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第二話 ラプラス・カリキュレーター

黒澤明人専属主任技術者であるリリス・クラープスは、一般にラプラス・カリキュレーターと呼ばれる2038の遺産をA1に組み込む検討をしていた。

大掛かりなカスタマイズであり、脳の改造も伴うので失敗した場合のリスクが高い。正直最初は悩んだのだが、成功事例がある(失敗は悲劇に終わるが)ので是が非でも試したいと思っていた。リリスは、早速カスタマイズの許可を申請する上申書を用意した。上司は上申書を受け取り、しばらくした後、「必ず成功しろ」と条件付きで組み込みの許可を出した。リリスは内心飛び上がって喜んだ。リリスにとって黒澤明人は、黒澤明人ではなくあくまでA1なのである。ただし、彼に対して多少なりとも好感を持っているのもまた事実である。

黒澤明人は、人為的に脳の集中力を高める訓練を受けていた。これは一般に命の危機にさらされた時、人が本来持っている能力である。いわゆるスローモーションに見えるという能力である。黒澤明人はそれをいつでも自由に行うことができるようになってきていた。

ラプラス・カリキュレーターは、未来を予想する技術である。現在の成功事例では、0.2秒先までの未来を予測できている。0.2秒は少ないと感じるかも知れないが、銃の弾を避ける程度であれば十分な時間である。ただし、体が最適に動けばの話だ。その為の訓練である。

更に黒澤明人の筋肉は、殆ど全て2038の遺産である人工筋肉に交換されている。いくつかの制御可能なリミッターを搭載し、日常や、戦場下で不便が無いように配慮されている。その気になれば軽く50トンの鉄の塊を投擲出来るほどの力を出せるのだ。今までのところ実戦でそこまで力を使ったことは無い。試したことはあるが、普通ならバランスを取るのが難しいところだが、そもそも黒沢明人は物質の質量を変えることができるので、その問題はクリアーできた。持ち上げる時だけ軽くすれば良いのだ。

一週間の身体検査を終え、いよいよラプラス・カリキュレーターを埋め込む作業が行われた。黒沢明人の体は、殆ど機械化されているので、通常の人に埋め込むほどのリスクは無い。しかし、それでも作業は10時間に渡って行われた。脳の手術が最大の難関だったのだ。黒沢明人は脳も人工のものに置き換えられているが、その精密さは普通の脳と変わらない。失敗すれば障害が残る可能性がある。


黒沢明人は、夢を見ていた。戦場で流れる血、血、血。彼の両手は真っ赤な鮮血で染められている。特殊任務などで銃を使えない場合、素手で敵を殺す事が多かった。ボディーアーマー越しに手刀で心臓を貫く、それも一瞬で複数名を殺害する速さで。

次に幼少期の記憶が蘇ってきた。どうやら両親はとっくに気づいていたようだが電気を操れる力に自覚を持ったのは12歳の時だった。学校で喧嘩をし、ナイフを持ち出した相手を電撃で黒こげにしたのだ。当然大騒ぎになった。喧嘩相手を即死させたのだ。その報告は、学校からいくつかの部署を経由し、軍の特殊技術開発課に報告された。すぐさま特殊技術開発課の職員が更生施設に入所していた黒沢明人の元へとやってきた。両親も一緒だった。それらの情報はすでに聞いていたが、若干緊張を感じていた。

面会室は、明るく清潔な感じで、小さめな部屋ながら圧迫感は無い。黒沢明人はほんの少し悩んで適当な椅子に座って両手を組み、うつむいた。ちょうどその時外へと通じる扉が開き見たことが無い男女と両親が姿を現した。扉は自然に閉じるとロックされる音が聞こえた。

まず母親が話しかけてきた。

「どう、大丈夫?嫌なことは無い?」

俺はどう答えたのだろう、夢が曖昧になった。

次の記憶は、軍の特殊施設だった。

若い美人の軍医が「DNA鑑定の結果、貴方は特殊な遺伝情報を持っていることが判明したの」と言った。はっきりと記憶に残っている。

「電気を操る力というのは、今まで見たことないけど、遺伝情報の成す業だと思います」

俺は両親を仰ぎ見た。二人とも涙を流していた。

軍医はこう言った。

「あなたには軍の特殊施設に入ってもらいます」

「じゃ、僕は軍人になるんですか?」

素朴な疑問であった。

「そうとも限らないわ。適正次第だし、貴方の意志は尊重されます。ただし、今までのような自由はなくなりますが」

父は宇宙軍に所属し、今では引退生活を送っていた。

軍隊も悪くない。そう思った。

「じゃ、軍人になるかな」

黒沢明人は、簡単に答えた。

彼の父は寡黙な男だったが、唯一感情を出すとすれば表情だろう。彼の家族はみな彼のそんな癖を熟知していた。彼は一体何を思ったか、彼は苦渋の表情を作ったが、黒沢明人の視界には入っていなかった。

黒沢明人は、未練がましく両親に甘え、やがて吹っ切った様に特殊施設への入所を快諾した。

暫く更生施設でただ日が経つのを待った。

次の思い浮かんだのは、特殊施設での記憶であった。

施設では、能力の制御の仕方、使い方を学んだ。そして2038の遺産についてかなり詳しい説明がなされた。

「貴方は、2038に選ばれた人間です。貴方は、2038の鍵を持っています。それを使いこなしましょう」

そこで意識が途切れ、暗転し、気がついたら光を感じて目を覚ました。

リリス・クラープスは、黒沢明人の顔を覗き込んでいた。

「どう?調子は?」

黒沢明人は、黙って自分の体をスキャンした。かすかな異物を感じたが、意識が向くと直ぐに馴染んだ。

精神状態も悪くない。

「どうやら問題無いようです」

黒沢明人は答えた。

「そう、良かった…」

リリスはほっとしたように息を吐いた。


初めてラプラス・カリキュレーターを発動させた時、眩暈にも似た異様な感じに襲われた。まずは慣れることを中心にカリキュラムが決められていた。

異様な感覚を一週間も体験した頃、ようやく自分に何が起こっているのかわかるようになった。

そしてようやく眩暈を感じなくなり、次の段階に進んだ。

次の段階はいきなり過激だった。黒沢明人だからできるカリキュラムである。

一人の熟練の兵士がアサルトライフルを構えて50m先に立っている。

意識を究極まで集中させ、ラプラス・カリキュレーターを作動させた。全てがスローモーションになり、兵士が銃を向けるのをまんじりと待った。そしてようやく兵士が銃を撃つという流れの中で弾が発射される瞬間がいつかが感覚に訴えかけてきた。そして弾が射出される一瞬前に弾の弾道が解った。その為、黒沢明人は、弾がライフルから射出される一瞬前にすでに動作を始めており、体を軽く傾けるだけで弾を避けることができた。

兵士は、驚いたように2射目を発射した。それもさりげない動作でかわされる。

「次は連射で試しましょう」

リリスである。彼女の目は輝いていた。

タタタタ…。兵士が黒沢明人に向かってアサルトライフルを連射した。しかしこれはいくらなんでもよけられまい。

がしかし、黒沢明人は、それすらもさりげない動作で全てかわした。

兵士は驚嘆した。信じられない想いである。

それは黒沢明人にとっても驚きだった。なるほど一瞬前に未来が解る。0.5秒か、そこらだろうか。

後でビデオ録画で取った映像を元に検証すると、0.5秒前に未来を予知していることが解った。相性が良かったのだろう。最高記録である。

そして新たな事実も判明した。まだあまり解っていないラプラス・カリキュレーターの機能は視覚に作用するのでは無く脳に作用するのだと。つまり、背後の目の届かない場所からの未来をも予知できるということである。ただし、これは黒沢明人の特性であり、また、無意識化で情報が選別化されるようである。

この情報は、上司に大いに気に入られた。カスタマイズの成功だけならず新たな実験報告も伴ったからだ。2038の遺産の情報は何もかもかなり貴重な情報なのだ。

ところで黒沢明人は、一見普通の肌に見え、触ってみても普通の人との違いが解らないが、宇宙戦艦の装甲並みの強度(耐圧、耐熱)を持っている。そんな彼にラプラス・カリキュレーターは必要なのだろうか?結論から言うと必要である。何故なら避ける分には受ける分のリスクを遥かに凌駕するからだ。当たって見たらデスフラグが立ちましたでは話にならないのである。今のところ黒沢明人を殺せる兵士も兵器も存在しないが世の中何があるか解らない。


施設での調整や実験、訓練等は二ヶ月に及んで行われた。最後の2週間は特に濃密で気合の入るものだった。黒沢明人と彼の所属する特殊強襲部隊のチーム仲間で協調訓練が行われたのだ。この訓練では黒沢明人をいかに上手く協調するかが研鑽された。

いよいよ軍に戻るころである。施設、最後の日、明人は親しい施設のもの達と仲間と共に晩餐を開いてもらった。


話がなかなか進まない件、ごめんなさい。

次回こそバトルです。そして…

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