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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

わんちゃん編

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 「くっ……こ、のっ……!!」

 思わず後ろを振り返ってしまい、無理な姿勢からの横っ飛びで衝突を回避する。腐葉土の上を転げまわって茂みに突っ込んだ俺は、手からすっぽ抜けていったリミの方へ向かって怒鳴った。

「なんてことしやがるこのバカ!」
「うわっ、ぺっぺっ。それはこっちのセリフだよぉ」

 あちらも土のカーペットに飛び込む羽目にはなったようだが、どうやら無事なようで不満げな声が返ってくる。
 口の中に葉が入ったとでもいうつもりだろうか、相変わらず演技ロール過多な奴だ。というか、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 俺はリミの方へ急いで駆け寄り、炎の塊と化したホーンテッドスタッグが通り過ぎた先に視線を向ける。

 物凄い勢いで俺とリミの間をかっ飛んでいったそいつは、比較的細めの木を数本なぎ倒しながら焦げ跡の道を作り出した後、開けた空間で動きを止めたらしい。

 しかし、先ほどまで派手に燃えていた炎の効果エフェクトは光の粒となって消えていき、作り出された道も時間を逆回ししたかのように修復されていく。
 樹木のオブジェクトの隙間から、ぎちぎちと顎を開いたり閉じたりしながらホーンテッドスタッグがこちらに向ける茶色の複眼は、まるで睨んでいるかのようだ。――ご機嫌斜めってやつだ。データ上の虫にそこまでのAI(人工知能)が積まれていればだが。


 ――そう、当たり前の話ではあるがここはゲームの中なのだ。

 現実の世界にはあんなに巨大な昆虫など存在するわけがないし、実際の俺の体も今頃は自室の狭いベッドでお休み中だ。それも首を傷めないように襟巻型の枕を付けた、間抜けな見た目のVRヘッドギアを付けて。

 気を落ち着けるためにそんな事を考えながら、俺は再度ホーンテッドスタッグを【観察】する。
 先ほどリミの放った【詠唱魔法】は奴に如何ほどのダメージを与えられたのだろうか。すぐには襲い掛かってこないところを見るに、”怯み”状態にあるのかもしれないが、倒せるかもしれないなどと楽観することはできない。

 俺の視界に表示されているホーンテッドスタッグのネーム表示は”赤”色である。それは、こちらとのレベル差が少なくとも10以上、相手の方が高いことを意味している。

 だがゲームである以上、あれは実際に生きているわけではない。
 プレイヤーに倒されるべく存在している、所謂いわゆるモンスターという存在なわけで、このVRゲームのワールド全体に無数に存在するであろうモンスターの一匹一匹に、さほど高度なAIが割り当てられているとは考え難い。その行動や攻撃方法には必ず決められたパターンが存在するはずなのである。

 ――たとえ倒せないにせよ、それを把握することができれば逃げ切ることができるかもしれない。

 まずはそのルーチンを読み切るところからだが、それには何度か攻撃を回避する必要がある。……いやむしろ、回避しているところを【観察】するのが望ましい。

「というわけでリミ、行ってこい」
「え、いきなり何? というわけでとか言われてもリミ、よく分かんないな」

 この状況を打破するために効果的な作戦を俺が口にすると、リミは急にすっと表情を消して真顔になった。

「え、分かんないな? 聞き間違いかな? 今リミに前衛行けっていったような気がするよ? 普通こういうときって男の子が前に出るものだよね? リミの盾になるためにこっちに走って来たんじゃないの?」

 そして金色の、猫のような切れ長の瞳が瞬きもせずに俺の目をじっと覗き込み、機械のように一定の声のトーンでまくし立ててくる。俺は「うっ」と小さく呻いてその視線から軽く目をそらした。

 元々の本人の素材もあるのだろうが、リミのアバターはかなり作りこまれていて、かなり綺麗な容姿をしている。
 ショッキングピンクの髪の毛はアホっぽいが、VRアバター特有の透き通った肌、整った輪郭の上に配置された顔のパーツは、可愛らしいというよりは凛々しいと表現されるような顔立ちだろう。

 ……だが、そんな見た目で表情を消して抑揚もなく喋られると逆に怖い。――なんというか、奇抜な髪色も相まって呪いの人形みたいだと思ってしまうのだ。

「……なんか今、失礼なこと考えなかった? というか、リミの”クラス”は”キャスター”なんだから後衛だよ? わんちゃんが行ってきなよ。とってこーい、はわんわんの役目だよ」

 俺はリミの頭を軽く叩くと、「俺だって後衛だ」と低い声で言う。というか失礼なのはお前もだ。
 クラスというのはこのゲームでのいわゆるキャラクタータイプのようなもので、他のゲームでも”ジョブ”だったり”職業”だったりと付いている呼称は様々だが、大体の意味するところは同じだろう。つまりは能力や特技、出来る行動の”制限”だ。

 まあ、制限ってのはちょっと言い過ぎかもしれないが、選んだクラスによって特定の武器や防具を扱い易かったりり逆に扱いにくかったり、使える能力スキルが違ったりするのであながち間違いではないように思う。

 ――リミが選んだクラスはキャスター。スキルは【詠唱魔法】

 何通りもある”呪文”の単語を組み合わせて唱えることで、主に攻撃系の魔法を発動させるクラスだ。
 ゲームだから別に気にすることもないのだろうが、なんだかマンガやらアニメやらで必殺技の名前を叫ぶ主人公みたいで、俺には気恥ずかしくてできそうもない。

「えー!? わんちゃんも後衛なの!? ……まあいいや、じゃあまだむいむいさんは遠くにいるみたいだし、二人でどーん!! ってやっちゃおうよ」

 リミは一瞬顔を俯かせて何か考え込むようなそぶりを見せたが、すぐに気を取り直してそう提案してくる。

 どうやら俺たちが呑気に喋っている間に、リミのいうところのむいむいさん(ホーンテッドスタッグ)の”怯み”状態は解除されたようで、今はこちらを見据えてブルブルと細かく振動しているのが見える。
 おそらくあれは再度、こちらに突進してこようとしている準備なのだろう。熱が加えられたことによって癒着していた翅が、ぺりぺりと体からはがれて広がっていくのが見える。

 ――やけに演出の作りこみが細かいことだ。”怯み”状態にあった事といい、火属性が弱点である可能性が高い。リミのやつが火の魔法なんぞを使って、ただでさえ大迫力な森の中の交通事故に爆発事故まで装飾しやがったときには、このバカ何を考えてやがるんだと思ったものだが、”呪文”の選択セレクトは間違っていなかったようだ。……そもそもあの怪物がこちらに向かってくるのは、その呪文が原因なわけだが。

 まあとにかく、今が攻撃のチャンスであることには違いない。リミの言う通り二人がかりで強力な遠距離攻撃を放って突進の出足を挫いてやれば、倒せないまでも逃げおおせることはできるかもしれない。
 しかしそれを実行するには、俺の選んだ”クラス”には問題があった。 ……いや、言い直そう。

 ――クラスというか、俺に問題があった。

「ねえ、わんちゃんってば! むいむいさんが翅、出し終わっちゃうみたいだよ。はやく何か唱えてよ、リミはそれに合わせるからさ」
「いや、それなんだが……」

 いつまでも攻撃する準備を始めようとしない俺をリミが急かすが、俺はこの問題をどう伝えたものかと言い淀んだ。――なんだか喉の奥から、乾いた笑いが込み上げてくるのを感じる。
 そんな俺にリミは怪訝そうな顔を向けて、催促を質問に切り替えた。

「どうしたってのさ? むいむいさん飛んできちゃうよ。……あ、もしかしてキャスターじゃないとか? じゃあリミは長めの『詠唱』を先に唱え始めるから、わんちゃんは弓とかでサポートを――」

 そこまで喋ってから気づいたのだろう、リミの視線がさらに不審そうなものになった。
 そして苦笑いでごまかそうとする俺を足の先から頭のてっぺんまで、獲物を捕るときの猫のような細目でさっと流し見ると、心なし低めのトーンで訊いてくる。

「……わんちゃんさ、そういえば何も持ってないよね。リミも装備は指輪だから杖とか持ってないけどさ、キャスターは何も無しでもスキル使えるし。だからわんちゃんも後衛職ならキャスターなのかなって思ったんだけど、違うんだよね?」
「あー、リミ、えっとだな……」

 俺はどうにか弁解しようと口を開くが、何も言葉が浮かんでこない。
 ――いや、このゲームに入ってすぐに、最初にやる簡単なお使いクエストなるものを済ませに行こうと誘ったのはリミなのだ。武器防具の買い出しは後でしようと思っていたのだが、そんな事は言い訳になりそうもない。

「……わんちゃん、そういえばここまで来るあいだ、一度も戦ってないよね? リミが全部倒してた。雑魚は【詠唱魔法】で一撃だから仕方ないと思ってたんだけど、いったい何のクラスを選んだのかな? リミに教えてよ」

 目の前にいるピンクの猫がにっこりと笑う。目が笑っていない。――確かにそうだ、ここまでの道中はリミに任せっぱなしであった。なにせモンスターが見える度に遠距離から一撃なのだ。

 先にこちらがモンスターから見つかったときもあり、そのときは肝を冷やしたものだが。このゲームはパーティメンバーにレベル差があってもいくらかの経験値は入る仕様のため、何度かの戦闘で俺のレベルも少しは上がっている。だからこそリミはホーンテッドスタッグに先制攻撃を仕掛けたのだろう。

「なんというか、言いづらいんだが……」

 どうせすぐに終わるクエストだろうから問題ないと思っていたのだが……俺は観念して白状することにした。

「……リミ、俺の選んだクラスは”ガンナー”だ」

 ”ガンナー”、その名の通り拳銃やらライフルやらを使って戦うクラスである。
 このゲームに潜るにあたって事前準備として情報を仕入れていたときに、モンスターのディティールがかなり作りこまれている事を知った俺は、剣と盾を持ってリアルなドラゴンやらスライムやらと戦うなどご免被こうむると、早々に遠距離攻撃職を選ぶことにした。

 そこで選んだのが、ファンタジーもののゲームにしては珍しく実装されていた『銃』を扱うクラス、ガンナーである。
 弓を扱う”アーチャー”系列と二分されるこの遠距離物理攻撃職の武器は、低レベル帯では海賊映画に出てくるマスケット銃のようなものが主らしいが、それでも弓よりは扱いやすいだろう。

 そう考えた俺は、意気揚々と初期クラスにガンナーを選択してこのゲーム『Starスター ofオブ Restレスト andアンド the Adventureアドベンチャー』にダイブしたのだった。


 ガンナーが初期から持っているスキルは、先ほどから何度か使っている【観察】のみ。
 どんなスキルかといえば、見たい対象に意識を集中することによってカメラのフォーカスを合わせるように、通常よりも遠くのものまで鮮明に見ることができるというものだ。――なるほど、銃やら弓やらで遠距離物理攻撃をするのにとても便利な能力である。スコープ要らずってわけだ。

 だが今の俺は銃など持っていない。何故なら買っていないからだ。リミもそれに気付いたのだろう、非難するような色が視線に宿る。

 ――つまり、今の俺はちょっと視力が良いだけで、何の攻撃手段も持たないただの役立たずなのであった。
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