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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

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「インベントリ、オープン!」

 音声コマンドに反応して開いた収納(インベントリ)ウィンドウのアイテムを右手でなぞりながら、同時に左手で半円を描くように位置を指定する。
 俺の正面に12本の剣が実体化され、それがドスドスと地面に突き刺さった。準備完了だ。
 少女がカニバリスキューケンの頭の上で歓声をあげる。

「おお! なんかかっこいい!」

 ――分かってくれるか! チーターの少女よ!

 そう、別にインベントリを開くのは音声コマンドじゃなくてもよいのだが、俺はこの一連の流れをやるためにわざわざ何度も練習してきたのだ。足の上に剣を出してしまったのも一度や二度ではない。

 俺はビシリとポーズを決め、目の前の剣をカニバリスキューケン――巨大ヒヨコに向けて【投擲】した。
 投げられた剣は青い閃光のライトエフェクトと化し、一直線に虚空をはしる。

 ――ぴよぴよー!!

 柄に青い魔法石をあしらった自慢の宝剣が突き刺さり、大きく仰け反る巨大ヒヨコ。少女が振り落とされそうになっているが、そこは知らん。なんとかしがみついているようだから大丈夫だろう。
 俺は猛り狂う巨大ヒヨコに向かって、次々と剣を【投擲】する。

「わわわっ」
「くらえっ! ヒヨコ野郎め!」
「わわっと! この子メスだよー!」

 ……む? そうなのか。いやどうでもいいが、少女は状況のわりに余裕があるようだ。俺はさらに剣を投げる。

 ――ぴよー!!

「くっ……!」

 しかし8本ほど【投擲】したところで、巨大ヒヨコが俺との距離を詰めくちばし攻撃をしてきた。ギリギリ【バックステップ】で避けたが、一瞬だけ少女の顔がすぐ目前に見えた。……ちょっと涙目だったな。

「くらいやがれっ!」

 下がりながら手の中に【エクスチェンジ】で宝剣を呼び出して投げる。最初のはって? あれはただの演出だ。4本も無駄に出してしまったが、あとで回収すればいい。

 前足キックを避けながら、さらに剣を投げる。巨大ヒヨコが仰け反って”スタン”状態になる。素晴らしい威力だ! さすが最大レベルまでスキルポイントを注ぎ込んだ【投擲】スキルとレアな宝剣だ!

 ――ちなみに【投擲】スキルで投げたアイテムはもちろん使い捨てである。先ほどから俺の投げた剣はヒヨコの体に突き刺さったのち、消失エフェクトを残して砕け散るように消えている。
 通常ならばこれは”スローイングナイフ”や”手裏剣”といった使い捨ての【投擲】専用アイテムを投げるスキルなのだ。俺のようにレア武器を投げまくる『アサシン』などおそらく他にいないだろう。

 だが代わりにその威力は詠唱(キャスト)タイムなしの一撃で、魔法クラスの最大火力に匹敵する! なんという爽快感! そしてなんという喪失感! 素晴らしい!

「はーはっはっは! どうだ! 売れば一本500,000クレジットもする宝剣の威力は!」

 テンションが上がって思わず変な高笑いをあげてしまった。そうだ、こいつを倒したら今日の晩飯はローストチキンにしよう! 明日はにぼしと白米だが。さあ、どんどん投げるぞ!

 ……しかし、楽しい時間はもう終わりのようだった。

 俺が次に投げた宝剣『ドラグーンスライサー』(一本750,000クレジット)の直撃を眉間に受けたカニバリスキューケン(人食いヒヨコ)は一度大きく体を震わせると、ぴよーと断末魔の咆哮を残して光の粒となって消滅する。

「きゃぅ!」

 当然、急に足場が消滅した少女は空中に投げ出されてぼてっと地面に落ちた。……黒か、なるほど。

 おっと、見学している場合ではないな。俺はカニバリスキューケンを倒した事による満足感と少しの安堵、一抹の寂しさを感じながら倒れた少女に近寄ると、手を差し伸べてやりながらできるだけ優しい声音で語りかける。

「よし、助けてやったから何かお礼をよこしてくれ。その杖でいいぞ?」
「……ぇ?」

 ――少女はぽかんとした顔でこちらを見上げている。……む、やはり結構可愛いな。しかし俺は紳士であるからして”体で払え”などと下種げすなことは言わない。

「……む……ぅ、いや、ちょっと待ってくれないか?」
「なんだ?」

 少女は俺の手を取らずに立ち上がると、あごに手を当てて「ううむ……」と考え込んだ。
 なにかおかしな事を言っただろうか? 助けてもらったからお礼をする。自然な流れだと思うのだが。

「……うん。僕が思うに、こういうときは『大丈夫か? よかった、無事で』とか言いながらニコッときみが笑って、僕が『まあ素敵!』と惚れたりするのがお約束の流れというものなんじゃないのかね?」

 ……ん? なんか変な喋り方をする子だ。まあゲームなんだしロールプレイも珍しくないが、しかし”僕っ娘”か……ありかなしかで言われれば微妙なところだが、あまり似合ってない気もする。

「そうだな、惚れてくれても構わないがその場合は猫耳を装備して語尾に『にゃ』をつけて話してくれ。あとその杖をよこせ」
「……ちょっと待ってくれ、何を言っているのか分からない。……いや分かるんだが、一応僕も白馬に乗った王子様に夢見るような年頃の女の子なんだ。頼むから現実を受け入れる時間をくれたまえ」
「そうか、20秒やろう」
「……すまない」

 少女は目頭を押さえてまた思考にふけっているようだ。なぜだろう、お礼としてレア装備を渡すのがそんなに辛いのだろうか? 俺が先ほどの戦いで消費した宝剣類と同じくらいの価値なのだから、正当な報酬だと思うのだが……やはりチートなんぞやっているのだし悪い奴なのか?
 そういえば、チーターからアイテムを受け取ったとして俺までアカウントBANされないだろうか? うん、それは困るな。

「おい僕っ娘、やっぱり気が変わったからお礼はいらん。感謝だけでいい」
「……そうか、いやなんというかショックで立ち直れなくなるところだったよ。ありがとう」
「うん、知らないチーターから物をもらっちゃいけませんって運営さんが言っていたからな」
「……チーター?」

 まあ知ってるチーターでもダメだが。……しかし、少女はまたも不思議そうな顔をして考え込んでしまった。考え事の多い奴だな。俺もそんなに暇じゃないのでさっさと立ち去りたいのだが。あ、通報はどうしようか……やめておこう、パーティ組んじゃったし。

「……もしかしてきみは、僕が狩りをしているところをずっと見ていたのだろうか?」
「そうだが?」
「そうか……いや、なんだか色々と言いたいことはあるが、とりあえず僕はチーターではないよ。あれはただ詠唱を省略していただけだ」

 ――詠唱を省略? そんなスキルあっただろうか? まあチーターでないのならば貰えるものを貰っておいても運営さんに怒られることはなさそうだ。

「分かった、信じよう。ならその杖をよこしてくれ、さっきの戦いで手持ちがあとわずかなんだ」
「……ううむ、仮に僕がこの杖をきみに渡したとしよう。きみは見たところ『アサシン』のようだが、これをどうするつもりかね?」

 少女が難しい顔をして質問してくる。貰ったらどうするかって? それは決まっているだろう。

「【分解】して剣の材料にする」
「ふむ、きみは『アルケミスト(錬金術師)』のクラスも取っているのか。いや『ブラックスミス(鍛冶屋)』かな? ……それで、作った剣をどうするのかな?」
「投げる」
「……絶対嫌だ。お礼は別の形でしよう……。いやまて、そもそもなぜお礼をしなければならないんだ。きみは最初からあの大きなヒヨコを狩るためにここに来たのだと推測するが……」

 ちっ、気づかれたか。もう少しで今回の経費をちゃらにできたのに……。

「きみはなんというか、恐ろしい男だな……だいぶ苦手なタイプだ」
「そうか、俺はあんまり嫌いじゃないぞ。なんかチョロい感じがして好みかもしれん。あー……名前は」

 俺がパーティメニューを開いて調べようとすると、それより先に少女が名乗った。

「……アーティだ。なぜだ、ちょっと嬉しいと思ってしまった。……うわ、吊り橋効果って怖い!」
「別に惚れてくれて構わんぞ、語尾に『にゃ』を忘れるなよ」
「お断りだ! ……きみのことはルシくんと呼ばせてもらおう」

 少女はそう言うと、なにも持っていない方の左手を差し出してくる。なぜ”ルシくん”なのだろう? 俺のキャラネームは”ゴールドスター”なのだが。……まあいいか。
 俺はアーティの好意に応え右手を素早く差し出して、その手を払い落される。

「……いや、ほんとに苦手なタイプだ」

 少女はなぜか困った顔で、小さく溜息を吐いたのだった。
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