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退場

痛いのは嫌いなので、さっさと退場してもらいましょう。

作者:鵠居士
高校生活も三年目。
前橋の娘となって、六年。
今年は大学受験を控えているという大切な年だというのに、退場したと安心していた乙女ゲームがついに開幕してしまいました。
現在、内部受験で進学した大学で二年目の生活を楽しんでいる姉だったものに、二年前に後輩として内部進学してきた弟だったもの、柚貴。そして、今年高等部へと進学してきたピカピカの一年生の妹だったもの、翠子。
前橋彰子としてこの学園での生活を送ってきた中で、三人共同じ校舎の中に居て、何度かすれ違ったりしたこともありました。それでも、私のことに気づく事なく、一切接触もなく過ぎていたというのにどうして今更…、と苛立つ気持ちは、前橋晃の家の一室を頂いて作られた私の部屋の中で日頃発散させて貰っています。

どうして?
なぜ?
私達、家族だったのに?
なんで、そんな冷たいことを言うの?

法律的にも、心情的にも、とっくの昔に決着がついている問題。だから、どうして私が逃げないといけないのかしら、という思いしかない。なので、私は今まで送ってきた通りの、代わり映えのない普通の日常を心掛けて、日々を過ごしていました。
だから、私を見つけるのは簡単なんでしょうね。
事有る毎に私の前に現れて、泣くは、責めるは、怒るは。
「大丈夫だよ。お父さんもお母さんも、もう怒ってないよ?」
果てにはそんな事をほざく始末。
ヒロインの翠子って、こんなアホな子だったかしらと心の中で大笑い。
「貴女が家族を身勝手に捨てたせいで、僕達の家族はめちゃくちゃだ。」
最初から家族として見做されていない私にそれを言うの、とこちらは目の前で大笑い。
どれだけ自分達のことしか見えていないのか、考えていないのか。

おかげさまで学園内での私の評判は上々です(棒)

ドロドロのヘドロのように腐っているようにしか私には見えないのだけど、やっぱり奴等は腐っても乙女ゲームのヒロインであり、攻略対象。
翠子が涙一つ見せようものなら、学園に居る生徒、教師に至るまで全てが彼女に同情の念を持たずにはおれず、私に不信感や敵意を向けてくる。
柚貴が一言、負の感情ありきで私の名前を呼べば、学園中の女生徒達が「おかわいそうに」と私を攻め立てる。
前世の記憶の中でも思っていたようだけど、ヒロインに攻略対象ってあれよね。皆、将来政治家にでもなればいいのに。これだけ学園内を見た目や行動だけで味方につけることが出来るんだから、選挙なんて楽勝過ぎるでしょう。投票に行かない若者って問題になっているけど、きっと投票率を格段に跳ね上げてくれるでしょうに。
まぁ、頭が残念みたいだから、政治家になられても困るけどね。

前橋の若君に嘘偽りを百も二百も吹き込み、垂らしこんで、まんまと前橋家に鞍替えしてみせた狡猾な女。
兄弟のみならず、両親まで悲しみと苦しみに追い込んだ悪魔のような女。
あの女が前橋に取り入って、実家を落とし入れた。業績が落ち込んで、ある部門などは廃止の危機に陥っている。

そうそう、とうの本人である私さえも知らない"事実"が耳に入ってきましたよ。

私、お母様の不義の子なのだそうです。
だから、他の姉妹とは似ても似つかない不憫な顔立ちで。才覚も何もあったものではない。

不憫な顔立ちで悪かったわね?
これでも、前橋晃-お兄様のご親密な御友人のお姉様方にご教授頂いて手入れなどの努力に暇を費やしているのに。まぁ、別に顔を売りにする仕事をするつもりもないから、別にいいけど。
その話が本当だろうと嘘だろうと、こんな話が本人の耳に届くまで大きく語られるようになっていては、程度が知れるわね。学生達の質も、そしてあの家の危機能力の質も。
こんな噂が流れるようじゃ、また業績は下がるんじゃない?
一部門が廃止の恐れって、そりゃあ子供一人を口には出せない理由で手放すことになったんだもの。子供関係の部門なんて悉く取り引き先から手を引かれていくに決まってるじゃない。内密の内に治めたつもりでも、そういうのは何処かで必ず漏れるものよ。
金持ちのスキャンダルって、世間では甘い蜜なのよ?


まったく、煩わしい。
このご時勢、何があるか分かってものじゃない。だから出来るだけ実用的な技術や資格を得ておけるように、手に職をつけていこうという方向で熟考した末に、私は工業大学への進学を希望している。商業系も考えたのだけど、それだと体裁を崩した時には使えなくなってしまうから。本当は、高校から此処ではなく工業高校か商業高校などに行ってみたかったというのが本音だけど、流石に前橋にお世話になっている身では其処までの我侭を押し通す事は出来なかった。前橋の女が通うことになっている女子高か、共学ならこの学園。女子高は将来が狭まるからとこちらを選んだのが駄目だったわね。そこは少し後悔中。ちなみに、中学はお兄様のお仕事に付き合って外国に行っていたの。おかけで、前世では壊滅的だった英語も得意科目になったからよかったわ。
こんな金持ち相手の学校に就職するくらいの教師達は、そのほとんどが卒業生か、選りすぐりの上で招かれた教養豊かな人達だ。私が入学してすぐに行われた第一回目の進学希望調査で、それは見事に名の知れた工業大学を並び上げた時には、職員室では阿鼻叫喚の騒ぎだったらしい。
前橋の親も、お兄様も大ウケで了承してくれたというその進学希望は、受験戦争への突入が始まっている今のこの時期になっても教師達に否定され続けている。
分からずやの教師達との戦いもしなくてはいけないというのに、こんなくだらない幼稚な恋の鞘当を盛り上げる要因にされても、本当に困るのよね。
傍観していろって言われても困るけど。

陰口や悪意の視線なら別に受け流して、逆に楽しんであげる大人の余裕を見せ付けることが出来る。
だけど、これは駄目ね。本当に駄目。
だって、痛いのは誰だって嫌でしょう?あっ、特殊な性癖の方々は別だけど。
ごめんなさい、私にはそんな性癖無いのよ。
子供の頃のあれだけで、もうお腹一杯なのよね。


「おい!!テメェ、俺を無視するなんていい度胸じゃねぇか!!!」
ガンッ
これがいわゆる壁ドンッ。駄目ね。なんで、女子供がキャーキャー言うのか分からないわ。前橋の家で一緒にCMを見た後に、お兄様やお父様に試しでやってもらったけど、何がいいのか最後まで分からなかったもの。あっ、お母様もやられながら鼻で笑っていたわね。
「なんだよ、震えちまって。怖いのかよ?今までの澄ました態度は何処にいったよ。私は関係ありませんって顔で翠子のことを見下しやがって。本当は、母親も違うんじゃねぇのか?翠子とは大違い過ぎるだろ、お前みたいなアバズレ。」
両親での壁ドンシーン。鼻で笑うお母様と、壁ドンをした瞬間にその衝撃の為にぎっくり腰になってしまって助けを呼んでいるお父様。
その光景を思い出してついつい漏れ出す笑いを抑えようとした、私。顔を伏せて肩を震わせる姿は、怯えて泣いているように見えたみたいですね。
それにしても、アバズレって。どうして、不良系で描かれる若者って、この言葉を使いたがるのかしら。これって、私の偏見?
「おいっ!何か、言ったらどうなんだよ!!」
何か、って何を言えと?
本当のことを教えてあげれば、嘘言うんじゃねぇよといい。
嘘は言いたくないから関わるなと言えば、調子に乗るんじゃねぇという。

あぁ、こういう人がどの時代にも居るから、人と人との戦いは有史以来止むことが無かったのかしら。
あっ、そういえば、次の時間は世界史の小テストだわ。
前橋の娘で居る条件の一つが、それなりの成績なのだ。詳しい点数や順位は教えてくれないという悪意に満ちた条件を満たす為に、日々勉学に励んで学年で常に十位以内に居るのを心掛けているの。もちろん、何処かの誰かさん達みたいに特権を振り翳して、なんてするつもりはないから授業態度もきちんとして。だから、小テストだからって手を抜くことは出来ない。授業をサボるなんて持っての他。

ガッ

次の授業がありますから、と素直に伝えたところ、私は頬に痛みと熱さを覚える事態になってしまいました。
唇が濡れているのは、きっと血ね。口の中に鉄臭さが広がり始めているもの。

あぁ~あ。
これで貴方は退場ね。

「次はこの程度じゃ済まねぇからな。」
唾を吐きかけていくのは止めてくれないかしら。潔癖症ではないけれど、人の痰なんてついた服、追加料金ありきのクリーニングに出さない限りは二度と使えないじゃない。


制服を着崩している染め上げたと丸分かりの金髪を揺らした不良が立ち去っていった。
その背中が完全に見えなくなったと確認し、私はスカートの中にしまってあった端末を持ち上げ操作する。

「お兄様、今よろしいでしょうか?」
『ん?あぁ、かまわないよ?丁度、休憩中だった。』
「今、後輩の青年に顔を殴られてしまって。頭はくらくらしますし、顔は痛くてしかたありません。自力で養護教諭の下に向かうことも出来そうにありません。」
端末が繋がる先は、兄となった弁護士、前橋晃。
あの男に連れ込まれた校舎裏の薄暗い物陰。壁に背を預けて、話ながら足で土を蹴り上げる。
『あぁ、それはいけないね。誰でもなく、簡単な操作で繋がる私の所に一番先に連絡を入れてしまう程のダメージなんだね。それは大変だ。すぐに、駆けつけてあげるよ。なんたって、君は私の可愛い可愛い妹なんだから。学園の教師に連絡を繋げるという事も出来ないくらいに慌てて、今から向かうよ。』
「安全運転でお願いしますね?」
『大丈夫さ。俺は、ドイツのアウトバーンをブイブイと楽しむ男だよ?』
あぁ、速度無制限の高速道路。
お兄様、ブイブイって多分死語ですよ。

さて、これでお兄様が来て、私を助けてくれる。
病院に行って、診断書を貰う。
女の顔に傷つけたとあっては、小さな問題の内に、なんて絶対にならないわよ、鳳凰院くん?
高等部二年、鳳凰院飛鳥くん。
平安時代から続くと言われる名家のお坊ちゃま。それなのに、お綺麗な上流階級は飽き飽きだなんて突っ張っちゃって不良街道まっしぐら。それなりに大きくて名の通ったチームを率いているんですって。
翠子によって救われるんだっけ?あんまり覚えてないけど、興味がなかったから。
酒にタバコ、喧嘩上等!在り来たりな不良集団を率いているだけあって、女を殴るのにも躊躇は無かったわね。
ついでに、集めておいたチームの悪行三昧も公表してしまいましょう。
鳳凰院家が警察やマスコミに圧力をかけたって大丈夫。
だって、今や世間で大きなうねりを作ってくれるのは、ネットですよ。
そして、世間の皆様は、馬鹿と暴力と、金持ちが大好物。きっと、良い結果をもたらしてくれるでしょう。

慰謝料、いくらになるのかなぁ?
そこはお兄様の腕を信じてさしあげる。



「上手い事やったみたいだね。」
あれから一月。最近、鳳凰院君の姿は学園にはありません。
どうしてなのかしら、ね?
君の最愛の翠子も、心配そうに探しているわよ?
図書室の窓から、涙を滲ませて在りもしない姿を探す翠子と、それを慰める取り巻き達を見下ろしていた。
勿論、それの為だけに図書室に来ているわけじゃない。
最愛の工業大学へと進学する為、勉学に励む毎日ですもの。
まだまだ、教師達が折れる様子は無いし、翠子や柚貴絡みで敵意を向けてくる大人気ない、教師失格な先生方が内申をくれないなんて嫌がらせをしようとしているせいで、私の受験は危ぶまれている。
まぁ、それをやらかしてくれた際は、それ相応の教師人生からの退場を味わってもらいますけど?
別に、大学に入る為の方法は、他にも色々ありますし。
なんだったら、海外の工業大学だって選択肢にはあるんだから。
テーブルの上に数冊の本を広げ、ノートにペンを走らせる。
集中していた私の目の端に、テーブルに相席してくる生徒の姿が映った。
図書室には私以外いなかった。なにより、今の学園の風潮によって私と親しげに見える行動を取る馬鹿が居るとは思えない。
何の用かしら、と口にしながら顔を上げた。

「あら、桐生くん。どうかしたのかしら?」

私と同学年、桐生敦。
さわやかな顔立ちに優しげな笑顔を絶やさない、スポーツ青年。
しかしてその実態は!
やくざのお坊ちゃまなのでした!
後ろ暗い手を回して、ヒロインを絡め盗って行くキャラだったわね。学園では、中小企業の社長子息だと完璧に偽って、その真実を知るものはほとんど無い。
でも、私は知っているのよね。そして、私が知っていることを彼も知っている。
彼が最初に仕掛けてきた攻撃の際、知っているのよ、と可愛らしく諭してあげましたから。
「いや。最近、鳳凰院君が休んでいてね。翠子ちゃんも心配しているんだ。彼が最後に学校に来た日、君とお話をしている姿を見たっていう人が居てさ。」
「えぇ、"お話し合い"をさせて頂きましたよ?でも、それだけ。あの時は私も急病で兄に迎えに来てもらいましたから。数日、お休みさせて頂いたわ?三日後に登校出来た時には、もう彼はお休みに入っていたから。」

結局、お父様とお兄様の意見を尊重して、ネット流出だけはしないであげたわ。
だって、あちらの御両親が、プライドをかなぐり捨てて土下座して下さったんだもの。
こんな馬鹿でも大切な息子。甘やかしていた、ぶつかり合ってこなかった自分達にも責任がある。徹底的に自分達を見直すから、今回だけは穏便の内に治めて頂きたい。
普通の親って、あんなものなのね。
親父…なんて涙を流して、両親と並んで土下座を始めた鳳凰院君の姿は感動的だったわ。
その後に展開された、詳しい話や慰謝料、治療費などの話し合いには関わらなかった。だって、私は法律などに詳しくないから、専門家であるお兄様に任せてしまうのが一番でしょう?
だから今、鳳凰院くんが何をしているか私はさっぱり。

「そうなのかぁ~。何か知っているなら、翠子ちゃんも安心すると思ったんだけどなぁ。」
「あら、残念だったわね。私も心苦しいわ。」

勉強の手を止めることなく、二人共のまったくの棒読みで交わされる私達の会話。
「いい気になるなよ、クソ女。」
「いやだわ。勉強のし過ぎかしら、瑣末な虫の戯言の幻聴が聞こえてくる。」
怖いわ、と口元を手で覆って怯えてみせれば、さわやかさが自慢の桐生の眉間に、似つかわしくない皺が深く刻まれた。
「そういえば最近、チームでしたっけ素行のあまりよろしくない未成年の集団が一斉に補導されたんですって。お酒にタバコ、一部では薬まで手を出していたとか。隠されていた暴力沙汰も、被害者達が次々と名乗り出てきて警察関係が騒がしいのですって。」
「へぇ、大変なんだね。」
「えぇ、暴力団にも繋がっていたとか。本当に、大変ですわねぇ?」
顔色一つ変えないのは流石と褒めてあげましょう。

桐生君は私に手を出せません。
何故なら、彼がやくざの息子で、それを笠に着せて悪さをしている証拠を確保してあるからです。もちろん、そんな理屈は通らないからこそのやくざ者。しっかりと護衛なども用意し、外出も控えておりますよ?
そういったものを連れ込めない学園内での安全を図る為の切り札です。
"やくざに媚びない"
昨今の時勢は、やくざにとっては生き難いものです。やくざと名乗っただけで、逮捕ですもの。関係を匂わせるだけでも駄目。
あぁ、それと取り巻き連中の中に居る警察上層部関係の一族の御子息、そちらと仲良くお話しあって、ついでとばかりに仲良く私と遊んでくださった証拠も、しっかりと押さえさせてもらっています。
本当に、制服のボタンなど全身のあらゆる所に仕込んである隠しカメラとボイスレコーダーって、役に立ちますね。


死にたくないから、退場しました。
でも、再入場を強制されたのです。
すでに私の覚悟は決まっています。死にたくないっていう願いを通り越した覚悟を。
例え死ぬことになったとしても、タダでは済まさないって。

杜朋彰子もりとも あきこは死にました。
今更、前橋彰子まえばし あきこが死んだところで何が変わるものですか。

私を攻撃しないでね?
貰ったら、返すのが礼儀だなんて、子供でも知っているんだから。
攻略する気も、復讐する気もないの。
ただ、私は私という存在の尊厳を守りたいだけ。出来ることなら命じゃない、命が無理なら尊厳を。
その為に、乙女ゲームから知った貴方達の秘密、使わせてもらうから。例え、死んだとしても、私が仕掛けた法と世論という刃が、貴方達を滅多打ちにしてくれるわ。
思いついたら続きを書く、という形となります。
第三弾があるかどうかも未定ではありますが、楽しんで頂ければ嬉しく思います。

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