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第4話
「はぁ」
 今日だけで既に、何度目か分からない溜息。
 時は、深夜。
 場所は、寝室。
 でもそこは、個室じゃなくて。

「ねぇ、昼間あなたと一緒にいた人は誰? どんな関係なの?」
「あの背の高い人、肌の感じとかエキゾチックで素敵よね。どこか遠い国の人なの?」
「あら、私はあの可愛い感じの男の子が好みだわ! ね、あの子は歳いくつなの?」

 私の溜息の理由は、これ。年頃の乙女二人の、矢継ぎ早な質問。
 依頼を受けた私たちは、その結婚式が終了するまで、アンネリーゼから目を離さずに、常に傍にいる、ということになった。

 それはまぁ、いいんだけど。

 彼女はどこでどのように生活しているのかを詳しく聞いたら、劇場関係者達が暮らしている広い館があって、そこで他の歌人達と同じように普通の生活を送っているとのことだった。
 彼女みたいに頂点に立つ歌姫は、どこかもっと別の豪華な住まいが(あて)がわれているものだと思ってた。でもアンネリーゼはそれを好まず、自ら進んで、こうした共同生活を楽しんでいるらしい。

「だって、自分だけの広い家があっても、そこに住むのが自分一人なんて寂しいもの」

 そう言って、彼女は屈託なく微笑んだ。
 今、その彼女は鏡の前に座り、腰まである黒髪を梳いている。私はベッドで枕を抱え、他の女の子達から、仲間についての質問攻めにあっていた。

「バルドの肌は単なる日焼けのしすぎで、セシルはああ見えて三十八よ」
「まさか! 冗談はいいから、本当のところは?」

 のらりくらりとした私の嘘の返答をあっさりと笑い飛ばし、己の求める真実をどこまでも追求してくる。それに観念して口を少し開いたところで、新たな質問がまた反対側から飛んでくるというこの忙しなさ。

「あの二人って、あなたとどういう関係? どっちがいいの?」
「どっちがいいのって、二択!? 私に他の選択権はなし!?」

 ああもう、何度溜息を()いたか分からないったら!

 その時、扉をノックする音が響いた。ブラシを置いたアンネリーゼが、薄くそれを開く。そしてすぐにこちらを振り返った。
「エデルトリダ、あなたによ」

 私はすぐにベッドから下りて、(かたわ)らに置いてあった銃を手に取る。アンネリーゼに借りた薄い部屋着の上に、ガンベルトを回した。どんな時でも愛用の銃を離さないのが、既に私の習慣になっている。それが仕事中であるなら、なおさらのこと。

 見慣れないそれに、一瞬、女の子達の声が止む。彼女達の生きている世界には縁のない、銃を腰に帯びた同じ年頃の少女の姿に、何と言うかたぶん、違和感を覚えているんだと思う。
 私はそんな二人に軽く微笑み、寒くないように長めのガウンを羽織って、すぐに廊下へと滑り出た。

 そこにいたのは予想通り、セシルだった。
 扉を大きく開けた瞬間、さっきの沈黙が嘘のように背後から甲高い声が上がったけど、すぐに閉めたのでそれはくぐもったものになった。

「どう? その赤毛の男を見た?」

 私が夜もこうしてアンネリーゼに付いているけれど、セシルとバルドは念のため、外を見回るということになっていた。
 式までの七日間、できることなら何でもするべきだもの。今だけじゃなく(のち)のことも考えて、その男に、少しばかり注意もしておきたいところだし。
「いや、今のところはまだ。この建物の周りと、劇場のほうまで一応ってことで行ってみたけどさ。それらしい人物はいなかった」
「そう」
 セシルの報告に、私は腕を組む。
「まだ初日だものね。アンネリーゼを(さら)うっていう言葉が本気なら、いつか必ず姿を現すはずよ」
「ああ、こっちも気を抜かないつもりだ。で、そっちはどうだ?」
 背後でまだぼそぼそと聞こえる(かしま)しい声に、セシルは扉に顔を向けた。私は、苦笑い。
「大丈夫よ、彼女に関しては、何も問題ないから」
「彼女に関しては? てことは、他には何か?」

 それに対してどう答えるべきか考えを巡らせた瞬間、背後から再び甲高い声が響いた。それは、相手に媚を売る時の女の、作られた声音。
「そんなところで立ち話って寒いでしょ、ほら、入って入って!」
「そうよ、すぐに熱い紅茶を淹れるわね!」
「え? いや、俺はもう戻るからって、ちょ、待ッ!」
 しっかり断る隙もなく、両腕を二人の娘に抱えられ、セシルはズルズルと強引に部屋に引きずり込まれて行った。

「問題は、むしろこれよ、これ」

 廊下に一人残された私は、誰ともなしに壁に向かってぼやく。そしてがっくりとうな垂れた。


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