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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

19/33

 闘技場――最初の街であり首都(メインタウン)でもある『プロメテウス』の街はずれに設置されたこの施設は、体育館くらいの広さの石造りの建造物である。
 主な使用用途はスキルの試し撃ちなどで、たまにPVP(対人戦)の練習に使われる事もあるが、SRAは対人戦メインのゲームではないので基本的に滅多に人が来ない。

 そしてPVPトーナメントなどが行われる場合、他の街にあとから実装された闘技場の方が圧倒的に人気が高いため、『プロメテウス闘技場』がそれらのイベントに使われる事はまずないだろう。

 そんな過疎った施設への通路を歩きながら、俺は傍らの少女に話しかける。

「……おい僕っ娘、ちゃんと勝算はあるんだろうな?」
「安心したまえ、今考えているところだ。それに負けたとしても、ルシくんが損をすることなど何もないと思うが?」
「……確かにそうだが、後味が悪いだろう」
「まあ任せたまえ」

 釈然としない表情の俺に構わず、アーティは俺と腕を組んだままそれっきり黙り込んでしまった。
 相変わらず考え事にふけっているのか、ときどきぼそぼそと何か呟いては地面に躓くので、そのたびに転ばないように支えてやる。

 前方を歩くクロノラがちょくちょく振り返っては舌打ちをしてくるが、別に露店エリアのマッチョメン達が言っていたようにいちゃついているわけではない。
 こいつはよっぽどのVRオンチなのか、少し歩くとすぐ転ぶのだ。
 VR内なのでケガをすることはないのだが、ここに来るまでに既に5回はすっ転んでそのたびに涙目になっていたので、見かねて腕を貸してやっているだけである。

 それにしても、今考えているだと? まったくあてにならん。まあ確かにパーティなんぞあとで解散すればいいのだが、それはそれで後味が悪いので出来れば勝利してもらいたいものだ。

 ……だがまあ、正直難しいだろうなと思う。

 パーティメニューで確認したところ、アーティのレベルは現在42だ。
 クロノラの正確なレベルは分からないが、おそらくアーティよりも20は上だろう。

 そしてそれ以前の問題として、そもそも『キャスター』は一対一での対人戦に向いたクラスとは言い難い。
 魔法タイプのクラスは総じて火力が高いがその代償として、スキルを使用するためには『ウィザード』なら魔法陣を描く、『キャスター』ならば詠唱を唱えるなどの行動(アクション)が必要となる。

 あらかじめ登録しておいた魔法(スペル)無詠唱(ノンキャスト)で発動させることも可能だが、これは低級のものしか登録できないため、対人戦でのダメージソースとしては期待できないだろう。
 【詠唱魔法】を放つまでの間に『ファイター』に距離を詰められれば、紙装甲の『キャスター』など文字通り一撃である。

 しかも相手はただの『ファイター』ではなく、『マジカルファイター』なのだ。対魔法スキルへの耐性はそれなりに高い。
 レベル差があるのは装備の差で埋められるので、攻撃が通らないということはないだろうが――

「そろそろ始めましょう。いつまでくっついているつもりですか? 離れてください」

 クロノラの固い声音が闘技場に響き、俺はあたりを見回した。
 どうやら俺まで考え事にふけっていたようで、とっくに闘技場の中央あたりまで来ていたらしい。

「ふむ。エスコートご苦労だった、帰りも頼む」
「ん? ああ、分かった」
「……ぐぬぬぬ」

 帰りも腕組んで歩くのか。めんどうではあるが仕方がないな。感触? VRだぞ? ……まあ再現率は高いとだけ言っておこう。
 俺が離れると、アーティはインベントリから白木の杖を取り出して装備した。なぜ店売りの汎用装備を出すのだろうか?

「さて、クロノラといったかね? 始める前に一つ聞きたいのだが、きみのレベルはいくつだろうか?」
「……71ですが、それが何か?」

 ……うわ、20どころか30近く離れてやがる。これは【詠唱魔法】でも詠唱時間(キャストタイム)の長いスペルを選ばないとまともに攻撃が通りそうにないぞ。

「ふむ。恥ずかしながら僕はまだレベル42でね。どうだろう、ハンデを貰えないだろうか?」
「……ハンデ、ですか」

 クロノラがこちらに訝し気な視線を送ってくるので頷いてやる。確かにレベルについて嘘は言っていないし、このままだとフェアな戦い(決闘)とはいえないだろう。

「……分かりました。ではどのようなハンデを?」
「そうか、ありがたい。なに、先に一度【詠唱魔法】を撃たせてもらえればいい。それを開始の合図としよう」

 なるほど、その提案のためにメイン武器(ルビーオブマグス)の存在を隠したのか、なかなかにセコい。
 しかし、いくら火力の高い【詠唱魔法】とはいえ、一撃いれさせてもらえればなんとかなるというその見通しは甘いし、何より――

「いいでしょう。ですが……開始の合図は闘技場が行いますよ? もしかしてPVP(対人戦)は初めてですか?」
「うぐ……そ、そうなのか。これは失敬した」

 うん、なんのためにこんなところまで移動したと思ってるんだ。
 SRAでは街の中及び街とフィールドを繋ぐ四方の(ゲート)付近は安全地帯となっており、攻撃を受けてもダメージが発生しない仕様になっているが、フィールドでのパーティメンバー以外からの攻撃は普通にダメージ判定がある。

 そのため街の外に出てしまいさえすればどこでもPVPは可能だが、ゲーム内で死亡した場合デスペナルティとして強制ログアウト及び1時間のログイン制限を受けてしまう。

 闘技場には『決闘(デュエル)モード』というコマンドがあり、それを使用することでお互いにダメージを与えられるようになるが、3割以下まで減ると解除されるというシステムになっている。
 一応街中なのでモンスターは出現しないし、さらにHP全損はしないようにシステムロックされているので安心してPVPを楽しめるというわけだ。

 ちなみにフィールドでPK(プレイヤーキル)をおこなっても、アイテムが奪えるわけでもなく何のメリットもないのだが、まあやる奴はやる。
 プレイスタイルは自由なのでそれについて俺はなにも意見を持たないが、あまりやり過ぎるとハラスメントで訴えられるし、裁判で負けた例もかなり多いらしいのでお勧めはしない。

「そちらが【詠唱魔法】を唱え終わるまで待てばいいのですね? では、どちらが彼の剣にふさわしいかはっきりさせましょうか!」
「……ぇ? あ、うん。そうだね?」

 わけの分からない台詞を気合たっぷりに叫びながらクロノラが決闘(デュエル)の申し込みコマンドを送り付けると、アーティは若干目を泳がせながらそれを承諾する。
 なんだか視線がこっちに助けを求めているように感じるのだが、そいつをなんとかするのはお前の担当だろう。
 ……まあ骨は拾ってやる。痛みはないとはいえ『ファイター』に殴られる衝撃って結構きついからな、帰りは肩を貸さなきゃならんかもしれん。

 決闘(デュエル)開始まで準備時間は30秒。魔法クラスへの配慮だろう、その間お互い20メートル以内には近づくことができない。
 アーティがインベントリから赤い杖(ルビーオブマグス)を取り出し、それを見たクロノラが目を細めてニヤリと笑った。
 ――『ルビーオブマグス』には”魔法DEF(防御)貫通”の効果が付与されているが、その程度では30ものレベル差のある『マジカルファイター』には通用しない。

 パシン! とクロノラが拳を自らの掌に打ち付けると同時に、開始のゴングが闘技場によって鳴らされた。

 
 ――決闘を開始します(デュエル・スタート)

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