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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 顔無し野郎がゆっくりとこちらに歩いてくる。追撃をするつもりだろう。
 まあ怒らせたのだから当然である。――俺もそのつもりで怒らせた。

「ルシくん! 喧嘩じゃなくて、話し合いで止めないと――」
「……少し黙ってろ」

 アーティが焦った様子で俺達を止めようとするが、今更過ぎるだろう。
 俺が奴に剣を【投擲】したときから――いや、奴が俺を現実(SRA)の世界から無理やり退場させたときからだ。遊び(ゲーム)はすでに始まっている。――奴は俺をおもちゃにしやがった。ならその逆をする権利が、俺にはある。

 ――それに今、なんだか脳の回路がとてもスムーズに回転している。
 これからする行為を、俺がゴミ掃除だと認識したからからだろうか? ”船”と繋がったか? ――まさか、そんなわけないか。

 実際、ここでどちらかが相手を退場させることにはなんの意味もない。
 ここはゲームの中だ。いくら相手を打ち負かしたところで、それは相手を排除したという成果にはならない。
 倒されたとしても、一定時間が過ぎればまたログインすることができる。

 奴の俺への用件は本来、ただどうなったのか”確かめたかった”だけ。
 用が済めば、わざわざ俺など相手にせず立ち去ればいい。――それでは困るのだ。だから用を付け足してやった。
 目障りなハエを駆除する気分ってところだろうか? まあ、なんとでも思うがいい。好都合だ。

 これで奴は、俺をゲームオーバーさせる(やっつける)という無意味な作業を終わらせるまで、ここから立ち去ろうとはしないだろう。
 それに、別に倒されても死ぬわけじゃない。――なんのことはない。”無敵”なのはこちらも同じことなのだ。

「いけませン。いケませんネェ!」

 顔無し野郎が放った右ストレートを【バックステップ】で避けながら、両手の人差し指と親指を伸ばして枠を作る。――”いけません”と来たか。自分が優位に立っていることを意識した発言だ。

「スクリーンショット!」

 枠の中に顔無し野郎の姿を収めつつ、スクリーンショットの音声コマンドを告げる。
 ――とりあえず撮影してみたのだが……さてどう映るのか。

「ハハハッ! 無駄でスヨ!」

 俺がメニューウィンドウを開こうとする隙に間合いを詰められ、右足での回し蹴りが飛んでくる。剣で受け――

「グッゥッ!?」

 ――ようとした瞬間に蹴り足が途中でピタリと静止し、跳ねるような動作からスイッチされて放たれた左回し蹴りが側頭部に叩き込まれる。――そのまま腹を殴られる衝撃。

「がッ!?」

 さらに追撃が来るので剣を盾にして防ごうとするが、見切られて足払いをかけられ剣を取り落としてしまった。――俺のHPバーがじりじりと削れる。

 さっきからスキルのエフェクト光は発生していない。
 奴は格闘技かなにかやっているようだ。――そんなことはどうでもいい。……スキルが使えないのか?

「ワタシは特別でスからネェ! スクリーンショットなどにハ映りませんヨ」
「……そうかよ、飴玉でもくれてやろうか? つーか喋り方きもいって言ってんだろが」

 スクリーンショットに映らないことが”特別”だからだという強調。――スクリーンショットに映らない程度のことを自慢気に”特別”と語るだろうか?

 いや、奴を優位に立たせているのは街中でダメージを与えられるチートの方だ。――映らないのは、その副次的なものか。
 街中でダメージを与えられる能力(チート)と、スクリーンショットに映らない能力(チート)は同一の理由に基づいている。

「弱いくセに粋がるからコういうこトになるのですヨ!」

 頭を掴まれて持ち上げられる。――HPゲージがじりじりと削れる。
 ――おかしい。自分が”強い”ことに快感を覚える質なら俺が一度に受けているダメージ量が少なすぎる。
 ……いや、俺はさっきから自分のHPバーを確認していた。それは、常に一定量をじりじりと削れていっている。蹴りを喰らおうが腹を殴られようが、常に同じ量だけ減っている。
 掴まれている俺の頭が炎のエフェクトに包まれる。”燃焼”の状態異常だ。


 こいつの欲しいものは”特別””優位性”それを得るための手段は”逃避”つまり”安全圏”


 ――ああ、なんだ。解ったぞ。

「……おい」
「なンですカ?」
「人間やめてるのってどういう気分だよ?」

 俺はにやりと笑って言ってやる。相手を馬鹿にするように、なるべく神経を逆撫でするように。

「そういやお前、アーティに振られてんだろ? 悪いな、船もアーティも俺が取ってっちまってよ」
「このっクソガ――」

 まあ、適当なことを言っただけだ。――可能性はあるかな。程度の当てずっぽうだ。
 ただ効果はてきめんだったようで、顔無し野郎は俺の顔面を地面に叩きつけようと腕を振りかぶった。

 ――その瞬間、手の中に【エクスチェンジ】で剣を呼び出す。――なんのことはない普通の『スチールソード』だ。
 だが虚を突かれたタイミングで、目前に突然刃物が表れる。すると人はどういう反射行動をとるか。

「ナっ!?」

 当然仰け反る。下がる。距離を取ろうとする。――俺を叩きつけようとしていた動作に、途中で急激な停止をかけなくてはならない。――体が少し、浮き上がる。
 その一瞬の隙。――重心が浮き気味になっているそこを狙って、俺は顔無し野郎にタックルを仕掛けた。

「ナにヲ!?」

 このまま地面に叩きつけても効果はない。――だが、手品のタネはもう割れてる。
 俺は持ち上げられればそれでよかったのだ。――持ち上げられれば、入れることができる!

「インベントリ、オープン!」

 音声コマンドに反応して、アイテムインベントリが開く! ――俺はその中に、顔無し野郎を叩き込んだ。

「スクリーンショット!」

 俺の勘は正しかったようだ。俺のインベントリに顔無し野郎が吸い込まれるように消え、わけの分からない文字化けしたアイテムとして表示される。
 奴は自分のアバターを”プレイヤー”ではなく”フィールド”属性に書き換えていたのだ。

「――【分解】!」

 本来、街中でプレイヤーにスキルは当たらない。痛みはないとはいえ、衝撃が強すぎるからだ。
 フィールドや建造物にダメージは通らないがスキルは当たる。すぐに修復されるが、この仕様を利用してダーツやらの的当て遊びが流行っていたことがあった。
 街中に別のフィールドが存在した場合――スクリーンショット上の街やフィールドは”背景データ”だ。
 よく分からないが、おそらく背景データとしてスクリーンショットに読み込まれるのは一つだけ。イレギュラーなデータは存在しないものとして扱われるのだろう。

 ――そして、地形ダメージ効果は|安全地帯《セーフティ―フィールド》でも受ける。

 SRAには火山の麓の街や、呪われた森の中の村なんてのもある。その中で地形ダメージを受けないならば、毒沼もマグマの中も泳ぎ放題になってしまう。

 フィールドがインベントリに入るかは正直賭けだったが、まあその辺の石ころを拾ってもインベントリにいれられるのだ、地面だって持ち上げられればでかい石ころだろう。

 アイテムインベントリを見てみると、顔無し野郎が【分解】されたあとのゴミアイテムが入っていた。『熔岩石』が1000個……いらねぇ。というか重量オーバーだ。
 スクリーンショットを撮ったあと、ダストボックスに移動させることにする。

「……あー、最後の捨て台詞とか聞けなかったな。まあいいか」

 どうせただ強制ログアウトを食らっただけだ。――もう会いたくもないが、下手すりゃ今すぐ戻ってくるかもしれないな。

「おーし、アーティ」
「……なんだね?」

 アーティはなんだか納得いかないような、拗ねているような、それでいて警戒しているような表情をしている。

「疲れたし、帰ろうぜ?」
「……帰るって……いいのかね?」

 ――ああ、警戒じゃなくて……怯えてるのか。まあ、情けないところを見せてしまったし、仕方ないか。
 でももう、失くしたものについてぐだぐだ悩むのもめんどうだ。それに俺には、まだやることがあるし。

「いいんだよ。腕付けてくれるって約束だろ? それにさ――」
「……それに?」

 俺は精一杯、作り笑顔にならないように、ニヒルに笑って言ってやった。


「お前の部屋の掃除、まだしてねぇよ。あれじゃ女の子の部屋じゃねぇって」

 
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