第二十話 自治都市ウェルデン
いよいよ似てきましたね。
魔界の雷帝に。…にているよね?
ああ、なんか自信が無い。
でも次話はドラゴンが現れる予定です。
ニーナ・サーリエントとディート・ウェルヘンは、朝、馬車の外で寝ている黒沢明人を発見した。
最近ディートにこっそり教えたことなのだが、ニーナは額同士をくっつけると相手の過去が見えるらしい。
ということは、チャンスだ。
ニーナはゆっくりと近づいていく、しかしもう数歩ってところで、バレてしまった。
「ニーナ、気配がもろバレだ」
「気配?」ニーナは首を傾げた。
「気配を消し、近づいてくる敵は、いくら俺でも探知できない」
「そうなんですか!アキトさんでも弱点はあるのですねぇ」
尤も俺は寝ないし、ラプラス・カリキュレーターもあるので、実質23時間殺すことは不可能だろう。
ディート・ウェルヘンが、さも当然のように「疲れて昏睡している時に試しましょ」等と不穏当なセリフをはいた。
23時間起きていることは、黙っておこう、と黒沢明人は決心した。
一行は、(黒沢明人にとってはあじけ無い)朝食をとり、出発することになった。
馬車に揺られる事30分、黒沢明人はふと気づいた。この辺の領土も自治領なのだろうか?
その疑問にたいして、フェイ・アルディオーネは、
「最後の森を超えた時点で自治都市ウェルデンですわ」
黒沢明人は、その荒廃した大地に気を取られた。これだけの広さがあれば自給自足以上を遥かに超えて穀物・野菜等の栽培可能だろう。
問題は荒れた土地だろうか、土壌改良、ため池、色々必要そうだ。
そんなこんなをつらつらと考えていると、結局6時間かかって自治都市ウェルデンに到着した。
自治都市ウェルデンに到着した黒沢明人は、フェイに向かって言った。
「約束の自治都市ウェルデンだ。後は自由にすれば良い」
「ありがとうございます!
今までの旅で色々学びました。皆さんありがとうございました。
では、さようなら」
フェイは目からポロポロと涙を流した。
黒沢明人は答えた、
「暫くこの町にいることになるだろう。いつでも遊びに来い」
フェイは、何度も礼を言って去っていった。
しかし、と黒沢明人は周囲に目を凝らした。自治都市ウェルデンとは名ばかりで、木で出来た外界からの柵、木でできたボロボロの家、宿屋も当然の様相だった。しかも一軒しか無い。
「こりゃ都市というより村だな。無駄に領土だけはあるが…」
黒沢明人の心からの言葉だった。
「まあ、こんな感じですよアキトさん。さて、私は商売に出向いてきます」
セリヨン・ハーネストの言葉で正常を取り戻し、まずはチェックインすることとなった。
黒沢明人、ブロン・バーリエンス、リーナ・サーリエント、ディート・ウェルヘンの四人は、宿屋へと向かった。
中に入ると、歩く度にギシ、ギシと床が鳴った。
「四人で部屋二つだ。開いているか?」黒沢明人は、早速女将に話を通していた。
「大丈夫ですよ。最近商人が来なかったもので…」
「ああ、森が厄介なことになっていたからな…、軍を派遣しても如何ともしがたいな」
「そうだったんですか?あ、所で貴方は能力者ですか?他の方も」
「いや、一人だけ普通の人間がまざっているがな」
「なんか人間であることにコンプレックスを感じるようになってきたよ」
とディートは頬を膨らませて怒りを表現した。
それにブロンがくくくと笑う。ディーノのジャンプキックがブロンの後頭部に見事に入った。
「おお、そんな業を持っていたのか…!」
「ふ、行きの馬車の中で役に立つ為のイメージトレーニングをしていたの、どう?」
「まあ、普通の人間ならある程度は…」
ブロンとディートは、そんなやりとりをしているのを黒沢明人は、無表情いや、微かな笑が混ざったような、微妙な表情で眺めていた。
リーナは、そんな黒沢明人をじっと見つめていた。
「俺は今から人探しに出る」
「他の者は自由行動ということで」そういうと、黒沢明人は全員にデューク銀貨を1枚渡した。
「しかし、こんな町でこんなに需要があるとも思いやせんが…」
「残ったらへそくりにすればよい。時に買いたいものもあるだろう」
ブロン、リーナ、ディートは納得して頷いた。
「旦那はどちらへ」
「ダナ・ハーグマンの娘に会ってくる」
「お知り合いで?」
「まあ、そんなところだ」
黒沢明人は、宿屋から外へ出て一番大きな建物を探した。ほどなく見つかり、入口に「自治都市役所」と書かれてあった。
入口は開けっ放しになっていた。
黒沢明人が入ると「ご要件ですか?」中年のおばさんに声をかけられた。この人も亜人間だろうか?
「はい、そうです。亜人間です。心を読めますので気分を害される人もおられますが…」
なるほど、良くかんがえられている。入口に心を読める亜人間とはね。
「では、もう趣旨は理解してもらえたかな?」
「では、この者の後へ」
そこには、若い女性が立っていた。
「ではご案内致します」
「名のってないのだが問題無いのか?」
案内係は、ふふっと笑って、「彼女があの様な対応をするのはあなた様お一人です。黒沢明人様」
「ほう、名前もわかっているわけだ。そういえば名は」
「ルリともうします」
「さあ、まいりましょう」
二階にあがると2人のリザードマンが護衛している扉があった。
ルリは、その扉をノックした。
中から「どうぞ」と返事が返る。
両開きの扉を開けると、大して立派とは言えない、大きな机に目が行った。
そして、その使用者を見る。
「似ているな」
黒沢明人は、悩みもなく答えた。あまりにも似ているからだ。
それに対して、女性は、
「若い頃の母そっくりだとよく言われます」
と答えた。
「名は?」
「セイフ・ハーグマンよ。セイフと呼んで下さい。この町の代表を勤めています」
「で、俺は何の為、この部屋に呼ばれた?復讐か?」
「いいえ、協力して欲しいのです。この町の発展の為に」