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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 薄ぼんやりとした明かりの中、大きな楕円形のコールドスリープカプセルが大量に並んでいる。

 船の中でもかなり広い空間を占めているこの収納区画を埋め尽くすカプセルの数は、すぐには数えきれないほどである。――いや、1028体だ。ここに眠っている人類の数は1028体。
 ……アーティを入れると1029体になってしまう。それはなぜかとても不自然なことのように思えた。

 他の掃除ロボット達はすでに仕事を開始しているようで、腕付きの奴らはカプセルやその周辺機器に付着した埃を払い、腕無しの奴らは床を這うコードやホースを踏まないように動き回っている。

 収納区画の中心には、直径500メートルは優に超えるであろう巨大なエネルギーコアが設置されていて、1028個のカプセルはそれを取り囲むように放射線状に配置されている。
 球形のエネルギーコアからは無数のコードがまるで蟻の巣のように枝分かれしながら伸びていて、それらは設置された様々な機器を通して、最終的にはコールドスリープカプセルの台座部分に接続されていた。

 ……なんだ、ほとんど掃除は終わりに近いじゃないか。

 決められている清掃ルーチンの消化具合を内蔵カメラで確認して、俺は肩透かしを食らったような気分になった。
 当然といえば当然である。この船の乗組員はアーティを除いて全員がカプセルの中なのだ。ここを出入りするものなど掃除ロボット以外には存在しない。
 これなら俺一体がサボったところで大して変わりはないと認識するのだが、だからといってそれが職務を遂行しない理由にはならないだろう。
 ――とりあえず、軽く一周してから毛布を取りに戻るとしよう。……ついでに現状も把握しておくか。

 お仲間たちを見習って床に張り巡らされたコードやホースを踏まないように移動しながら、俺は自分の中に記録されているデータを照会する。
 ……大丈夫のはずだ。俺は”ゴールドスター”だ。――掃除をしてはいるが、アーティに言われた通り自我は保っていると思う。
 なにかに流されているという自覚はあるのだ。それだけでも掃除ロボットに成りきってしまったわけではない証拠だと思う。
 ……こんな体になってしまって、焦ったり自棄になったりもしていない。
 それはロボットだからなのかもしれないが、現状ではプラスに働く要素(ファクター)なので良しとしよう。


 どうやらこの”宇宙船”は、気の遠くなるような桁数の製造番号以外の名称を与えられていないらしい。

 一纏めにして『プロジェクトフューチャー(未来)』という安直な名が与えられているようではあるが、それはまるで冗談が苦手な人間が、無理やり捻りだしたブラックジョークみたいに笑えない。
 ……なので俺は、この宇宙船をただ”船”と呼ぶことにする。

 船の目的は実に単純(シンプル)なものだ。――ただ”住める星を見つけて、そこに移住する。”
 いまどきB級映画ですら使い古された設定だろう。本当にやる奴がいるなんて、とても正気とは思えない。

 ……しかしもしかしたらその映画の設定も現実を基にしたものなのかもしれないな。と、俺はコールドスリープ中の人類を見ながら考える。
 彼らはコールドスリープの中で、脳だけはVR世界で活動し続けている。――そこが現実だと信じて。

 ……いや、おかしくないか?

 ――ふと、思考の片隅に酷い違和感を覚えるが、それがなにかは分からなかった。
 さっさと掃除を済ませてアーティのところに戻った方がいいかもしれないな。考えすぎるとまた”安定しなくなる”気がする。

 俺は来たときと同じ搬送用エレベータへとキャスターを進め、ほとんど音も立てずに開いた扉を通って乗り込む。――俺の姿を見とがめた掃除ロボットが数体いたようだが、幸いにも喧しい警告音を鳴らされる前に扉は閉じた。


 ……しかしまあ、この船の人類が1029人しか存在しないのならば、俺がNPCであるという事実も受け入れざるを得ないな。
 なにしろVR世界とはいえ実際の世界の経済やらを回すのに、1029人では少なすぎるだろう。そうなると、あの世界ではSRAの中だけではなく、現実までもがほとんどNPCで構成された世界だったのだろうか? ――だが、どういうことだ? 確かにアーティは俺を”人間”だと言った。それは矛盾するのではないだろうか?

 ……やめよう。考えすぎると安定しなくなる。
 早くアーティのところへ戻ろう。俺は”ゴールドスター”だが、なぜだか今は”ルシくん”と呼んでもらう必要があるようだ。
 いっそのこと、腕を取り付けるついでに録音機能も付けてもらえないだろうか……しかしなぜかそれを伝えることは、してはいけない行動だという気がする。――必要な音声データなのだが、困ったな。

 エレベータを降り、アーティの寝ている部屋を目指してキャスターを進める。窓拭きをしていた腕付きの奴はもうどこかへ移動したようだ。
 そういえばあいつの個体番号を聞いておくのを忘れていたな。……まあいいか、窓を拭くのに腕は一本で十分だろう。――窓か。

 俺は丸窓から見える真っ暗な空間を、カメラをズームしてもう一度眺めてみた。――これはスクリーンではなく窓なのだ。正真正銘、外には宇宙が広がっている。
 科学技術が進んだとはいえ、まさか宇宙旅行をすることになるとは思わなかった。……俺は海外にすら行ったことがないのだ。
 誰かに自慢してやりたいが……もしSRAに戻れたとしても、こんな話を信じてくれる人間はいないだろう。

 毛布の置いてある部屋の前を通りかかったとき、どうするべきかと少し迷ったが結局素通りすることにした。
 上手く運べるか分からないし、アーティに名前を呼んでもらうためには一度起床してもらう必要がある。申し訳ないのだが、そのあと寝室に移動して寝直してもらうことにしよう。

 ……どういうわけか自分が少し焦っていることは自覚している。――しかし、この(ボディ)は一定の速度でしか移動することができない。
 少し壁に擦ってしまいそうになりながら曲がり角を曲がると、白い廊下の向こうに白い幼女の姿が見えた。――アーティだ。

 あれから2時間ほどしか経過していないが、もう睡眠はいいのだろうか? アーティは円筒形の掃除ロボットと話をしているようだ。――なぜだろう? 少しイラッとした。

「……――! ――――!!」

 なにを話しているのだろうか? アーティはこちらに背を向けていて、俺に気付いてはいないようだ。
 マイクの収音レベルを上げながら近付く。……どうやらアーティは俺を探しているようだった。――というか、俺と他の掃除ロボットを勘違いしているようだ。

「ルシくんっ! お願いだからなにか言ってよ! ……どうしよう、やっぱり話し過ぎたんだ……ごめんよ……ごめんよ…………消えないでって、言ったのに……」

 うーむ、背後まで近寄っても俺に気付いた様子はない。
 ――うなだれて声を滲ませるアーティに、お仲間も困ってしまっているようだ。……仕方のない幼女だな。

 俺はキャスターを動かして、アーティの背中に手加減した体当たりをしてやる。

「きゃっ!? あ、あれ? ……えっと?」
『なにをやっているんだ? そっちは俺じゃないぞ』
「ルシくんっ!? ルシくんなんだねっ!」

 ――そうだよ、ルシくんだ。……ああ、落ち着いた。やはり録音機能も追加した方が――

「ルシくんっ! どこ行ってたのさっ! 僕を一人にしてっ!!」

 ――幼女アーティは、俺がなにかをいう前にがばっと抱き着いてきて、そのままずるずると座り込んでしまった。

『どこって、毛布を取りに行っていた』
「……ルシくんっ! ルシくんっ……ぅぅ……ぐす……」

 ……どうやら泣いているみたいだ。
 ちょっと離れただけなのに、アーティはこんなに泣き虫だったのだろうか? 気付けば喋り方も少し変わった気がするな。――やっぱり(ボディ)の影響を受けているのだろう。

 そういえば、毛布を取りに行ったと告げたが、俺は毛布を持っていない。……まあいいか、それどころじゃなかったのだし。

 ……考えてみればなにを焦っていたのか分からないが、今は安定している。
 俺はアーティが泣き止むまで、黙って声を聴いていた。
 
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