第三十話 フェイの高揚
う、このペースでは全50話は無理っぽい…(汗
フェイ・アルディオーネは、興奮していた。
それは、500人長のフェイが指揮する部隊に対して新装備が納入されたからだ。
黒沢明人曰く「クロスボウと呼ばれるものだ。射程は短いが威力はかなりのものだぞ」だそうで、フェイと500人からなる遠距離攻撃部隊の100人長5名は、試し打ちの結果に驚愕していた。
矢は短いが、150メートルの近距離では、まっすぐ飛び、そしてプレートメイルにも深々と突き刺さっていた。
ただ、次回発射するための装填に時間がかかるのが欠点だ。
そして、それに対して対極にあるロングボウも納入された。これも素晴らしく射程500メートルを超える。
黒沢明人の語った戦略は、こうだ。
まず、ロングボウでダメージを与える。次にロングボウを恐れて、前に出てきた的にショートボウで攻撃し、突っ込んできた敵には、クロスボウで狙撃する。という戦略だ。
そして0距離では、槍兵で対処し、突破されたら重装歩兵部隊に任せろと。
フェイは、部隊を分けることに決めた。おおまかに言って第一部隊は、ロングボウ300人部隊。第二部隊は、クロスボウ200人部隊でショートボウとの兼用という感じだ。
黒沢明人とブロン・バーリエンスは、第一訓練所にて行われているクロスボウの訓練が行わている様子を探りに行った。
二人に真っ先に気がついたのはフェイだった。
「どうだ、訓練の結果は?」
黒沢明人が質問すると、フェイは明るい表情で答えた。
「エルフ族をメインに部隊構成したのですが、エルフ族は元々弓が得意です。しかし、それにしてもクロスボウは、画期的ですね。一瞬で命中するのです。それも狙った通りに!」
「ほう、まずまずだな。ところで、ロングボウ部隊は?」
「ロングボウ部隊は、都市の中では訓練できませんでしたので、外で訓練しています」
「ああ、尤もな話だ。そちらの方はどうなんだ?」
「ちょっと時間がかかりましたけど、何とか様になってきました」
フェイの元を離れた黒沢明人とブロンは、歩きながら歩兵の練度について話し合った。
「スタミナは、一ヶ月程で劇的によくなりやしたね。ライトニングソードを正式支給されてからは、剣技の訓練をしているのですが、これまた劇的に良くなっていやす。旦那の3人1組の相互視界カバーにも慣れたようで、全く問題無いでやすね」
「体に覚えさせているからな」
黒沢明人は、珍しくふっと笑った。それも見たブロンは、旦那にも感情があるんでやすね、と密かに安堵した。
それは黒沢明人自身自覚の無いことであったが。
気がついたら2ヶ月のも日々が過ぎていた。
大きなキャラバンを率いてセリヨン・ハーネストが凱旋したのだ。
セリヨンの今回の行商では、竜の鱗は売っていないのだが、チーズと塩の売り上げが好調で、密かに樽の中に大量のイリート金貨が詰め込まれてた。尤もこれだけの商売は、デルファリン商会を営むリファ・デルファリンの協力のおかげであった。
自治都市役所の執務室に着くと、今回持ち込んだ収益を報告した。
「イリート金貨で8794枚です。後、今回は特別に軍馬を100頭ご用意しました。一頭イリート金貨10枚です」
黒沢明人は、同室にいるセイフ・ハーグマンに同意を求めた。
「セイフ、軍馬が必要なのだが、イリート金貨が1000枚必要だ。問題無いか?」
「あ、はい。恐らく問題ありません」
「恐らく?」
「ベック・トリスタさんが、予定より予算を超過してまして…」
「ああ、新自治都市役所建設か…、そういえば完成が遅いな。
まあ、軍馬優先ということで、100頭購入しよう。それはそうとこれからの予定は?」
「そうですな、広場と、例の新自治都市役所建設現場のベック・トリスタさんの所へ商品の受け渡しに行く予定ですな。
それからは、特産品を購入する予定です」
「なるほど、ちょっと相談があってな、予定が済んだら相談したいことがある」
「わかりました。明日の朝にでも」
「ああ、宜しく頼む」
「所で余談だが戦争はどうなっている?」
「どうやら、条約を結びウェルマール帝国が撤退を始めたようです。内政でなにかあったのでしょう」
「そうか、となると傭兵上がりが戻ってくるということか…。これは好都合だな。
セリヨン、すまないが暫くこの町に滞在して貰えないだろうか?」
「無論構いませんよ。何かのおやくに立てれば幸です」
「助かる」