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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

わんちゃん編

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 ボイスチャットをかけてきたのは、やはりというべきか今回の件の依頼人のようだ。
 三日後に定時報告を行う約束になっているはずなのだが、随分ずいぶんと気の短い奴である。

 まあ、それだけ信用がないということはこちらに責任があるのだろうし、こういった事は過去にもないわけではない。
 依頼の取り消しをしたいと言ってくるケースも多々あるが、その場合も前金の一部は支払われるように契約書に明記してある。 ただその法的な効力については、とても怪しいとだけコメントしておく。

『……あの、調査を依頼した梶原(かじわら)という者なのですが……』

「はい。梶原様ですね。 調査の状況をご報告いたしましょうか?」

『……あ、はい。……お願いします』

 梶原と名乗る男の声からは、やはりというべきだろうか少々の不安を読み取る事ができるので、予定していた報告の日はまだのはずだがどうしたのか? とは聞かない。
 そんな事をすれば「やっぱり取り消しを」という言葉を引き出しかねないからだ。

 逆にどんな内容にせよここで報告を行ってしまえば、それは”情報”という”商品”を受け取った事になる。 それは依頼の取り消しを防ぐことにも繋がるだろう。
 俺は語るべき内容と語るべきでない内容を頭の中で整理しながら、できるだけ慎重に言葉を選んだ。

 「梶原様のお話の通り、Starスター ofオブ Restレスト andアンド theザ Adventureアドベンチャー内において、依頼された件についての噂のようなものは存在しているようです。 ただ、残念ながらまだ確証には至っておりませんので、証拠品となるスクリーンショット等の用意はできておりません。 当とう事務所と致しましては、もう少々のお時間を頂きたいと考えております」

 ……が、いかがでしょうか? と続ける事もしない。ズルいようだが、こっちだって食っていくのに必死なのである。 余談だが、ゲームタイトルについてはメッセンジャーへの依頼主の名前登録に含んである。備えあればなんとやらだ。

『そうですか。……あの、その情報は誰から?』

――ふむ。”何処”から、ではなく”誰”から、ときたか。 ……まあいい、少しカマをかけてみるか。

「ゲーム内において、初心者支援を行っていたグループからですね。ただ、”彼ら”も確実な根拠があって言っているのではないように見受けられました。 ただ、あるギルドの名前がそこに挙がっていたので、潜入調査を予定しております」

『あー……なんていう名前のギルドですか?』

「”フレンドリーガーデン”です。 明日、潜入する予定ですが、同日でのご報告はいりますか?」

『あ、えっと、いえ、潜入とかはしなくていいですよ。違うところかもしれないですし、もしそうだったら調査も遅れますよね? それに危ないですし、普通にゲーム内の人に聞いてきてもらえるだけで結構ですよ』

――かかった。この男の目的がなんとなく読めたな。

 危ないのも仕事のうちだし、むしろ街で無差別に訊きまわる方が危険だろうとも言ってやりたいが、依頼主クライアントの意向に逆らっても仕方がないので、その言葉は飲み込んでおく事にする。 大事なのは金である。

「はい、承うけたまわりました。 報告内容は後日レポートにまとめて送付いたしますが、この場で何か他にご不明な点や、ご質問などはありますか?」

『……いえ、大丈夫です。 ああ、その初心者を支援してたっていうグループに、”ハイプリースト”の女の子はいましたか?』

「いいえ、おりませんでした」

『そうですか、いや、初心者支援っていうと”アコライト”系のプレイヤーが多いので、そうかなと思っただけなんですが。 では、失礼しますね』

「はい。お電話ありがとうございました」


 まさに”語るに落ちる”なんていう、使い古した表現が頭に浮かぶものである。 ――これは追加報酬も期待できるかもしれないな。

 カナデ、コトリの二人に会えた事といい、中々にツキが回ってきたものだ。などと少々あくどい事を考えながら、相手が切るのを待ってからボイスチャットを閉じ、俺は手元に置いておいたレコーダーのスイッチをオフにした。

 肩を回してから一度大きく伸びをすると、喉から勝手に呻き声が漏れる。 ……そういや、そろそろ梨美のやつも戻ってきている時間だろう。

 あちらにも進展はあっただろうかと、俺はもう一度チャットツールを起動し、登録してある名前の中から『 Limi 』を選んでメッセージを打ち込む。
 少々待つが反応がないので、ミネラルウォーターのボトルをもう一本冷蔵庫へ取りにいこうかと立ち上がりかけたとき、梨美からのメッセージが返ってきた。 手元のボトルの水は温いが、我慢して座り直す事にする。


Limi:帰ったよー。 結果は上々! コトリちゃんのフレ登録もげっとー

Hazime_I:そうか、よくやった。 リアル情報なんかは聞き出せたか?

Limi:うーん……それについてはまだかなー。 てゆうか、りみがそうゆうの苦手なの知ってるでしょー?

Hazime_I:悪いな。だがそれも仕事だろう。 次の約束は?

Limi:それはばっちり。 明日のお昼過ぎだよー

Hazime_I:そうか、分かった。 なら昼前に一旦チャットを送ろう

Limi:りょうかーい


 ゲーム内で街に着いたあと、そのまま解散する流れにはなっていたのだが、先に告げられていた話とは違いコトリがログアウトする気配がなかったので、「これは」と思った俺はリミを残して先にログアウトする事にしたのだ。

 まだ遊びたりないが、2対1では緊張するし、男性である俺への警戒心もある――。 眠たげな表情ながらも、碧みどりの瞳でちらちらとこちらを窺うかがうコトリからは、そんな様子が見てとれた。

 ログアウトする際に、「仕事があるから」と言い訳したが純100%嘘は吐いていない。 ……その仕事の内容を知られたら思いっきり嫌われそうではあるが。

 とりあえず、フレンド登録のみならず後日の約束まで取れたならば、梨美の言う通り結果は上々だといえるだろう。
 もう一度チャットウィンドウに手柄を褒める内容を書き込んだ後、これで会話は終了だろうとそれを閉じかけたとき、そこに追加のメッセージが浮かび上がる。

 ――そういえば、俺の方の報告がまだだった。

 なんでも一人で納得してしまう、頭でっかちなところは前にも梨美に注意を受けている。 曰いわく「あたまはわるくないけどばか」らしい。 まあ今回は反省しておこう。


Limi:わんちゃんのほうは何かわかったー?

Hazime_I:ああ、コトリの使っていたあの斧はレア装備らしい。

Limi:なにそれ? やっぱあの子に興味あるの?

Hazime_I:違う。 いや違わないんだが、つまりコトリのキャラクターはリメイクの可能性があるって事だ。

Limi:……ふーん。よくわかんない。 ねえ、わんちゃん

Hazime_I:なんだ?


 梨美にしては珍しく、言葉の内容を選んでいるのだろうか。それからディスプレイに新しい文章が表示されるまでには、少しの間の空白があった。

 戸惑う様に表示されたそのメッセージに、俺は『お前の方こそ』と打ち込みかけてそれを止め、別の言葉を打ち込むと、それ以上の会話を続ける気を失くして、静かにチャットウィンドウを閉じた。

 狭いベッドに寝転がり、このまま今日は寝てしまう事にする。
――腹は減っているのだが、恐らくダイブ酔いの所為だろう、何も食べる気が起らなかった。


Limi:梨美の事は気にしないで、新しい居場所を見つけてもいいんだよ?

Hazime_I:安心しろ。 今回の仕事は長丁場になりそうだ。
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