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こんにちは、もしくは初めまして。
この話は、「レディ・ガンナーは歌う」の第二部となっていますが、ストーリーは独立してますので、どちらから読んで頂いても問題ありません。
(でも念のため、後書きのほうに簡単な登場人物紹介を載せようと思います)
第1話
 眩い明りが頭上から降り注ぐ。
 息を呑んで、舞台上の「彼女」を見つめる観客たち。
 「彼女」は、歌う。
 声が遠くまで届くように意識して。
 手を空に差し伸べて、歌う。
 やがて、会場に弾ける拍手喝采。総立ちの人々。
 それに、「彼女」は輝かしいばかりの笑顔を向ける。
 歌姫。
 あれが、私の夢。
 なのに――。

 なんでまたこうなってんの!?

******

「僕の婚約者を守って欲しい、ガンナーエディ」
 あいも変わらず、依頼人がしっかりと顔を向けて伝えたのは、私に対してではない。

「いやいや、俺、エディじゃねぇし。エディはこっち」

 ひらひらと軽く手を振って否定したのは、縁あって行動を共にするようになったセシルという少年。その腰にも、六連発式リボルバーがしっかりと納められている。
 彼は有名なガンナー、つまりは銃の使い手になるのが夢らしい。それで、凄腕の雇われガンナーとして有名な私に目を付け、共に行動するようになったのだった。

 その私の夢はガンナーで成功することじゃなくて、歌姫として有名になることなんだけど。
 セシルが指差した私を見て、依頼人は一瞬、間の抜けた顔になる。

「は? 女?」

 そしてまたお馴染みの反応に、私はもうただ素直に頷くしかない。ただし、死んだ魚の目で。

「はいはいはい、エディって言うのは、私の通称なんですー。女だけどこれでも銃の扱いには定評あるんですー。文句あるなら他行って」
「エデルトリダ、だんだん自己紹介が雑で失礼なことになってきてますよ」

 私の隣で冷静に忠告するのは、相棒のアーチーバルド。
 彼は、私やセシルと違い、銃を手にすることはない。一応、護身用と称して、身に付けていることもあるけれど、それは見せかけだけのもの。
 彼にはちょっと人にはない能力があるものだから、私と会う前までは、色々と面倒に巻き込まれることも度々あったとか。そういうことを避けるために、敢えて銃を携えているらしい。
 まぁ、確かに、相手がガンナーだと思えば、自分も腕に自信のある人間じゃなきゃ手を出そうって気にはならないものね。

「へぇ、女、女ねぇ」

 いつもなら、私が有名な「雇われガンナーのエディ」と知った相手は、文字通り目を丸くして驚く。と言うのも、エディなんて通称のせいで、男と思い込んでいる依頼人がほとんどだから。
 でも、今回の依頼人は違った。目を(すが)めて、私を失礼なまでに、ジロジロと眺め回す。その視線にちょっと寒気がして、思わず、一歩後ろに下がった。

「な、何よ? 不満なら、冗談じゃなく他に頼んでよね!」

 背の高い相棒バルドの背後に回り、顔の半分だけ覗かせて、そこから啖呵(タンカ)を切ってみた。
 ああ、もう、我ながら、情けないったら!

 でも、私がそうしたくなるのにもちゃんと理由がある。今回の依頼人は無類の女好きで、これまでも散々その関係で問題を起こしたとかいう、あまり良い噂を聞かない相手だった。
 なのに依頼の内容が「婚約者を守れ」だもの。一体、どんな女性がその男と結婚するのかと思ったら、聞いて更に驚いた。
 それがこの街で一番人気の歌姫だと言う。しかも、とびきりの美人。

「いや、アンタでいい。アンタがいいというべきか」

 意味深な笑みを浮かべ、依頼人は、とりあえず私たちにソファを勧めた。
 そこは、この街のシンボルとも言える、巨大な劇場内の一室。そして依頼人は、この劇場支配人の一人息子で、フランツという名だった。

 女好き、というだけのことはあるかな。ぱっと見は、確かにちょっと整ってはいると思う。彫りの深い顔に、きっちりセットされた、肩に流れる蜂蜜色の髪。でも、私は彼の目を、たった一度見ただけで嫌いになった。どこか胡乱(うろん)というか、つかみ所のない不気味な深さがあるというか。

「婚約者はアンネリーゼという娘で、この劇場で一番人気のある歌姫だ」
 やたらと豪勢で、華美な装飾が所々に施された部屋の中央で、フランツはひとり優雅な仕草で足を組む。それから、私のほうを意識して、前髪を掻き上げて見せた。
 それに対しての私の率直な感想はこれ、「鬱陶(うっとう)しいなら髪を切れ」。
 もちろん、声には出さないけれど。

「彼女には、数ヶ月前から、おかしな男が付きまとっていたんだ」
「おかしな男?」
 セシルが興味を引かれ、訊ねる。
「時々あることなんだ、人気のある歌姫にはね。だから、さほど深くは考えていなかった。熱狂的なファンなんだろう、くらいにしか。ところが先日、奴は彼女に言ったらしい。結婚の前に、必ず君を(さら)う、とね」
 私は、顔を(しか)めた。
「それで、それに対して彼女は何て?」
「恐ろしくて言葉も出なかった、と」
 フランツはそう言って、再び私にいやらしい感じの笑みを向ける。むしろ私が気持ち悪くて言葉も出ない、と言ってやりたい。

 自分の感情にストレートにげんなりした表情の私に、バルドが気付く。フランツの視線を私から逸らそうと、話を振る。
「依頼の詳しい内容は、どのようになるのですか?」
 その途端、明らかに舌打ちでもしたそうな苦々しい表情を、フランツは相棒に向けた。その顔にははっきりと「邪魔するなボケ」と書いてある。
 けれど、質問にはちゃんと答えた。

「婚儀が無事に終了するまで、アンネリーゼを守って欲しい」

 うん、それくらいならまぁ、お安い御用ではあるけれど。ちょっと依頼人がこれだとなぁ。
 バルドが私をちらりと見る。私がなかなか返事をできずにいるのを察し、彼はフランツに提案をする。

「その本人とも話せますか? 詳しい話を聞きたいのです。それからこの依頼を受けるかどうか決めたいと思います。それでも構わないでしょうか?」
「ああ、問題ない。だが、今は無理だな」
「なぜ?」
 そこでフランツは、これまでで一番まともな表情になった。女たらしの笑みは消えて、代わりに、劇場の支配人としての顔を見せる。厳密に言えば、その息子、なんだけど。
「これから彼女の舞台が始まる時間だ。聴いていくか? この劇場、いや、この国の至宝とまで言われている歌姫の歌を」
登場人物紹介
★エデルトリダ(エディ)
主人公。夢は有名な歌姫になることなのに、ガンナー(銃の使い手)として有名な現実を嘆く自称レディ、もしくは乙女。十八歳。銀髪と白い肌の持ち主で、見た目はわりと良いらしい。ただし足癖は悪い。
「エディ」と呼ばれることを嫌うが、セシルに関しては、何度も注意してもきかなかったので、諦めている。

★アーチーバルド(バルド)
エデルトリダの相棒。戦闘能力は皆無だが、危険を予知したり怪我を治したりといった特殊能力を持つ。二十一歳。
珍しい能力に加え、珍しい褐色の肌を持つ。両手首に、なにやら不思議な模様の黒い刺青有り。
わりとエデルトリダの尻に敷かれているが、本人は気にしていない。

★セシル
ガンナーとして有名になることを目指し、エデルトリダと行動を共にするようになる。十五歳と、一行の中では一番年下だが、時々言うことが変な感じに大人びている。
童顔であることを、実は少しばかり気にしている。茶色の髪に、濃茶の目と、見た目は至って普通。


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