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ゲームだからといって楽しめるとは限らない~Star of Rest and the Adventure事件まとめ 作者:電気スナーク

わんちゃん編

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『 Game Over 』

 VRヘッドギアを頭から剥ぎ取るように脱いで放り捨てる。
 金属が木製の床に落ちる音。

 鈍い痛みを訴える頭の中で、ここは何処だろうとぼんやり考えるが、とりあえずやらなければならないことは分かっているのだ。めまいに耐えながらテーブルの上の薬を飲む。

 ……少し落ち着いてきた。左手首に痛みを感じたのでそちらに目をやると、どうやら爪を立てすぎてしまったらしい。軽く血が滲んでいる。
 まあ、仕方がないだろう。少し”潜り”過ぎた。

 ベッド脇のパソコンデスクに座り、考えをまとめる事にする。
 まずは、検索エンジンを立ち上げて『 ハイプリースト スキル 』と文字を打ち込み、出てきた情報を流し読む。
 ……あった。【聖域】一定ダメージ量までの物理、魔法攻撃を完全に遮断する。――あのときコトリが張った薄い氷の幕は代替品で、本当はこれを張りたかったのだろう。

 「あの場所での狩りにあれだけ慣れていて、あのミスはありえないからな……」

 それに”氷の洞窟”には他のプレイヤーがおらず、モンスターが”溜まって”しまっている状態だった。PT『Quartetカルテット』はずいぶんと長い期間、あの狩場を占領していたのかもしれない。

 ふと、メッセンジャーのアイコンが点滅していることに気づき、それをクリックする。リミからのメッセージで『 Limi:だいじょうぶ? カナデちゃんがごめんってー 』と送られてきていた。
 気にしなくていい。とメッセージを送ってから閉じようとして、不在着信が入っていたのを見つける。梶原かじわら……依頼人の男だ。気が短いのか、もしくは依頼の取り消しかもしれない。

 狩りのとき、カナデは前衛役をやっている俺を一度無意識に”あんた”と呼んだ。そしてその呼び方を続ける事には拒否反応をしめした。
 かつて”Quartetカルテット”には男性の前衛プレイヤーが一人いて、”あんた”というのはカナデにとってその人物を指す呼称なのだろう。

 それから、喫茶店でカナデがコトリを指して語った矛盾する発言。

 ――コトリが懐いてるって事は、ほんとに下心とかないの?

 ――この子、無自覚にガード緩いから心配だったのよね。

 下心を感じたら避けるのに、無自覚ってのはおかしいだろう……以前に痴情のもつれでもあったのだろうか?
 なんにせよ、コトリがあまり喋らないタイプなのを差し引いても、カナデと合流してからはそちらとばかり会話する事になっていたのは事実である。
 そしてカナデの言う”あんた”とは、コトリのリメイク前のキャラクターを知っていることから、十中八九この”梶原”という依頼人なのだろう。

 そうなると、カマをかけて情報を引き出したのは失敗だったかもしれない。この男は噂を流したいだけなのに、腹の内を探られる可能性を意識させてしまった。
 この不在着信が依頼取り消しの通達だったとして、どうやってそれを言いくるめようか……。


 しばらく思考にふけっていると、玄関のチャイムが鳴る音が部屋に響いた。
 ……食料品の配達は頼んでいないはずだが、梨美だろうか? とりあえず誰がきたのか確認しよう。
 いちおう自分の身なりを軽く確認したのち、玄関まで行って扉の覗き窓を確認する。

 ――扉の外に立っていたのは、制服を着た少女だった。見た目からして高校生くらいか……どこの学校だろうか? このあたりでは見ない制服だが。
 そもそも俺に女子高生の知り合いなどいない。梨美のやつが歳だけはそれぐらいだが、あいつは学校に通ってない。

「おーい、いるんなら開けてくれよ。扉越しでお話なんて悲しいじゃないか」

 少女はこちらが覗き窓を確認していることに気付いたらしく、扉を開けるよう要求してきた。
 しかし、なんだ? 喋り方に少し引っかかりを感じる。……違和感の正体は分からないが、居留守を決め込んでも仕方がないか。

「お、開いた開いた。やあ、こんにちは。はじめまして、ではないね? 僕にとってはだけども……ふふふ」
「……どちらさまで?」

 会ったことのない少女だ。……いや、確か見たことがある気がする、のだろうか?
 たぶんネットかテレビかもしれない。少女の顔立ちは非常によく整っていて、量産されているアイドルグループと比べても遜色ないものだ。――しかし整い過ぎていて、逆に”印象に残らない”ともいえる。

 少し長めの黒いストレートヘアーに、体格も平均的だろうか。美人ではあるのだが、街ですれ違ったとしてそのときは目で追ってしまっても、あとになってその容姿が思い出せないような、そんなタイプである。

「おや、やはり覚えていない。……だめだねぇ、仮にも”探偵”を名乗るなら記憶力はしっかり持たなくちゃ。それとも現実リアル仮想ヴァーチャルでは見分けがつかないのかな? うん、そうだった。きみは確かそうだった……ふふ、僕としたことが、ひとつ前に言った台詞が自分に返ってくるなんてね。うん、まあ僕は”探偵”は名乗らないけれども」

 やはりおかしな喋り方をする……これはなんだ? イライラさせる、とは少し違う。不安、だろうか。

「……あいにくだが、会った覚えはないな。それで、なんの用件だ? いたずらなら他をあたってくれ」

 知らずうちに、語調が荒めになってしまう。しかし、この相手には警戒した方がいいだろう。

「用件、用件ね。きみとこうやって会話することも用件の一つではあるのだけれども、そうだなぁ……デートのお誘い、とかじゃダメかな?」
「デートの誘いなら間に合っている。他をあたってくれ」
「きゃっ」

 俺がそう言ってさっさと扉を閉めようとすると、少女はそれに驚いたのか尻もちをついて悲痛そうな表情をした。おかしな喋り方をするわりに、悲鳴だけは女の子らしいものだとぼんやり考えながら、助け起こすために手を差し出してやる。
 ……しかし、少女は俺の差し出した手をとって立ち上がるでもなく、悲痛そうな表情のまま平坦な声で告げる。

「……うん、映った。ばっちり映ってるね、監視カメラ。可愛く撮れてるといいんだけれど――さて、きみの手を握って立ち上がるかどうか決めるのは、きみがデートのお誘いを受けてくれるかどうか改めて聞いてからにしようか。うん、このマンションの監視カメラの位置と、それが音声の録音をしないことも加味した上で、よく考えてみてくれると僕は非常に嬉しいね」

 ――しまった、やられた。

 この集合住宅に取り付けられた監視カメラは、少女の言う通り音声の録音をしない。
 そして、その位置からいって今の一連の流れは”少女が俺に部屋の中から突き飛ばされた”ように映っているだろう。完全にはめられた。

「そんな怯えた顔をしなくても、少しドライブに付き合ってもらえばいいだけだよ。そうだ、報酬もだそう。女子高生とデートした上にお金まで貰えるなんて……ふふ、とても美味い話だろう?」


 ……ああ、美味い話だろうよ、ちょっとでも頭の回る人間なら絶対に係わろうとしないたぐいのな。

 ――しかし、今は断れる立場にないのだ。
 首を縦に振るときに睨みつけてやることだけが、俺に出来るささやかな抵抗だった。

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