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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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「……”何”だ? あんたは」

 かろうじて喉の奥から出た声は、自分のものとは思えないほど掠れたものだった。――これでも努力した方ではあるが、おそらく動揺を隠しきれてはいないだろう。

「ワタシですカ? ワタシは――――ですヨ。まア、ソう警戒しなイデクださいヨ、これでも善良ナ正義ノ味方ナノですカラ」

 ――善良な正義の味方だと?

 確かにまあ灰色のスーツ姿は、ある意味善良な一般市民の象徴といえなくもないが、ファンタジージャンルのVRゲームでは逆に怪しすぎる事この上ない。
 それに、スーツを着ているからといって誰もがまともな人間とは限らないだろう。人を見た目で判断してはいけないのである。……目の前の人物は見た目からしてなんだかヤバいが。

「それで、その正義の味方さんとやらが何のようだ? もしかして職務質問か? さっきから”キシキシ”喋りやがって、怪しいのはそっちの方だと思うんだが」

 今度はまともに声が出たと思う。――喋りながらさりげなくインベントリを開き、『転移水晶(ワープクリスタル)』を二つ取り出してポケットに滑り込ませる。

「あア、ちょっト待っテくだサいネ。なかナかチューニングが合わナくて……アー、アー、アー、あー、これでいいでしょうカ?」

 顔無し野郎は俺の行動に気付いているだろう。
 だが特に気にした様子もなく何度か発声練習のようなものを始めると、やがて少し違和感が残るがまだマシな言葉で話し始めた。

「あなたは、この世界ガおかしいと感じた事はありませんカ?」
「……世界?」
「ソうです、世界でス」

 俺が問い返すと、広げていた腕を戻し揉み手を始める顔無し男。……いや、男なのか女なのか正直はっきりしないが、スーツの仕立てと体格からして男性だろうと思う。
 しかし”世界がおかしい”とはどういう意味だ? そもそも”世界”というのがどこからどこまでの事を指しているのかが判然としない。
 この場合はゲームにダイブ中であるからして、やはりSRAの事を言っているのだろうか。

「なんだ? バグでも見つけたってのか? ……もしかしてその顔バグってんのか? それなら俺に言うんじゃなくて、公式ホームページから問い合わせろよ」
「バグ! そう! バグだらけなのでスよこの世界は! そしてワタシはそノ”バグ”を探しているのでス。イエ、この世界にとっテ”バグそのもの”ともいえますネ。飲み込みが早くて素晴らしイ!」

 またも両手を万歳の形に掲げたかと思えば、次に腕をぶんぶんと振り回しながらオーバーな身振り手振りを交えて演説を始める顔無し男。
 ……これは絶対に係わっちゃいけない奴だ。俺はちらりと背後に視線を送った。

 アーティの周りを取り囲んでいた男性プレイヤー達はすでに居なくなっている。
 向こうも俺に気付いたらしく、アーティがこちらに駆け寄ってきているところだ。……ずいぶんと焦った顔をしているな。ああ、転んだ。
 とにかく合流したらすぐに『転移水晶(ワープクリスタル)』を手渡してここから移動しよう。
 アーティの用事とやらがもう済んだのかは分からないが、まあ日を改めてもう一度連れてきてやるくらいしてやってもいい。――とにかく今は、目の前のよく解らないモノから離れるべきだ。

「おやオや、彼女に見つかってしまったようですネ。勧誘がまだ済んでいナいのですガ……」

 勧誘だと? ――キシキシ声が間近から聞こえて、俺は驚いて視線を正面に戻す。

「がっ!」

 いきなり視界を塞がれて体が宙吊りに持ち上げられた。
 足が地面に着かない。片手で持ち上げられているのか、これは。
 視界の端でHPゲージがじわりと削れるのが見える。――何故だ!? ここは街中だろう!?

「やめろ! ――――! その人はっ――」

 アーティの声が聞こえた。……それほど離れた位置ではない。俺はポケットの中のクリスタルをいつでも取り出せるように握りしめる。

「……何をする気だよ。街中でPK(プレイヤーキル)とか聞いたことないぜ」

 どうにか言葉を絞り出してこちらに注意を引き付ける。……ないぜ! とか言っちゃったよ。なんか雰囲気的に勝手に出ちゃったんだけど、格好つけすぎて逆に痛々しかったかもしれない。これは戻ったら赤面ものだな。

「ナに、たダノお誕生日会ですヨ」

 顔無し男が俺を宙吊りにしたままキシキシと嗤う。
 痛々しさはこいつの方が圧倒的に上だろう。だから俺は”現実”を突きつけてやる事にする。

「そうかよ。ログアウトしたらSRAの運営に直接電話して通報してやるからな。チート野郎」

「……|オ誕生日オメデトウ《happy birthday》」

 ――何かぴかっと、光っただろうか?
 意識が急速に薄れていく、強制ログアウトとは違う、これは、なんだ……?


「彼は! 彼は違うぞ! ああ、なんて事をしてくれたんだ!」
「ちがウなんて事はありませんヨ。皆、解放を望んでいルのでス」
「だから何度も言っているだろう! きみたちは大きな勘違いをして――」

 何か言い争っているのだろうか、アーティが杖を抜いたのが見える。
 やべえな、俺も戦わないと…………

「その反応! ああ、羨ましいですネェ。彼が解放ノ第一人者に――」

「僕は……そんな事は……」


 ……俺も、戦わないと(守ってやらないと)
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