挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

28/33

14

『なあ、これって必要なことなのか?』
「なに言ってるんだよルシくん! 必要に決まっているだろう! ……それに、勝手にいなくなったりするきみが悪いんじゃないか」
『それは、そうかもしれないが』

 現在、俺のシルバーな円筒形の(ボディ)にアーティが黒い油性ペンを使ってマーキング(お絵かき)をしている最中だ。

 あれからアーティは小一時間ほど泣き続け、やっと落ち着いてきたので部屋に戻ったのだが……まさか腕を取り付けるよりも先に、最初の改造がお絵かきとは――。
 なんとも複雑な気分であるが、勝手に移動したのは確かに俺に落ち度があるし、幼女アーティがわりと楽しそうなので強く拒否することもできない。

 色素の薄い頬っぺたと目じりが少し赤くなっているのを見ていると、また泣かれても敵わないので好きにさせておくかという気になるのだ。

 いっそのこと名前の通りゴールドにカラーリングしてくれれば腕付きの奴らに自慢できるのだが、残念なことにそれができる施設と塗料はこの船にないらしい。
 まあ色違いになったところで奴らにそれを羨む感性があるのかは微妙だが。……おそらく感情みたいなものはあるはずだ。掃除のサボりを怒られたし。

「よし! できたっ!」

 アーティが嬉しそうな声をあげて油性ペンを放り投げたので、内蔵カメラを回して何を描いたのか確認してみる。――というか、やはり行動が幼児化しているな。ペンを投げたら床が汚れるだろう。

『ん? なんで羽根なんだ?』

 俺がカメラをニュートラルな位置に固定したとき、ちょうど背中にあたるであろう部分にアーティが描いたのは、可愛らしくデフォルメされた3対6枚の天使の羽根だった。

「なんでって、きみの名前に(ちな)んでだよ?」
『俺は”ゴールドスター”だぞ? 因むなら星じゃないのか?』
「……だから、”金星”でしょ? ”明けの明星””ルシファー”じゃないか」

 うーむ……なにを言っているのかちょっと分からん。――ゴールドスターが金星だってのは分かる。……ルシファーってのはRPGゲームとかに出てくる魔王かなにかだった気がするが、それがどうして金星なんだ?

 ……ああ、データがあった。――明けの明星を指すラテン語であり――光をもたらす者という意味の悪魔・堕天使――それで”ルシくん”なのか。……なんかあれだな、調べててむず痒くなってくる。

 そこまで深い意味はなく、SRAで鍛冶クラスをやるにあたってレストランの星印と同じような感覚で、金の星付き”ゴールドスター”とアバターネームを決めたのだが。――そう言ってやると、幼女アーティは「それじゃ順番が逆だよ」と小さく笑った。……寒いのだろうか? 声が少し震えているようだ。

「――ねぇルシくん、やっぱり帰りたいと思う?」

 ――帰るって、どこへだ? ”現実”か”SRA”か。……まあ俺はNPCなんだから”SRA”か。

『帰りたいというか、作られた存在だとしても人間の体は恋しいな。これじゃ飯も食えん』
「……それは違うよ。きみは作られた存在なんかじゃない」
『さっきと言っていることが違うぞ?』

 俺がSRAのNPCだっていうなら、当然それを作った連中のプログラムしたAIだということだろう。
 違うというのなら、俺はいったいなんだというのか。
 ……また安定しなくなるかと思ったが、その前にアーティが俺の名前を呼んだ。

「ルシくん、きみは”SRAのアカウント”しか持っていなかっただけで、れっきとした人間だよ。いや、あの世界の人々はみんなちゃんと人間なんだ」
『数が合わないぞ?』
「……収納区画を見たんだね。……うん、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、あのね……」

 アーティはそこで一旦言葉を区切って、自分が落ち着こうとするかのように深呼吸をする。
 なんだか浮かない顔というか、世界の終わりを告げる街角の占い師みたいな表情だ。――自分でも半信半疑なのだけれど、間違いなく状況は最悪で、思い違いであって欲しい。

 やがてアーティは俺のカメラを色違いの蒼い目で真っすぐ覗き込むと、泣き笑いみたいな声で告げた。


「……この船もね、VRヴァーチャルリアリティ世界(ワールド)なんだよ。――”人類の未来をかけて、新天地を目指す宇宙船”……そんな設定の、世界(ゲーム)なんだ」

 ――どういうことだ? と訊き返したかったが、ホログラムウィンドウにはなにも表示されなかった。

 ……そうだ。なんとなく感じていた。”設定”に穴がありすぎるのだ。
 コールドスリープ中なのに脳がVR世界で活動している人類、宇宙船には小さな女の子(アーティ)が一人。

 ――そもそも他の星に辿り着いたとして、それからいったいどうしようっていうんだ?

「……僕もね、最初はここが”現実”だと思っていたよ。――でもこの船は何十年経ってもどこへも辿り着かない。……僕の体は成長もしない。歳さえとらない」

 アーティが静かに語るのを、俺はただじっと眺めていた。言われたことを自分の中で整理してみようとしたが、なんの実感も湧いてこない。

『ここから出ようとは思わないのか?』

 それでもなにかを言わなくちゃいけない気がして、出てきたのはとんちんかんな質問だった。
 出られるならばとっくにログアウトしているはずだ。出られないから、ここにいるのだ。

「……思わないよ。あいつは出られると思ってて、しかもここが現実だと勘違いしているみたいだけど」

 ”あいつ”というのは顔無し野郎のことだろう。
 なるほどな、それで”善良な正義の味方”やら”解放”やら言っていたのか……道化にもほどがあるが、現実があって今が閉じ込められているというなら、出たいというのは生物の自然な本能なのかもしれない。

 しかしなぜだろう? アーティは現実世界に行きたいとは思わないらしい。
 俺がそれについて考えていると、アーティはやはり寒いのか体をぎゅっと縮こまって、ぼそぼそ声で呟いた。

「……たまにね、怖い夢をみるんだ。……目を覚ましたら僕は脳みそだけになっていて、ガラス瓶に詰められて、なにかの液体にプカプカ浮かんでる。……白衣を着た科学者の人が、そんな僕を見ていうんだ。”よし、実験は終わりだ。これはもう廃棄しよう”って」
『なんだそりゃ』

 そりゃあまあ怖いかもしれないが、脳みそだけになったらなにも見えないし聞こえないだろう。
 ……しかしきっと、アーティの言いたいことはそういうことではないのだろう。だから俺は黙っている。

「もしこの宇宙船の世界から出られたとして、そこがまたVRじゃないっていう保障はあるのかい? ”現実”の世界で、僕らがちゃんと人間のカタチをしている保障は? 僕はそんな歪ななぞなぞ(リドル)に、進んで挑みたいとは思わないよ……」

 アーティはのろのろと立ち上がると、また部屋の隅のベッドに腰かけた。

「明日、またSRAに戻ろう。……あいつはきっと、きみがどうなったか気になって待ち構えているよ。この話を信じてくれるかは分からないけど、きみからも話してあいつを止めて欲しい。……あいつは”外に出る”ための実験で、すでに一人”消しちゃって”るんだ」

 アーティはそう言ったきり、横になって目を閉じてしまった。やはりまだ眠いのかもしれない。

 ――さっきの話を整理して、俺なりに思ったことを伝えてみることにする。

『まさかロリババアだったとはな』
「……きみなんて掃除機じゃないか。バッテリーぶっこ抜くよ」

 む、それは怖いな。脳みそホルマリン漬けと同じくらい怖い。
 だから俺は、怖さを紛らわせなきゃならない。――なにかが俺の中で警告音を発している気がするが、さすがに恐怖には勝てそうにないのだ。

『一緒に寝てやろうか?』
「嫌だよ、掃除ロボットを抱いて寝るなんておかしいじゃないか」

 アーティはそう返事をすると寝返りをうって反対側を向いてしまったが、少ししてから消え入りそうな小さな声で呟いた。

「でも……起きるまではここにいて。今度はいなくならないで……」

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ