第十一話 五人の仲間達
フェイの明人の呼び方ですが、「アキトさん」から「ご主人様」に変わりました。
黒沢明人が宿へ戻ったのはまだまだ明るい3時くらいだった。即決してしまったかな?埒も無いことを考える。
まあ現実に戻って、とにかく、フェイ・アルディオーネとブロン・バーリエンスを風呂に入れなければならない。
ディート・ウェルヘンの帰りを待つのは勿体ないだろうと、宿の女将に聞いてみることにした。そもそも本来ならこれが一番の選択肢なのだが…。
「お風呂?」
「体を綺麗にする所を探しているのだが…」
「それならサウナかねぇ。でも高いよ。上級階級のサロンだからねぇ。その不衛生なお二人さんは入ることすらできないかも知れないねぇ。なんだったら桶に水を入れて、布と一緒に部屋へ持っていくよ」
「それは助かる」
「でも髪がねぇ…、もう随分長いこと洗ってないんでしょう?ちょっとやそっとでは…。石鹸水を使わないとダメだろうねぇ」
「それはどこで手に入るんだ?」
「私も偶に使っているからね。別けてあげられるよ。ただし、高級品だからね使った分だけ請求するよ?」
「是非も無い。宜しく頼む。フェイ、ブロン、好きなだけ使え。では上へ上がるので宜しく」
女将は、呵々と笑い「はいよ~」と聞く者を安心させる響きのある声で言葉を返した。
黒沢明人を先頭に3人は、並んで階段を登っていく。その時、黒沢明人の後をついてきているフェイが、「ねぇ、ご主人さま」と、声かけた。黒沢明人は、足を止めずに後を振り返った。
「なんだ?」
「私、まともな服を着たいのだけど、その辺の待遇を聞かせてもらえるとありがたいわ」
「ああ、そうだな。その格好は官能的すぎるな」
「なによ、分かっていたの?」
「いや、明日買いに行こうと思っていたところだ。今、二人が買い出しに出かけているところでな」
「二人というと例の女性達?」
「ああ、帰ってきたら自己紹介しよう」
もう3人は部屋の前に着いていた。手前が黒沢明人の部屋で、奥がリーナとディートの部屋である。
黒沢明人は、フェイを奥の部屋へ、ブロンを手前の部屋へ入るよう指示し自身も手前の部屋へはいった。
「ところで、聞きたいと思っていたことがあるんですが、旦那は何者なんです。竜神人のあっしと素手で戦って勝てるなんて正直、常識外ですぜ。あのブローは全く常識外れにも程がありますぜ。」
「ああ、昔剣術と格闘技をしていてな。あんなもんじゃないぞ」
「格闘技とはなんでやす?」
「片手を出してみろ」
その黒沢明人の言葉にブロンは、ヒヤリとした恐怖を感じたが、興味が勝った。
「こうでやすか?」
黒沢明人は、その片手を手に取り、ぎゅと捻った。
「うお!」
ブロンは、悲鳴を上げて楽な体勢に移行するが、それこそが技を決める最後の体勢なのである。そして案の定、ブロンは腕に走る激痛で動けなくなった。
「ま、参りやした!」
黒沢明人は、そっと腕から手を話した。
「まあ、これは初歩の初歩で、格闘技の中でも関節技と呼ばれるものだ」
「ふう、あっしは仲間内の間でも最強だったんですがねぇ。旦那にかかれば子供のようなもんでやすな」
「まあ、実際使うことは滅多に無い。中でも殺人術に限っては使う機会もあるがな」
黒沢明人はそう言うと、部屋の片隅にある机の椅子に座った。そういや、女性3人は同じ部屋に泊まれるのか?この部屋にはベットが2つしか無いが…。後で聞いてみるか。
黒沢明人が物思いに耽っていると、扉が二回ノックされた。
「どうぞ」
黒沢明人が答えると、女将が桶を持って入ってきた。桶の中にはたっぷりの水と布、そしてワインの瓶程のボトルにすこし濁った水が入ってあった。
「この便の中身が石鹸水よ。少量でも大丈夫だから、ちょうど良い具合になるまで少量ずつ掛けるがコツね」
「は、了解しやした。全く以てありがたいことでやす」
黒沢明人も深く感謝した。
「何言っているのよ。これも商売の一環だよ」そう言うと豪快に笑った。
「それじゃあ、次は娘さんのところに持って行くかね」
そういうと女将は、静か去った。
小一時間ほどで2人の準備はととのった。服を除けばもう臭いことは無いだろう。髪もさっぱりしている。
服が無いという点に関しては、黒沢明人もブロン、フェイも同じ立場だ。さて、俺の場合、迷彩仕様の特注品を買わないとダメなんだろうな。まあ拘りがある訳では無いが…。
暫くして、ブロンとフェイが布で全身を洗い、頭を洗い終わったころ、リーナとディートが帰ってきた。
リーナとディートが部屋の扉を開くと見知らぬ飛び抜けて美しい女性がいた。それもボロボロでありながらも官能的な服装で。これはフェイのなせる技である。リーナの持っていた服の束が地面に落ちた。
リーナとディートは、扉を締め、そして黒沢明人の部屋へと急いだ。二回ノックすると「どうぞ」と黒沢明人の返事が帰ってきた。
「アキト様!部屋に知らない美女が!ってその方も誰ですか?ひょっとしてウェルデンへ向かう為の人材という奴ですか?」
ディートは一気にまくしたてた。どうやらフェイを見て混乱しているようだ。
「奥の部屋にいるのはフェイ・アルディオーネ、耳を見たか?亜人間だ。そして彼がブロン・バーリエンス、竜神人だ」
「旦那、フェイはエルフでやす」
「エルフらしい」黒沢明人は訂正した。
リーナはキョトンとしていたが、ディートは「エルフ…、よりにもよってエルフ…、まさかアキト様、人材に夜伽の相手まで探してきたのですか!?」
異常に興奮するディートに、黒沢明人は「落ち着け」とベットに座らせた。
「彼女の故郷は、ウェルデンだ。そして彼は護衛だ。強いぞ龍神人だ」
「なるほど、解りました。そうですか。となると女性あの服…、この方の服もなんとかしないとダメですね」
どうやら落ち着いたようだ。
「なんとかなるか?」
「サイズを測って買ってきます。取り敢えず一着買って、後は明日買うのが良いかな、時間も無いし」
ディートがリーナに声をかけた。
「行くわよ、リーナ」
「リーナは疲れましたぁ」
「行・く・の!」
「はぁ~い」
そうして怒涛のようにやってきた台風は、低気圧となって去って行った。
黒沢明人は、フェイを呼ぶと、部屋で説明を始めた。
「彼女らが君らの知らない、相棒だ。全員でリーナ、ディート、フェイ、ブロン、俺だな」
フェイは呆れたようにつぶやいた。
「この人数では、3つの森どころか、城塞都市ウェルマンに着けるかも怪しいわ…」
三人がリーナ、ディートが帰ってくるのを待っていると、4時位になっていた。
リーナ、ディートはへろへろだったが、フェイもブロンもサイズはぴったりだった。
フェイも満足気に「ようやく生き返った気分だわ」と喜んだ。
ブロンは「あっしはこんな服を着るのは初めてで」と複雑な表情をした。