第十二話 城塞都市ウェルマン目指して
二日目の城塞都市ウィニックは、朝から買い物に出かけるようになっていた。
そして、服屋で黒沢明人が食い下がっていた。
「どうしてこの柄の服が作れない」
「どこのお国のお方が存じませんが、少なくとも私の知る商店では売られていないんですよ」
「色を塗れば良いのでは?」
「そのような綺麗な柄はできませんよ。随分ぼやけた色彩になるかと」
「そ・う・か…」
黒沢明人はがったかりした。となると他の色だ。ミリタリー色、ミリタリー色は無いのか?
黒沢明人には譲れない拘りがあるらしい。
ちょっと時間がかかりそうなので、リーナとディートは、先にフェイ、ブロンを連れて店を回った。
ディートに何度も試着させられブロンは、正直辟易し、リーナと服を選んでいるフェイは、実に楽しそうだ。
「本当にいいの?こんな高価なもの」
「大丈夫です、お金も頂いてますし」
「そっかぁ、やっぱ私運気上昇中かもぉ。あ、でも今後の旅を考えたら、ちょっと滅入るわね…」
「今度の旅を考えるのが滅入るって何です?何かあるのですかぁ?」
リーナは、不安気な様子でフェイの顔を覗きこんだ。
「あら、聞いてないの?…心配させたくなかったのかな?」
「どのくらい危険なんですか?」
「そうね。普通なら20人程の護衛が必要なところを竜神人とは言えたったの一人とアキト様の二人で乗り越えようとしているのよ」
「ああ、そういうことですかぁ。なら心配は無用ですね」
フェイは首をかしげた、一体なにが「心配は無用」なのか?あのアキトと名乗る御仁は、それ程までに強いのか?
確かに龍神人を素手で倒したのは、見事なことではあるけど…。
まあ、考えても仕方無い、きっと大丈夫なのだろう。
「もう、いいでやす。適当に見繕ってくださぇ!」
ブロンの悲鳴である。
どうやらいじられることに限界を感じたのだろう。リーナとフェイは、フェイの服が概ね決まったので最後の精算をすまし、店を出てブロンのいるらしき店に行くことにした。
そこには上半身裸の筋骨隆々の男が立っていた。ブロンである。身長190cm位、体重は100kgを軽く超えているだろう。腹の左側には青いアザができていた。黒沢明人の攻撃を受けた跡だ。
事情を知っているフェイは、へぇと関心しながらその痕を見た。
「まだ痛い?」
「いや、頑丈が取り柄でさあ。まあ、食らった時は、死ぬかと思いやしたがね。あの小さな体の何処にアレほどの力が…」
ディートが割り込んできた。
「え、どうしたの?何そのアザ!?」
「いや、旦那とひと悶着あって、この様でやす」
そう言ってブロンは笑った。
黒沢明人は、あっちこっち駆けずり回って、ようやく茶色と緑の間の色をした服を、何着か買っていた。どれも同じ物である。
「俺は大丈夫だ」と言っていた黒沢明人だが、そうでもなかったようだ。
黒沢明人とを除く全員が顔を見合わせた。
「ん…変か?」
「いえ、私たちの中で一番偉い方の服装がそれでは、勘違いされますよ」とディート。
「その色に何か拘りがあるの?」とフェイ。
「ああ、この色は野戦で見つけられにくい色なんだ。どうも派手な色は落ち着かなくてね」
そういうと黒沢明人は、鼻の頭をカリカリと掻いた。何かの癖だろうか?
「まあ、なんだ。次は武器屋だな」
そういうと黒沢明人は外にでた。
ディートは、慌ててブロンの服の精算を済ませて、リーナ・ブロン・フェイ・ディートの順で店を出た。
予め女将に道を聞いていたので、店はすぐに見つかった。
中に入ると鉄の臭いが鼻についた。
「店主、この四人に武具を見繕ってくれ。実践的で最高のものをだ」
黒沢明人はそういうと、後の四人に振り返った。
リーナが戦斧をふらふらとしながら構えようとしていた。
「リーナ、お前にはまだ流石に無理だ」
「はい、ちょっと重いですね」
嫌、ちょっとでは無いが…、黒沢明人は内心でつっ込んでいた。
結局、ブロンが戦斧と剣で、リーナとディートは短弓に矢と、プレートメール、フェイは長弓という感じになった。後、全員に短剣も持たせた。
そして次の日から一週間程、黒沢明人はブロンに剣の稽古をつけ、リーナとフェイは、ただひたすら弓で矢を放った。
最初リーナは弦を引くことすらできなかったのだが、一週間目にしてどうにか構えを取れるようになった。だが実践はまだむりだろう。それにリーナを戦いに巻き込むつもりもない。
ディートはそこそこ矢を放てるのだが、まだちょっと不安である。最も彼女も戦いに巻き込むつもりも無い。
フェイのテクニックはすごかった。100m先の的の中心を射抜くのだ。彼女には死角をカバーしてもらおうという考えに至った。
次の日、女将に別れの挨拶をし、黒沢明人一行は、城塞都市ウェルマン目指して城塞都市ウィニックを後にした。