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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

わんちゃん編

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「なあ、あれはひょっとして、”狂戦士バーサーカー”とか”処刑人エクスキューショナー”とか、そういう名前のクラスなのか?」

「……それ、あの子に言ったら傷つくよ。 一応名前だけは”マジカルソードマン”って可愛らしい響きのクラスなんだけど、コトリは武器がちょっと特殊だからね」

 左手に持った黒い和弓を構えるでもなくぶらぶらとさせながら、カナデが苦笑交じりにそう答えるが、俺から言わせてもらえばあれは、『ちょっと特殊』どころの話ではない。

 俺達の視線の先には”グレイウルフ”と見たままの名前を表示された灰色狼の群れがおり、どうやら最初に攻撃を仕掛けたプレイヤーにリンクして襲い掛かるよう設定されているらしいそいつらは、先ほどから群れの中心にいるコトリ一人を狙って攻撃し続けている。

 それらを相手にしたコトリの行動は俺がその見た目から想像していたような、後衛から魔法で援護を行う類たぐいのものではなく、赤と黒に塗り分けられた竜の翼を模した形状の刃と、柄の先端に王冠を被ったドクロのモチーフの付いた、なんというか禍々しいデザインの戦斧バトルアックスを振り回して薙ぎ払うというものだった。

 武器が特徴的なのもあるのだが、俺が先のような台詞を述べた原因はそこではなく、いくらゲームの中とはいえおよそ人間離れしたその動きの方にある。

 コトリは自身の身の丈を超える長さの戦斧を、小さな体ごと回りながらのフルスイングで振り切った次の瞬間、そこに足場でもあるかのように空中を蹴り飛ばし、弾き出されたピンボールのような方向転換を急速に何度も行っていた。

 回転しながら戦斧を振るい続けるその軌道には、横の動きのみならず時折縦の動きも加わっており、紫の髪と赤黒い戦斧の残像を虚空に描きながら狼の群れを蹂躙するその姿は、さながら質の悪い台風のようである。

「――”我は汝に制裁を加える”、くらえー! 『ぼーる、らいとにんぐ』!!」

 と、おまけにリミの【詠唱魔法】まで加わって、ますます地獄絵図のような有様を見せる光景を横目に、俺は手元の武器に弾を込める作業に四苦八苦しているところだ。


「……どうでもいいけどあれ、目が回ったりしないのか?」

「……さあ? いいから早く弾込めてよ。別に痛くはないんだけど、一応感触はあるから噛まれ続けてるのも気持ち悪いのよね」

「もうちょっと待ってくれ、意外に難しいんだよ」

 カナデの右足には袴の上から、”レッサーウルフ”という名前のグレイウルフに比べて一回り小柄な茶色い狼が噛り付いていて、俺はさっきからそいつに向かって、至近距離から鉛弾を撃ち込んでは銃に弾を込め、また撃ち込んでは弾を込め、という地味な作業を繰り返している。

 街を出るまでは灰色のシンプルなチュニック姿だったリミの装備は、今は白いブラウスに折り目のついた黒いスカートを履き、その上から金色のボタンの並んだ黒い軍服のような上着を羽織った服装に変更されている。

 ――恐らくホーンテッドスタッグからレアなアイテムでもドロップしたのだろう。レベル差から考えて珍しい(ユニーク)モンスターだとは思っていたが、リミが倒した事を自分からは報告してこなかったわけだ。

 そして一方の俺はといえば、茶色い木綿のシャツとズボンの初期装備のまま、手に持っているのはリミの買ってきた”火縄銃”である。

 魔法と暴風の飛び交うファンタジーなあちら側と、弓道着姿の女の子の隣で、レトロな銃に弾を込める作業を繰り返しているこちら側。

 同じタイトルにログインしているはずなのに、なんだか別のゲームをやっているみたいである。

 せめてフリントロック式の銃にしておいて欲しかったとぼやきながら、何度目かの弾込めを終えてレッサーウルフに引き金を弾くと、茶色の狼は一瞬時間が止まったかのようにフリーズした後、細かい光の粒となって虚空に消えていった。

 俺の視界にレベルアップを告げるウィンドウが表示され、カナデに「おめでと」と声をかけられるが、なんだか秋田犬をいじめていたみたいで後味が悪い。

「なによ? わんぱらっち、レベルアップしたってのに浮かない顔じゃない。 あ、お仲間を倒しちゃって落ち込んでるとか?」

「いや、別に。 ……というかもうちょっと他の呼び方にしてくれないか」

「そんなこと言われたって、他に呼びようがないじゃない。 ”わんっち”じゃ語呂が悪いし、”わんさん”じゃラーメン屋の店主みたいよ?」

「……もう好きにしてくれ」

 いっそのこと”あんた”呼びの方がまだマシだったとも思うのだが、せっかく縮まってきた距離感を無意味に遠ざける必要もない。 呼び名については諦める事にして、俺はリミ達の方に視線を向ける。

 ちょうど灰色狼の群れの処理は終わったところのようで、リミがこちらに向かって「やっつけたよー」と手を振り、大きな戦斧をインベントリに仕舞い直したコトリは眠そうな表情のまま、「……ぶい」と、中指と人差し指を立てて見せた。


 なんだか目に痛い組み合わせの二人だな。などとぼんやり考えながら合流して、俺はコトリにいくつか質問を投げかけてみる。

「カナデに聞いたんだが、魔法剣士マジカルソードマンだっけか? 魔法スキルは使わないのか?」

「……つかってた、よ?」

「ほう、それは気づかなかったな。体力ブーストとかなのか?」

「……あし、ば」

 先ほどまで自分が戦っていた辺りをコトリが指さすのでそちらを見ると、何やら無数の細かいものが消失するエフェクトがキラキラ光りながら立ち昇っている。
 それが何か判別できないので【観察】を使うと、氷の破片であることが分かった。

「……なるほど。 ……しかし、よくあんな使い方を思いつくな。それと、武器は毎回出したり仕舞ったりするのが普通なのか?」

「あるきづらい……から」

「あらー? なになにー? わんぱらっちってばコトリに興味津々じゃない? もしかしてもしかしてー」

「カナデにも質問はあるぞ? むしろ同じ遠距離クラスだから聞きたい事が多い。ステータス関連とかな。ああ、それと」

「ん、なになに?」

「”フレンドリーガーデン”だっけか? どれくらいの規模のギルドなんだ? それと、いつも拠点にしている場所とか、知っていたら教えてくれ」

 俺はカナデの方へ向き直ると、本当に訊きたかった事について会話を持っていく。
 そもそもその話が本題で狩りはおまけだったはずなのだが、ここまでカナデとの会話はその話題を避けるように当たり障りのないものに終始していたのだ。コトリが”グレイウルフ”の群れを引っ掛けてしまってからは、特にその傾向が強い。
 恐らく話を戻すのに不自然な流れにはなっていないはずなのだが、カナデは一瞬苦虫を噛み潰したような表情をすると、どこか警戒心を滲ませたような色を視線に宿した。

「……あいにくだけど、人数とか溜まり場までは知らないわよ、入ったことないし。 それに、そんな事聞いてどうするの?」

「いや、近寄らない方が良いって言ったのはそっちだろう? 何の情報も無いままじゃ、うっかり係わっちまうかもしれないからな」

「……そういうことね。 今言った通り詳しい事は知らないけど、ギルドエンブレムなら分かるわよ」

 カナデが空中に操作ウィンドウを開く仕草をすると、その上に何かを描くように右手を動かし始めるので、しばらく待つ事にする。
 やがて納得のいく出来になったのか、「うん、こんな感じ」と呟いてぽんっとその上を叩き、可視状態になったそれをこちらへ向けてきたので、俺はそれを覗き込んだ。

 こちらにも見える状態になったウィンドウには、逆さまになった台形の上に棒を乗せて、その棒の先に小さな1つの円を中心に5つの楕円が付いたイラストが描かれている。

「これは……扇風機か?」

「植木鉢と花よ、失礼ね。 色がついてたらもっと分かりやすいんだけど、こんな感じの黄色い花の絵のエンブレムなの。 さっきも言ったけど、見かけたら係わらないほうがいいわ」

「分かった、ありがとう。 そしたらステータスの事なんだが――」

「あー……ごめん。 悪いんだけど、実はそろそろ連続ログインの時間制限に引っかかりそうなのよね。 それにもう親が帰って来ちゃう時間だから再ログインもできなそうだし、今日はここまでにしない?」

「ん? そうか、こっちこそすまんな、手伝ってもらって」

 急な話ではあるが、そういうことならば仕方がない。
 もう少し話を聞きたかったが、ある意味必要な情報は集めさせて貰えたとも言えるので、俺はコトリに「そっちは大丈夫なのか?」と声を投げかけた。

「……ん。 送っていった、あと、落ちる」

「そうか、ありがたい。 俺とリミだけじゃ街まで戻れるか分からんしな」

「リミちゃん……つよいよ……?」

「そうだよー、弱いのはわんちゃんだけー」

「お前は戻ったらちょっと話がある。 特にその新調した装備の金の出所とかな」

「……ぇー」

 コトリの方もログアウトするかと思ったのだが、どうやら街まで送ってくれるらしい。
 俺がカナデの方に向き直り、「今日はありがとな」と軽い調子で声をかけると、カナデはくすぐったそうに照れ笑いを見せた。

「別に構わないわよ。……それと、街に戻ったらPTは抜けておいて貰ってもいい? 気を悪くしないで欲しいんだけど、このままだとレベル差のせいで経験値が減ったままになっちゃうから」

「あ、そしたらフレンド登録しとこうよー」

 リミが無邪気にそう言うと、カナデは「いいわよ」と返事して手早くそれを済ませ、ついでこちらにもフレンド申請を送ってくる。

「ま、わんぱらっちも一応ね。 変な連絡しないでよ?」

「変な連絡って、例えばどんなだよ?」

 皮肉交じりにそう答えてやりながら承認すると、今度こそカナデは「じゃあ、落ちるわね」と言い残してログアウトしていった。
 カナデが消えた後に一瞬残された輪郭が、遅れて光の粒となって空へ昇っていく。

 俺は残った二人の方に向き直ると、「じゃあ、帰ろうか」と努めて穏やかな表情で告げた。


 ――これだけの情報が得られるなんて、初日からなかなかツイてるじゃないか。

 そう、心の底で考えながら。
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