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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

わんちゃん編

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「ありゃー、そうだったのかー。 ごめんね、わんちゃん」

「……全然気持ちがこもっていないぞ」

 二人が説明してくれたおかげでリミの誤解はすぐに解けたわけではあるが、不意打ち気味に蹴り飛ばされた俺に対するリミの謝罪は、軽い調子の一言だけだった。
 このままでは腹の虫が収まりそうにないので、やはりログアウトした後で伸ばしっぱなしの髪を切りにいってやろうかと思案しながら睨んでいると、横合いからカナデが「まあまあ」とリミの援護に入る。

「リミっちの気持ちも分からないでもないしさ、許してあげなよ、わんちゃん?さん。 あたしだって、彼氏が他の女の子をナンパしてるとこに遭遇そうぐうしたら、飛び蹴りの一つも決めてやりたくなるしね」

 「まあ彼氏なんて居ないんだけどねー」とカラカラと笑うカナデに、「やっぱりナンパしてたの!?」と声を荒げるリミ。 ……なんというか、この状況を何処から処理したらいいのか分からなくなってきた。

「いや、俺とこいつがそういう関係とか、マジでないんで」

 差し当たり、一番不名誉な誤解から解いておこうとそう言ってやるが、カナデは「どうだかー」とニヤニヤ笑いながら人差し指を立てて左右に振ってみせる。

「別に隠すことないじゃないのさー。 男女二人して同じゲームに移住してくるなんて、そうとしか考えられないわけだしー?」

 語尾を伸ばしてからかうように話す仕草にイラッとするが、目の前のこの弓道女は大事な情報源なわけなので、仕方なく我慢してやることにする。
代わりに、「お前もなんとか言え」と少々きつい口調でリミの方へ矛先を向けると、ピンクの馬鹿は「うーん……」と顎に手を当てて考え込んだ後のち、「リミもわんちゃんはちょっとないかなー」と実に失礼な感想を宣のたまった。

「えー? その割には仲良さげじゃない? あ、もしかしてお互い告白とかまだだったり? あちゃ、そしたらお姉さん野暮なこと言っちゃったかな?」

「んーん、ほんとに別にそういうんじゃないよー? あ、なんならカナデちゃん、彼氏いないんだったら貰ってく?」

「あー、あたしはいいかな。 もうちょっと細めっていうか、文学少年っぽいのがタイプなんだよね。コトリは?」

「……ん」

 ……俺は拾われてきた犬か。
 本人を置き去りにしてなんとも勝手な話が始まるが、いつの間にやら意気投合している様子だし、こういう時の女子の会話に水を差すのは後が怖い。
 しかし最後の「……ん」の意味が判別できない。別にどうでもいいが。


「あ、わんちゃんリアルだと結構細めだよー? ひょろひょろって感じ」

「お、それならアリかも? いやいや、早まるなあたし。まだ出会ったばかりなわけだし」

「……ん」

 空を仰いで嘆息する俺をよそに里親探しは続いていくが、さすがに聞き捨てならない単語が聞こえたので、俺はやむなく会話に参加することにする。

「おいリミ、リアルの情報を軽々しく話すな。 それと俺はひょろひょろじゃないし、それを言うならお前だってむ」

「ていっ!!」

「ねをごふっ」

 リミの見事に体重の乗った右ストレートによってそれ以上の台詞を完封されると、そんな俺をどことなく蔑さげすんだ眼差しで見ながら、「あー、やっぱないわ。 デリカシーのない男はちょっとね」と厳しい意見を述べるカナデ女史。
 そして先ほどから一人だけ地べたに座ったままで、会話に参加しているんだかいないんだかよく分からない紫髪の少女コトリの方は、体育座りの姿勢のままだぼついたワンピースの上から自らの胸をぺたぺたと触り、相変わらず眠たそうな目でこちらを見ると、「……ん」と小さく頷いた。
……いや、意味が分からんから。


「それにしても、リアル情報まで知ってるなんてますますあやしいなー。 ほんとに付き合ってないの?」

「あー、もう。 いい加減めんどくさいから話すが、俺らは兄妹なんだよ、兄妹」

「え? あ、そういうことね」

 少し説明し辛い事情を抱えているので、俺とリミの関係を他人に明かしたくはなかったのだが、これ以上この話が続けば泥沼化しそうなのでこの際仕方がない。
 カナデは納得したのかしていないのか、「ふーん……」と俺とリミの顔を交互に見比べた後、「あんまり似てないんだね」との感想を口にした。 いや、いくら兄妹だからといって、VRゲームのアバターまで似ていてたまるか。


「とにかくもうその話は終わりだ。 それでカナデ、フレンドリーなんちゃらだっけか? 詳しい話を聞かせてくれないか?」

「”フレンドリーガーデン”ね。 あんた記憶力大丈夫?」

 どうやら先ほどの失言で、カナデの中の俺の株価は大暴落してしまったらしい。俺が名乗っていない所為もあるだろうが、いつの間やら呼び方が『あんた』になってしまっている。
 先に秘密を暴露したのはリミの方なのだが、やはり女という生き物は理不尽だ。

「うーん……。話すにしてもここじゃちょっとね。 あ、なんなら一緒に狩りにでも行く? こうして会ったのも何かの縁だし、引っ張ってあげてもいいわよ?」

 それにあんた、コトリのクラス知りたがってたじゃない。と続けるカナデに、「やっぱりナンパ……」と呟くリミ。
 また無限ループに陥りそうなのでそれは放っておく事にするとして、確かに長々と話し込んでしまっていたが復活地点ターミナルポイントであるここは人の通りが多い。 誰が聞き耳を立てているか分かったものじゃないというカナデの意見も尤もっともである。

 それに俗に”パワーレベリング”と呼ばれる、上級者が初心者を上位の狩場に引率することでレベルを引き上げるその行為には賛否両論あるだろうが、俺たちはゲームを楽しみに来ているわけではないのだからして、無償でそれを行ってくれるというならありがたい。

「そうだな、お願いできるか?」

「いいわよ、じゃあ決まりね。 反対側になっちゃうけど、南ゲートから出て”甲虫の森”を抜けた先に”華竜の隠れ家”っていう場所があるからそこにしましょう。 こっちの北側でもいいんだけど、あたしらが普段行ってるところまで行っちゃうと地形ダメージがあるのよね」

「わー、ドラゴン出るのー?」

「出るには出るけど、そんな滅多に現れないわよ。 ……リミっち、女の子なのにドラゴン好きなの?」

「んー、なんとなく?」

「あたしはあれ苦手なのよね。 矢が通り辛いからなんだけど」

 地形ダメージがあるというのは、上位の各フィールドに設定されているらしいデバフ効果のことだろう。
 確か、北に行き過ぎると寒いので防寒効果の付いた装備を身につけないとスリップダメージが入るとか、南に行き過ぎれば今度は暑いので物理スキル使用時のスタミナ消費が激しくなるとか、そんなようなものだったはずだ。 それにしても、またあの森に入るのか……。

 先ほど巨大昆虫相手に交通事故を起こされたばかりなのを思い出し、心なしげんなりしていると、『ポーン』と頭の中で木管楽器を鳴らしたような音がして、不覚にもちょっとびくっとしてしまう。

「……なに驚いてるのよ。 ただのPTパーティ申請よ、PT申請」

 ――うるせぇ、頭の中でいきなり音がしたら普通は誰だって驚くだろうが。

 自分のVR適性値の低さに内心溜息を吐きながら、ついで目の前に表示されたウィンドウを見ると『 PT:Quartet(カルテット) に招待されました。 承認しますか? Yes/No 』と表示されているので、『Yes』を押してやる。
 すると突然「ブフォッ!?」とカナデが女の子らしからぬ声を上げて噴き出した。

 胡乱うろんな目でそちらを見やれば、カナデは何やら片手で口元を抑え、俺には見えないが自らの操作ウィンドウがあるであろう空中とこちらを、ちらちら視線を泳がせながらプルプル震えている。
 「一体こいつはどうしたんだ?」と残りの二人に視線を送ると、リミも状況が分からないようで「?」と首を傾げているが、コトリの方はいっそうぎゅっと体育座りの膝を抱える腕を強くし、俯うつむいて顔を隠してしまっている。

 よく見ればこちらも小さく痙攣している紫髪の少女の、「わん……ぱら……」という息も絶え絶えな呟きを聞くに当たって、やっと俺は自分の犯した大きな過あやまちに気づかされることになった。


 ”わんわん☆パラダイス☆彡”

 このゲームにダイブするに当たって名付けに困っていた俺に、ありがたいことにリミの阿呆が授けてくれやがった、俺のアバターネームである。
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