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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 ――目を覚ますと、白い幼女が蒼と碧の大きな瞳で俺のカメラを覗き込んでいた。

「……おはよう」
『ああ、おはよう。この体って眠れたんだな』
「違うよ! 部屋の中を動き回ったり外へ出ようとしたりするから一旦スイッチを切ったんだよ!」
『マジか』

 そう答えると、アーティはぶすっとした表情で透明な俺の頭をコンコンと叩いた。――まさか冗談でなく電源を落とされていたとは――恐ろしいことをする幼女だが、本当に怖いのは俺にそんな記憶がないことだろう。

「まったく、ルシくんのせいで全然眠れなかったよ」

 アーティは軽く拳を握り、不機嫌そうに俺の頭部を叩き続ける。
 ……不機嫌そうに見えるのだが、どことなく叩くのを楽しんでいるような気もする。――そういえば、この半円形の頭部パーツはいったい何の素材で作られているのだろうか?
 プラスチックではないと思うのだが、なんとなく気になるな。――データを照会してみるか。……む? 記録されていないぞ。なぜだ?

『なあアーティ、お前が今叩いてる部分のパーツはなにで構成されているか分かるか? なぜかデータにないんだが』
「……うん? 普通にポリカーボネイトとかじゃないのかな? そんなもの調べてみれば……あ、船との接続を限定したからか」
『どういうことだ?』
「……うーん、えっとね――」

 アーティの説明によれば、俺が今まで自分の中に保存されていると思ってた情報の類は、全て”船”のデータバンクにアクセスして得ていたものらしい。

 ……言われてみれば、掃除ロボットごときにマップ以外のデータまで保存しておく意味はないな。
 この(ボディ)に保存されたデータだと思っていたものは、無意識のうちに”船”の情報バンクにアクセスして得ていたものらしい。
 まあ、どのみち自分の本来持っている知識でないのは同じことだが。――問題は、その無意識のうちに”船”からの命令を受け取って掃除に戻ろうとしていたということだ。

繋がり(パス)を一時的に限定したけど、たぶん”船”からの命令を全部シャットアウトすることはできないと思う……」
『完全に遮断することはできないのか?』

 俺がそう質問するとアーティは呆れたような表情をして、再び俺の頭部パーツをコンコン叩いた。叩き心地が気に入ったのかもしれない。――少し癪なのだが、まあ幼女(アーティ)のすることだ。

「あのね、ルシくんのここに入っているのはなにかな? カメラだよね」

 すっかり子供らしい口調になってしまったアーティが言う。そりゃまあ見ての通りカメラだが、それがどうしたというのだろう。

「……分からないかな? きみの意識とか記憶とかを保存しているのは、その(ボディ)じゃなくてこの”船”なんだよ。人間一人のデータが掃除ロボットのメモリに入りきるわけがないじゃないか」
『む? そういえばそうだな』

 ――これまた”言われてみれば”だ。
 俺のいた世界の”現実に当たる部分”よりも科学技術が進んでいるようだから気にも留めていなかったが、いくら技術が進もうが、本来その機器に必要のない機能まで搭載されているはずがないのだ。”船”とネット接続されているだけでも十分オーバースペックといえるかもしれない。

「いくらVRの世界だからといっても……ううん、VRの世界だからこそかな。”常識”っていう”ルール”にちゃんと縛られているんだよ。SRAでも、プログラムされていないことはできなかっただろう?」
『なるほどな。しかしそれだと、色々おかしな部分もあったぞ』

 あの顔無し野郎はどういうわけか、街中という安全地帯(セーフティフィールド)で俺のHPゲージを削ったのだ。――それはSRAのルールに反することだろう。
 なんらかのチート行為であることは間違いないのだが、一体どういうからくりを使っているのか……。

 早くもカンニング慣れしてしまったようではあるが、こういうとき”船”のデータバンクにアクセスできないのは不便だな。一旦”限定”を解除してもらうべきだろうか。
 俺がそう提案しようか考えている間も、アーティはニコニコと微笑みながら俺の頭部パーツを叩き続けている。……そんなに気に入ったのだろうか?

『なあ、アーティ』
「……なあに? ルシくん? ごめんなさい、かな?」
『ん? なにがだ?』

 アーティはなおも俺の頭を叩き続ける。
 ……む? 笑っているが……もしかするとこれは、機嫌が悪い……のか?

『ええと、なにか気に障ることを言ったか?』
「……僕は、”歳をとれない”んだよ。うん、とれないっていう設定なんだ。ロリババアじゃ、ない。……だからなにもおかしなところなんてないよ? そうだよね?」
『そうだね』

 ……俺の”おかしい”という発言を、自分の年齢のことだと思ったのか。
 まあ、こんな見た目(幼女)でも女性は女性だ。――勘違いなのだが、藪をつついて蛇を出すのも恐ろしい。下手に謝るのもやめておこう……なにか別の話題は――

『そういえば、俺はSRAのNPCだという話だったが、いまいち証拠がない気がするぞ』
「……これ以上ない証拠を提示したんだけどね。そうだな――僕が最初に違和感を感じたのは、クロノラときみがじゃれていたときかな」

 じゃれていたって、あれはそういう内容のものではなかったろう。――というか、こいつも参加していた気がするのだが。

「あのとき、きみはクロノラが手にくっついたまま喋ったのを”気持ち悪い”って振り払ったよね。――そのとき”現実世界”の人間なら必ずやる動作を、きみはしていなかった」
『どんな動作だ?』
「……手に付着したものを拭い取ったり、振り払ったりする動作かな。それに、きみはなにかの匂いを嗅いだりもしないよね」

 ――そりゃ、VRなんだから匂いもしないし、手によだれが付いたりもしないだろう……そういえば”現実”もVRだったな。そっちは”匂い”が存在するのだろうか? 考えてみれば、俺は”匂い”というものをこれまで一度も嗅いだことがないことになる。……うーむ。

「たとえそこに”それら”が存在しないと分かっていても、”それら”が存在することが当たり前になっている人間は、無意識のうちにそういった反射行動をとってしまうものなんだよ」
『なあ、アーティ。俺がなにかの匂いを嗅ぐような状況ってあったっけか?』
「それは僕と――」

 アーティが俺の質問に答えようとしてなぜか急に口を閉ざすと、しばらく視線を空中にさまよわせる――そしておもむろに俺から距離をとると、そのまま自動扉を抜けて部屋の外へ出ていってしまった。

『おい、どうした?』

 慌ててあとを追うが、俺の(ボディ)は一定の速度でしか移動できない。……アーティはどんどん先へ行って他の部屋へと入っていってしまった。
 一体どうしたというのだろうか? まあどの部屋に入ったかは確認できていたので、俺も続いてその部屋に入る事にする。

「……これがこの世界でのVRマシンだよ。――僕は『コクーン』って呼んでる」

 先ほどの部屋と同じ白い空間に設置されていたのは、俺が収納区画で見たコールドスリープカプセルと見た目は同じものだった。
 部屋の隅には2メートルくらいの高さの立方体が設置されていて、その機器から伸びたコードやらホースやらは、楕円形をした『コクーン』の台座部分に接続されている。

 ――見た目は同じなどと述べたが、恐らく丸っきり”コールドスリープカプセル”そのものだろう。最初からこの部屋に設置されていたのだろうか? 子供一人どころか、大人数人がかりでも運ぶのは無理そうだが。

「こっちへきて、このプラグを接続させてもらうね? 僕のコクーンをバイパスしてSRAに繋ぐから。……僕はもう一つ体を通さなきゃいけないから少し待ってもらうけど、それが済んだらきみもダイブできると思う」
『質問の途中だったぞ? なんで急に』
「いや長々と話過ぎたかなって。向こうのことが心配だし」

 アーティは視線を泳がせながら少し早口でそう言うと、さっさと『コクーン』の中に乗り込んでしまった。仕方なくそちらへと近寄ると、(ボディ)の下部あたりにプラグを接続される。
 ……なんだか尻にものを入れられているみたいで落ち着かないが、おそらく充電するときも同じようにするのだろう。

 ――早くも”戻ってきた”ときのことを考えて憂鬱な気分になっている俺に構わず、アーティの乗った『コクーン』の蓋がゆっくりと閉じていく。

「……じゃあ、またあとでね」
『おう、あとでな』

 蓋が完全に閉じてしまうと、部屋には俺と『コクーン』の稼働音だけが残された。
 『コクーン』の中で横たわるアーティは、まるで眠っているかのようだ。…………この蓋って、俺の頭部パーツと同じ素材かな?


 ――なんとなしにそんなことを考えた次の瞬間、俺の意識はなにかに引っ張られるようにしてシャットダウンした。

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