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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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 炉の炎によってオレンジ色に照らされた室内に、鉄を打つ音が響く。
 茹るような室温の中、俺は一定のリズムでハンマーを振り下ろし続ける。
 何度か連続して打ち据えたあと、水の中に入れ、取り出して形を確認し、炉に放り込む。

 取り出して、また叩いて、冷やす。形が納得のいくものになったらメニューウィンドウを開き、飾りや柄の部分に使用する材料(アイテム)を指定する。
 完成予想図(プレビュー)を確認し、少し手を加えてデザインを修正してから、表示されている『【鍛冶】スキルを完了しますか? Yes / No 』の『Yes』をタップしてやれば完成だ。

 ただ叩き伸ばしただけの鉄塊が青白いライトエフェクトに包まれ、それが収まると波打つ刀身に赤い魔法石をあしらった剣に変化している。
 色々とツッコミどころ満載だが、VRゲームでの鍛冶なんてこんなものだろう。むしろ実際の鍛冶の手順を踏まなければならないとなったら、一部の物好き以外からは大ブーイングだと思う。

 『”ゴールドスターの”フレイムフランベルジュ』……うん、なかなかの出来だ。今回は刀身の中央に紅いラインを引いたデザインにしてみた。
 こういった属性武器は他の武器と持ち替えて使う事が多いので、見た目に分かりやすい方が取り回しが楽でいい。
 さらに柄の装飾は派手になり過ぎないよう注意し、それでいて属性効果も――

「おい! 終わったんなら早く代わってくれ!」
「あ、はい」

 ……いつかは自分の工房を持ちたいものである。


 共同の鍛冶場を出て、露店エリアを目指して歩く。
 別にシステム的には街のどこで店を開こうと問題ないのだが、露店は露店エリアで開くのがプレイヤー同士のマナーとなっている。
 たとえば中央の噴水広場前で武器露店を開こうものならカップルからものすごい目で睨まれるだろう。

 そういえば噴水広場といえば、以前”縁結び”という名前の『アルケミスト』が低級ポーションを売ってぼろ儲けしていた事があったが、そのあと行方不明になっていたっけか。引退したのだろうか?

 露店エリアに辿り着き、空いている場所を探す。
 途中、マッチョな肉体に豊かな髭をたくわえた”デンセツ”という鍛冶仲間のプレイヤーが「おう! ゴル公、ここ空いてるぞ!」と声をかけてきたが聞こえていないフリをした。
 あいつの隣などごめんだ。暑苦しい上になぜか向こうの武器ばかり売れて悲しい気持ちになる。

 適当な場所を見つけて、アイテムインベントリから『レジャーシート』を実体化して地面に敷き『露店許可証』を使用する。
 許可証は安いアイテムではあるが使い捨てだ。一度に並べられるアイテムは10種類まで。普段ならば慎重に選ばなければならないのだが……まあ今は剣一本だ。

 気持ち高めに値段を設定して寝転んで時間を潰す事にする。客引きなどしないのがマナーであるし、俺の目的は時間潰しなのだ。
 パーティメニューを開いて確認するが、朝に出会ったアーティという『キャスター』の僕っ娘はまだログインしていないようだ。
 まあメッセージを送っておいたしログインすればこちらにも分かる。呼べばすぐに来るだろう。

 買い物をするプレイヤー達を眺めながらしばらくぼーっと時間を潰していると、真っ赤なストレートヘアーにスーツみたいな服を着た女がこちらに近寄ってきた。
 あー……なんだっけあの服。執事服? ご丁寧に白い手袋まではめている。新しい装備だろうか? どうでもいいが。それにしてもめんどくさい奴が来たな。

「……探しましたよ、ゴールドスターさん」
「そりゃご苦労さん。見ての通り今日も剣しか売ってないよ」
「……買いましょう。それが売れたら店じまいでしょう? 狩りにでも行きませんか?」
「そうか、ちょっと待ってくれ。値段を10倍に設定し直す」

 俺の露店の前で「ぐぬぬ」と唸っている女は”クロノラ”という名前の『マジカルファイター(魔法格闘家)』である。

 ――このゲームは”デュアルクラスシステム”という仕様になっていて、二つまで”クラス”を取得することができるのだが、『マジカルファイター』というのは確か『ファイター』と『ウィザード』を組み合わせたクラスだ。ちなみに『アサシン』と『ブラックスミス』では名称の変化はない。

 こいつは赤い髪なのに名前が”黒”っぽいし、あと本人のせいではないがクラス名がなんだか痛々しい。そして使いもしないのに剣を集める趣味がある、よく分からん奴だ。
 俺の店ですでに20本以上購入しているはずなんだが、いったい何に使っているのだろうか。

「……10倍、ですか。……今手持ちがそこまでないのでツケにできないでしょうか?」
「うちはツケでは売ってない。あと火宝剣が欲しけりゃ他のとこでも売ってたぞ?」
「私は貴方のつるぎが欲しいのです。いえ、あなたの剣になりたいのです!」
「……プレイヤーに【分解】って使えたっけか?」

 もし可能ならば対人戦でかなり便利だな。今度試してみよう。

 ……にしてもこの女、相当執念深い。
 何度もパーティに誘ってくるので普通ならば好意があるのかと勘違いしそうなものだが、こいつの目的は絶対に違う。
 なぜなら以前、まだ魔法少女(マジカル)でない無印の『ファイター』だったこいつが、狩場でモンスターを引き連れて俺をMPKモンスタープレイヤーキルしようとしやがったのが馴れ初めだからだ。

 腹が立ったので貴重な宝剣を投げまくってモンスターごと殲滅してやったが、恨まれたのかそれ以来付きまとわれているのである。……実は俺も少し恨んでいる。あれは痛い出費だった。

「ああ、もう! どうしていつもはぐらかすのですか! パーティくらい組んでくれてもいいでしょう!?」
「……悪いが俺は誰とも群れない主義なんだ。他を当たってくれ」

 適当な事を言ってスルーしておく。
 まあソロ狩り中心なのは本当だ。パーティで【投擲】狩りなんてやったら俺の出費だけ跳ね上がるし、普通に前衛だけするなら【アサシン】よりも【ソードマン(剣士)】系統の方が性能が高い。
 というか仮に【アサシン+ブラックスミス】と【ファイター+ウィザード】がパーティを組んだとして、別々にばらけて狩った方が効率がいいわけで、俺にまったくメリットがないのだ。

 それが分からんわけでもないだろうにしつこくパーティに誘ってくるのは、やはり何か企んでいるに違いないだろう。どこかやばい狩場……たとえば”氷の洞窟”やら”妖精の沼”あたりで置き去りにするとか、やられたらトラウマものである。
 そう考えると俺の剣を買っていくのもいつか復讐するために研究しているのかもしれないな。恐ろしい女だ……復讐なんて無益なことだよ? うん、俺が言うんだから間違いない。

「ううう……。10倍……今月と来月のおこづかいが……」
「おい、うるさいぞ」
「うう……」

 唸りながら露店の前で頭を抱えるクロノラ、実に邪魔である。
 しかしこの女、俺の剣を10倍の値段で買えるほどのこづかいを貰っているのか。

 このゲームというか、最近のVRオンラインゲームは全て公式でRMTリアルマネートレーディング可だ。俺も日々の食費くらいはゲーム内の鍛冶で稼いでいる。
 その俺の剣を10倍で買えるこづかいか、なんだか虚しくなってくるな。……ほんとに10倍で売りつけてやろうか。

 ……と、アーティの奴がログインしたようだ。『すぐに行く』とメッセージが飛んできた。

「おいクロ助。客が来るから買わないならさっさといなくなれ」
「な!? 私だって客です。今考えているのです!」
「考えなくていい。このままの値段で売ってやろう」
「! 分かりました! ではそのあとパーティを!」
「まいどあり。先約があるからパーティはいつか気が向いたときにな」
「えっ!?」

 なぜ驚く? 客が来るから店じまいだと言ったろうに。それと気が向くことは絶対にない。
 ……お、来た来た。走ってやがる。――やけに到着が早いな、『転移水晶(ワープクリスタル)』でも使ったのだろうか? あれは消耗品のわりに結構な値がするアイテムのはずだが、まあその心意気は買おう。何しろ――

「……はぁ、はぁ……ルシくん、あのメッセージはどういうことかね?」
「VR内で息切れしてんなよ。なんかエロいぞ? それとメッセージはそのままの意味だろう。カニバリスキューケンのドロップアイテムを返してくれ」

 そう、目の前で荒い息を吐くペールゴールドヘアーのゴシック僕っ娘は、あろうことかカニバリスキューケン(巨大ヒヨコ)のレアドロップを持ったままログアウトしやがったのだ。
 用事があるからとこいつが言い出した時、(ルビーオグマグス)は貰えないようだしならばもう用はないかと適当に見送ったのが失敗だった。

 どうやらあのとき先制攻撃(ファーストアタック)の権限はこいつに判定されていたらしく、レアなドロップアイテムは全てこいつのインベントリに入っていたようなのだ。――いやマジで焦った。パーティ解散する前に気付いて本当によかった。

「お前にファーストアタック権限があろうが倒したのは俺だろう。売って損失分を取り戻そうと思っていたのに、お前が持ってったせいでこっちは無駄な時間を過ごしちまったぞ。さあ、早く返してくれ」
「……はぁ、まて、渡すのは別にかまわない……かまわないんだが、呼び出すにしても、もう少しやり方というものがあるのではないのか……」
「なにがだ?」
「うぐ……」

 変な喋り方の僕っ娘(アーティ)は言葉を詰まらせて俺の事を涙目で睨んでいる。……なんだ? そんなにカニバリスキューケンのドロップアイテムを渡すのが惜しいのか? レア装備で固めてるくせにケチな奴だな。

 そういえばさっきからクロノラの奴が目を見開いて俺とアーティを交互に見比べてるが、こいつは何をやっているんだ? ……まあ放置しとこう。

「だ、だからだな……本当にとったのか?」
「だから、お前が取っていったんだろう、ドロップアイテムを。俺のだ、返してくれ」
「そうじゃなくてだな! ほんとにとったのかと訊いている!」

 いや、なに言ってるんだこいつは? 取ってなきゃ呼び出さないだろうが。あとさっきからクロノラがうざい。店の前で首振り人形みたいになっている。

「だから! その…………だ」
「うん? なんだ? 声が小さくて聞き取れん」
「……だから!」

 だからだからと連呼されても分からん。あれか? ミネラルドリンクが欲しいのか?
 アーティの顔はなぜか真っ赤で、目じりに涙を溜めたエモーションまで出している。……あれ本人の意思とか関係なく勝手に出るんだよな。
 うーん、両手を握りこぶしにしてぷるぷる震えてるが、いったいどうしたと言うのだろう。

「だから! 僕のぱ、ぱ、パンツのSS(スクリーンショット)を本当に撮影したのかと訊いている!」

 と、いきなり顔真っ赤の僕っ娘が叫び、髪真っ赤の執事服娘が頭から”ぼんっ”と湯気を吹いた。

 ……ああ、そういや”早く来ないとお前のパンツのSSを掲示板に張り付けるぞ”とかメッセージに書いたっけ。色もちゃんと指定して。

 ――しかし、紳士である俺が本当にそんな事をやるはずがないのは少し考えれば分かるだろうに、失敬な奴である。
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