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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 俺は目の前の宝剣を引き抜いて【投擲】する。――『レプリカアイスカリバーン』……一本いくらだっけな。まあどうでもいいけど。
 青白いライトエフェクトが虚空を奔り、顔無し野郎の胴体にぶち当たり、砕けて消える。

 ――次の剣を【投擲】する。『スカーレットリリィ』……かなりレアリティの高い剣だ。確か十本分の材料を用意して、九本は作成に失敗した。……完成したときは嬉しかったな。さすがの俺も【投擲】で使おうなんて思えなかった。――それも、砕けて消える。

 ――次の剣を【投擲】する。『フレイムフランべルジュ』……この前作ったやつだ。クロノラが買うとか言ってたっけか。まあ、また材料が集まったら作ればいいか。

 顔無し野郎はされるがまま宝剣の直撃を受けて弾き飛ばされるが、次の瞬間には何事もなかったかのように佇んでいる。

「……ヨろシケれバ、街ノ外へ出テ差し上げマしょうカ?」
「あ? よろしくねぇよ。そこでお喋りしてろ」

 ――【投擲】する。投げた剣はライトエフェクトと化し、砕けて消える。
 それらは顔無し野郎にダメージをまったく与えられてはいなかった。ただ意味もなく砕けて消失していた。……いや、意味ならあった。ただのストレス発散だ。

 俺は自分の根性がねじ曲がっているのを自覚している。【投擲】を好んで使うのだって、おそらくその威力よりも”失う”という行為、それ自体に意味を求めているのだろう。

 今までパーティなんてほとんど組まなかったし、交友関係だって狭く浅いものだった。――それらは、俺にとっていずれ”失う”ことが前提としてあったからだ。……NPCであることが関係しているのかについては、考えたくもないが。
 だから”安全圏”から大事なものを”失う”【投擲】というスキルは、そんな俺の――”逃避”の代償行為なのだと思う。

 ――そんな根性のねじ曲がった俺だから、目の前の顔無し野郎のねじ曲がっている部分が今はよく分かる。恥ずかしいくらいに分かる。おそらく――

「どうせ、フィールドに出ても攻撃通らないんだろ?」
「……そうトハ限りませんヨ? まア、アなたがソれでいイト仰るのでシたらワタシはそれを尊重しましょウ」

 もう一本【投擲】した。――これで五本の宝剣が俺の八つ当たりのために消滅したわけだ。少しはスカッとするかと思ったが、あまり大した感慨も湧いてこない。
 うーむ……それにしても、なぜ【投擲】が当たるのだろうか? 安全圏内(セーフティフィールド)なのに。

「オや? まダ一本残ってイるようでスが、ヨろしいノでスかネ? でハお話を聞かせテくだサい。現実ノ世界はどンなところデしたカ?」
「……アーティから訊いてないのか?」

 俺が聞き返すと、顔無し野郎は両手を広げて首をカクン、と傾げて見せた。――やはり滑稽だとしか思えない。

「彼女ノ話は嘘ばカりでしてネェ。何処へモ辿り着かなイ宇宙船でしたカ? 保存さレていルのハ1000人程だとカ――」
「……合ってるじゃねぇか。ついでに俺はその1000人に含まれてなかったからなのか、めでたく掃除ロボットだよ。お前のおかげでな」

 顔無し野郎は首の角度をキチキチと時計の針のような動作で戻し、キシキシ声で演説を始める。

「ナるホど、なルほド、やはリあナたはこの偽りノ世界かラ! こノ檻かラ解放さレたのデすネ! おメでトうございまス! ……しかシお可哀そウに、彼女に騙されテいルのですネ。解放さレれば全てノ人間に肉体ガ存在すルはずなのでス! 彼女はそれヲ隠していルのでス!」

 俺はアーティの顔をちらりと見た。――アーティは俺と目が合うと、青白い表情で震えながら、ゆっくりと首を左右に振った。

「ナぜなラ彼女は! ワタシの同士達ヲ脅したのでス! ”生命維持装置を切る”ト! ……アア、なんトいウ、悪魔のようナ所業でしょうカ。しかしそれハ! 体が存在していルことガ確かだといウ証拠に他なリませン! 我々ハ抗わなくてハならなイ! コの檻ノ世界かラ解放されルのでス!」

 ……ああ、ここで男性プレイヤーに囲まれていたときか。なるほどな。
 もう一度アーティを見てみると、俯いて拳を握りしめている。――やがて堪えきれなくなったのか、顔無し野郎を射貫かんばかりの視線で睨みつけ、こちらも大声で怒鳴り返した。

「……それは! きみたちが”あんなもの”を使っているからだ! あれはこの世界の、SRAの人間の”自我”を消してしまうんだぞ! きみだって、あれが電子ドラッグもどきとしてどんなことに使われているのか知っているはずだ!」
「彼女らハ解放の為ノ礎となっタのでス。そレに、ソれもアナタが彼女らヲ解放シないからでシょウ」


 ……ん? ふむ。

 さっきまでみっともなくはしゃいでいた俺が言うのもなんだが、なんだか聞いていてバカバカしくなってきてしまった。
 まじかよ――そうか、つまんねぇ……アーティはあれだ、真面目すぎるのだろうか?
 さっきまで感じていた行き場のない”恐怖”や”焦り”そして”怒り”までもが俺の中で小さく萎んでいき、残ったのはどす黒くてネバネバしたものがこびり付いた、”呆れ”だけになってしまった。
 まあいいか。元々機嫌は悪いのだ……八つ当たりは続けよう。

「……なあ、お前さ」
「おヤ、ナんでしょうカ? 最初の解放者ヨ」
「そろそろ普通に喋ったら?」

 顔無し野郎はギシリと俺の方に首を傾けた。――なにを言っているのかね? みたいな動きだ。

「ボイスチェンジャーかなにか使ってるのか? 聞き取り辛いからやめてくれよ」
「アア、これハ失礼ヲしましタ――」
「いや、そういうのいいから。あれだよな、得体がしれないって思われたいんだろうけど、もういい加減めんどいって。その動きとかも見ててだるいし」

 俺は最後の一本の宝剣を拾い上げ、顔無し野郎に思いっきり投擲――するフリをした。
 くるん、と剣が手の中でただ一回転する。……余裕ぶっこいてるが、なるほど”反射行動”ってのはある。落ち着いて観察すれば、一瞬だけびくりと身を固めるのが分かった。

「あのさ、ずっと気になってたんだが。……お前どうして、まず自分にあのピカッってやつやらないわけ?」
「……そレは、ワタシは皆を開放すル義務がアるからデ――」
「だからその喋り方もういいって」

 俺は大きく溜息を吐くと、顔無し野郎に近寄って胴体あたりに蹴りをくれてやった。――びくともしない。逆に俺のHPバーがじりじりと削れた。……くだらねぇ。

「ようは今の自分を取り巻く現状に不満はあるけど、安全が確保されていないと出ていくのも怖いってところか――あとついでに小銭稼ぎ?」

 さらに蹴り続ける。――俺のHPバーだけが削れる。

「まあそうだよな。こんなチートやってるくらいだもんな。臆病者(チキン)なんだろ? お前」

 そう言って、もう一発蹴りをいれてやろうと――

「がっ!?」

 ――すると、俺の方が顔無し野郎に蹴り飛ばされた。……うん、やっぱ相手がその気じゃないとストレス発散にならないからな。
 顔無し野郎はデータの無い顔で俺を睨みつけて、忌々しげに吐き捨てた。

「……救ってやったというのに、このクソガキが」
「なにが救ってやっただよ。おかげで俺は掃除ロボットだ」

 まったく、なんてことしやがる。――ああそういや、おかげで鍛冶以外にも仕事ができたな。
 HPゲージは……半分くらい削れている。蹴られたあたりに”燃焼”の状態異常がかかっていたので、俺はインベントリを開いてポーションを取り出した。――中身を飲んだあと、空瓶をぽいっと顔無し野郎に放る。


 さてと、ストレス発散は済んだし。――次はゴミ掃除しなきゃな。


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