プロローグ
29歳独身が異世界で自由気ままに生活しようとする物語です。
初日から押し売り女房に捕まり、十日ほどで国にも睨まれ始めて人生中々上手くいきませんが。
そんな困難(?)に負けず生活を続けていきます。
今の生活に不満がある。
例えば、いくら仕事をしても給料が上がらないとか。
例えば、政治に不満があるけど変えようが無いとか。
例えば、刺激とスリルが足りないとか。
言葉では言い表せない閉塞感がある。
例えば、将来の展望に希望が持てないとか。
例えば、自分の住んでいる国の未来に希望が持てないとか。
例えば、仕事に時間を取られて自由な時間が無いとか。
一方でこうも思う。
本当に、自分は全力で取り組んでいるんだろうか?
本当に、自分では何も出来ないのだろうか?
本当に、何かを実現するために努力をしているんだろうか?
でも、辛いのは嫌だ。
でも、疲れるのは嫌だ。
でも、面倒臭いのは嫌だ。
誰だってそんなのは嫌だ。
俺も嫌だ。
だから俺はゲームや、ライトノベルや、ネットに逃げる。
ゲームの中の俺は最強だ。
あらゆる武器を使いこなし、強大な力を振るう。
悪を滅ぼす勇者にも、非道の限りを尽くす悪党にもなれる。
とは言っても根が臆病者の俺は、どうしても善人プレイになってしまうんだけれども。
昨今は自由度の高いゲームが多いから、ゲームの中に出てくるキャラクターの生殺与奪の権利は俺が握っているのだ。
そんな自分に都合が良い世界で自由気ままに過ごす時間は、快感だ。
ライトノベルの『都合の良い物語』を貪るのは悦楽だ。
女の子から異様にモテる主人公に同調して悦に浸る。
心の中で『ねーよwww』とか『ちょろいwww』とか思いつつも、美少女にチヤホヤされるのはそりゃ快感だ。
最近の傾向なのか、主人公TUEEEEEにハーレム要素をプラスしたようなのが多い。
清純派、ツンデレ、お姉さん系に妹系、義理の姉妹どころか最近は実の姉妹ものまで。
その他ロリババア、エルフに獣人系に人外系。
俺のストライクゾーンは煩悩の数くらい広いのだ。
ネットでは自分と同じような『今の生活に不満がある』仲間が溢れてる。
ぬるま湯のような奇妙な連帯感の中で、世の中にアレコレに不満を垂れ流すのは気持ちが良い。
それにネットには娯楽が溢れている。
顔も知らない誰かが作ったコンテンツをただ消費する。
一つのコンテンツを愉しんだら、次。
次も愉しみ終わったら、また次。
そのコンテンツを作った人の努力など一顧だにしない。
消費者としてひたすらコンテンツを貪る。
本当にこれでいいのか?
そんな心の声も握り潰して俺は逃げる。
だって辛いのも、疲れるのも、面倒臭いのも嫌だから。
そしてそんな俺はふとこんなことを口にする。
「あー…ゲームみたいなファンタジー世界の住人になりてぇ。
一般人じゃなくてベリーイージーモードの主人公状態で」
誰だって一度くらいは思うだろう?
いつもそういったゲームをプレイするときは大体ハードモードだけど。
実際に行くとなるとベリーイージーがいいよな。
そして応える声がした。
『良かろう、ならばやってみたまえ』
そして、俺の意識は暗転した。