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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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突然頭を叩かれたアーティはびっくりしたようで、後退りしながら両手で頭の上を防御する。

「いきなり何をするかねっ、女の子を叩くなんて最低だぞ」
「いや、チート行為も最低だぞ?」

 うわ、パーティ組んだままだよ。俺までチート仲間だと思われないだろうな?
 とりあえずもう用事もないのだし、今からでもパーティは解散しておくか。

「まあ待ちたまえ、ちゃんとこのゲームの運営に許可を貰った上でやっているのだ。だから僕はチーターではない」
「……どういうことだ?」

 俺がメニューを開いてパーティを解散しようとしていると、アーティがそれに待ったをかける。
 いやまあ、仮にチーターでなくてもパーティ解散はするけどな?

「この方法で詠唱を省略できる旨を書いて公式ホームページのお問い合わせフォームに送ったら、やってもいいと返事が返ってきた」
「どんな返事だ?」
「不具合等はないので安心してゲームを楽しめ、と」
「……テンプレート回答じゃないのか、それ」

 しかもまったく相手にされていないタイプの回答だ。……まあ言質は取ってあるといえるので、アカウント消去される心配はなさそうだな。

 と、クロノラの奴がさっきから何か変な動きをしている。いつの間にか俺の手を片手で掴んだまま、もう一方の手で空中に何か描いているのだ。とりあえず腕を思いっきり振って引き剥がしておく。

「ぎゃっ! なにをするんですか! もう少しで完成だったのに」
「……クロ助、お絵かきなら立ち去ったあとにやってくれ」
「ちょっと待ってください。もう少しでできそうなんです」

 ……何がだ。まさか魔法陣を描いているのだろうか? それにしてはなんだかぐにゃぐにゃと手を動かしているようだが。
 アーティの方は何を描いているのか分かるらしく、空中お絵かきを続けるクロノラを可哀そうな子を見るような生暖かい目で見ている。

「うーん……できないですね! 彼女は嘘を吐いています!」
「……クロノラ。言語の置き換えは外来語を覚える原理でできるが、図形の置き換えは使っている脳の部位からして違うから僕にもできないし、そもそも魔法の仕様からして違うのだが」
「ぐぬ……そうなのですか」
「むしろそれをやろうという気になるところがすごいな。今得ている視覚情報を否定するようなものだぞ……」

 なんだかよく分からんが、馬鹿な事をしようとしていたらしい。丸を三角だと思い込むようなものだろうか?
 まあなんにせよ俺には関係のない話だ。もうぼちぼち飯の時間だしパーティ解散してログアウトするか。

「……しかしまあ、卑怯な手段で勝ったといえなくもないな、うん。なので特別に引き分けということにして、僕に従うと約束するのならパーティに入れてやってもいい」
「本当ですかっ!」

 ……何を言っているんだこいつは。

「……パーティならもう解散するぞ、組みたきゃ二人で勝手に組め」
「そんなっ!?」
「ふむ、いいのかね?」
「なにがだ?」

 アーティはインベントリからおもむろに黄色い宝石アイテムを取り出すと、それを俺に見せてくる。……あれは確か『イエロートパーズ』だな。カニバリスキューケンのレアドロップアイテム――

「って、おい! それは俺のだろう! 返せ!」
「うん? いやこれは元々僕が所有していたものだよ。きみの物ではないね。まあ、欲しいのならば譲ってもよいのだが――」
「ドロボー! ドロボー!」 
「うぐ、譲ってもいいが、一つ頼まれて欲しい事が――」
「ドロボー! ドロボー!」
「ええい! やめないかみっともない! 百年の恋も冷めるぞ!」

 チート僕っ娘め、レアドロップをちょろまかしてやがった。やはりチーターだけあって悪い奴だったか。
 クロノラもぎょっとしたような表情をしている。さすがにレアドロップ泥棒とあっては『アサシン』の俺を暗殺しようと計画を立てている執事服娘ですらドン引きらしい。

 しかし、あれが今朝のカニバリスキューケンからドロップしたものである証拠がないのも事実だ。
 ゲームの運営に調べて貰えば分かるかもしれないが、データ上はただ共闘してユニークモンスターを倒しただけなのだ。問い合わせても相手にされないだろう。

「くそ、諦めるしかないのか……」
「いやだから、頼みごとをきいてくれたら譲っても構わないと言っているのだが……」

 ん? そんな事を言っていたのか。まあ簡単なものなら聞くだけ聞いてやろう。

「なんだ? 言ってみろ。言い終わったらちゃんとそれを返せよ」
「……きみはなんというか……いや、なんでもない。頼みたいことというのは、隣の街までの護衛だよ。簡単だろう?」

 隣の街? 護衛が必要な難易度ではないはずだが。

 行った事のある街ならば『転移水晶(ワープクリスタル)』で行けるはずなので、この僕っ娘は『プロメテウス』以外の街に行ったことがないのだろう。
 しかしレベル42もあれば隣の街に行くくらいは簡単なはずなのだが。……初心者っぽいのにレア装備で固めている事といい、よく分からんやつである。

「まあ、隣の街に連れていくくらいなら構わないぞ。ただし今日はだめだ。腹が減ったからな」

 忘れていたが今日はローストチキンを食べる日なのだった。さっさとログアウトして近所のスーパーマーケットに行かなければならない。
 ネット注文もできるが、俺は食品に関してはホログラムではなく実物を見て買う主義なのだ。

「なに、明日で構わないよ。僕ももうログアウトしなければならない時間だしね」
「そうか……それで、なぜクロノラまで連れていく必要がある。なんとかしてくれる約束じゃないのか?」
「うん? それはあれだ。”今朝のお礼”だが?」
「いや、意味が分からんぞ。助けてやったお礼になっていないだろう」

 クロノラのやつは俺の視界の端っこでまた首振り人形をやっている。
 なんだか散歩に連れて行ってもらえない犬みたいな雰囲気を醸し出しているが、後ろからざっくりやられるのはごめんである。……ん? そういや護衛でパーティ組んで連れていくならその心配もないのか。

「おい僕っ娘、帰りと緊急時用の『転移水晶ワープクリスタル』を用意するなら連れて行って構わないぞ」
「本当ですか! 私もご一緒していいのですね!」
「……元よりそのつもりだが、性癖はともかくとして、きみが思うほど彼女は危険ではないと思うがね。」

 何を言うか。こいつはクロノラの恐ろしさを知らないのだ。パーティも組んでないのに、いつも何処からともなくこちらの位置を嗅ぎつけてやってくるんだぞ。執念深いにも程がある、まさに復讐の鬼だ。
 今だって飛び跳ねて喜んでいて、犬が尻尾でも振っているような様子に見えなくもないが、その裏で何を企んでいるのやら。

 まあ隣の街までなら危険はないだろうし、『転移水晶ワープクリスタル』もあるならおそらく安全だろう。さっさと連れて行って転移して帰ればいい。

「それで、隣って行ってもどの街へ行きたいんだ?」
「ああ、『イカロス』だ。一人では”妖精の沼”が越えられなくてね」
「ん? 確かに嫌な狩場だが、最悪走り抜ければ……げ、そうか……」

 ”妖精の沼”は、文字通り沼の妖精達が住む湿地帯だ。妖精たちのシュールな歓迎は初心者達から嫌われる狩場ベストスリーに入る程だが、妖精の移動速度はそれほど速くないので逃げられないほどでもない。

 しかし目の前のゴシック僕っ娘はVRオンチだ、よく転ぶ。つまり――

「いちいち妖精の相手をしなきゃならないのかよ。……めんどうだな」

 ”今朝の礼”はともかくとして、確かにそれならばクロノラは必要かもしれないな。

 
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