第二一話 死闘の果てに
お待たせしました。
魔界の雷帝っぽくといいつつ、また裏切っていたりして(笑
もう忙しくて小説を書く時間も少ない上に、スランプでねぇ。
今まで、スランプのスの字もなかったので、痛いですねぇ…。
で、ちょっと今回は短いですが、今後ともどうぞお付き合い下さい。
「取り敢えず、そちらの椅子にどうぞ腰掛けて下さい」
セイフ・ハーグマンは言った。黒沢明人が椅子に座ると、話を続けた。
「貴方が此処へ来ることは、想定していました。貴方程の力を持つ方の記録が残っていないのはまず考えられません。来るとするならば未来しか考えられませんでした。それがいつか、私の代では無いかも知れません。ひょっとすると全く違う世界へと行った可能性もありました。私の代で現れてくたことをとても感謝致します」
黒沢明人は、セイフの目を見ながら黙って聞いた。
「何故貴方を待っていたか、と思うかも知れません。この町は、常にあらゆるものに狙われています。貴方の軍人しての力と組織の運営能力が欲しいのです。ですが、今はまだ軍人を持つ程町の財政は良くありません。というより殆どありません」
黒沢明人は答えた。
「では、軍のないこの町で俺に何ができる?そんな状態であれば内政もままならぬだろう」
「明人様は特殊な教育を受けていると先代から聞いております。明人様の知識を貸して欲しいのです」
「先代はよくそんなことを知っていたな」
「では、やはり特殊な教育を受けているのですね?」
「俺一人では無かったがな。そういう意味では特殊とは言えないかもしれないが…この世界から見たら特殊だろうな。まあ簡単に言うと、過去数千年分の国家在り方と軍隊の歴史を学んでいる」
黒沢明人は、素直に答えた。何故俺なのか、まだ納得できないが、俺を待っていたのは恐らく事実だろう。
「しかし、まずは先立つものが必要だな。どうするつもりだ?」
「今、町の若者がドラゴンの巣を探し、ウロコを手に入れるよう頑張っています。ドラゴンの鱗、それも赤のドラゴンの鱗ともなると1枚で最低でもイリート金貨100枚にはなると聞いています。この試みが成功すれば、かなり町の財政も明るくなる筈です」
「ほう、では、まずその試みが成功するかどうか、それを見させてもらおう」
黒沢明人は、そう言って椅子から立ち上がった。
「では失礼する」
「…はい」
セイフは、まだ話をしたがっている様子だったが、黒沢明人も考える時間が欲しかった。
かつてダナ・ハーグマンが俺に悪印象しか感じていなかったのは恐らく事実だろう。それが、この世界にきてどんな心境の変化を起こしたのか?娘の代まで待たせても俺の存在を望んだのか、正直なところまるで見当がつかない。彼女は俺の秘密を知っていた。つまり、俺の存在は火星政府の知るところとなっていたのだろう。彼女がどこまで情報を得ていたのか解らないが、そこに何らかの理由が隠されているのかも知れない。そして、彼女の存在は地球政府に知られていなかった。彼女は、対自分用の切り札として隠匿されていたのかも知れない。それにしても彼女の情報を得ていなかったのは致命的なミスだ。あの時も、そして今も。
正直早く元の世界に帰りたい。懐かしい仲間たちと酒を飲み交わしたい。が、セイフの意向をないがしろにするのは、危険である。暫くは、力を貸してやっても良い…か。
兎も角、明人は町の中を散策することにした。実情を知っておこうと思ったからだが、そして知ったが、この町は余りにも貧しい。家族が家族分の糧を得ることでいっぱいいっぱいのようだ。これは店等無いかも知れないな…。
黒沢明人は、昼の3時頃になって、散策を止め、宿へ戻ることにした。そして、何気に西の空を見た。何かが飛んでいる…巨大な何かだ。それは此処へ向かっているようである。
黒沢明人は2038衛星と内心でコンタクトを取った。
『巨大な何かが近づいているか索敵してくれ』
直ぐに返答が返った。
『レッドドラゴンです。この世界で最強の魔獣です。ですが、まあ貴方の方が化物でしょう。この生き物は高温の焔のブレスを操ります。』
酷い言われようだが、なるほどな…、ドラゴンの巣を荒らしに行ったのが凶と出たか…。
そして、それはまたたく間に自治都市ウェルデン上空へ現れ、地面に接近し、焔のブレスを吐いた。町の中央で炎が上がった。
チッ、黒沢明人は舌を鳴らして中に浮いた。そして一気に加速、またたく間にドラゴンに近づいた。
でかいな…頭の天辺から尻尾の先まで50mはある。巨大な顎は装甲車を飲み込めそうな大きさだ。地面を見ると、家々から人が避難していた。それを目掛けてドラゴンがブレスを吐こうとする、一瞬の間に黒沢明人はドラゴンの顎先へと移動して顎を上へと蹴り上げた。鼻の穴から吹き出るブレスが宙を焦がした。黒沢明人は、空中でバランスを崩していた。反作用の相殺がうまくできなかったのだ。
ドラゴンは、地面へと落下し、黒沢明人を見た。いや正しくは、黒沢明人と目が合った。
『よもや、私を地に着けるような存在が現れようとはな…。この力、貴様人間では無いな。かといって亜人間とも違う…面白い。私を倒せる者は、この世にはいないと思っていたが、お前となら渾身の力のぶつけ合いができそうだ』
ドラゴンの言葉が人々の頭の中で響いた。
黒沢明人は、「今のは渾身の一撃だったのだがな。渾身の力のぶつけ合い、それも良いだろう」と答え、ドラゴンの正面へと移動した。
黒沢明人は人間として生きるのに支障の無いようリミッターを授けているのだが、それを最大レベルでリミッター解除した。体中に力が漲る。更に体重を1tとした。そして取り敢えず様子見で蓄積していた余剰電力を開放した。
一瞬早くドラゴンの赤いブレスが黒沢明人を包み込み、皮膚が蒸発していくが、そばから回復していく。
そして黒沢明人の電撃がドラゴンを襲った。ドラゴンの全身に電気がはいまわり、筋肉が引攣れる。
通常であればどんな生き物であれ、黒こげになるエネルギー量だ。が、ドラコンは焦げていない。炎属性の為か、あの鱗に秘密があるのか?
黒沢明人は、背中のブレードを抜き放った。遠慮して勝てる相手では無い。
『なかなかやるではないか、生き物ならざる者よ』
「言ってろ」
黒沢明人は、一瞬でドラゴンの頭目指して突進した。肉薄した黒沢明人に対してドラゴンは、高温のブレスを吐いた。黒沢明人にブレスは効かない、ブレスは目くらましである。素早く体勢を変え、30mはあるかとおもわれる巨大なの尾を黒沢明人目掛けて振り抜いた。黒沢明人はその攻撃をまともに食らった。ドラゴンの放った尾の衝撃は比類無く、黒沢明人は200mは真横に吹っ飛んだ。家40軒は貫通しただろう。
「知恵のある化物か…」
黒沢明人がそう呟いた時、さらなるブレスの洗礼を受ける。しかし今度は黒沢明人が早かった。
素早く飛翔し、ドラゴンの頭に蹴りを入れる。ゴっと音がして、ドラゴンの頭が地面に押し付けられる。
この瞬間を待っていた黒沢明人は、ドラゴンの頭に飛び乗り、ブレードを突き立てた。あらゆる物を切る超振動ブレードは、ドラゴンにも通用するだろうか?
結果的に例えドラゴンの鱗と言えど、流石に超振動ブレードに斬れない物は無いってことが解った。
だが、ドラゴンはブレードが肉を裂いた時点でその威力を把握し、頭に乗った黒沢明人を振り落とそうとした、凄まじいGが黒沢明人を襲った。だが明人はブレードに更に渾身の力で押し込んで行く。本来ならストンと根元まで突き刺さる武器だが、流石はドラゴンと行ったとこころだろう。
黒沢明人は、ドラゴンのGから開放される為に一旦ブレードを抜いて、宙に退避した。どデカイ上に敏捷性の高さ、硬さ、攻撃力、どれをっても最強だ。レールガンを使おうかとも考えたが、鱗の硬さから考えて、プラズマ化するのはほぼ確実だろう。然るにこのドラゴンは、高温の焔を操る。恐らくダメージを与えることはできないだろう。二人はまた空宙で見合った。
知的な生き物か…。黒沢明人は、提案することにした。
「このままでは勝負がつかない、我々が欲しいのは、お前の鱗だ。抜け落ちた鱗等は無いのか?」
『鱗だと…。捨てるほど有るがな。そうか鱗が欲しいのか、いいだろう。鱗はいつでも取りに来い。ところで我は観ていた。なぜあの巨魔に使った業を使わない?』
「知性の高い生き物は、話が通じるかも知れないからだ」、半分ハッタリである。
『なるほど、我と交渉とはな。長き時を生きてきたが、対等な交渉は初だ。面白い。私は巣に帰ろう。また会う時を楽しみにしている』
そういうとドラゴンは、巨大な翼を広げ、土煙を起こして去っていった。
遠巻きにいていた群衆から歓声が上がった。
そう、我々は今、遂に潤沢な資源を持ったのだ。
セイフ・ハーグマンは感極まって涙が流れるのを止めることができなかった。
ブロン・バーリエンスは「もう旦那のことでこれ以上驚くことはなかろうと」と思った。
リーナ・サーリエントとディート・ウェルヘンは「さすがアキト様!」と完成を上げた。
フェイ・アルディオーネは、少し離れたところから見ていたが、どうやら明人が勝ったんだと涙をこぼした。
セリヨン・ハーネストは「潤沢な資金源を得て、これから町は大きく変わっていくだろう」という予感を感じた。