第十七話 自治都市ウェルデンへその2
本編始まって初の本格的な戦闘になったかな?
と思わないでも無い。
魔獣の種類と名前は悩んだのだけど、もうなんでも良いや~と開き直りました。
まあ、そんな感じですが、読んでみて下さいな。
結局、一つ目の森エディ・グラープスの道中は何事もなく、むしろ静か過ぎる程だった。良くできた盗賊団だと黒沢明人は思った。ちらっと聞いた話だが、恐らく本来は用心棒代等も取っている。あげく、一つ目の森エディ・グラープスで引き返されたら、詐欺にも程があるだろう。
「あの橋を渡れば、二つ目の森ワナ・グラープスよ」
そう助言したのは、フェイ・アルディオーネだ。故郷の自治都市ウェルデンへ近づいてきたのかもしれない。
「ちょっと今後の方針を決定しなければな。馬車を止めてくれ」
「あいよ旦那」
黒沢明人らが馬車を止めると、後をついてきていたセリヨン・ハーネストの馬車も動きを止めた。
「フェイ、すまないが付いてきてくれないか?」
「いいわよ」
黒澤明人とフェイは馬車を降り、セリヨンの馬車へと向かった。セリヨンの方も馬車から降り、結果黒沢明人の馬車とセリヨンの馬車の中間点ではちあうことになる。
「この先は、フェイとセリヨンが詳しいだろう。念のために聞いておきたくなってな」
黒沢明人は二人に説明を求めた。
まずセリヨンが口を開いた。
「そうですね。いつきても前とは違う魔獣が多いことですな。強かったり、弱かったりという具合で」
「そうね。生き残る為に食いつ食われつ殺しあっていて、優位な魔獣が生き残り繁殖をし、数が増えたりしているわね。よく解らないのだけど」
そのフェイの言葉に黒沢明人は頷いた。つまり生態系がくるくると変わっている森だということか…。
「となると問題は魔獣と人間の相性だな。生態系の中に人間は組み込まれていないだろうからな」
吉とでるか凶とでるか、入るまで解らない。
「まあ、今考えても仕かた無いな。襲われた時の為の体制を決めておきたい。
私とブロンは、積極的に攻撃する。セリヨン殿の護衛兵は、3人が私の馬車に、残りの4人がセリヨン殿の馬車と馬を守る。
セリヨン殿は、戦闘の間は私の馬車に入っていてくれ」
黒沢明人の説明を聞いてセリヨンは一も二もなく賛成したが、
「ねぇ、私は?私の弓の腕はぴか一よ」
とフェイが不平を漏らした。
「そうだな、スナイパーとしてなら一流だろう。では馬車の上に乗って戦ってくれ。もしも司令塔がいたら、そいつを狙ってくれ。いない場合は、自分の判断で自主的に実行しろ」
「スナイパーっていい響きね。気に入ったわ。ところで私の矢は残り25本なんだけど、セリヨンさん持っている?」
フェイはにっこりと微笑んだ。
「商売用ですが、良品を100本ほど差し上げます。護衛を雇うより安いでしょう」
セリヨンは微妙な顔で、人差し指で頬をこりこりと掻いた。
「では、5分後にワナ・グラープスに入る」
黒沢明人は、自分の馬車に戻ると、リーナ・サーリエントとディート・ウェルヘンに、
「もし魔獣が襲ってきたら、とにかく馬車から出るな。分かったか?」
と要望し、リーナとディートは「はい」と頷いた。
それぞれが準備を行ない5分後になった。
黒沢明人は、御者席に立ち、叫んだ。
「いいか!俺の指揮下にいる者の死は、俺が認めない。決して死ぬな、解ったか!」
護衛兵が「おう!」と返答し、馬車がゆっくりと加速を始めた。
普通、命を捧げよと言う場面では無かろうかと思うブロンだった。やっぱり旦那は格が違う。
橋を渡り、ワナ・グラープスに入って一時間程経った頃だろうか、リーナが、なにかがいると黒沢明人に報告した15分後、予め予想していたため、素早い対応が可能だった。
街道を塞ぐようにニ体の巨大な蠍がこちらを威嚇している。
「森の中にいる蠍は蠍もどきで毒が無い、と聞いたことがあるが、どうなんだろうな」
黒沢明人が言うとブロンは、「例え毒が無くてもあのデカイ針で刺されたらやばいっすぜ、旦那」
「それもそうだな。では殺るか!」
そういうと、黒沢明人は、ブレードを抜き放ち俊足の勢いで間合いを詰めた。そして一閃、頭を縦に切り裂いた。蠍は緑色の液体を放ちつつ動きを止めた。仕留めたか。
ブロンは、内心焦りを感じていた。蠍の甲羅が異常に硬いのだ。戦斧の渾身の一撃を受けても傷一つつかない。
それを見た黒沢明人は、なるほど相当硬いのかと認識を改め、ブロンに叫んで自分のブレードを投げた。
「ブロン、受け取れ!」
ブロンは、一瞬の判断で戦斧を投げ捨て、黒沢明人のブレードを受け取った。その瞬間、蠍の尻尾がブロンに襲いかかった。ブロンは一閃して尻尾を斬り捨て、頭にブレードを突き刺し殺した。あれほど苦心していたのが嘘みたいだった。
「旦那、このブレードどうなってんでやすか!切れ味が半端じゃないでやすよ!」
「なんでも斬れるぞ。迂闊に刃に触れるなよ。痛い目をみるぞ」
「了解でやす。しかし旦那はどうしやす?」
「まあ、色々方法はあるが無難に素手で殺そう」
「そ、そうでやすか…」
相変わらず恐ろしい御仁だと、ブロンは再認識した。
「また来ました、今度は4匹です!」
フェイが叫んだ。
黒沢明人は、森から街道に姿を現した新手の一匹に、近づき思いっきり蹴り上げた。
蠍は、頭を上に宙に浮いた。腹を晒した蠍に対して回蹴りを叩き込んだ。バキと音がして蠍が折れた。
「アキトさま!」
「大丈夫だ!」
フェイの言わんとしていることは理解していた。もう一匹が攻撃の体勢を取っていたのだ。素早い動きで尻尾が飛んでくる、が黒沢明人は紙一重で頭を横にずらして避ける、そして、その体勢で尻尾を持ち右太ももに叩きつけへし折った。そして頭に拳をぶつけた。拳は蠍の頭を貫通し、地面に達した。
ブロンを見るとブロンの方も二匹始末したところだった。
その光景を観ていた護衛兵は、ぞくりとした戦慄を覚えた。我々では一匹でも殺せない。まるで現実感が無いその光景にただ呆然と自失した。
結局戦闘は二時間に及んだ。蠍達が撤退を始めたのだ。司令塔がいたのか、それとも生存本能か。
いずれにしろ殺した蠍の数は40匹を下らない。
黒沢明人もブロンも全身、緑の液体でずぶ濡れになっていた。
「風呂に入りたいな」
黒沢明人は天を仰いで呟いた。
その後、街道に散らばっている蠍の死骸を片付け馬車を走らせたのは、10分後である。
休憩していてまた襲ってこられたら面倒だからと強行軍を決行することにしたのだ、この辺は人数が少ない利点でもあった。
黒沢明人は、まるで当然のように疲れ等感じていなかったが、竜神人であるブロンでも流石に多少ではあるが息が上がっていた。
「ブロン、そのブレードには力は必要無い。もっと力を抜いて流れるように戦え」
「へえ、了解でやす。どうも力を入れるのが癖になっているようで…やすね。しかし旦那のブレードは凄いでやすね。どこで手に入れたのでやす?」
「俺のいた世界では、まあ珍しくもない」
「それは…また…」
ブロンは言葉が続かなかった。旦那は一体どんな国にいたのだろうか。まるで想像がつかなかった。旦那の強さは正に一騎当千。そんなのがゴロゴロ転がっていたら、世界は彼らの気まぐれで変わるだろう。
ブロンは、つらつら考えながらたずなを引いていた。
それから30分程してリーナが何かを感知した。
「アキト様、何か巨大なものが来ます」
そのリーナの言葉に、黒沢明人は停車を求めた。そして戦闘態勢に入る。
明人は久しぶりに2038衛星と内心でコンタクトを取った。
『巨大な敵が近づいて来ているか索敵してくれ』
『およそ、距離100m、巨魔ですね』
『厄介か?』
『貴方に逃げる選択肢はナンセンスです。問題無く勝てるでしょう。ただ常人には決して倒せないでしょう』
『そうか、ではまたな』
黒沢明人は耳を澄ました。微かにあるく音と振動を感じる。
相当デカイな…。
待つ事2分。とうとう巨魔が姿を現した。体調10m程度、筋肉隆々、そして4つの目、右手に巨大な棍棒を持ち、左手に巨大蠍を握っていて、バリバリと音を立てながら食べ、こちらに向かって歩いてくる。
「ブロン、ちょっとブレードを返してもらうぞ」
「はいでさ」
ブロンからブレードを受け取ると、前面に一人立った。
「協力無用!俺一人で片付ける」