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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

アーティ編

15/33

 柔らかな光が木々の葉を抜けてまだらな影を落とし、ひざ丈まで伸びた草原は緩い風に揺らされている。
 緑中心に彩られた景色の中、木の葉の擦れる音は一定のリズムを作り出しているかのようだ。

 時刻は午前6時。朝特有の冷たさを含んだ空気は、仮想ヴァーチャルのものと分かっていても肌に心地よい刺激を与え、脳が活性化するような気さえする。

 ここはVRヴァーチャルリアリティオンラインゲーム『Starスター ofオブ Restレスト andアンド the Adventureアドベンチャー(休息と冒険の星)』内部、東ゲートを抜けた先にある森の深い場所。……そしてその茂みの中。

 ……俺は困っていた。そう、困って隠れていた。

 別にやましいことがあって隠れているのではない。むしろやましい事があるとすれば俺が隠れている原因を作った相手の方だろう。……しかし正直初めて見た。話には聞いた事があったが、SRA(このゲームの略称だ)では不可能だと思っていた。

 ――チーターだ。チーターがいるのだ。

 動物のチーターではない。ゲーム内のデータをいじくったりしてズルをする”チート”という行為をおこなう者の事だ。俺が隠れている事に気づいていないのだろう、そのチート行為は今も続けられている。
 しかしチートという重大な違反行為ズルをしていながら、やっている内容はただ雑魚モンスターを狩っているだけという平和なものではあるのだが、さて俺はどうしたらいいのだろうか。

「”あさははをみがきましょう” 《フレイムレイン》!!」

 ……ああ、まただ。火属性の【詠唱魔法】が発動し、火炎の雨が降り注ぐ。

 鈍色に光る鉄の角を生やした、四足歩行の動物型モンスター”スチールガゼル”がその炎に焼かれて力尽きるように倒れ、一瞬あとに光の粒の消失エフェクトを残して消える。

 倒したのは、金色を白銀で薄めたような色の髪を、腰くらいまで伸ばした女『キャスター』だ。
 歳はおそらくまだ若い。たぶん高校生になったばかりくらいだろうか? それほど近くで見たわけではないが、端正な顔立ちで結構な美少女のアバターだと思う。
 黒を基調として金の細工品をあしらったゴシックワンピース姿に、手には赤い指し棒のようなワンドを装備している。
 記憶が確かならばあれは『ルビーオブマグス』ではないだろうか? 仮にそうだとしたら、かなりのレア装備である。


「”あさははをみがきましょう” 《フレイムレイン》!!」

 再度【詠唱魔法】が放たれ、スチールガゼルが焼かれて倒れる。
 あのモンスターは詠唱スキルキャストに反応して襲い掛かってくるので、通常ならば魔法タイプのクラスがソロで狩るのにあまり向かないモンスターなのだが、なにしろさっきから詠唱が速いというか”おかしい”のだ。

 俺のメイン”クラス”は『アサシン(暗殺者)』なので『キャスター(詠唱遣い)』の詠唱する単語を全て覚えているわけではないのだが、先ほどから少女が放っている『フレイムレイン』の詠唱は確か”朝霧の檻”という範囲指定の単語から始まる長い呪文だったはずだ。断じて”朝は歯を磨きましょう”なんて標語みたいな台詞ではない。

「きゃっ!」

 やはり、GMゲームマスターなり運営なりに通報するべきなのだろうか。しかし通報といってもどうすればいいのだろう。SSスクリーンショットでも撮って公式サイトの問い合わせフォームに送り付ければいいのか?
 ……ダメだ。ここから撮影しても、ただ【詠唱魔法】を撃っているだけのSSにしかならないだろう。会話ログでも録音すればいいのだろうか。うーむ……。

 それに通報するとしたら、一旦ここを離れなければならないだろう。いくら【隠密】スキルがあるといっても、メニューウィンドウを開いて公式ホームページにアクセスなんてしてたら、隠れている事がバレてしまう。

 別にこちらにやましい事があるわけでもないのだから、見つかっても特に問題はないのだが――

「”あさははをみがきましょう” 《フレイムレイン》!!」

 ――あ、またやった。こうしてうだうだと考え続けている間にも少女の狩りは続いている。

「きゃっ!」

 ……というか、さっきから気になっていたんだが高レベルの装備品を身に着け、チートまで使っているというのに、少女の動きはかなりぎこちない。草以外に何もない場所で何度も転倒している。
 どんくさい子なのだろうか? それともチートを使用することで運動能力になにか制限がかかっているとかだろうか。もう少しすそが短ければパンツが見え……いや、まったくチートなんてけしからん。

 ただまあ、俺が悩みつつも通報せずにずっとここを離れられないのにはちゃんと理由がある。
 待っているのだ、ここで。……パンツが見える瞬間ではない。

 ――ユニークモンスターが出現ポップするのをだ。

 多くのオンラインゲームと同じように、SRAにもボスモンスターやレアモンスターなどが存在し、それらから入手できる経験値やアイテムはかなりの収入になる。
 ここ東の森エリアにも、時間湧きで出現する”カニバリスキューケン”という名前の珍しい(ユニーク)モンスターが配置されていて、俺の狙いはそいつである。

 この”時間湧き”というのが曲者で、何時に出現すると決まっているのではなく、倒されてから一定時間後に出現するというシステムになっている。
 わざわざ朝の人気のない時間帯を狙って俺がここに来たのはそのためだ。いつもここでカニバリスキューケン狩りをやっているパーティがいるのだが、彼らは午前2時から3時には引き上げる。
 カニバリスキューケンの再湧き(リポップ)設定時間は3時間後なので、遅くともそろそろ出現するはずなのだ。わざわざ準備してきたのだから逃したくはない。

 しかしそろそろカニバリスキューケンが出現する時間だとして、困ったことに先ほどから少女はちょうどその湧き位置で狩りを続けているのである。
 このままだとファーストアタックの権利を奪われるか、最悪の場合倒されてしまうこともありえる。
 いくら魔法クラス向きのモンスターではないといえ、スチールガゼルはそれほどレベルの高いモンスターではない。それを狩っている程度のレベルのキャスターがソロで倒せるとは思えないが、相手はなにしろチーターである、ダメージ無効チートなどがあってもおかしくない。さて、どうしたものか……。

「きゃっ!」

 ……お、またこけた。
 これはあれだな、カニバリスキューケンが出現したら横からかっさらう作戦でいこう。
 SRAではパーティを組まずに横殴りでモンスターを倒した場合、得られる経験値がかなり減らされてしまうのだが、この際しかたがないだろう。
 どうもVR内での運動神経が悪い子みたいだし、相手はチーターだし……それに少女だ。カニバリスキューケンの恐ろしいフォルムを見て、攻撃できなくなってしまう可能性もある。――それほど恐ろしいモンスターなのだ、あれは。

「きゃっ! ……え? わわわ!」

 俺がこれからやろうとしている横取り(ノーマナー)行為を自分の中で正当化していると、それはついに現れた。
 ちょうど少女が転んだ場所に光のエフェクトが集まり始め、急速に形を成していく。
 そいつはみるみるうちに膨れ上がり、その上に乗っかるかたちになった少女は驚いて座り込んだまま動けなくなってしまっている。

 さらに膨れ上がり、大型冷蔵庫3台分ほどの大きさになったその光の輪郭は、次の瞬間には黄色く色づいて、モンスターとしての形を成す。

「現れたか、宿敵よ!」

 思わず茂みから飛び出してしまう。――そう、俺はずっと狙っていたのだ。まだ初心者だったころ奴に突きまわされ、尻を蹴とばされ、デスペナルティによる強制ログアウトをくらって以来、この復讐のときを待っていたのだ!

 俺の姿を視認すると奴は頭の上に少女を乗せたまま、その黄色い翼を広げて威嚇してきた。
 大きな目玉がギラギラとした眼差しで俺を射貫いている。体が震えてくるが、これはきっと武者震いだ。

 もう俺はあの日の弱い俺じゃない。【アサシン】クラスのレベルを上げ【投擲】スキルを極めてきたのだ。戦う準備は十分にしてきた。――負けるはずがない!

「ちょっ……えええ!?」

 カニバリスキューケンの頭上では少女が目を白黒させているが、構ってやっている余裕はない……あ、やっぱり恩に着せておこう。

「待ってろ! 今助けてやる!」
「ぇ、あ、はい!」

 よし、これで横殴りの許可はとったぞ。一応素早くパーティ申請を飛ばしておく、時間がないのでPT名は『あああああ』だ。

 俺が飛ばした申請を少女が受諾した次の瞬間、大きな風切り音を立てて黄色い翼が横殴りに襲い掛かってきた。【バックステップ】で後ろに跳んで回避し、ニヤリと笑ってやる。さあ、戦いの開始だ!

 ――ぴよぴよー!!

 カニバリスキューケン――巨大な人喰いヒヨコは、頭に少女を乗せたまま大きく咆哮をあげた。
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