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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 そして翌日、きゅうりの漬物と白米とで簡単な朝食を済ませた俺は、東ゲートでアーティ達と待ち合わせたのち、”妖精の沼”行きの馬車に揺られていた。
 ファンタジージャンルらしく竜などが引っ張ってもいいのにとは思うのだが、SRAでは竜種のモンスターはすべからくボスモンスターなので、世界観的に仕方がないのだろう。それに考えてみれば馬車だって現代社会では十分にファンタジーである。

「お、このあたりだな。俺がお前を助けてやったのは」
「……一日たって冷静に考えてみれば、あれは助けられたというよりヒヨコもろとも【投擲】の的にされていたような気がするのだが」
「そうか? ……お、橋が見えてきたな」
「むぅ……」

 アーティが金髪の隙間から上目遣いにジロリとした視線を返してきたので、話題を変えて誤魔化す。
 どうやら恩に着せようとし過ぎたようだ。今日は朝から僕っ娘(アーティ)の機嫌が悪い。
 俺が合流するまでに何やらクロノラと話し合っていたようで、それから突然俺のエスコートは断って馬車で行くと言い出したのだが、何かしただろうか? ……ああ、そういえば頭をひっ叩いたな。VRとはいえ嫌われる行為だったかもしれない。

「そういえば馬車で移動するといつも不思議に思うのですが、出発するときは地平線の向こうにも見えていなかった場所まで、いつも案外すぐに着くんですよね」
「ああ、それはこのゲームがマップを切り分けて構成しているからだね」
「切り分けですか……?」

 クロノラの疑問にアーティが答える。この二人は昨日決闘までしていたのに、いつの間にか随分と仲良くなったようだ。仲がいいのは結構なのだが、二人して俺のことを沼に突き落としたりしないだろうな。
 心配性だといわれるかもしれないが、VRゲーム上では女性プレイヤーに警戒しておくのは必要な事だと俺は思っている。
 何かあったときにシステム上守られていることもあるし、元の骨格などは変えられないが、VRの世界では誰もがそれなりに美男美女になれる。そして、美少女は何をしても大抵の場合は許されるものだ。おお、怖い怖い。

「うむ、SRAに限らず全てのVRゲームでそうなのだが、この世界全体を一つのマップとして管理するのはさすがに無理があるからね。ある程度の範囲ごとに空間を区切って、そこにサーバーを割り当てて管理しているわけだ」
「ふむふむ」
「今まで見えていなかったものが急に現れるのはそのためだよ。”それが配置されていた”マップと”配置されていない”マップが切り替わるからだろう。実際にはもっと意識しなくていいように、”だんだん遠くに見える”マップも配置されているだろうから、歩く程度の速度では気にならないだろうがね」
「なるほど、さすがアーティ様です! 物知りですね!」

 ……仲良くなったというよりは、なんだか上下関係が出来上がっているような気もするが。
 まあ見た目的にロールプレイなのだろうと思うことにしよう。うん、執事とお嬢様プレイだな。

 それにしても、クロノラはSRAのマップシステムを知らなかったのか。
 この仕組みでなければ”妖精の沼”なんぞ森の中を通っていくらでも迂回できるのだが、それではマップの繋がりがないため先に進めなくなってしまうのである。
 こういった出口のない森はイベントマップの周辺などに結構存在していて、”迷いの森”なんて呼ばれている。まあ先に進めないだけであって、帰ろうとすればすぐに出られるのだが。

『到着しました。旅人よ、よい旅を』

 沼に渡された大きな橋の前まで着くと、馬車が停車してNPCの御者が声をかけてくる。
 このまま黙って乗り続けているとどうなるか試したものがいるそうだが、その場合10分ほどでドロンと馬車が消えてその場に放り出されるらしい。まさにファンタジーである。

「さて、着いたな。どうする? クロノラに掴まって歩いてもいいが、自慢じゃないが俺は小型モンスターの壁役はあまり得意じゃないぞ」
「ん、むぅ……」
「ぐぬぬ……」

 親切心で言ってやっているのに、なぜか渋い表情をする二人。嫌なら一人で歩いても構わないのだが、沼に転げ落ちられても助けるのが面倒である。

「……ルシくん、えっとだな」
「なんだ?」
「ええっと……昨日僕が言った言葉は、ただの慣用句というか言葉のあやというか」

 なぜか顔を赤くしてもじもじとしだすアーティ。……なんだ? トイレに行きたいならさっさとログアウトして行ってくればいいと思うのだが、まあ俺は紳士であるからしてそういうことは口に出さない。

「とにかく! 勘違いはしないでくれたまえよっ」
「ん? ああ、分かった」

 心なし大き目の声で告げてから、腕を絡めてくるアーティ。どうやらトイレは勘違いだったらしい。表情に出ていただろうか? これは失礼した。

 沼の方へ目を向けると、クロノラはもう橋の前に立って”沼の妖精”を数匹殴り落としているようだ。これから橋を渡り切るまであいつらの美声を延々と聞かされ続けるのかと思うと本当にげんなりする。
 俺はアーティと連れ立って歩きながら、空いている方の右手に【エクスチェンジ】で”スローイングナイフ”を3本呼び出すと、それを”沼の妖精”に向けて【投擲】した。


 ――オウフッ

 渋いテナーボイスで呻きながら、沼の妖精――”ダンディディーヴァ”が3匹、沼に墜落する。
 背中に4枚のトンボのような翅を生やした、500ミリペットボトルくらいの大きさのこの妖精は、名前の通りダンディなちょび髭の歌姫だ。
 見た目おっさんにしか見えないのに歌姫とはなんぞやと思うが、妖精なので性別はないとのことだ。無理があると思うが。

 今回は全て命中したが、スキルのアシストがあるとはいえ相手は小型モンスターだ。常に的中させ続けるのは難しいだろう。加えて”スローイングナイフ”の数にも限りはある。

「”あさははをみがきましょう” 《フレイムレイン》!!」

 炎の雨が降り注ぎ、周囲一帯の”ダンディディーヴァ”を焼き尽くす。おそらく少しの時間が経てばまた沼から湧き上がってくるだろうが、これを繰り返しながら行くしかないだろう。


 ――ンラララァーーアッ、オウフッ

 さっそく再湧き(リポップ)した”ダンディディーヴァ”が【歌唱】攻撃をしようとしてクロノラに叩き落とされる。
 彼らの”歌”には複数の状態異常が付与されており、”混乱”効果と”スタン”効果、さらには運が悪ければ”暗闇”にまでかかってしまう。
 そしてこちらを状態異常にしたのち、彼らはそのちょび髭をこすりつけて攻撃してきたり、泥団子を投げつけてきたり、服を引っ張って沼に突き落とそうとしたりするのだ。

 おまけに沼には巨大なヒルが大量にいて、それらがHPを吸い取ろうと吸い付いてくる。
 ヒル共はモンスターではなく地形効果なので倒す事ができず、沼から上がってもしばらくは張り付いたままという素敵仕様だ。

「……僕にはこのゲームを作った連中は、悪ふざけが過ぎると思えてならないよ」

 おそらく一度は自分だけで突破しようとしたのだろう。アーティが空中でホバリングしながら前髪のカールを整えている”ダンディディーヴァ”にうんざりとした視線を送りながら言う。

「そうか? SRAの不人気狩場って大体こんなもんだぞ。まあ俺は絶対に行かないが、もっとやばいところもあるらしい」
「そういえば”氷の洞窟”を占拠していたパーティがいなくなったらしいですね。ゴールドスターさん、あとで一緒に行きませんか?」
「絶対に嫌だ。こいつを送り届けたら俺は『プロメテウス』に戻って鍛冶の続きをする」

 俺の腕にしがみついておっかなびっくり歩くアーティの頭を小突いてやると、頭を押さえて「ぅぅぅ……」と涙目で睨まれた。この僕っ娘はもしかしたら頭が弱点なのかもしれないな。
 それにしても、やはりトラウマ的な意味で危険な狩場に連れていくつもりだったのか。クロノラからのパーティの誘いを断り続けていたのはどうやら正解だったようである。

「”あさははをみがきまっ、焦土と化せ”!! 《フレイムレイン》!!」
「おい、何も発動しないぞ?」
「ぅ、すまない……」

 どうやら”詠唱省略”に失敗したらしい。クロノラがすかさず『アイスカーテン』を張って妖精の泥団子攻撃を防ぐ。

 ……毎回必ず成功するわけじゃないのか、これは大変そうだ。
 いっそのこと、抱え上げて走り抜けた方が楽かもしれないな。と、ペールゴールドヘアーのつむじのあたりを眺めながら、俺はぼんやり考えるのだった。


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