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クリスマスをお題にした短編。
短い話の集会所
作:藤田文人



未来に希望を寄せて


 

 街中が煌びやかなイルミネーションに包まれている。

 昨夜から降り続けた冬の妖精達が街を白く染め上げる。その雪化粧の中を様々な色彩が照らし優しい灯火と化す。
 柔らかな光が人々の心に彩りを添え、賑やかな夜を演出してくれる。華やかで艶やか――そして、人々の心を躍らせる魅惑の宴。だが、それでいて何故か神聖な気持ちにもさせてくれる不思議な空気に包まれた日。
 誰が決めたか、一年で一番神聖な気持ちさせてくれる“聖なる夜”……本来の意味とは違うらしいが、端から見ても道行く人々の表情はどれも優しさに満ちていた。
 これが《クリスマス》という名の特別な日の力なのだろうか?
 その道行く人々の発する雰囲気に僕も少なからず影響を受けはじめている様だった……。


 『いつもの広場で待ってるね』


 彼女の一言メールに少し戸惑いながらも僕は従った。
 こんな日に呼び出すなんて何かあったのか?
 幼い頃から気まぐれに僕を振り回す彼女。しかし、二人の間には男女の隔たりはなかった。
 いつも一緒にいるからか、ただ単に見慣れた姿に“他人”である事を失念していたのか。姉弟よりも深い絆で結ばれるも他人よりも遠くに感じる存在……二人の間には何も無い。
 そんな彼女の他愛も無いはずのメールに、僕は何故だか心のざわめきを感じて落ち着く事ができなかった。
 この特別な日の雰囲気に飲まれたのか?
 僕はその答えを見つけられないままにいつも待ち合わせる駅前広場へ向かった。

 ――駅前だけあって人々の群れは多い。いや、いつもよりも明らかに多い。しかも気温に反して熱気が漂っている。
 僕は肌寒い空気にコートを抱き込む様にしてベンチに座り彼女を待った。
 「――ごめん、待った?」
 背後から聞き慣れたハスキーボイスがこだました。
 突然の彼女の出現に僕の胸の鼓動が大きくなった。明らかに動揺している。心が激しく揺れ動くのを強く感じて僕は返事をすぐに返す事ができなかった。
 「どうしたの? そんなに驚いた?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべながら彼女は隣に座り、少し上目遣いに僕の顔を覗き込む。その瞬間、ドクンッと鼓動が大きく波打つ。それと同時に顔が熱を帯びてきた。
 (いったい、どうしたっていうんだ)
 いつもと違う状況に僕の頭はパニック寸前になる。彼女の声が、笑顔が……僕の心を掻き乱す。
 この“特別な日”が僕を惑わせるのか。普段なら意識せずに接する事ができるのに。今日に限って妙に彼女を意識している僕がいる。
 「ホントにどうしちゃったのよ? あ、もしかして熱っぽい? 顔、赤くなってるよ……」
 反応の鈍い僕の顔を見た彼女は、赤くなったのを熱と勘違いして表情を少し曇らせながら手のひらを僕の額にそっと当ててきた。彼女の温もりが額から染み込んでくる感覚にさらに顔を赤くする僕。
 「だ、大丈夫だよ。ちょっと走って来たから体が熱くなってるんだよ」
 このままでは風邪だと思われてしまう。僕は照れを隠す様に声を抑え、いつもより冷静な口調で言うと頭を振って彼女の温もりから逃れた。
 「……ふ〜ん、それならいいんだけど。本格的に寒くなってきてるから風邪には気をつけてね」
 いつもよりも優しい口調で囁きかける。その視線も柔らかく僕の心を優しく包み込んでくれる。
 ――おかしい。何かがおかしい。
 僕の心はまるで魔法に掛かったかの様に彼女に引き込まれていく。
 僕の中の“何か”が変わりつつあるのを強く感じた。
 目の前で微笑みを浮かべる彼女。気のせいか、いつもの気まぐれな態度と違い今日はやけに女らしく見える。
 彼女の心境に何らかの変化でもあったのだろうか。そう思ってしまうほど今日の彼女は違って見えるのだ。

 僕が大丈夫なのを知ると彼女はベンチを立ち、僕の手を引いて無理矢理立たせた。
 「――じゃあ、行こっか」
 「えっ?」
 突然何を言い出すんだ。何の約束もしていないのに、いったいどこに行こうっていうんだ。
 訳もわからず彼女に引っ張られる僕は思考回路が一瞬止まる。
 そんな僕に向かって彼女は一言だけ呟く様に囁いた。
 「……今日は年に一度の特別な日だよ。今日だけのイベント目白押しだよ〜。せっかくのクリスマスなんだから一緒に見て回ろ!」
 そう言って彼女は僕の腕に手を回し寄り添う様にくっついてくる。
 「……えっ? ええっ!?」
 その言葉に僕の胸の鼓動は一気に高まった。

 それって……。

 ――僕の頭の中はもうグチャグチャになった。顔は火照りのぼせそうになる。
 そんな熱くなった僕の頬に冷たい雫が触れた。
 「あっ、雪降ってきたね。今夜は寒くなりそうだね」
 そう言うと彼女は回した腕に力を込める。それにより僕の熱はさらに上昇した。降り出した雪でヒンヤリした頬が再び熱を帯びる。
 体だけじゃない。心も熱くなってきた。
 胸の高鳴りは止まる事を知らず激しい鼓動と化す。


 ……もしかして、これは恋の始まりってやつなのか?


 彼女に引っ張られながら僕はこれからの二人の関係が確実に変わるのを感じた。
 ……彼女も同じ気持ちかな?
 ふと不安がよぎる。いや、今はそんな事を考えるのは止めよう。
 今夜は二人きりのクリスマスを満喫しよう。また来年も一緒に過ごせる様、今日という日を目一杯楽しもう。


 未来なんてわからないのだから――。

















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