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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

20/33

「”朝霧の檻”、”破滅の調”、”琥珀の錆”――」

 先に動いたのはアーティだ。クロノラは約束通り詠唱するアーティを睨みつけたまま、その場から動こうとしない。
 しんと静まり返った石造りの闘技場に、アーティの詠唱する声だけが小さく響き渡る。

「――”虚空を穿つ”、”三日月の鏡”、”共振する魔笛”」

 威嚇の意味もあるのだろう。地面をつま先で叩き、走り出すためのステップを踏み始めるクロノラ。
 アーティは気にした様子もなく、ゆっくりと噛みしめるように詠唱を唱える。あれは確か――

「”燃え滅びて焦土と化せ” 《フレイムレイン》!!」

 発動単語(トリガーワード)が紡がれると同時に、”魔法DEF(防御)を貫通する”炎の雨がアーティとクロノラの間を埋め尽くすようにように降り注ぐ。
 確かにあれならば正面突破は難しいだろう、しかし――

「ふんっ!」

 クロノラは『ファイター』のスキル【瞬歩】で横に跳んで回避しつつ、空中で氷属性の簡易防壁『アイスカーテン』を展開すると、それを【パワーショット】で思いっきり”ぶん殴って”その反動でさらに移動する。

 さらに【瞬歩】の連続使用によって『フレイムレイン』の範囲外へと出ると、闘技場の壁を蹴り飛ばし、また空中で『アイスカーテン』を蹴り飛ばし、空中をジグザグに高速移動する。

「うわ……やっぱいつ見てもわけわかんねぇ」

 人間離れした動きではあるが、実はこれはクロノラだけの特技ではなく、恐ろしいことに”マジカル”な連中はみんなこうなのである。
 『マジカルアサシン』なんて見た時には、【投擲】のためとはいえ『ブラックスミス』を選んだことを後悔しそうになったものだ。
 ……まあ実際慣れないとだいぶ”酔う”らしいので、俺は別に人間やめなくてもいいかなと今は思うが。

 クロノラの動きはさらに加速し、アーティの背後に上空から回り込むと、そのまま拳を振りかぶって加速しながら”落下”する。――次の”詠唱”などする暇も与えない、見事な奇襲だ。……終わったな。

「”はしをわたせ” 《ライトニングボルト》!!」
「ぎゃんっ!」

 ……あれ?

「”はしをわたせ” 《ライトニングボルト》!!」
「ぎゃんっ!!」

 ……どうしてクロノラが石畳に倒れ伏して、蹴り飛ばされた子犬みたいな声をあげてるんだ?
 アーティが杖を向けているので【詠唱魔法】を使っているのは分かるんだが……『ライトニングボルト』ってあんなに詠唱短かったっけか?

「”はしをわたせ” 《ライトニングボルト》!!」
「ぎゃっ、く、このっ!」
「”あさははをみがきましょう” 《フレイムレイン》!!」
「ぎゃあああ!!」

 おー、焼かれてる焼かれてる……そういえば”詠唱を省略”できるとか言ってたっけか。
 それを隠すために最初は普通に詠唱していたのか。やはりあのゴシック僕っ娘、かなり性格悪いな。
 しかし、同じ魔法クラスのクロノラも知らなかったとなると、結構珍しいスキルなのだろうか? これだけ便利なら全ての『キャスター』が取得していてもおかしくないはずだが。

「”あさははを――”」
「おーい、そのへんにしといてやれ。もう勝負はついてるだろう」
「”――みがきましょう” 《フレイムレイン》!! ……む? 何か言ったかね? まだ勝負の途中なのだが」
「いや、燃焼の継続ダメージだけでもうHP3割切るだろう。痛みはなくても衝撃はあるんだからやめてやれって」
「ふむ? まだ3割も残っているのか。”あさははを――”」
「ぎゃうっ!? やめてください! 降参(リザイン)します! しますからっ!」


 ――決闘を終了しましたデュエル・コンプリーテッド

 火達磨になったクロノラが必死に叫ぶと、それを闘技場が音声コマンドとして認識したのだろう。決闘モードが解除され、炎のエフェクトが消失する。
 実際に燃えているわけではないと分かっていても相当怖かったのか、クロノラは地面で丸くなったまま立ち上がろうとしない。
 仕方がないので手を差し伸べてやると、いきなりがばっと起き上がって両手で俺の手に縋り付いてきた。

「あ、ありがとうございます。怖かったです……」
「そうか、これに懲りたら二度と俺の前に姿を見せるなよ?」
「ひどいっ!?」

 ひどいも何もそういう約束だろうに。……いやしかし、なんだかんだでよく買ってくれていたし、お得意(金づる)さんが居なくなるのは結構きついかも知れないな。
 二度と俺の暗殺計画を立てないならば剣を買いに来るくらいは許してやるとするか……。

「こらこら、ルシくん。”大人しく立ち去る”というだけの約束だっただろう。僕はそこまで言っていないよ?」
「ん? ”この街から”大人しく立ち去るとかじゃないのか?」
「……それはいくらなんでもひどすぎると思うのだが」

 うーむ……まあ仕方ない。パーティ加入は回避できたのだし、今日のところはそれで勘弁してやろう。
 しかし、”詠唱省略”とやらが気になってきたな。本当にチートではないのだろうか?

「なあ僕っ娘、お前のその”詠唱省略”ってどうやってるんだ?」
「……それ、私も気になりますね。あんなものは初めて見ました。新しいスキルでしょうか? ここ最近に大きなアップデートはなかったはずですが」

 いつの間にかクロノラが回復していたようだ。立ち直ったのなら俺の手を放してほしい。

「……いい加減そろそろ名前で呼んで欲しいと思うのだがね。”詠唱省略”か、特にスキルというわけではないのだが、文字通り詠唱を省略しているね。それだけだが?」
「それだけって、そんな事できるのか?」

 俺の問いかけに、アーティは「現にやっているではないか」と呟いたが、思案気な顔で”考える僕っ娘”ポーズをしばらくやったあと、今度は丁寧に説明を始めた。

「……ふむ、仕組みとしてはこうだ。【詠唱魔法】は”詠唱”という決められた呪文(ワード)を発音することを、VRマシンが読み取る事で発動の条件を満たすのは知っているね? しかしこの条件を厳しくし過ぎると、戦いの途中で言葉が途切れてしまったり、発音が不明瞭だった場合に発動が高確率で失敗(ファンブル)してしまう。発動の失敗自体はもちろんシステムとして取り入れられているが、それはモンスターなどの他者からのスキルや攻撃によって引き起こされるべきものであって、発声の失敗によって起こるべきものではない。それでは『キャスター』の難易度だけが他のクラスよりも上昇しすぎてゲームとして成り立たなくなってしまう。……ここまでは分かるかね?」

「……ん、ああ、うん」

「ではその問題をどうやって解決するかだが、これは【詠唱魔法】で詠唱する単語(ワード)の一部分でも発声できていれば、その呪文(ワード)を唱えたとすることで解決する。しかしそうすると今度は【詠唱魔法】の詠唱は単語の一部分さえ被っていれば、滅茶苦茶な言葉を発しても発動条件を満たす事になってしまう。そこを解決するために、VRマシンが読み取った脳波から”決められた単語を詠唱した”という認識を僕がしたと観測された場合のみ詠唱の条件を満たしたとサーバーに情報を送るわけだ」

「……うん。そう、だね?」

「さて、僕が行っている”詠唱省略”だが、これはその性質を逆手にとって、詠唱する単語をぶつ切りにしたただの一言”あ”や”は”などを”朝霧の檻””破滅の調”という意味の言葉だと僕が認識する事で発動の条件を満たしているのだが、一つ問題があってね。省略した単語を闇雲に並べても意味のある文章として成立していなければ、そもそも”言葉を話している”という認識が生まれないようなのだ。なので全体として意味の通る文章を作成しつつ、その発声一つ一つに”呪文の単語”だという認識を持つことによって――」

「だああ! 長えよ! 一言でまとめてくれ!」
「VRマシンの読み取る脳波の情報を騙して”詠唱を省略”しているのだ」
「……チートじゃねぇかっ!」

 ――運営さん、こいつです! 俺は思わずチート娘(アーティ)の頭をひっ叩いた。
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