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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 ――白塗りの部屋だ。
 壁もベッドも白いし、置かれているテーブルも白い。
 床も白いが、これは正方形のタイルを組み合わせてあるようで、溝の部分だけ僅かに灰色だ。
 窓はない……が、ホログラムの観葉植物が置いてある。
 植物の種類は分からないが、まあ木に葉っぱがついてる普通のやつだ。本物と区別がつかないが、植木鉢ではなく投影装置のようなものから生えているので映像なのだろう。

 視界の焦点が合ってくると、灰色のコードやら何かの部品やら、部屋には白くないものも結構あることに気付いてほっとする。――なぜか溜息はでなかった。

「よかった! 起動した! ……ルシくん、僕が分かるかい?」

 ――声のした方へ視界を回すと、なんだか真っ白の幼女がいた。

 背中あたりまで伸びた細く銀色の髪、色素の薄い肌。
 前髪は真っすぐに切り揃えられている。たぶん10歳にならないくらいだろうか? 全体的に整った顔立ちで、きっと将来美人になるだろう。
 ……左右の目が僅かに違う色のようだ。昔映像で見た事がある、綺麗な夏の海のような蒼い瞳なのだが、片方が少し緑がかっている。

『ここは、どこだ?』

 問いかけようとしたが声が出なかった。――代わりに俺の正面にホログラムウィンドウが浮かび上がり、そこに文字が表示される。
 何か大きな病気などで手術をして、すぐには喋る事ができない患者がこうやって会話をしているのを見たことがある気がする。……俺はあの後、声が出せないほどの重傷を負ったのだろうか? ゲームの中で?

「……ここは、僕の部屋だよ。安心していい、とは言えないけれど、SRAの外だよ。……自分の状態が分かるかい? ちゃんとルシくんだよね?」
『声が出せないぞ。俺はどうなったんだ?』
「……それについてはゆっくり説明しようと思う。それより、どこまで意識をサルベージできたか分からないんだ、ちゃんと自我はあるかい?」

 自我はあるかだと? ……われ思うゆえに――ってやつだろうか? ちゃんとあると思う。俺はSRAのプレイヤーで名前は”ゴールドスター”だ。
 ……ん? 俺を”ルシくん”なんて呼ぶって事はひょっとすると目の前の幼女は――

『アーティか?』
「そうだよ! 僕だ! よかった、ちゃんと僕の記憶もあるんだね!」
『SRAは一応15歳未満のプレイは禁止のはずだぞ』

 目の前で飛び跳ねんばかりに喜んでいるこの白い幼女はやはりアーティらしい。
 チートしていただけではなく年齢制限まで破っていたとは、親のしつけがなっていないな……。

「失礼な。これでもおそらくきみより歳は上なんだ。それにあっちの体ならちゃんと15は越しているはずだよ」
『あっちの体?』
「きみにとって”現実”と呼んでいただろう世界かな。もっともきみは本当に現実に戻った事はないみたいだけれど……あーもうっ、どこから説明したらいいのだろう」

 幼女アーティは両手で頭をかきむしると、困った表情でうなだれてしまう。
 そしてしばらく黙り込んだあと、やがてぽつりと「どうしてこんなことしちゃったんだろう……」と呟いた。

 アーティの顔は何故か俺の視界より僅かに高い位置にあるので、少し泣いているのが見えてしまった。
 無意識に手を伸ばして涙を拭ってやろうとしたが、どうやら俺には手が存在しないようだ。――不便だな。

『って、おい、なんか落ち込んでるとこ悪いんだが、俺の体はなんだこれ? でかい空き缶みたいになってるぞ!?』
「……うぐ、申し訳ないんだが、その体しかちょうどいいのがなかったんだ。……あとで改造するから許してくれたまえよ」

 ――改造!? 改造って言ったかこの白幼女!?
 俺はできるだけカメラを回して自分の姿を確認する。……どう見てもただの円筒だ、足すらない。

 ……ああいや、移動はできるみたいだ。キャスター式だろうか? 地面との接地面にブラシが付いているのが気になるが。

『なあ、俺の体はなんだこれ? なんだこれ? せめてまずはそれだけでも教えてくれれれれ』
「ちょっと!? ルシくん落ち着いて! 頼むから自我を保ってくれ! きみはルシくんだ、器が変わってもそれは変わらない。頼むから”消えないでくれ”」
『落ち着くくくかららら教えてくれれれれ』

 ――大丈夫だ。なんだか呂律? が回らないだけだ。自分がどんな姿をしているのか分からないから落ち着かないだけだ。多分そうだ、教えてくれたら落ち着くはずだ。
 そう言いたいのだが、ホログラムウィンドウには『だいじょうぶうだじbbおしえt』と、訳の分からない文字の羅列しか表示されない。

 早く教えて欲しいのだが、アーティはおろおろと取り乱すばかりだ。仕方がないので腹のあたりに何度も体当たりをしてやる。……もちろん相手は幼女だ、手加減はしている。

『おしえrおしえr』
「きゃっ! わわわ、分かったから、落ち着いて聞いてくれよ? 本当に”消えないで”くれよ?」

 早く教えてくれ! 消えるというのが何か分からないが、このままだと安定しないのだ。
 安定しないと正常に動作でkない、こわrてしまう。

「……ルシくん、きみは今”お掃除ロボット”だ。艦内の床のごみを吸い込むやつだ」
『掃除ロボットだと……?』

 改めて自分の体を見下ろしてみる。……そうだ、見たことがある。というか使った事もある。家の中のごみを掃除するやつはもっと小型だが、これはマンションなどのラウンジとかエントランスを掃除するタイプのやつだ。
 ――ああ、すっきりした。俺は掃除ロボットだったのか、なるほど。

「あの、ルシくん? 大丈夫……?」
『ありがとう、大丈夫だ。俺は掃除ロボット”ゴールドスター”だ。部屋を綺麗にする』

 さっそくアーティの部屋を動き回って掃除を開始する事にする。――む、ガラクタの類が邪魔だな。これらは吸い込むことができない。吸引口が詰まってしまうからな。

「ルシくん!? 落ち着いて! きみは人間だよ! それと掃除は後でいいよ!」
『む? そうか』

 白い幼女が俺の体に抱き着いてきて止めるので、俺は言われた通り掃除を中断する。
 どのみち床に散らばっている何かの部品やらホースやらを片付けてもらってからでなければ、まともに掃除できそうにないのだ。……やはり腕は欲しいな、改造するなら付けてもらう事にしよう。

「困ったな……やっぱりNPCだっただけあってアイデンティティが薄いんだろうか」
『NPCだと?』

 俺が問い返すと、白い幼女(アーティ)は「しまった」と呟いて口元を抑えて黙り込んだがもう遅い。
 再び何度もエラーメッセージを吐き出しながら質問を繰り返すと、アーティは観念したのか「絶対に消えないでくれよ」と前置きをしてから話し始めた。

「きみはSRAの世界でプレイヤーに紛れ込まされているNPCノンプレイヤーキャラクターの一人だよ。他のプレイヤーに気付かれないように人口をかさ増しするのと、物の流通を調整する役割を担っていた」
『俺は人間だぞ?』
「……そうだよ、間違いなく人間だ。”SRAの世界の”ね」

 意味が分からない。古い映画じゃあるまいし、この幼女は俺がAIだとでもいうつもりだろうか?
 俺は間違いなく生身の人間だし、今朝だってきゅうりの漬物と白米を食べてからVRヘッドギアを被ってSRAにログインしたのだ。ゲームの世界の住人だなんてありえない。
 ……いや、違う。今は掃除ロボットだった。あとで掃除をしなくては、部屋の片づけはいつするのだろう?

「どう説明したらいいのか僕にもまだ整理できていないんだけど、間違いなくきみは人間だよ。そこは間違えないで欲しい」
『いや、掃除ロボットだろう?』
「だから自我を保ってってば! きみはルシくん! 今は掃除ロボットだけど元人間なの!」

 うーむ、よく分からない。
 人間である俺の意識をロボットに移し替えたというのはなんとなく想像できるのだが、それならSRAのNPCってのはおかしいだろう。

『おい、僕っ娘。俺がNPCだっていうなら、朝飯食ってからログインしたのはどういうわけだ?』

 問いかけると、何故か幼女アーティはぷくっと頬を膨らませて黙り込んでしまった。……何か気に障る事を言っただろうか? こんな体になってしまった今、けっこう切実な質問なのだが。

「……アーティだ」
『ん?』
「アーティだよ! 僕はアーティ! さっきは呼んでくれたじゃないかっ!」

 どうやら名前で呼ばない事を怒っていたらしい。
 それにしても、こんな簡単に癇癪をおこすようなやつではないと思っていたのだが……自分の見た目の影響を受けているのだろうか? 難儀な奴である。
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