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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 その後”ダンディディーヴァ”からの泥団子投げやちょび髭アタックなど、各種嫌がらせとしか思えない攻撃を凌ぎつつ橋を渡り切った俺達は、街までの道のりをまた馬車に揺られて『イカロス』まで辿り着いた。

 沼の歌姫共がやけにすぐ泥団子を投げてくると思ったら、橋に踏み込んだ時点でアーティが”混乱”の状態異常にかかっていたらしい。
 ”混乱”といっても軽く遠近感が狂う程度で、例えるのならば度の合わない眼鏡をかけさせられたような効果なのだが、VRオンチの僕っ娘には相当きつかったようだ。

 馬車に乗っている間もずっと青い顔をして黙り込んでいるアーティに、何度か一旦ログアウトして休んでくるように言ったのだが、面倒はかけられないと断られてしまった。
 ……いや、いちいち視界の端で「うぇっぷ……」とえずかれる方が迷惑なのだが。もしかすると美少女ならばそれもありという上級者もいるかもしれないが、俺としてはなしだ。

「着いたぞ、僕っ娘。一人で歩けそうか?」
「うむ……ありがとう、問題ない。だいぶ落ち着いたよ」

 まだ若干ふらついているように見えなくもないが、気丈に振る舞うアーティ。
 心配ではあるのだが、昨日今日会ったばかりの相手だし、俺だって暇なわけではない。アーティにはアーティの用事があってこの街まで来たのだろうし、係わるのもここまでだろう。

「しかし、久しぶりに来たが。相変わらず過疎ってるな」

 人も多く、街中に街路樹や噴水などが設置されていて賑やかな雰囲気の『プロメテウス』とは違い、『イカロス』は石造りの街並みなのは同じだが人は殆どおらず、かわりに何に使うのか分からない機械仕掛けの建造物が多い。
 民家と思わしき建物の壁にまで大きな歯車がくっついているのは、デザイン以外に何の役割があるのか謎である。

「ゴールドスターさん、この近くだと火山がありますよ! 一緒に行きませんか?」
「断る。パーティは解散するぞ」
「そんなっ!?」

 手早くパーティメニューを開き、解除の項目をタップする……その前に、一応聞いておくか。

「おい僕っ娘――」
「なんだね? ああ、そういえば約束のアイテムをまだ渡していなかったね」

 一人で平気か? と言葉を続ける前にトレード申請が贈られてきて、その上に帰りの分の『転移水晶ワープクリスタル』と『イエロートパーズ』が表示される。
 お金まで表示されていたが、なんとなくそれはキャンセルしておいた。……本当になんとなくだ。

「さて、それではここでお別れだね。二人とも助かったよ、ありがとう」
「いえいえ、アーティ様の頼みとあらばこの(つるぎ)、いつでも馳せ参じますよ!」

 いつの間にやらクロノラのやつは、念願の剣へのクラスチェンジを遂げていたらしい。今度俺の店に来た時には、剣が剣を買いに来ることになるわけだ。

「うん。ありがとう。また何かあれば頼むかもしれないな」
「何なら一緒についていきましょうか? アーティ様、一人だと転びますし」
「いや、遠慮しておくよ。個人的な用件で人に会いに行くのでね」

 俺が言おうとした台詞を先に言って断られるクロノラ。
 ……さっき言い出さなくてよかった。いや、なんか下心とかがあるわけではないのだが、それでも断られると多少恥ずかしいしな。

「では、またいつか」
「はい、また」
「……じゃあな」

 パーティの解散が済むと、アーティは軽く手を振ってから機械仕掛けの街並みに消えていった。
 クロノラはなぜか俺の顔をじっと見て何か言いたそうにしたあと、「では、また誘いに行きますね」と言い残して『転移水晶ワープクリスタル』でどこかへ消えていった。たぶん『プロメテウス』に帰ったか、他の狩場へ向かったのだろう。

 俺はそれから何をするでもなく、街の中心のでかい時計塔がカチコチ動くのを遠目からぼーっと眺めていた。

 ……なんとなくだ、なんとなく。
 そういやパーティなんて組んだのは久しぶりだったなとか、街に着いてからも引っ張りまわされるのかと思っていたがやけにあっさり終わったなとか、そんな事を考えていただけだ。

 まあ、俺だって暇じゃないんだ。いつまでも呆けてないで、『プロメテウス』に戻って鍛冶の続きをしなくては、今日から毎日きゅうりの漬物と白米だけの食事になってしまう。
 さっさと『イエロートパーズ』を使って高レベルの武器を作って上手く売れば、それは回避できるはずだ。早く帰ろう。

「――くそっ、なんだってんだよ」

 だというのに俺の足は、気づけばなぜだか『イカロス』の街の中へと歩みを進めだしていた。
 もうパーティは解散したし、俺が言われたわけではないが”着いてくるな”とアーティは言っていたのだ。もう俺の役目は終わりのはずなのだが。


 ……しかしまああれだ、わざわざ隣の街に来たんだし、少し見て回ってから帰ってもいいだろう。
 それでたまたま転んでいるあいつを見つけたら、もう少しだけ付き合ってやってもいい。俺は紳士だしな、うん。

 壁に振り子とゼンマイが埋め込まれている建物の角を曲がって、鳥の翼をモチーフにした金属製のアーチの下をくぐる。
 ファンタジージャンルのゲームなのでもしかしたら謎金属なのかもしれないが、アーチは銅で出来ているように見えた。煉瓦を敷き詰めた街道といい、『イカロス』は全体的に赤茶色の街だ。
 たまにはこういうのも観光っぽくていいだろう。ゲームの隣町ごときで何をと言われるかもしれないが、オンラインゲームでは一度過疎った街には滅多に足を運ばなくなるものだ。

 俺は”たまたま”アーティを見つけるために、街の中をぐるぐると歩き回った。
 しばらく大通りを歩いて、もう帰ろうかと思い始めたころ。
 なんとなく入った狭い路地を抜けた先でペールゴールド色の髪と黒いゴシックワンピースの後姿を見つけ、声をかけようとして止める。

 ――アーティは4人程の男性プレイヤー達と何か話し合っているようだった。

 あの僕っ娘は人目を惹く見た目であるためナンパかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
 なんだか険悪な空気が漂っているように見えるが、その空気を作り出しているのは4人の輪の中心にいるアーティのようだ。なにやらニヤニヤと笑って……男たちを挑発しているように見える。

 ……ん? 武器を抜いたな。
 何をやっているんだあいつは。……街中なので危険はないだろうが、止めるべきだろう。

「おやオヤ、こんなところに隠れてデバガメとは。関心しないネェ」

 ――急に背後から声をかけられた。
 隠れているつもりはなかったのだが無意識に【隠密】スキルを発動させていたようだ。これでは丸っきり不審者だな。何をやっているは俺の方だったらしい。

 背後から声をかけてきた人物に弁解しようと振り返り、そこで俺はぎょっとした。

 声をかけてきたその人物の顔が見えないのだ。
 ――いや、見えるといえば見えるのだが……なんといえばいいのだろうか? 意識できないというか、覚えられない?

「……どうかしタノカな? ワタシの顔に何かついているかね?」

 顔の分からないその人物は灰色のスーツ姿で、ネクタイまで締めている。
 ファンタジーの世界にそぐわない、まるで普通のサラリーマンのような格好だ。そう、俺が昔会社に勤めていたころ、VRオフィスで何度も出会った普通のサラリーマンのように――


「――それトモ、顔がついテイないかネ? きミニはドう見えるのだろうネェ?」


 誰だか……いや、”何だか”分からないソイツはまるで錆びた歯車が軋むような声でそう言うと、両手を万歳の形に広げて、おそらくだがクスクスと嗤い声をこぼした。



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