魔法習得方法が載っていたので、試したいらしい。
「えっとですね、私と両手を繋いで……いえ、こう指を絡めてです。そして、私に向かって魔力を流してください。なんでも片方の手から片方の手に循環させるようにやるんだそうです」
「ふむ、こうか?」
両手の手の平同士を合わせ、指を絡めあってしっかり繋ぐ。マールの手は俺の手に比べると随分小さかったが、手の平には剣ダコが出来ていた。
俺と出会うまでろくに剣など持ったことのなかった筈のマールが、死に物狂いで剣の訓練をした証拠だった。短期間で剣術のレベルが2になったのは才能もあるだろうが、何よりマール自身の血の滲むような訓練の成果なのだ。
「タイシさんの手、大きいですよね」
「お前の手は小さくて可愛いな」
お互いにお互いの手をにぎにぎする。
なんだか気恥ずかしくなってきたので始めるとしよう、そうしよう。
「よし、じゃあ左手――マールから見て右手から、左手に向かって魔力を循環させてみるぞ」
「はい!」
魔力を集中し、左手からマールへと流す。
その瞬間、びくりとマールが震えた。
「あ、あ…っ! なんか、入ってきてます…」
初めての感覚に戸惑いを見せるマール。
反射的に手を離そうとしてしまったのだろう、手を振り解こうとするのを俺がしっかりと手を握って抑える。
「次、左手から抜くからな」
「は、はい……いィっ!? あっ、だめっ、抜けてっちゃ……んぅっ!」
マールの中に留まり、微妙にマールの魔力と混ざったのか少し違和感のある魔力がマールの身体を通って俺の右手から戻ってくる。
しかしマールよ、その妙に色っぽい声を出すのはやめていただけないだろうか。なにかとてもイケないことをしている気分だ。
「少し流れを早めるぞ」
「だっ!? ちょ、ちょっと待っ――ひゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」
魔力の流れを早めるとマールは絶叫した後、身体をビクビクと震わせて膝から崩れ落ちてしまった。
お、おぅ? や、やりすぎたのか? 循環させた魔力は精々50とそこそこくらいなんだが。
魔力を循環させるときにマールの魔力と交じり合ったものが俺の中に入ってきていた事を考えると、魔力を奪ってしまったんだろうか?
とりあえず俺の魔力を同じ要領で渡しておこう。ついでに回復魔法もかけておくか。
「かっ――ひっ……」
マールに魔力を流すと失神しているはずのその身体がビクビクと震えた。
なんだろう、この背徳感は。
しかしこう、なんだか魔力を循環させた直後から妙に力が沸きあがってくる感覚がある。
マールの魔力と俺の魔力が交じり合った混合魔力が身体に馴染んでいく感じだ。
馴染む、実に! 馴染むぞぉ! ふははははははっ! と高笑いしたくなる。なんなんだろうか、これは。
五分ほどするとマールは目を覚ました。
床にそのまま寝かせておくのは忍びなかったので、膝枕中である。
「あ、あれ……? 一体何が?」
「や、魔力循環させる速度を上げたらお前が失神したんだよ。この方法は本当に大丈夫なのか? なんか心配なんだが」
「だ、大丈夫です。別に不快な感じはありませんでしたし、寧ろさっきよりも調子が良いくらいです! も、もう一度やりましょう!」
再度、先ほどと同じように魔力の循環を始める。
先ほどよりは耐えられるようになったようだが、やはりマールは失神した。顔が真っ赤になって、どこか恍惚とした表情である。
この表情にはなんだか見覚えがあるんだが……魔力をもう一度込め、回復の魔法を使う。
今度は一分で復活してきた。
顔は真っ赤で足元はフラフラ、まるで酔っ払いである。
「だ、だいたいわかりました……今度は反対に、私がやってみます」
「おいおい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です! いきますよ!」
マールがそう言って真っ赤な顔で魔力の集中を始める。
なかなか上手く行かなかったが、俺が逆に魔力を引き入れてやると順調にマールの魔力が俺の中に流入し始めるのがわかった。
マールの魔力が俺の右手から身体の中に入ってくる。
なんだろう、この不思議な感覚は。羽毛で身体の中をまさぐられているような、不思議な感覚だ。
くすぐったいというか、むずがゆいというか。
そして、左手からマールへと魔力が出て行った瞬間にそれは起こった。
「ふぉっ!?」
身体の芯から力が抜けていくような、心地よい脱力感。
いや、そんな表現では生温い。法悦と言っても良い感覚だ。
「ちょっ、待て、なんだこれ!? なんだこれ!?」
「ふ、ふふ……大人しくしてくださいよタイシさん」
手を振り払おうとするが、マールはがっしりと俺の手を掴んで離さない。
おいやめろ馬鹿、らめぇ。
「う、うおぉー! やられてたまるかー!」
「ちょ、タイ――ひゃあぁぁぁぁんっ!?」
俺も魔力を循環させて逆襲し、マールから主導権を奪うことに成功した。
マールも必死に抵抗をしたが君とは魔力量が違うのだよ、魔力量が!
再び失神したマールがびくびくと震える。危ないところだった。
「人同士で魔力を循環させあうのがこんなに危険な行為だったとは……」
額の汗を袖で拭ってからマールを介抱する。
後で見てみると、俺とマールのスキルに『始原魔法』がレベル1でついていた。
相手と身体を密着させないといけない上に、魔力量で勝っていないといけない魔法だが……使いどころはあるんだろうか?
夜の生活には重宝しそうだ、これは新境地が開けそうである。
汗をかいてしまったので、まだ昼前だが復活したマールと一緒にお風呂に入ることにした。
お互いに好奇心を抑えられず、始原魔法を併用してイチャイチャしてみた。
調整してお互いに魔力を均一に循環させた結果、俺達は新境地に辿り着いた。
いや、悟りを開いたと言っても良いかもしれない。
「たいしさん……これはきけんです、ひかえましょう」
「ああ、これはきけんすぎるな」
俺もマールも声に力が無い。
しかし何でこれが始原魔法なんだろうか? 字面からするに初めて生まれた魔法ということなんだろうか。
身体接触による術式も何も使わない原始的な魔法、という意味では確かに字面通りのような気もする。
これ、レベルが上がったら一瞬で相手の体力と魔力を吸い尽くせるようになるんじゃないのか。
というか、遠距離から出来るようになったらかなり危険な魔法じゃないか、これ。
「でもなんだか、体中に体力が漲ってる気がします」
俺のステータスをチェックする。そりゃ調子も良いはずだ。
魔力が100ほど、体力が30ほど減っている。吸われたんだろう。流石に能力値には影響は無いようだ。
こっそり回復魔法を唱える。
体力に30のダメージとか、今までで一番減ってるんじゃないだろうか。コワイ。
「とりあえず、メシを食って作業に入ってみようぜ」
「はい! でもまだ続きがあるみたいなので魔法書も読んでおきますね!」
なにそれ怖い。
と心の中で言いつつも、期待してしまう自分がいるのは隠せない。
だっておとこのこだもの。
風呂から上がり、昼食をいただく。
昼食のメニューはミートソースのパスタとスモールボアの腸詰め、温野菜の盛り合わせだった。
ミートソースとは言っても赤くは無い、緑色だ。この世界のトマトは青いまま食うものらしい。リコピンさんは一体どこへ。
味は元の世界で食べたミートソースのパスタと殆ど変わらない。ボロネーゼとも言うんだっけか。
スモールボアの腸詰めや温野菜も美味しかった。特に腸詰めはスパイスが利いていて絶品だった。
「よし、やるか」
マールは奥の錬金術工房に引っ込み、俺は俺で初の鍛冶仕事を始めることにした。
道具の使い方や金属の鍛え方はスキルを取得したせいか自然と頭に入っている。
スキルを取得することによって、知識や経験が脳に焼き付けられるんだろうか? 仕組みを考えても仕方ないか、そういうものなんだろう。
まずは商業ギルドで仕入れてきた鉄鉱石を精錬してインゴットを作る。
これは精錬用の魔力炉で作るのだが、微細な温度管理が出来るため簡単に出来た。
出来上がったインゴットを今度は鍛造用の炉で熱しつつ、鍛える。
まず最初に作るのは鉄製のダガーだ。
器用度が高いからか、筋力が強いからかはわからないが面白いように熱した金属を扱うことが出来る。
そして三十分もしないうちに一本のダガーの刀身が出来上がった。
それを砥石で研ぎ、木材や皮革を使ってグリップや鞘を作る。ここまでで一時間弱である。
「こんなに早く出来るもんなのか……? いや、実際出来てるんだが」
スキルの力ってすげー。
出来たダガーを鑑定眼で見てみると、ちゃんと鉄のダガーと表示された。
品質は『良い』になっている。やったね。
さて、ここからはスキルレベルを一つずつ上げながら、次々とダガーの刀身を作っていく。
スキルレベルを2にすると作成にかかる時間が随分短くなった。しかも品質も『優良』になっている。
スキルレベルを上げるごとにどのタイミングで熱し、どのタイミングで打てば良いのか、そしてどう研げばいいのか、金属精錬はどうすればより良いインゴットになるのか。
そういった知識がどんどん流れ込んでくる。
鍛冶レベルを3に上げたところで武器を魔法の発動体にする方法が、4に上げたところで武器に魔力を付与する方法がわかった。
ダガーの作成に要する時間はどんどん短くなっていく。
次に普通のダガーだけでなく、発動体や魔力付与品などの特殊な品も作ってみる。
両方とも問題なく作れた。
魔力付与品の方には明かりの魔法を付与しておいた。鞘から出せば照明代わりになる便利アイテムだ。
そして、5に上げたところで魔法道具としての効果を持つ魔剣・聖剣の鍛造方法まで理解してしまった。
急激に膨大な知識を詰め込んだせいか、頭がボーっとする。
しかし身体は鉄を打ち続ける。
とりつかれた様に打ち続ける。
気がつけば、俺は何十本ものダガーの刀身を作り終えていた。
「ハッ!?」
俺の持つ鍛冶ハンマーから何かオーラのようなものが立ち昇っている。なにこれこわい。
鑑定眼でチェックしたらただの鍛冶ハンマーだったはずなのに、入魂の鍛冶ハンマーというものになっていた。
魂が宿ってしまったというのか。スキルぱねぇ。
とりあえず夢中になって作ってしまったダガーを一つ一つ丹念に研ぎ上げ、拵えを整える。
明かりの魔力を付与したライトダガーは手元に残しておこう。
魔物素材の武器の作り方も理解したから、今後魔物を倒したときは素材になりそうな部分は取っておいてもいいかもしれない。
「ふー、やっと魔法薬が一つできましたってうわぁ! なんですかこのダガーの山は!?」
なんだか微妙に煤塗れになっているマールが鍛冶工房に並ぶ大量のダガーを見て目を剥いた。
それもそうだろう、数えたら三十八本もあった。
「久々に作ってたら夢中になっていた。今では反省している」
「いや、反省することじゃないと思いますけど……」
マールが並んでいるダガーの一つを手に取り、皮製の鞘から抜いて刀身を見る。
今見ているのはスキルレベル2で作った『優良』のやつだ。
「良く切れそうだし、とても頑丈そうですね」
「おう、良かったら一本やるぞ。これなんかオススメだ」
マールにスキルレベル5で作った『超越的』な逸品の鋼鉄のダガーを渡す。
先ほどと同じようにマールは鞘からダガーを抜き、刃に目を凝らした。
続いてグリップを何度か握りなおし、鞘に収める。
「なんだか物凄く出来が良いみたいなんですけど、もらっちゃっていいんですか?」
「ああ、今日作った中で一番の出来なんだ。寧ろマールに貰って欲しい」
「……ありがとうございます! じゃあ、私もこれをタイシさんにプレゼントします!」
そう言ってマールが取り出してきたのは透明な瓶に入った緑色に怪しく輝く液体だった。何で光ってるんですかこれ、怖い。
鑑定眼で見てみると、回復薬と表示される。低品質でも高品質でもないらしい。初めての錬金術なのに、これはなかなかの物ではないだろうか?
「ありがたく貰っておこう」
「えへへ、なんだか楽しいですね。こういうの。冒険者も良いですけど、錬金術師にも興味が沸いてきました!」
見ると、マールのスキルに錬金がレベル1でついていた。
今日だけで始原魔法と錬金のスキルを習得したことになる。この娘、実は天才なんじゃないだろうか。
気がついたら喉がカラカラだ。一体どれだけの間作業をしていたんだろう。いや、幾ら喉が乾いていてもこの魔法薬をグイっとする気は起きないが。
「お疲れ様です。作業は終わったんですか?」
俺とマールが工房から出ると、麻袋を抱えたフラムと遭遇した。どうやら地下の倉庫から何か食材を出してきたらしい。
「ああ、なかなか良いダガーができたぞ」
「これがタイシさんの作ったダガーです」
そう言ってマールは俺の作ったダガーを抜き、フラムに見せた。
ダガーを見たフラムが目を細める。
「……逸品ですね。これをご主人様が?」
「ああ、悪くないだろ?」
「稀代の名工が手掛けた逸品と言われても納得できる品ですね」
そこまで言われると褒められ過ぎじゃないかとは思うが、スキルレベル的には人知を超えたレベルだからな。ある意味正当な評価なんだろうか。
スキルポイントでお手軽に手に入れた技能だからなんというか、微妙な気分ではある。
「眼福でした。では、夕食の用意があるので失礼します」
フラムは会釈し、厨房へと歩いていく。
マールは俺の作ったダガーをひっくり返してみたりなんだりと熱心に見ていた。気に入ったのね。
思えば俺はマールに刃物だの鎧だのしか贈っていない気がする。もう少しこう、色っぽいものを贈ろう。
何が良いだろうか? どうせなら実用性の高いものを贈りたいな。防御系の魔力を付与したサークレットなんて良いんじゃないだろうか。
ふはははは! 俺はマールのためなら自らに科した禁など紙くずのように破るぞーッ!
「何をニヤニヤしているんですか?」
「はっはっは、いい事を考え付いただけだ。よーし、明日も頑張るぞー」
ウキウキしながらマールを連れて風呂に入る。
流石にもうじき夕食だし、昼間にもいちゃついたので普通に風呂に入った。
洗いっこだけはしたけどな。やっぱ誰かに背中を流してもらうのは気持ち良い。
夕食を終え、今日一日槌を振るって疲れた身体を癒す。
「えいっ、えいっ」
「あー……そこそこ。うぉー……いいわぁ」
「傍から見ると少女に踏まれて喜んでる変態さんですね!」
リビングの絨毯の上にうつ伏せに寝た俺の背中にメイベルが乗ってマッサージをしてくれている。
最初は手で揉んでもらったのだが、全然効かなかったのだ。
今は俺の背中にタオルを敷き、その上をメイベルが踏み踏みしている。気持ち良い。
「ああ、もうちょっと上、そうそう。おういぇ、もっともっと踏んでいいのよ」
メイベルの柔らかい足裏が俺の背中のツボを捉える。びゃぁぁぁんぎもぢぃぃぃぃぃ。
というか少女に踏まれて悦ぶとか確かにマールの言う通り変態チックだ。
だが考えて欲しい。お父さんが自分の子供に背中を踏んでもらってマッサージ、という光景はよくあると思う。
あれと同じなのだ。
背中に乗っているのが血も繋がっていない美少女で、尚且つメイド服を着ているだけの話なのである。
しまった、どこからどう見ても変態だった。
しかし良い、この気持ち良さの前には多少の理屈など吹っ飛ぶ。
「あー、えがったえがった。ありがとうな、メイベル」
「は、はい!」
何故か頬を赤らめているメイベルが俺の背中から降りた。
まさか男を踏む快感を覚えてしまったのだろうか。それは早い、早すぎるぞメイベル。
多分違うだろうけどね。うん。
肩や首を回してみる。うむ、なんか調子が良くなった気がする。少女のおみ足によるマッサージは効果を発揮したようだ。
立ち上がろう、としたところでマールが背後からタックルを仕掛けてきた。
為す術もなく再びうつ伏せに押し倒される。
「おい、何のつもりだ」
「メイベルちゃんばっかりずるいです! 私もタイシさんを踏みたいです!」
「えちょ、今のはマッサージであってそういう趣味は無いんだが。というか、マールだと重「えいっ」ぐぉぁっ!?」
マールさんによる踏み踏みタイムが始まった。
幾ら小柄とはいえ、流石にメイベルと比べると重い。圧迫感に息苦しさを感じる。
何が楽しいのかキャッキャと嬉しそうだ。
おい待てメイベル、何故うずうずしているんだ。やめろォ!
「あ゛ぁーッ!」
でも凝り固まった疲れを解すには悪くなかった。うん、凝り解しが良かったんだ。
決して踏まれて気持ちよかったんじゃないと思う。
「……」
「混ざってきたら良いではないですか」
「いえ、私は犯罪奴隷ですし。一度ご主人様の命を狙った身ですので」
「あの方はそんな事を気にするような性質の方ではないと思いますがね」
「良いんです。こうして見てるだけでも愉快ですし」
「確かに。しかし、姪がおかしな性癖に目覚めないか心配ですな」