第六話 旅、前夜
密かに矛盾やスペック等直しているので、時間に余裕のある方は、読み返してみるのも良いかも知れないです。
黒沢明人は、迷彩の上着を脱ぐと、気絶するように眠っているリーナ・サーリエントを包み込んだ。身長175cmとさして大きくもない黒沢の服だったが小柄なリーナはなんとかギリギリ収まった。身長150cmくらいだろうか。美人と評価すべきか可愛いと表現するべきか、どうでも良いことを考え、我にかえった。ああ、どうでも良いことだ。
黒沢明人は、リーナを抱え、幌馬車を出た。リーナは思いの外軽かった。ろくに食事も与えられていなかったのだろう。
外ではギールが酷い死に方をしていた。もっともそうしたのは俺なのだが…。
黒沢明人は、ギールに近づくと、ギールの上着を軽く開いた。そして腰の革袋を見ると、迷い無く引きちぎった。ジャリっと音がなる。かなりの重さだ。死人に金はいらんだろう。ありがたく使わせてもらうことにした。
黒沢明人が村に戻ると、大して広くない広場に木材を下にしいた死体がうずたかくつまれていた。年寄りと男ばかりだ。理解しがたいが、村を襲った敵である兵士も同等に扱われていた。
それを横目に歩いていると、ディート・ウェルヘンが声をかけてきた。
「アキト様!あ、その女性は?」
「奴隷商人に買われていた。死にかけていたので治療したのだが。今まで痛みで寝てなかったんだろう、今はぐっすり眠っている。
ところで、ディー。この遺体はどうするのだ?」
「三日三晩かけて焼きます」
「気になったんだが、敵の遺体も一緒にか?」
「死人の罪は昇華されます。アキト様の世界では違うのですか?」
「味方の遺体は親元へ返す。残っていればだがな…。敵兵の死体は埋めるな」
「ひょっとして明人さんのいた国でも戦になっているのですか?」
「ああ、俺はその世界、いや、国で士官になり、なりたてでこの世界に来てしまった。なんの為に士官になったのやら…」
「道理で強いハズです。いえ、そんなレベルでは語れ無いですね。アキト様の敵になった者が可哀想ですね。ひょっとして、その服装は兵士の服装なのですか?デザインが不可解で…。
て、あ、ごめんなさい。その子は宿屋へ、アキト様もそこに泊まりますか?無論無料です。私の家は血まみれで…」
「すまない。そうしてもらえるか?」
「アキト様の為ならなんだって…、といっても貧しい村ですので大したおもてなしはできませんが…精一杯誠意を尽くしたいと思います」
「いや、無理はしなくて良い。それより心に傷を負った女性が多いのでは?」
黒沢明人は、若干いいにくそうに口にした。
しかし、ディートは笑って答えた。
「それが、皆ギリギリの所で助かったんです。もちろん身内を殺された者もおりますので、お気の毒ではありますが…」
「君もその口なのでは?」
「父は高齢でした。世継ぎの言も受けておりました。死期が早まっただけです。それに悲しんでばかりはいられません。それに男たちの大半は今戦地に行っています。殺されたのはほんの一部です。無事帰ってきてくれたら良いのですが…」
「そうか…」
この世界の女性は、強いな。それともディーが特別なのか。歳は二十歳かそこらだろう、村を支える責任感も強さの秘訣なのかも知れない。
「ではお言葉に甘えさせてもらうよ。宿に案内してくれないか?」
「はい、こちらです」
リーナ・サーリエントが目を覚ましたのは、夕刻だった。ふと横を見ると黒沢明人がベットの横で椅子に座り目を閉じていた。
リーナは、痛みを感じない自分の体に改めて驚いた。明人様の言葉は本当だったのだ。試しに上半身を起こし、運動をしてみる。全く痛みがなり。リーナは、嬉しさのあまり、叫びそうになったがそれを抑えて心の中で叫んだ。「アキト様ありがとう!」
すると、いつのまにやら寝ていたハズの黒沢明人が起きていた。
「どうだ。体調は?」
「もう全く痛くないんです!アキト様ありがとうございます。なんと御礼を言った良いのか、私には分かりません」
「気にするな。気まぐれだ。それより腹は空いていないか?」
リーナは、ちょっと頬を赤らめ。手をお腹の上に置いた。
グー、思わぬ大きさの腹の音に、赤面して俯いた。よほど腹が減っているのだろう。リーナは非常に軽かったし、見た目もかなり痩せていた。
「もてなししてくれるそうだから、今は念の為に少なめに食事を取るか。ちょっと待ってろ」
そういうと明人は、椅子から立ち上がって、部屋を出て行った。
リーナは、自分の体を見て、今気づいのだが、新調された寝巻を着せられていた。ベットから起きるとくるっと一回転した。死ぬとばかり思っていたが、すっかり死の恐怖から逃れられていた。黒沢明人と出会いは、リーナにとって特別な意味を持った。
彼のことはさっぱり解らない。珍しい服装。亜人間の私を助けてくれたこと。そして私の面倒みていること。
「いい人なのかなぁ」
気がついたら呟いていた。
それから、ほんの一時したころ、二回ロックが聞こえた。
「は~い。どうぞぉ」
するとドアの向こうから、黒沢明人が「両手がふさがっていてな。すまんが開けてくれ」
リーナは、喜んで入口へ行き、扉を開いた。
スープ、肉料理、お粥。リーナは、もう食べたく食べたくて、今にも涎がでるところだった。
「リーナは、胃が弱っているからスープとお粥で我慢してくれ」
「はい!」リーナは元気良く返事をした。
そして互いに夕食を食べ始めた。そして黒沢明人は、ふと忘れていたことを思い出した。
「リーナは、何歳だ」
「16歳です」
「あの背中の傷は?」
「逃げようとして、捕まって。鞭打ちの刑を受けたんです。見せしめだったと思います」
「酷い世界だな」
その言葉を聞いてリーナは疑問を口にした。
「そうなのですか?」
黒沢明人は、最後の肉を口に放り込み、嚥下した。
「俺はこの国の住人では無い」
そこで一旦話を止める。リーナ一瞬ぽかんとした顔をしたが、何かを納得したのか頷いた。
「俺の元いた国は、遥か昔から奴隷を禁止している。まあ、中には法を破る者もいるが、警察に捕まって牢獄行きだ」
リーナは、頭を傾けて、
「警察?」
と聞いてきた。
「まあ、訓練された自警団みたいなものだ。法を破るものを逮捕する為に存在する」
リーナは、正直よく解らなかったが、黒沢明人を煩わせるのもどうかと思い。曖昧に頷いた。
「まあ、俺はこの国をあまり詳しくしらないから、案外似たような国もあるかもな」
黒沢明人は、そう締めくくった。
すると扉が2回ノックされた。
黒沢明人は、歩いて行き扉を開けた。ディート・ウェルヘンが立っていた。
「あら、夕飯を食べたのですか?」
「いや少量だ」
「そうですか、カルッカを捕獲したので、今日はカルッカ料理ですよ。とても美味しいお肉なんです。お酒はいくらでも」
黒沢明人は、振り返ってリーナを見た。
「俺は外にでてるから、机の上の箱に入った服を着るといい」
「はい。ありがとうございます。何から何まで…」
「気にすることは無い。どうせ奴隷商人から拝借したものだ」
「はい」
リーナ・サーリエントは、嬉しそうに頷いた。