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29歳独身は異世界で自由に生きた…かった。  作者: リュート
『押し掛け』ならぬ『押し売り』女房
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第十一話~暗殺者が襲ってきたので返り討ちにしました~

※注意※

強姦や殺人等の残酷かつ過激な描写があります。

そういった描写が苦手な方は…すみません回避方法が思いつきません。


どうしてもこういう場面を書きたかったので!

お許しください!orz

 俺達は祭殿の内部をくまなく探したが、これといって手がかりになりそうなものは見当たらなかった。

 もしかしたら何かの記録が残された書物や書類があったのかもしれないが、時の流れで風化してしまったんだろう。

 石版の類も特に無かった。


「見つかったのはこれだけか」


 あの広間にあった偶像の小さいものが一つ、ホールから続く部屋に祭られていた。

 やはり顔はのっぺりとしていて判別できない。

 そもそもこんな神像なのかもしれない。


 仕方ないので外に出て、住居跡らしき場所の内部を調査してみたのだが…。


「なにもありませんねー」


「だなー」


 住居らしき建物の中には本当に何一つ、何もなかった。

 正確には割れた陶器の破片のようなものはあったが、鑑定眼で見たところ全てゴミだ。

 ちなみに、神像を鑑定眼で見てみても『太古の神像』とか表示されなかった。

 使えるようで微妙に使えない。

 とりあえずストレージにしまっておいた。


 何も見つからずにテンションの下がった俺達は苔むした階段の一番上で、でろーんと伸びていた。

 仰向けに伸びる俺の腹を枕にしてマールも同じようにでろーんと仰向けに伸びている。

 なんというか、細々とした収穫はあったが、謎が謎を呼んでしかも手がかりがないので消化不良だ。

 まぁゲームじゃないしな、必ず謎が解けるようにはできてないだけなんだろうけども。


「マールー」


「なんですかー?」


「俺さー」


「はーい」


「あの喚び出されてた推定勇者と同じ存在かもしれーん」


「へー…えっ?」


 がばっ、とマールが起きて俺の顔を覗き込んでくる。

 その瞳は真剣で、なんだか愛しさが込み上げてきた。


「俺さ、実はお前と会った日に気がついたらクロスロードの近くの草原にいたんだわ。周りに誰もいなくってな、ストレージの中に金とか最低限の道具はあったから、それでなんとか冒険者になった」


 目を閉じたまま、マールの顔を見ないように言葉を続ける。

 マールは何も言わない。


「ま、記憶はあるんだよ。俺はね、この世界の人間じゃない。元々この世界とは違う、全く違う世界で生きてたんだ。魔物も居ない、魔法も無い世界で、50年以上も戦争のない平和な国に住んでたよ」


 さっきと同じようにマールが俺の腹を枕にして寝たようだ。

 腹の上の重みが心地良い。


「気づいてるんだろ? 俺が普通じゃないってのは」


「タイシさんはタイシさんですよ」


 マールの手が俺の頭を撫でる。

 まさかこんな、異能モノの主人公みたいな会話をリアルですることになるとは思わなかった。


「私の、大切な人です」


 全肯定してくれるってのは、嬉しいな。

 溺れてしまいそうになる。


 ビクリ、とマールが身を硬くした。

 俺の胸に何かが落ちる。

 拾い上げてみると、ボウガンのボルトだった。


「タイシさん!」

「プロテクション!」


 翳した左手から放出された魔力が一瞬で光の防護膜を作り、飛来した何かを防ぐ。

 飛び起きた俺はマールを庇うように抱き、辺りの様子を窺った。

 飛来したのは何本ものボルトだった。

 落ちているボルトを鑑定眼で見てみると、致死性の毒が塗られていることがわかる。


 マールの左手に嵌められていたミスリルの指輪が、ボロボロと崩れた。


「おいおい、早すぎるだろう?」


 魔力眼が遺跡を囲む森の中に複数の人影を探知する。

 生き物は常に微弱な魔力を放出しているから、魔力眼でどこに何がいるかは一目瞭然だ。

 メニューを開いて毒物耐性をレベル2まで獲得しておく。どうやら毒物耐性はレベル3で最大らしい。

 スキルポイントは9消費して残り9…レベル最大にすることは可能だが、万一のために温存しておいた方がいいだろう。


 即死さえしなければ魔法で解毒できる。


 それにしても追っ手がかかるのが早すぎる。

 撹乱した上にわからないようにして出たというのに、ピンポイントでここまで追ってくるなんてあまりにもおかしい。

 


「エアシールド!」


 渦巻く風を纏い、俺はマールをお姫様抱っこして神官達の住居だったと思われる建物へと駆け出す。

 飛来するボルトは俺のエアシールドに逸らされて全く当たらない。

 レベル2の風魔法だが有用だな、これは。


「俺が出ていいって言うまで出てくるな」


「た、タイシさっ――!」


「アースウォール」


 何か言いかけたマールを放り込み、建物の入り口を土壁で覆い隠す。

 これで土壁を破らない限りマールに手出しはできない。


「…さぁて」


 ギルドの訓練場で訓練をしたり騎士団の詰め所で模擬戦をやったりしたが、殺し合いは初めてだ。

 膝が震えそうになるのを気合でなんとかする。

 全身黒装束のいかにも暗殺者っぽい集団が俺を取り囲んでいた。

 数は十三人か。


「てめぇら、覚悟はできてるんだろうな」


 守りの指輪がなかったらマールは死んでいた。こいつらはマールを一度殺したも同然なのだ。

 どす黒い感情が頭の中を染め上げていく。


「殺してやるぞ…全員、嬲り殺してやる。楽に死ねると思うなよ」


 死ななかったから許してやる? ありえない。

 こいつらはマールを一度殺したんだ。

 バトルスタッフに全力の魔力を込める。

 これだけの魔力を込めたら人間なんて消し飛ぶだろう。

 カチリ、と意識を切り替える。


 知ったことか。


 瞬間、三方向から黒装束が突っ込んできた。

 恐らく毒を塗っているのであろう白刃を閃かせ、俺に突き立てようと迫ってくる。


「ヒィヤッハー!!」


 俺は魔力を込めたバトルスタッフを薙ぎ払うように一閃した。          

 同時に飛び掛ってきた三人は空中だった故に避けられず、振り抜かれたバトルスタッフが直撃した。


 ばちゅんっ。


 三人の人間の身体が消し飛び、破片となって飛び散る。

 骨片や肉塊が飛び散り待機していた黒装束達を傷つけた。

 難を逃れたのは全体の半数。勘の良かった者達だけがその場に伏せて難を逃れた。


 ははっ、なんだよそれ。

 簡単に死にやがって。

 ふざけてるのか?

 わけわからんよ、何でこんなに簡単に死ぬんだよ。


「かぁっ!」


 血の霧の中に飛び込み、伏せたままであった黒装束のうち一人にバトルスタッフを叩き付ける。


 ばちゅんっ。


 潰れたトマトになった。


 何だこれは。

 脆い、脆過ぎるじゃないか。

 クズだからか。そうか、クズだからなんだな。


 許せない、許せない、許せない。


「クズのくせによぉっ!」


 そこで黒装束の一人が踊りかかってきた。

 獲物は長剣、刀身はぼんやりと光っている。魔力撃か。

 バトルスタッフに魔力を込め、叩き付けていたところを回転させて長剣を迎撃する。


 ドガンッ!


 まるで車同士が衝突したような、爆発音じみた音が鳴った。

 俺のバトルスタッフが暗殺者の長剣を砕いていた。

 暗殺者が目を見開く。クズとは魔力総量が違うのだよ、魔力総量がッ!


 バトルスタッフを振るい、魔力撃を放ってきた暗殺者を叩き伏せる。

 脇腹に痛み――いつのまにか背後に回りこんでいた暗殺者の一人が俺に短剣を突き立てていた。

 咄嗟に身を捻って深手を回避しながら暗殺者の頭部に肘を叩きつける。

 頭蓋を砕く感触、暗殺者は力なく倒れこんだ。


 刃物を突き立てられた傷口は何故かあまり痛みを訴えない。

 それどころか、そんな感覚が徐々に広がる。毒だろう。

 魔力を集中、解毒を発動。

 痛い、傷口が痛い。クソが、ぶっ殺してやる。

 次はこっちの番だ、新技を試してやる。


「水よっ!」


 俺の頭上に巨大水球が発生し、それが一瞬でバスケットボール大に圧縮される。

 魔力を集中、ターゲットロック、発動。

 バスケットボール大の水球から超高圧の水流がレーザーのように無数に発射される。


 黒装束のクズどもが悲鳴を上げる。

 敢えて急所は外した、こいつらからは聞かなきゃいけないことが沢山ある。

 今の攻撃から逃れた暗殺者は二名、こいつらは運が良い。


 撤退の判断をしたんだろう、二人が踵を返して逃げようとする。だがもう遅い。

 身を翻して駆け出そうとした一人の背をバトルスタッフで貫き、そのまま振り回して最後の一人の背中に投げつける。

 鈍い音がして、最後の黒装束と俺に投げつけられた死体がもつれ合うように苔むした階段へと転がり落ちていった。

 俺は自分に回復魔法をかけながら、生きているであろうもう一人を追って階段を降りる。


 やつは恐らくどこかを骨折したのだろう。


 最後の黒装束は苦悶の呻きを上げながら、投げつけた死体の下から這い出したところだった。


「どこに行こうと言うのかね?」


 逃げる獲物に是非言いたい言葉ナンバー1を口にしつつ俺は黒装束の死体を蹴り飛ばし、這っていた黒装束の頭を掴む。

 捕まえた暗殺者を引きずって階段を上がり、黒装束の覆面を外す。


「ほう」


 運が良い、クズの癖になかなか上玉の女だった。恐らく二十代半ばくらいだろう。

 頭のどこかを怪我したらしく、顔の左側が血だらけだ。

 俺は呻く女の血に濡れた黒髪を掴み、血の中で蠢く同僚たちに目を向けさせる。


 思い知らせてやる。


「見えるか? 見えるよな? お前のお仲間のクズどもだ。お前等は俺を殺しに来たんだろう? 俺の大事なマールを奪いに来たんだろう? そうだよな? 俺の大事なモノを奪おうとしたんだ、自分の大事なモノも奪われる覚悟はあるよな?」


 再び髪を掴み、ずるずると女を引きずる。

 生存者はこの女以外に七人か、悪くない。

 俺はストレージから縄を取り出し、女を縛り上げて身動きが取れないようにしておく。

 そして女の目の前に重症で動けなくなっている黒装束の一人を引きずってきた。


 覆面を取る。

 二十歳前後くらいの男だ。

 足を骨折し、肩に白い何かが突き刺さっている。

 恐らく最初の三人のうちどいつかの骨だろう。


「よし、ルールを決めよう。俺がこのクズに質問をする。答えなかったらお前に同じ質問をする。お前も答えなかったらこのクズを殺す、単純だろ?」


 キッ、と見返してくる女の表情に嗜虐心をそそられる。


 ああ、良いな。

 こういうクズの心を完膚なきまでに叩き折って、身も心も蹂躙するのは実に良い。


「気に入った、お前を殺すのは最後にしてやる」


 滾ってきた。

 クズでも女には違いない。楽しめるだろう。

 壊して、犯しつくしてやる。




「…ふぅ」


 黒装束達の死体を焼き払って灰を吹き散らした俺は一息吐く。

 少し離れた石畳の上には力なく、あられもない姿で四肢を投げ出した暗殺者のクズ女――フラムが焦点の合わない瞳で星空を見上げている。

 小刻みに震えるフラムを放置し、俺はマールを閉じ込めている土壁を解除した。

 俺の姿を認めたマールが涙と鼻水で酷い顔のまま飛び出してくる。


「だいじざぁぁぁぁん! うわぁぁぁぁぁぁん!」


「よしよし、悪かったな」


 抱きついて胸に顔を埋めてくるマールの背中をぽんぽんと叩き、抱きしめてやる。

 荒んだ心が癒されそうになるが、まだ何も終わっていない。

 俺はマールの手を引いてフラムの前に連れて行く。


「こ、これは…タイシさんが?」


「ああ、そうだ。マールを殺そうとしたクズだからそれくらいしないとな」


 フラムの様を見れば俺がどんなことをしたのかは一目瞭然だ。

 そして、フラム以外の黒装束の姿が無いということの意味もマールはわかるだろう。


「ついてこられるか?」


「…ついていきます」


 マールはそう言いながら俺の顔を悲しそうな顔で見て、涙を流しながら頬を撫でてきた。

 違う、悲しそうなんじゃない。

 なんでお前はそんな申し訳なさそうな、今にも死にそうな顔をしてるんだ?


「大丈夫だ、お前はこんなクズどもには殺させない。俺が護ってやる」


 俺はマールを抱きしめる。マールも俺を抱きしめてくれた。


 そうだ、これでいい。


 俺はフラムの身体に浄化魔法と回復魔法をかけた。

 あちこちの汚れや体液が一瞬で洗い流され、身体についていた細かい傷が消える。

 それからマールと俺の予備の服を着せ、地魔法で作った土柱に縛り付けた。


「どうするんですか、その人」


「一応こんなクズ女でもカレンディル王国の騎士ではあるらしいぞ。襲いかかってきた証拠としてこのまま連れてって交渉材料にするかな、とも考えてたんだが」


「きっと知らぬ存ぜぬで通されますよ」


「だよな。非正規部隊らしいし、殺して灰にしてやっても良いんだが…こいつを襲い掛かってきた賊ってことで奴隷とかにできんか?」


「賞罰に殺人未遂がついていれば可能ですよ」


 マールはそう言ってフラムに視線をやる。


「ああ、ついてるな」


 名前:フラム=フォルセス

 レベル:19

 スキル:礼儀作法1 騎乗2 剣術3 射撃2 隠密行動2 暗殺術2 詐術1

 称号:暗殺者 カレンディル王国騎士

 賞罰:殺人未遂


 鑑定眼で視たところ、こんな感じだ。

 マールよりも戦闘要員としては優秀だ。


 ちなみに俺の賞罰には殺人も強姦もついていない。

 強姦くらいはつくかなと思ってたんだが。


「ちなみに何故か俺に殺人も強姦もついてないんだが、なんでかわかるか?」


「この人達が先に襲い掛かってきたからだと思います。殺人や殺人未遂、強盗や強姦、放火などの重犯罪に属する賞罰がついた者には何をしても賞罰がつきませんから」


「…その判断はどこの誰がするんだ?」


「賞罰をつけるのは審判神です」


「…そうか」


 こいつらが俺とマールをまんまと殺した場合はどうなってたんだろうか、非常に気になる。

 こいつらとて任務で殺しに来たんだろうしなぁ。

 考えるだけ無駄だ、こういうものなんだろう。

 勝てば官軍、結構じゃないか。


「ところで、そろそろ教えてくれませんか? 尋問の内容を」


 俺はマールの言葉に頷いて尋問で得た情報を共有した。

 まず、この暗殺者のクズどもはカレンディル王国の手の者達だということ。

 騎士団から選抜した人材を暗殺者として訓練した実行部隊らしいということ。

 この実行部隊は公式には存在していない非正規部隊で、勇者暗殺派の貴族がかなり強引な手段で今回の作戦を強行させたということ。

 トワニング団長が俺に渡したハンターナイフを追ってこの遺跡に辿りついたという事。


「多分秘印術ですね。タイシさん、そのナイフのどこかに不思議な文様がありませんか?」


「柄頭のこれか?」


 それらしいのは柄頭に彫られている文様くらいだ。

 何でもこの秘印術というのは、文字のような『秘印』組み合わせることで色々な効果を発揮するものらしい。

 この柄頭の秘印は、恐らく場所を特定するための秘印だろうということだ。

 柄の中にでも埋め込まれているのかとも思ったが、マールの話では露出していなければならないらしいから間違いないだろう。


「消した方が良いか?」


「いえ、多分消さない方が良いかと思います」


 マールの言葉に首を傾げたその時、ガサガサと藪を掻き分けるような音がした。

 音からすると、複数の何かがこの古代遺跡に向かってきているように思える。


「タイシ殿! 無事か!?」


 古代遺跡を囲む森を抜け、俺達の前に現れたのはワルツ隊長率いるクロスロード騎士団、一番隊だった。




「何の用かな? 俺に暗殺者のクズどもを放ったカレンディル王国の騎士団の方々」


 ストレージからバトルスタッフを取り出し、階段の上から騎士団の面々を見下ろす。

 ワルツ隊長は無事な俺の顔を見て安堵していたが、続く俺の言葉で顔を引き締めた。

 俺はマールに目で合図し、未だ放心状態のフラムを引きずってこさせる。


「襲いかかってきた暗殺者は全部で十三人、生き残りはこいつ一人だけだ。いやいや、色々と吐いてくれたよ」


 俺は努めて笑顔を作り、騎士団の面々を見下ろす。

 ワルツ隊長は慎重に言葉を選んでいるのか、少しの間を置いてから話し始めた。


「タイシ殿、お怒りはご尤もだ。しかし、どうか理解して欲しい。カレンディル王国にはタイシ殿を害そうとする勢力だけではなく、タイシ殿を護ろうとする勢力も居る。我々も――」

「暗殺者を先行させ、暗殺に失敗した場合はお前達が出てきて懐柔を図る。そういう筋書きなんだろう?」


 ワルツ隊長の言葉に被せるように、俺は発言する。

 自分でも驚くほど冷たい声だ。

 当たり前だ、信用できるわけがない。


「違う! それは決して違う! 我々は…ッ!」


「一度背中に短剣を突きたてようとしてきた相手をどうやって信用しろと言うんだ? クロスロードに同行を求めて、その道中で寝首を掻こうとしているんじゃないのか? ええ?」


 俺の言葉にワルツ隊長が言葉を失う。

 いっそのことこいつら全員皆殺しにして死体も残らないように灰にしてしまおうか。

 そうだ、それが手っ取り早い。


 俺はバトルスタッフに魔力を込め――ようとしたところで、マールが俺に抱きついてきた。


「タイシさん、落ち着いてください。確かに信用するのは難しいかもしれませんが、これから先ずっとカレンディル王国を敵に回して行くというのも無理がありますよ。ここはワルツ隊長を信じてみませんか? 一緒にトロールを倒した仲じゃないですか」


 マールが懇願するような表情で俺を見つめる。

 信用するのか? こいつらを?

 だがマールの言うことも確かだ、一応この隊長とは戦友だからな。


「…わかった」


「ありがとうございます、タイシさん。ワルツ様、信じても良いんですね?」


「この剣に誓って」


 ワルツ隊長が膝をつき、礼をする。




 遺跡を出て二日。

 遭遇した魔物を文字通り粉砕しながら森の中を進んだ俺達はクロスロードの街へと帰着していた。

 人数は多くなったもののこれだけの人数相手に襲ってくる魔物も無く、また来た道を戻るだけだったので行きよりも相当早く辿りついた。

 なんせ一番隊だけでも二十人近くいるからな。


 ちなみにフラムの世話は一番隊に任せている。

 俺の顔を見るとあの晩の事を思い出すのか、恐慌状態になるからな。


 アレはアレで嗜虐心をそそるが、手間がかかるのは少々いただけない。

 とりあえず俺達が連れまわしても仕方ないので騎士団に連れて行ってもらった。

 殺人未遂の賞罰がついてるしな。おまわりさんも兼ねる彼らに引き渡すのが一番だ。

 奴隷にするということも考えていたが、面倒臭くなった。


 クロスロードに着いた俺達は、というと冒険者ギルドに併設されている酒場でよく冷えた果実水を飲みながら軽食を取っている。

 俺は具材たっぷりのナポリタンっぽいパスタで、マールは柔らかいパンにハムや野菜やゆで卵などを挟んだサンドイッチだ。

 ちなみにギルド併設の酒場に並ぶメニューの中でもかなり高いほうのメニューである。

 一番安いのは茹でたパスタに塩を振りかけただけの塩パスタだ。


「一週間以上姿を消してたと思ったら異常な量の素材を持ち込みやがって…」


 俺達の持ち込んだ魔物の死体の検分が終わったのか、一週間見ないうちに少し痩せたように見えるウーツのおっさんが俺達の席へと歩いてきた。

 そしてガシャリ、と重たい音の鳴る袋をテーブルの上へと置いた。

 遺跡に至るまでに出会った魔物は全て蹴散らしてストレージに放り込んでおいたので、それを売りに来たのである。

 今日のところは一晩休み、明日の朝一番で騎士団への出頭要請が出ている。

 何があるかわからないので、今日中に現金化しておきたかったのだ。


 ちなみに俺とマールの冒険者ランクが上がった。

 俺がDで、マールがEだ。


「で、実際の所お前等今後どうするんだ?」


 ウーツのおっさんには俺達がクロスロードを出てから何をしていたかを話していた。

 おっさんもカレンディル王国の手先だろうに、と思ったがマールには何か考えがあるらしい。


 おっさんの言葉に俺は少し考えてから口を開いた。


「とりあえず様子を見る。俺としてはこんな国クソ食らえだが、誠意の見せ方によっては考えないでもない。マールは守りの指輪が無かったら死んでたんだ、ちょっとやそっとのことじゃ許さんがな」


「…対応が十分じゃないと感じたら?」


「この国から出て行くに決まってる」


「…国がお前を逃がすと思うか?」


 おっさんの言葉に、俺は満面の笑みを浮かべる。

 そうなったらどうするか? 決まってる。


「そうなったら全面戦争になるに決まってるだろうが?」


 俺の返答にウーツのおっさんは引き攣った笑みを浮かべた。

 マールはそんな俺の顔をじっと見つめていた。




 ギルドで冒険者カードと素材の売却益を受け取った俺達は灼熱の金床亭へと向かった。

 森の中で討伐したジャイアントマンティスとナイトストーカー(黒くてデカい豹)の死体が思いのほか高く売れたため、懐は暖かいどころか超ホットである。

 クロスロードから脱出するために金貨15枚を使ったが、それがチャラになるどころか倍になって帰ってきた。

 ジャイアントマンティスは鎌と肉と甲殻が、ナイトストーカーは美しい漆黒の毛皮と肉が高価だったのだ。

 他にも暗殺者どもから奪った剣なんかがあるが、これは予備武器としてストレージに保管してある。


「あら、一週間ぶりくらい? ご飯でも食べに来たの?」


 灼熱の金床亭の前まで来ると、掃除をしていたピニャにばったりと出会った。

 相変わらずチマい。

 というかどう見ても少女にしか見えないのに俺より年上ってどうなんだ。

 合法ロリってやつか、そうなのか。


「いんや、泊まり。とりあえず二人部屋で一泊だけな」


「お客様、ウチはそういう宿じゃないんですが。だいいち、家を借りたんじゃなかったの?」


「それ嘘、ちょっと事情があってな」


「…はぁ。旦那は受付にいるから」


 俺とのやり取りが疲れたのかピニャは諦めたような顔でそう言うと掃除を再開した。

 仕方ないじゃないか、撹乱するために必要だったんだから。

 結果として無駄だったが。




 部屋を取った俺達は身につけていた革鎧を外し、二人でベッドに身体を投げ出していた。

 今回取った部屋は前まで使っていたのと同じ部屋だ。

 ほんの一週間ほど前のだが、この部屋で二人で過ごしていた頃は平和だった。

 バカな話したりいちゃついたり甘酸っぱい雰囲気になったり。

 金稼ぎと訓練のこと、そしてマールのことだけを考えていればよかった。


「どうしてこうなっちまったかねぇ」


 天井に手を翳してみる。


 この手で十二人殺した。


 それも普通に殺しただけじゃない。

 情報を聞きだすための尋問で――いや、フラムをただ責め、精神的に追い込むためだけに七人殺した。

 重症を負って、身動きのできない暗殺者の命を一つ一つ砕き潰した。

 しかし相手はこちらの命を狙ってきた暗殺者のクズどもだ。

 返り討ちにした以上は生殺与奪の権利は俺にあった。


 だから壊して、犯して、蹂躙した。

 俺には権利があったんだ、それに奴等は罰を受けるべきだった。

 俺の大切なモノを奪おうとしたんだ、当然の報いだ。

 奪うのも、殺すのも、壊すのも、俺の自由だ。当然の権利だ。


 だから俺は悪くない。

 悪くない、悪くない、悪くない、悪くない、悪くないったら悪くない。


 いや、悪いとか良いとかって問題じゃないだろう。

 命を奪ったんだ、その罪は免れない。


 命を奪うことが罪? ならこの世は罪人だらけだ。

 食うために殺す、身を守るために殺す、それが罪なわけがない。


 だが殺したのは動物や魔物ではない、人間だ。

 人間が人間を殺すのは罪だ。


 いや、人間も獣も魔物も関係ない。

 命の重さに貴賎は無い、殺すことは罪ではない。


 俺は悪くない、俺は悪くない、俺は――。


「タイシさん」


 マールの手が翳していた俺の手をそっと包んだ。

 暖かい、何故か涙が出そうになる。


「タイシさんは私を守るために彼らを殺し、彼女を壊したんです。タイシさんは私にメロメロですからね、そうするのが当然です。だから、気に病むことは無いんですよ。タイシさんは私のためにやったんですから、悪いのは私です」


 横を見る。

 マールはとても優しい顔で微笑んでいた。

 俺の頭をそっと掻き抱き、頭を撫でる。

 マールの体温と匂いに包まれて、堰を切ったように押し留めていたものが溢れ出す。


 怖かった、正気を失いそうだった。

 でもやらなきゃならないと思った、でも嫌だった、何かにぶつけないとやっていられなかった。

 俺は全てを泣きながらマールに吐き出した


 そんな俺をマールは慰め、慈母の様に優しく包んでくれた。




「お前は悪女だ。いや、悪女という言葉も生温い」


「開口一番に暴言とは、さすがタイシさんですね! 昨日はあんなに可愛かったのに。子供みたいに私の胸で泣い「あー! あー! 聞こえなーい!」」


 耳を塞ぎ、声を出して何も聞かない。

 アカン、この女ホントにアカン。魔性の女や。


「お前は男を駄目にする。駄目男製造機の称号をやろう」


「うーん、そんなに不名誉じゃない気がするのが不思議ですね」


 そんなことを言いながらヘラヘラと笑うこのお馬鹿ときたらもう、手の施しようが無い。

 俺も全てを吐き出してスッキリした。

 昨日までの俺よさようなら、こんにちは今日の俺。


「それで、今日はどうしますか?」


「行くっきゃないだろ、監視もついてるだろうしな」


 一度逃げられた以上はがっちりと監視もついているだろう。

 逃げるのが本当に無理なのか、というと多分逃げられるがメリットは無い。


「わかりました。では行きましょう、タイシさん」


「ああ、顔洗ってメシ食ったらな」


「久々のピニャさんの料理、楽しみですね!」


 朝食のメニューは焼きたてのパンに、薄めの具沢山野菜スープ。あとは朝だというのにトロール肉のステーキだった。

 トロール肉は肉質がかなり固かった。あんまり美味しくなかったが、ボリュームだけはあった。

こういう醜い部分も忌憚なく書いていきたいと思っております。


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― 新着の感想 ―
[一言] 鏖殺は良くても強姦はどうかと? と思ったが、心を壊す方法なら有効な手段なのか。 あまり万人受けしない行動だとは思うが、こんなアンチヒーローがいても面白いかと。 この先の展開も期待してます。
[一言] 強姦する必要はない、ただ殺せばいい。
2022/12/07 04:57 退会済み
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[一言] 犯したのと敵を1人でも生かしたのはイマイチやけど敵を容赦なく殺すタイプの主人公好き
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