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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

わんちゃん編

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 頭に被っていたVRヘッドギアを適当に放り捨て、グラグラと揺れる視界に耐えながらテーブルの上のプラスチックケースを手に取ると、俺はその中身を呷るようにして口の中へ放り込んだ。
 用意しておいた生温いミネラルウォーターでそれを流し込み、崩れるように床に座り込む。

 やはり何度繰り返しても、この”ダイブ酔い”には慣れそうもない。――だが収穫はあった。

 目を閉じて吐き気の波が過ぎ去るのをしばらく待った後、ようやく立ち上がれるようになった俺は、ベッド脇のパソコンデスクへと向かい、はやる気持ちを抑えてマウスを操作する。

 デスクトップ上に表示された不機嫌そうな男に一旦ご退場願い、検索エンジンを立ち上げて”フレンドリーガーデン”と打ち込もうとしたところで、思い直してそれを消去し、『 SRA マジカルソードマン レア武器 斧 』と入力する。

 検索結果を画像だけに絞り込み、その中からコトリの使っていたものと同じものを探す。一度しか見ていないが、ついさっきの出来事なのでまだ記憶は確かなはずである。

 ……あった。特徴的な見た目の武器だったので、恐らくレアな装備なのだろうと思ったが、読みは当たっていたようだ。

 赤と黒の竜の翼を模した刃、王冠を被ったドクロの石突。――ファンタジージャンルの武器はそのレアリティが上がるほど、得てして実用性のないデザインへとシフトしていく傾向があるが、どうやら”SRA”もその例に漏れないようで、”ドラゴニカルティアー”と銘打たれたその武器は、かなり高レベル帯のプレイヤーでなければ入手できない代物らしい。

 俺は検索ウィンドウに『 ドラゴニカルティアー 特徴 』と打ち込み、詳しい情報を調べる。

 表示されたウェブページには、あの戦斧は”沈んだ海賊船の秘宝”という、長いクエストの中で低確率で入手することができるシリーズ物の武器で、王冠を被った髑髏の装飾付きの武器は各クラスに一種類ずつ用意されていると書かれているが、俺が知りたいのはそこではない。 あれがシリーズ物の武器だなんて可能性は既に考慮している。

 ページにはその後、入手方法やらそのクエストに出現するボスモンスターの攻略方法やらがずらりと書き連ねられているが、俺はそれらの情報を読み飛ばして、絶対にあるはずだという予感のもとにある一文を探し続ける。
 数々の不要な情報の下の方に張られた、ファッションコーディネートという項目のリンクの近くにそれを見つけ、俺は自分の勘が正しかった事を確信した。


 『武器として使用しないときは小型化し、アクセサリーとして身に着ける事ができる』


 「……何が歩きづらいだ。 使うのにいちいちインベントリから実体化しなければならない装備品なんかがあってたまるか」

 次に、検索ウィンドウに今度こそ『 フレンドリーガーデン 』と打ち込み直し、匿名掲示板をざっと流し読んだ後で、フレンドリーガーデンのギルドホームページを開く。
 匿名掲示板の方には、メンバーの狩場での様子や名キャラクターネーム指しでの誹謗中傷などが書かれていたが、そこから読み取れる情報はそれなりに人数のいるギルドだという事だけである。

 ホームページトップに書かれている《ギルド規約》から始まるお決まりの文句を無視して”BBS”という項目をクリックすると、それがあっけなく開いた事に、俺は内心舌打ちを打った。

「メンバーのみのロックがかかってりゃ話が早かったんだが、他の場所に隠し掲示板とかがあるのか? ……まあいい、これだけでも多少の情報は掴める」

 気を取り直し、掲示板に残されている挨拶やら雑談やらの会話文に対して、『 Quartetカルテット 』と絞り込み検索をかけるが、残念ながらヒットしない。

 ――そんな簡単にいくわけがないか。 しかし、何かあるはずだ、考えろ。


 カナデ、コトリの両名が”フレンドリーガーデン”の元メンバーもしくは関係者であることは、俺の中ですでに確定している。

 ゲームタイトルの略称を覚えていなかった事にかこつけて、告げられたギルドネームを覚えていないフリをしたとき、カナデは僅わずかに苛立った様子を見せた。

 悪い噂があるから気を付けろというただの忠告だけならば、あの反応はおかしい。記憶力の弱い人間だというイメージを利用してカマをかけただけだったが、予想外に反応が強かった。
 口頭で説明すれば一言で済むはずのギルドエンブレムを、わざわざ描いてみせたことからも何らかの思い入れが伺える。

 申請の送られてきたパーティ名は”四重奏カルテット”、後で抜けておいてくれと言っていた事からこれは四人という意味でその場で考えたものではなく、元々固定パーティとして存在していたものだろう。

 コトリの使っていた武器は普段から身に着ける事ができるもの。しかし、インベントリからわざわざ出して使い、また仕舞い直した。
 つまり何らかの理由であの武器をあまり他人に見られたくないという事。しかしその他人に俺とリミは含まれなかった。

 レアな装備だから隠しておきたい……ではないな。――個人の特定、か? 見せたくない相手は誰だ?


「……ああ、なんだ。 Quartetカルテットの中で俺の知らないメンバーが、残り二人だってのが間違いか」


 ”奏カナデ”と”小鳥コトリ”、そして”四重奏カルテット”。

 関連性のありそうな名前なので勘違いをしていた。

 現在のVRゲームでは、一つのアカウントの中で複数のキャラクターを持つことも、サブのアカウントを作る事もできないようになっている。
 この仕様には様々な理由付けがなされているが、その中の一つに複数のキャラクターを用いた詐欺などの犯罪を防ぐ為というものがある。悪人ヒールプレイは、今のネットゲームでは犯罪なのだ。 

 別人に成りすます事自体は、アカウントを削除してキャラクターを作り直す事で可能ではあるが、その場合は所持している財産もキャラクターと共に消えてしまう。

 ――ただ、ここにも抜け道は存在する。

 カナデとコトリは二人組だ。ならば一方がもう一方に、自分の所持しているアイテム等を一旦預けるなりすればいい。


「だとすれば、調べるべきは……と」

 俺はフレンドリーガーデンの掲示板に書き残された様々な雑談を、一つ一つゆっくりと読んでいく。

――探すべき単語は、『 楽器、音楽、もしくはそれに類するもの 』に該当する”キャラクターネーム”だ。
 掲示板の雑談を読み進めていくと、どうやら”フレンドリーガーデン”ではごく最近、ギルドマスターの交代が行われていたことが分かった。
 掲示板には新マスター就任の挨拶の書き込みと、それに対する歓迎と激励のコメントが複数書き込まれている。

 しかし俺には、新マスターであるところの”ミンティ☆”という人物の書き込みに寄せられた、半ば社交辞令的に贈られているであろう一連の会話に、僅わずかな欠落があるように見てとれた。
 とても些細ささいな違和感ではあるのだが、会話と会話の繋ぎ目に不必要な言葉が入るのだ。


『 らみら♪ 』
わー、おめでとうー。
いろいろ大変かもしれないけど、これから頑張ってくださいね♪

『 リクルル 』
……まあ、それは仕方ないんじゃないかな。
俺も歓迎するよ。 これからもフレガを盛り上げていこうぜぇー

『 Rasper-S 』
うむ、さらなる発展を期待する。
ギルドマスターは大変な事もあるかもしれないが、俺達が支えていくので大丈夫だ!

『 ラズリント 』
そういうこと言うもんじゃないって(苦笑)
ミンティさん、私も歓迎しますよ!! 頑張ってください。


 怪しいのはこの辺りだろうか。

 「ギルドマスターという役割」が「大変である」のが「仕方ない」という会話に読めないこともないのだが、それにしてはどこか不自然なものがある。
 それよりも、何かネガティブな発言がこの間に書き込まれていて、「仕方ない」、「言うもんじゃない」という文章は、それに対して諫いさめる為のものであると仮定した方がしっくりくるのではないだろうか。

 そして不自然な点という事においては、掲示板への書き込み自体が全体的に想定より少ないこともそこに挙げられる。
 ゲーム内にもチャットやBBS機能は存在するので、そちらをメインに使用しているのだろうとも考えられるのだが、メンバーの中には、匿名とくめい掲示板に名前を書き込まれていた人物もいたはずだ。

 まだ全てのオンラインゲームがVRタイトルではなかった頃から存在するという、匿名掲示板の”晒しスレ”というものに書き込みを行っているのは、愉快犯を除けば殆どが私的な恨みのある人物に限られる。

 確か狩場でのマナーの悪さを指摘するような文章だったはずだが、匿名とはいえその状況を知っているという事は、その場にいた人物であるという証明に他ならないので、それを書き込む事は書き込んだ本人をも特定される危険性を孕はらむことになる。

 ならばいくら”善意での指摘”という皮を被っていようとも、名指しでの書き込みにまで至ったその動機は、”恨み”や”嫌悪感”に他ならない。

 ”みんなで仲良く”という、ある種独善的とも言える謳うたい文句を掲げている”フレンドリーガーデン”が、そういった他者との軋轢あつれきを生みかねない可能性のあった人間を受け入れていたという事は、やはりそれなりの規模のあるギルドだという事になる。
 これが仮に少数のグループであったならば、”みんなで仲良く”できない人間は、最初から淘汰とうたされるのが自然な流れであるのだから。

 それを加味するに、このギルドホームページの掲示板への書き込みの量は、俺が想定している構成員の数に対して、僅わずかに少ないと見受けられるのだ。

 つまり、この掲示板の書き込みはその管理者の手によって他者に見られては都合の悪い部分を”無かった事に”されている可能性が高い。

 事実、それまでは頻繁ひんぱんに行われていたゲームの攻略情報の交換などの書き込みまでもが、ギルドマスターの鞍替えが行われて以降、その数を顕著けんちょに減らしている。 いくら消される心配のない内容でも、過去に文章の削除を行った経歴のある掲示板に書き込みをするのは躊躇ためらわれるのだろう。

 しかしこれでは目的の”楽器、音楽、もしくはそれに類するキャラクターネーム”を見つけ出せる可能性は絶望的ともいえる。 しいて言えば”らみら♪”が該当しそうではあるのだが、書き込みが残されている事からしてハズレだろう。
 俺は手元に持ってきていたミネラルウォーターのラベルを無意識に剥ぎ取ってくしゃくしゃと丸めている自分に気づき、一度深く深呼吸してからページの続きを読み始めた。


『 Rayモンド 』
そういえばN35エリアの雪男なんすけど、火属性通らなくなってません?

『 りりらら@姫 』
こないだのアップデートで火弱点は取り外されたみたいだょ('ω'*)
なんか乱獲されすぎちゃったみたい><;

『 Rayモンド 』
まじっすか!?
せっかく作ったオイラの火宝剣があぁぁぁ(泣)
……あ、それ自分も参加していいっすか?(笑)

『 りりらら@姫 』
よしよししてあげるー。 ぁ、火宝剣あるんだったらそっちより南の森に行こうよぉ
皮系の素材がちょっと足りないの(・ω・`)

『 Rayモンド 』
姫ちゃんとっすかー、いいっすよ(笑)
じゃあ北は今度っすかねー


 「……なるほど、ここにも穴はあるな」

 上手く削除してあるようだが、「自分も参加していいか?」という台詞がかかるであろう文章が存在していない。
 「北は今度」と書いている事から、定期的に行われていた集まりだと分かるが、まさかドラッグパーティのことではあるまい。 普通にモンスターを狩る事を目的としたパーティだろう。

 しかし、”りりらら@姫”という人物の誘いが少々唐突とうとつである気もする。 それに欲しいアイテムがあるのならば”皮系の素材”というあやふやなものではなく、そのアイテム名を書き込まないだろうか。
 わざわざ反対側である”南”を指定している事からしても、まるで遠ざけようとしているかのような……。

 そこまで考えたところで、パソコンから連続した電子音が響き、デスクトップ上に表示されたアイコンの一つが点滅を始めた。 一瞬、梨美からの着信かとも思ったが、あいつはボイスチャットは使用しない。
 俺はデスクの引き出しを開けてボイスレコーダーを取り出しスイッチを入れると、メッセンジャーのアイコンをクリックした。

「はい、アインス探偵事務所です」

 接客向けの声色を作り丁寧に答える。
 探偵などと、名乗るのもおこがましいのは自分でも分かっているのだが、まあそこはご愛敬だ。
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