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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

わんちゃん編

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 さっきまで横になっていた体がいきなり直立していて、目を開けば全然別の場所にいるというのは、何度繰り返しても慣れないものだ。
 四角形を描くように右手を動かすと、虚空を切り取るようにして操作ウィンドウが浮かび上がる。
 俺はいくつかの項目の中からマップ機能を選んでそれをタップし、現在位置の確認をした。

「……北エリアか。 ちょうど反対側に出ちまったな」

 表示されているマップによれば、街を中心に東西南北に付随する4つの巨大な陸橋のうちの、北に位置するものに出たらしい。
 ”ターミナルポイント”と呼称されるこういった復活地点は、人の混雑を避ける為にどんなVRゲームにも必ず複数実装されていて、事前にその中からどれと設定していない場合はランダムに選択される。
 どうせなら街の中を自由に指定できれば良いのだが、それはできない仕様だ。

「リミのやつは……っと、こっちに向かってるみたいだな」

 簡易マップ上にはそれぞれ青色と緑色、二つのドットが表示されていて、そのうち緑色のものはパーティメンバー、この場合はリミを指している。
 緑色のドットは街の中を時折ふらふらと道を逸れながらではあるが、北ターミナルへと向かって移動しているようだ。恐らく頼んでおいた買い物をしながら向かっているのだろう。

 こちらから合流しに向かっても良いのだが、その場合は街へ入るためのゲートを通過する必要があり、まだ通行証を持っていない俺は、そこを通過するために大した金額ではないが通行料を支払う必要がある。

 東西南北それぞれのゲート脇の門番から試験を受けて、そのゲートの通行証を貰うのがこのゲームの最初のクエストなわけだが、現在俺は南ゲートのクエストを受注したまま未達成であり、北ゲートでクエストを受けるにはそれを達成するか破棄するかしなければならない。
 もし進行中のクエストを破棄した場合、もう一度それを受けなおす為には24時間の経過が必要であり、その進行状況もリセットされた状態からになってしまう。

 方法までは知らないが、こういったクーリングタイムをクエストに設けていなかったタイトルで、それを利用してのアイテム増殖チートが行われた事があるらしい。
 当然の事ながらそれを行った人物はあっという間にアカウントBANを食らったわけだが、それ以降全てのタイトルにおいて、クエストやイベント周りの破棄及び再受注についての設定は少し厳しくなってしまっている。迷惑な話だ。

 金を払って街を抜け、そのまま南ゲートに戻って続きをやるのもバカバカしいのだが、もしリミがあの後クエストの達成条件をクリアしておいてくれているとしたら二度手間になってしまう為、このままここで待つ事にする。
 リミの部屋を尋ねた時に中で何かが倒れるような音がしたのは、恐らく俺がデスペナルティで強制ログアウトを食らった後もゲーム内にダイブし続けていたリミが、ベッドから転げ落ちた音だろう。
 だとすれば、南ゲートのクエスト達成アイテムである”黒い甲虫”を入手しておいてくれている可能性は高い。

 一瞬、脳裏にあの馬鹿でかい怪物がよぎるが、まさかあれの事ではないはずだ。
 クエスト完了の為にはインベントリに入っているアイテムを実体化してNPCに手渡す必要がある。 もしあれを捕らえる事がクエスト達成の条件だったとして、複数の人間が一斉にクエスト完了報告をしようとしたらどうなるか、考えただけでも身震いする光景だ。

 そもそも、あれは初心者向けのモンスターではないだろう。最初のクエストをクリアする為にあんなものを倒さなければならないゲームなど、俺なら始めてすぐに萎えてしまう。


「そこのお兄さん、もしかして氷が必要なんじゃない?」

 さて、リミが来るまでどうやって時間を潰そうかと考えていると、ターミナル内を行き交う人混みの中からそんな言葉が耳に届いた。

 声のした方を見ると、長い栗色の髪をポニーテールにした長身の女性が少し離れた位置で壁を背にして立っていて、こちらに向かって手招きをしている。
 白い道着の上に黒い革製の胸当てを付けて袴まで履いているので、見た目から”アーチャー”のクラスなのだろうと思う。
 その隣には青みがかった紫色の髪をストレートに下ろした女の子が地べたに体育座りをしていて、こちらは白地に金と赤の装飾入りのだぼっとしたワンピースのような服装をしている。多分後衛職だろうとは思うのだが、何のクラスなのかまでは推察できない。
 ただ、その大きな碧みどり色の瞳が半分ほど閉じられていて、どことなく眠そうに見えるのが妙に印象的だ。

 
「氷って、何のことだ?」

 手招きに従い二人の前まで行って、声をかけてきた長身の方に話しかけると、その女性は「にししっ」と、まるでいたずらの成功した子供のように笑う。

「やっぱりね、見た感じ初心者ニュービーだろうなと思ったんだ。 あ、あたしはカナデ、こっちの眠そうなのはコトリね。二人ともネーム登録にちょっと記号が混じってるけど、そこは気にしないでちょうだい」

 ……なるほど、記号を混ぜるという手があったか。
 そういえば、リミの奴が決めやがったこのふざけた名前にも記号が入っているが、そのときに気付くべきだった。

「……ああ、よろしく。 それで氷が必要って、何の事なんだ?」

 話の流れ的にはこちらも自己紹介をするべきなのだろうが、俺は挨拶を一言返すにとどめ、同じ質問をもう一度繰り返した。カナデはそんな俺の態度を気にするでもなく、親し気に話しかけてくる。

「いやね、この北ゲートのクエスト達成アイテムが”溶けない氷”っていうんだけど、取ってくるにはこっからあっちへずっと行ったところにある……ほらあれ、ちょい遠くに見えるあの雪山。 あれを登らなきゃならないからさ。登るのは途中まででいいんだけど、やっぱめんどくさいでしょ? もしよければ分けてあげようかと思ってさ」

 ――なるほど、初心者の支援を行うこういったプレイヤーは、どのタイトルにも必ずいるものだ。
 代わりにその後で固定パーティーやらギルドやらに誘われるケースも少なくないが、女二人でそれはないだろう。メンバーを増やすための美人局の可能性も捨て切れないが、そうだとしても得るものはある。

「ありがたい話だが、見ての通り何の礼もできないぞ?」

 俺がそう言うと、カナデは「別にただの親切心よ」と苦笑いを浮かべ、隣で座ったまま事の成り行きを見ていた眠そうな少女、コトリに声をかける。

「コトリ、要るみたいだから作ってあげてよ」
「……うん」

 コトリはなんだかぼんやりとした声でそれに応えると、座ったままの姿勢で両手を伸ばして、空中で何かを包むような仕草をした。
 その手の中に細かい氷の粒のようなエフェクトが集まり始め、それが収まってから手を開いてみせると、その掌の上にはピンポン玉くらいの大きさの丸い氷の塊が乗っている。
 「……ん」と、こちらにそれを差し出してくるのは、受け取れという事なのだろう。

 「ああ、ありがとう」と素直に礼を言って受け取ると、コトリはフルフルと首を横に振った後、今度は俺の目をじっと見つめて、「……ん」と小さく頷いた。
 ――気にするなという事だろうか? なんだか独特の雰囲気の子だ。まあ変わった奴には慣れているので特に気にならないが。

「クエストアイテムを作れるなんて凄いな。”ウィザード”のクラスなのか?」

「いや、ちょっとだけ惜しいけどハズレよ。 面白いから今は内緒にしとくけど、いつかお兄さんのレベルがあたしらに追いついて一緒に狩りするような事があったら、多分びっくりすると思うわよ」 

 俺の質問に、コトリではなくカナデが笑ってそう答える。
 確かこのゲームは初期に選ぶものから派生して、様々な種類のクラスに枝分かれしていく仕様だった筈なので、多分そのうちのどれかなのだろう。
 何のクラスなのか興味はあるのだが、やり込むのが目的でダイブしたわけではないので、残念ながらそういった上位のクラスまでは把握していないし、この先狩りを共にする事もないだろう。

 まあ、ログアウトした後にでも軽く調べてみればいいかと心の片隅に留めていると、「あ、それとね」とカナデが言葉を続けてきた。

「これからSRAをやってくのに、どこかギルドを選んだりするだろうけどさ、”フレンドリーガーデン”って名前のギルドはお勧めしないとだけ言っておくわ。 人数は多いみたいだけど、あんまり良い噂を聞かないしね」

SRAえすあーるえー?」

 恐らくその忠告が俺に声をかけてきた本当の目的だったのだろうが、聞きなれない単語がその中に混じっていたので、とりあえずそちらを問い返す。

Starスター ofオブ Restレスト andアンド the Adventureアドベンチャー、このゲームの略称よ。自分の選んだタイトルでしょうに……」

 カナデは呆れた様子で溜息まで吐いて見せたが、俺にとっては『ああ、なんだ、タイトルの略か……』くらいの印象だ。長居するかどうかも分からないタイトルに、そこまでの思い入れを持ちようもない。

「とにかく、街の中央の噴水横にギルド募集の掲示板があって、そこでいつも募集かけてるギルドなんだけどさ、和気あいあいとした~とかみんなで仲良く~とか書いてあるけど、できれば係わらない事ね」

「なんだか普通の仲良しグループの募集みたいなんだが、どこが危険なんだ?」

 なんとも大雑把な話だし、ひょっとしたらただの私怨で言っているだけかとも取れるカナデの発言だが、内心これは当たりの情報ではないかとピンと来るものがある。
 俺は何食わぬ顔で、初心者らしくそう問い返す事によって話を掘り下げた。

「いや、あんまり大きな声では言えないんだけどさ……なんか加入してメンバーになった人の中で、その後様子がおかしくなったのが結構いるって噂なんだよね。……それも女の子ばっかり。 お兄さんは話した感じ、中身も男みたいだから大丈夫かもしれないけどさ」


 ――ビンゴだ、依頼主からの情報と一致している。
 ……しかし、VRヘッドギアのセキュリティロックを解除しない限りいわゆる”ネカマ””ネナベ”プレイはできないようになっているのだが、そんな可能性に思い至るなんて、こいつの中身の性別が怪しくなってくるな。

 俺の疑わし気な視線に気付いたのかカナデはちょっと驚いたような表情をすると、顔の前でぶんぶんと両手を振って見せる。

「え、いや、あたしは見ての通り中身も女だってば!! あ、見たって分からないか」

「まあ分からんが、信じる事にするよ。 それよりその話なんだが……お、ちょっと待ってくれ、連れが来たみたいだ」

 目の前の女性の本当の性別がどちらだろうと別に興味はないので、重要な情報の方に会話をシフトさせようと仕切り直したところ、遠くから見知ったピンク色がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。

 ちょうどいいタイミングで来たものだ、あいつも会話に参加させよう。カナデは俺相手には話の核心をぼかして伝えようとしているように感じるし、多分女性同士の方が話しやすいだろう。

 そう一人で納得していると、俺の目の前まで走って来たリミはそのままの勢いを殺さずに両足で飛び上がると、俺に見事なドロップキックを決めてきた。

 「ぐほっ」と腹から仮想の空気を吐き出しながら、二人の目の前から弾き飛ばされる俺。
 街に隣接する安全地帯セーフティフィールドの中なのでダメージはないが、衝撃自体は受けるので結構辛い。

「わんちゃん!! リミが居ない間に何ナンパなんかしてるのさっ!! ……うちのわんわんがごめんね、二人とも。 怖くなかった? 何か変な事されてない?」

 俺を怒鳴りつけた後、カナデとコトリの方に向き直って申し訳なさそうに謝るリミ。……こんにゃろう、後で覚えてろよ。

 二人は吹き飛ばされて倒れたままの俺と、腰に手を当てながら俺を睨みつけるリミを交互に見比べると、

「あー、彼女さん待ちだったかぁ。 悪いことしちゃったね」
「……ごめん、ね」

 実に不名誉な感想を述べたのだった。
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