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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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『アーティ、質問に答えて欲しい』
「うん、なにかな?」

 仕方なく名前で呼んでやると、アーティはすぐに機嫌を直したようだ。
 掃除だけでなく幼女のご機嫌取りもできるとは、この(ボディ)はかなりの高性能(ハイスペック)のようである。……いやまあ、最近はそういう家電も珍しくないが。

『お前は俺のことをNPCだというが、俺はちゃんとログアウトして睡眠とって朝飯食ってからログインしたぞ?』
「……うん、その朝ごはんなのだが、きゅうりの漬物とご飯だと言っていたね?」
『そうだが』

 俺は基本的にパンよりご飯派であるからして、朝食は白米だ。
 そして懐具合が寂しいときだと大抵は白米にもう一品、漬物かにぼしである。

「……ご飯とお漬物、それは『プロメテウス』の比較的安い宿屋の朝食と同じ内容なのだよ」
『それがどうかしたか?』

 腹が膨れることはないがVRゲームの中でものを食べるのは可能であるからして、ゲームの宿屋にも食堂などは存在する。
 そもそもゲーム内で飲み食いできなければ『ポーション』などの魔法薬を飲むこともできないわけで、もちろんゲームの楽しみ方の一環としてではあるが、喫茶店や屋台なんてものまであるのだ。

 ――そんな中、俺の朝食の内容と宿屋の朝食の内容がたまたま被っていたからなんだというのだろう?

「うーん……じゃあルシくん、きみは昨日何時に寝て何時に起きたんだい?」
『覚えていないな』
「どこからログインしたのかな? 自宅はどの地方だい?」
『リアル情報だぞ、おいそれと答えられるわけがないだろう』

 まったく何を言ってるんだこの幼女は……自宅か、うちは石造りの壁に木の屋根がついた普通の家だ。
 周りの建物とそう変わったところもない、一般的な建造物だ。

「うーん……きみはさっき自分がお掃除ロボットになってしまったことを知ったとき、名前を”ゴールドスター”だと名乗ったよね?」
『そうだ、俺は掃除ロボット”ゴールドスター”だ』
「……うん、もしかしたらそのアイデンティティも持っておいた方がいいのかもしれないね。……本当に消えないでね? ……ルシくん、きみの本当の名前はなんだい?」

 ――本当の名前? 本当もなにも、俺のアバターネームは”ゴールドスター”だろう。

 本当……本当……現実(リアル)の名前ってやつか? そんなものは決まっている。――そんなものは決まっていない。

「ルシくん、きみの年齢は? 職業は?」
『職業は鍛冶屋だ。年齢は……まだ10代だったはずだ』

 うむ、俺はまだぴちぴちの10台だ。……一人暮らしをするようになってからは誕生日を祝ったりしなくなったから、はっきりとした年齢まではちょっと忘れてしまったが。

「親はいるのかい? 一緒に暮らしている?」
『親はもう他界している』

 そう答えるとアーティは「そう、ごめんね」と呟いて、考える僕っ娘ポーズを始めてしまった。
 なんだか幼女姿のアーティがそれをやっていると、考え事をしているというよりただのおしゃまな子供に見えてしまう。

「……ルシくん、ゲームの鍛冶なんかで食べていくのは難しいよ。生活費はどうしているの?」
『ん? 昔は普通に会社勤めしていたからな。定年退職したんだが、それまでに貯金も結構していた』
「……そう。なにか気付いたことはない?」
『別にないぞ?』

 俺がそう答えると、アーティは溜息を一つ吐いて部屋の隅の白いベッドに腰かけた。――なんだかなにかを諦めたような、それでいてなにかに安心したかのような、中途半端な溜息だった。

「……クロノラの好意に気付いてないところといい、やっぱりセーフティがかかってるんだろうな。どうしよう……外さない方がいいのかな」
『なにか言ったか?』
「ううん、なにも。…………聞こえないんだ、なるほど」

 小さな声でぼそぼそと呟いているかと思えば、急にこてんとベッドに横になり、それっきり寝息を立て始めるアーティ。……子供だけあって寝付きが早いな。もしかしたら疲れていたのかもしれない。

 ……聞きたいことはまだまだあるのだが、今は寝かせておいてやるとしよう。

 しかし、どうしたものか……。
 部屋の掃除は――まだできそうにないし、起こしてしまっても可哀そうだ。
 それにしてもよく寝てるな……ほほう、睫毛も白いのか。
 毛布でもかけてやりたいのだが、俺には腕がないからして無理だ。そもそもベッドの上には毛布や掛布団の類は見当たらない。

 ――そうだな、ここが一体どこなのか気になるし、ちょっと周囲を見てくるついでに毛布も探してこよう。
 上手くできるか分からないが、もしちょうどいい位置に置いてあったりすれば、頭の上に乗せて運んだりもできるかもしれない。

 部屋の外へと続く扉は、俺が近づくとプシュッと空気の抜けるような音を立てて横開きに開いた。
 キュルキュルとキャスター音を響かせながら通り抜けると、扉が自動で閉まる。……随分と閉じるのが早いな、うっかり挟まれたりしないだろうか?

 部屋の外には長い一直線の廊下が左右に続いており、20メートル置きくらいに分厚いガラスの丸窓が並んでいる。窓の外は真っ暗だ。――いや、小さく星が見える。これもホログラムだろうか? 窓ではなく夜空の映像を映すスクリーンなのかもしれない。

 夜空のスクリーン以外には何もない白い廊下かと思ったが、どうやらアーティの部屋の入口と同じような扉が等間隔に並んでいるようだ。
 これでは部屋を覚えておかなければ迷子になってしまうな。――いや、マップは頭の中に入っているようだ。これなら大丈夫だろう。
 毛布の置いてある部屋は……そんなに遠くないな。
 廊下の端まで行って右へ曲がればいい。あとは道なりだ。

 窓の外をときおり眺めたりしながら、またキュルキュルと移動して毛布のある部屋を目指す。
 しかしアーティの部屋に置いてなかったということは、彼女は普段寝るときに毛布を使わないのだろうか?

 ――ああ、違うのか。さっきの場所もアーティの部屋ではあるが、主に作業場として使っているようだ。
 寝るときは別の部屋を使うらしい……というか贅沢なことに、この船にある部屋のほとんどがアーティの私室のようだ。……船?


 俺が艦内のマップをもう一度見直して内蔵カメラを傾げていると、曲がり角の向こうからでかい円筒の(ボディ)に透明な半円の頭を乗せた掃除ロボットがやってきた。
 そいつは夜空の映像を映し出すスクリーンの前で停止すると、体の真ん中あたりにある小さい蓋のようなものをパカッと開いて、中から骨組みだけのひょろっちい作業用アームとフェルトの窓ふきを取り出している。

 ――うーん、あれが”腕”かぁ……あればあったで便利だろうが、せめて二本は付けて欲しいな。

 せっせとスクリーンを磨いている掃除ロボットを眺めながらそんなことを考えていると、そいつは俺に気付いたのか、キュルキュルとキャスター音をさせながらこちらへ近寄ってきた。

『む? なんだよ? 腕の自慢でもしようってのか?』

 言葉が通じるかは分からないが、なんとなく話しかけてみることにする。
 ……別に悔しいわけではない。悔しいわけではないのだが――

『悪いが俺は二本付けてもらうつもりなんだ。今はお前の方が一本多いかもしれないが、そのうち俺の方が一本多くなるぞ? まあお前が頭を下げて頼むっていうなら』

 ――ビー! ビー! ビー!

 うわっ、警告音を鳴らしてきやがった! こいつの分の腕も頼んでやろうかと思ったのになんて奴だ!
 首がないから頭は下げられないとでも言うつもりだろうか? 腕付きだからって偉そうにしやがって、これは友達にはなれそうにないな。……腕が付いたら見せびらかしてやろう。

 ――ビー! ビー! ビー!

 うるさい奴だな、なにを怒ってやがる……ん? 俺が掃除をさぼってる? 馬鹿な、そんなはずは……。

 …………しまった。確かにさぼってるな俺。これでは怒られて当然である。
 ううむ、毛布を取ってこなくてはいけないのだが、職務放棄をするわけにもいかん……仕方がない。部屋の温度は適温だったし、幼女アーティが風邪をひくことはないだろう。
 幸い残っているのはコールドスリープ中の乗組員達を収納している区画だけだ。さっさと済ませてアーティのところへ戻るとしよう。
 ……しかしサボっていたのに気付かせてくれるとは、なかなか気の利く奴なのかもしれないな。
 やはりこいつの分の腕も頼んでやるか。窓ふきするのにアームが二本必要になるかは疑問だが、あって困ることもないだろう。

 俺はサボりを教えてくれたお仲間に『ありがとよ』と挨拶すると、搬送用エレベータへ向かってキャスターを進めだした。

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