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KINGの器
作:sadakun_d


2012年の英国はロンドン。いつも曇りがちな首都が珍しく晴れていた。どこまでも澄みわたるロンドンの街になっていた。

ロンドンの人々は皆早い足取り。どさっささっさと競技場に忙しく急いでいるようだ。
「開会式は11時だわ。オープンニングからどうしても見ておきたいの。見逃したくないから急ぎましょう」

ロンドンっ子たちは地下鉄郊外にあるオリンピック会場ウェンブリーを目指す。地下鉄はどこもかしこも満員であった。

2012年ロンドンオリンピック開催会場。ロンドンの中心地から地下鉄3区間(最高距離)であった。普段のロンドン生活で郊外まで足を運ぶことはまずない。今宵だけは特別であり胸の高まりを押さえつつおしくら饅頭地下鉄に乗車をした。

「満員だけど我慢するわ。会場に着けば最高の盛り上がりを見せる開会式が待っているの」

オリンピック会場ウェンブリーはみるみるうちに収容人員いっぱいに膨れあがる。今か今かと開会式の始まりを待つロンドンっ子は紳士淑女の集まりでいっぱいになった。

このロンドンオリンピックは全世界に英国をよく知ってもらうチャンスである。ロンドンや英国のみならず世界が注目であった。

オリンピック開催に際してありとあらゆる案を英国政府は練り今日の開催にまでこぎつけたのだ。

さらに英国民たちが胸をわくわくさせるわけがあった。

それは…

開会式の定刻がやって来た。ロンドンの騎兵隊は音楽隊と重なりウェンブリー会場に行進をする。夥しい数の勇敢なる英国の兵士たち。彼らは勇敢に行進を終えると競技トラック・フィールドに隈無く並ぶ。

色鮮やかな軍隊一堂が貴賓席に最敬礼をする。何万という数の兵士がする最敬礼の先。競技場貴賓席に鎮座するエリザベス女王がいた。優しい眼差しの女王。老齢な女王からみると我が息子かいや孫に当たるような英国の兵士たち。女王は見て嬉しくて微笑んだ。

英国の国王として君臨をするエリザベス女王陛下の隣りにはフィリップ殿下も神々しくいらっしゃる。息子のチャールズ皇太子もカミラもいた。

カミラの横に王女・王子と王室が続く。

会場の観衆は盛んに王室のいる貴賓席を眺める。

観衆はオペラグラスを片手に持つ。なんとか見ておきたい"王室のお目当てな人物"を探してみた。

「おいいるか。遠いから見えないかもね。まだ姿は現さないのか。開会式の挨拶はきっとやりなさるんだろうけどね。女王さまは開会挨拶はなさらないんだろ。国王がやることに決まっているんだからさ」
王室貴賓室を観衆は一生懸命に覗く。残念ながらお目当ての人物が見えないとわかる。一部の観衆からざわめきが起こる。国王はどうなるのだ。女王が国王のままなのか。オリンピックは女王が取り仕切るのか。

オリンピック開会のセレモニー。タイムスケジュールの通り秒単位で進行をする。兵士が行進したら可愛いらしい幼稚園児や小学生たちがバトントワラーを披露する。英国の子供は生まれてすぐに紳士であり淑女であると象徴するかのお子様パレード。

盛大な行進マーチが鳴りやむ。観衆の視線は貴賓席のエリザベス女王に向けられていく。お目当ての人物は現れてくるのだろうか。

貴賓席からは国民の大歓声にエリザベス女王は満面の笑みで応えた。側近にいらっしゃる王室各位は軽く手を振り応えた。

『栄光ある繁栄英国の新しき国王』の姿を眺めたいと心ときめかせている観衆。今か今かと"その勇姿"が拝見できることを願う。栄光の英国は今後のグレートブリテン王国の舵取りを担う若き男の登場を待つのであった。

会場にオリンピック開会式のファンファーレが鳴り響いた。

会場は一瞬の静寂を迎えた。水を打ったかのごとく鎮まり返る。静かなウェンブリー開会式会場だった。

観衆もテレビ中継されたお茶の間もエリザベス女王がよいしょっと立ち上がるのを見た。

老齢なる国王(女王)は手に挨拶ロールを持つ。右手で携帯式老眼鏡を探し鼻の頭にチョコンと乗せた。

会場広場に位置する音楽隊が一斉にファンファーレを演奏をする。国王の挨拶は開会の一大イベントになる。トランペットが鳴りやむ。いよいよ国王の開会式挨拶である。英国の国民はみんなこの瞬間を待ち望んでいた。

新国王のお披露目を!

たがマイクに向かうは女王である。少し緊張感を感じながらコメントを読み出そうかとする。老眼が痛々しいところである。

会場の英国民観衆はざわめきと戸惑いが錯綜している。国王は女王であるのか。新国王は出てこないのか。

女王が手にするロールの紙。これが風になびきクシャクシャと音を立てマイクが拾った。女王はなんら疑問もなく開会式の宣誓を読み上げようとした。

〈世紀の祭典〉オリンピック。古代ギリシャが発祥となる。

スポーツの祭典オリンピック。発祥はペロポネソス半島にあるオリンポスの(もり)だった。オリンポスに棲むというギリシャの絶対神ゼウスのために古代人が競技を奉納をした神義から始まるとされている。ゼウスは跳んだり跳ねたりを見ることが大好きだった。

古代人の祭典はペロポネソス半島で4箇所で毎年会場回り持ちで開催をされていた。その4箇所開催でたまたまオリンポスのみが長く開催され続けるために名前として残る。

2012年ロンドンオリンピックはスケジュールが進行する。

開会式のメインイベントを迎える。女王は貴賓席から立ち上がり高らかに宣言をする。宣誓は国王の言葉である。
「我が英国グレートブリテンは大変な名誉をいただきました。今ここにロンドンオリンピックを開催する喜びを素直に申し上げます」

場内の満員観客らは隣同士ざわざわとし始めた。

なんだなんだ。話が違うじゃあないか。"旧来の女王"が開会の宣誓宣言を読みあげるぞ。

ザワメキは収まりがつかない。オリンピック開催の最大の目玉は国王が女王から新国王に代わる世代交代の機会と言われていたのだ。
「新国王は宣誓をしないだけではないぜ。貴賓の席にはまったく姿が見えないんだ。我々国民を騙しているのか。若き国王が現れないのはなんだかバカにされた気分がしてくるよ。若き国王は雲隠れしちまったんだ。オリンピックをボイコットしているんだぜ。やんなっちゃうぜ。オリンピックなんかやめちまえや。翔んだり跳ねたりしても面白くないぜ。家に帰りパンでも焼いた方が楽しいぞ」
女王の宣誓宣言の最中ではある。英国民ら観衆がざわめき立つ。会場の不満を表す騒ぎは収まらない。宣誓が読み上げられていくに従い段々に騒がしくなっていく気配でもある。

ザワメキはエリザベス女王も充分に実感をする。が女王自身なんら顔いろを変えることもなく高らかに宣誓宣言を読み終えた。

罵声のような野次が浴びせられていた。マイクを通した女王の声が幾度か聞き取れなかった。宣誓としては最悪なものとなってしまう。

女王の後ろに立つのは息子チャールズ皇太子。母親である女王に語りかける。
「マザー(女王)悪いことは言わない。本当のことを国民に告げた方がよろしい。英国(グレートブリテン)を挙げて盛り上げたいオリンピック開催なんです。国民はこの世紀の祭典の最中に"新国王の誕生"を期待をしているんだ」
すでに中年となる息子チャールズ。本人が元来は即位して国王の座に就くがよいと言われてはいたが。
「その新国王たるべき王子が姿を見せていない。この広いウェンブリーに新国王に就任すべき王子を出席させないとはどう言うイワレなんですか」チャールズ皇太子は母親の女王に喰ってかかる。
「このオリンピック会場に出席させないだけでなく雲隠れさせてしまって。父親の僕でさえ居場所を知らないなんて。息子は国民の目の届かないところに隠蔽していると国民が知ったら」
女王は息子の義憤はもう聞き飽きたと取り合わない。執事の者を呼び早く退室したくなる。息子からの苦情は一言も耳に入れたくなかった。新国王になれない息子の王子の寝言には。
「会場観衆はマスコミを含めみんなが新国王としての第一声を聞きたいと願っていたんですよ。開会式の宣誓宣言を聞きたいとだけ願っているんですよ。それを裏切りあなたが宣言をしてしまうなんて」

チャールズ皇太子は母親の背後から不満をぶちまけた。母親は息子からぶつくさ言われてもと不満である。国民が不満を言いまくるっと息子から言われても顔いろひとつ変えずケロリッ。

手がサッと挙がり執事を迎える。膝掛けの毛布をグイッと持つと車椅子の後ろを押してもらうだけである。

ワタシャ息子の意見なんぞ聞きたくはないね。この息子には今までさんざんに好き勝手し放題やらせたんだよ。(女王として)長年苦労ばかりしてきたんだ。国王として最後ぐらいワタシャ自分の思った通りの幕引きを行いたい。

80歳を越えた女王陛下は老女である。彼女が老いを感じており女王(国王)として英国王室に君臨することをギブアップ宣言をしている。

次世代に国王の地位を譲りたい。クラウンは新国王に譲り退冠したいと申し出ている。

高齢の女王はメディアを通し痛々しき姿を英国や英国連邦諸国に伝えてしまう。

女王の退冠の申し出は国家の一大事として英国議会に掛けられた。退冠の決議は満場一致で了承である。

その議決は数年前の話である。2012年開催予定のロンドンオリンピックに向け英国は経済的に上向きの時であった。

女王の引退を如何にドラマチックにするか。世界の女王の返冠も一大イベントとして考えオリンピック開催と兼ねていく意向であった。

老齢な女王引退後は誰が新国王となるのか。プライベートでも疑問点がつくが国王に就任させるのであろうか。英国民はうんざりとする。

女王は満員の競技場に手を振る。
「女王の公式行事はロンドンオリンピックでお仕舞いになるの。寂しいと言われたら寂しいわ。だけど私はもえ歳なの。新しい国王にバトンを渡して隠居となりますわ」
女王は貴賓席を離れひとり静かな控えに入る。窓ガラス越しに観客席をオペラグラスで眺めため息をつく。車椅子後方に長年お世話をしている執事を携え女王は安らかな眠りにつく。僅か数時間の開会式セレモニーではあるが心労ははかり知れなかった。

女王は安らかな眠りにつき夢を見ていく。英国の未来は新国王の裁量でより発展をしていくであろうと。

女王が眠りにつくと執事はそっと毛布を胸から掛けてその場でお目覚めの時まで読書をする。

連日世界の祭典オリンピックで盛り上がっていたロンドン。メディアは世界のアスリートの活躍を即日ニュースで全世界に伝えていく。晴天にも恵まれ競技種目は日程通り進行していた。

様々な屋内や屋外競技が繰り広げられ熱気に包まれていたオリンピック。

大会は2週間の半ばを越え中盤から終盤に向けては人気のある種目が目白押しとなる。

メインの競技場。朝早くから観衆が押し寄せ長い行列を作る。今宵の競技種目だけはやんややんやの声援をしたいようだ。

長い列の理由のスタジアム。トラックやフィールドは躍動感溢れるアスリートが世界新を狙い走り跳びと弾けていく。

オリンピックの華と言えば陸上競技である。トラック種目からフィールドはてはマラソンと数々のレースが連日行われていた。
「おい知ってるかい。新しい英国式競技がやるらしい。なんでもかなりユニークな種目らしくて感動するらしいぜ」
観客は手元に配られたパンフレットを食い入るように読み返す。

新しいモノ好きな英国人は競技の始まりを楽しみにしている。
「新種目ってなんだろうかと思ったよ。"英国式競技"なんてあるから仕組みや理屈が読み取れなかった」
観客は口々に新種目の競技を噂していく。目の前のフィールド種目など眼中にはないくらいである。

競技会場の種目はスケジュール通り消化をされていく。いよいよ英国式の種目が開催される運びとなってくる。
「新種目ってさ。手元のパンフレットによるとかなり予行演習を繰り返したらしいな。オリンピック本番に備え出場する選手やスタッフは毎日練習したそうだぜ。
どんな競技になりますか楽しみは楽しみだがな。
ここに英国オリンピック評議会が作製したパンフレットがある。これを読む限りはだな。謎だらけ。お前はどう思ったかい。俺としては不満だぞ。オリンピックの陸上競技ってやつはハラハラドキドキの勝つか負けるかってやつが見たい。己の肉体の限界に挑むってのが愉しいんだぜ。お坊っちゃんの遊びに付き合っていられない」
明るく陽気な観客の声がしばし曇りがちになる。パンフレットに掲げられた競技内容が面白くないようである。

タンタカターン♪

陸上競技会場にファンファーレが鳴り響く。お待ちかね新種目が始まるようだ。観客らはどんなドラマが待っているのか固唾を呑む。

競技開催の時刻には貴賓席に女王陛下を筆頭に王族が集まる。チャールズ皇太子が苦虫を潰した顔で母親の女王の傍に立つ。貴賓の窓から競技を見てはいるが話の矛先は女王である。

王家ばかりの席の気安さから"母親に苦言"を言う息子である。
「まったく何を(あなたは)考えていらっしゃるのか。英国民は唖然としてしまうこと間違いないさ。英国の誇りはどうなる。英国王室の名誉は一瞬にして吹き飛んでしまうかもしれない。今からでも辞めさせたいね。英国陸上競技連盟に中止を申し上げたくなる。僕は目を(つむ)りたいよ。穴があったら入りたくなるとはこんな心境か」
息子にあれこれ皮肉を言われた母親。我関せずと"洞が峠"を決めてしまう。

息子と母親の言い合いの狭間にはフィリップ陛下(父親)もいた。温厚な父親はただ黙っているだけである。

競技場は高らかなファンファーレが響き女の子に導かれ選手入場である。

オリンピック会場らしく各国の選手に団体役員が付き添いフィールドを色とりどりに埋め尽くす。

陸上競技会場フィールドに最初の種目が告げられる。

場内アナウンスの響きを聞きながら競歩の選手はだんだんと精神が高ぶる。Waker(ワーカー)がフィールドに集まる。色とりどりなウォーミングアップウェアを着こなしながらストレッチを始めた。

フィールドから離れた貴賓席には女王がいた。手元からオペラグラスを取り出す。女王は執事に言われた方角を盛んに見渡す。女王の関心はなんだろうか。フィールドの陸上にあるのではなく"どこにいるのか新国王"であった。
「執事。見つからないわ。あなたが探して見て」
倍率の高い双眼鏡を執事は手にしている。
「陛下さまに申し上げます。私も(新国王さまを)探しているにはいるのでございますが。なにぶんにも選手らが人だかりになりまして」
執事の双眼鏡を持つ手が汗だくになる。この広いオリンピックスタジアム。おいそれとお目当ての"選手"を見つけることはできなかった。

競技は女王の気持ちを知らずどんどん進む。場内アナウンスはスタート時間まで30分あまりと告げた。

スタートが近いと知ると選手各人はストレッチを済ませコーチから最後のアドバイスを受ける。この段階になると緊張感はピークに達していた。

オリンピックという檜舞台である。選手は思うように実力を発揮できない場合がある。精神的に力が出しきれないケースが生じるとアドバイザーコーチの怠慢と言われかねない。国の威信を懸けたオリンピックである。いかなる失敗も言い訳が立たない。コーチとして大変なことなのだ。

ストレッチを終えスポーツタオルで汗を拭く選手たち。心配そうにコーチは話かける。
「オリンピックの緊張感を楽しみたいと思わないか。このスタジアムをスタートしトップ集団でウォーカー(競歩)していくとどうなる。その姿は格好いいぞ。自信に満ちたアスリートぶりは全世界にテレビ中継されていくんだぞ。お前は英雄になれるんだ」

コンディショナーコーチらは盛んに選手をすかしておだてる。スタート直前に最高な気分にさせていく。

競技開始が近くなる。陸上競技場のファンファーレが鳴り終わる。場内が鎮まりかえっていく瞬間にアナウンスが流れた。

※英・仏・独・露・日の順

可愛らしいウグイス嬢の声であった。

会場内にお越しの皆様に只今から行われる競技についてご案内を申し上げます。新種目の競技は英国陸上競技連盟と同じく英国陸上協議会が賛同をして考案いたしました。

大会主催者といたしましてはロンドンオリンピックに相応しい新種目を決めたと自負をいたしております。英国王室の協力は否めません。

…観客は押し黙まる。アナウンスをただ"飽きれて"聞くだけである。

貴賓室ではチャールズ皇太子が手を挙げ元気よく振って見せた。あんぐり黙る英国の観客に手を挙げた。
「王室の協力があっての陸上競技なのか。まったくもって情けない協力をしてしまったなあ。僕は協力したつもりも賛同をしようとしたことも記憶にはないけどな」
半ば妬けっぱちなチャールズ。苦笑いになり観客に手を振った。

不愉快チャールズを完全に無視の母親のエリザベス女王。車イスを押す執事に独り言をしているに過ぎない。心安い執事であり年寄りの相手として話やすいようだ。また煩わしきかな息子のチャールズからの雑音を聞きたくないのは明白でもある。

陸上トラックは盛んにスタート時間が迫ることを伝えていた。第1の競技"競歩"の選手(ウォーカー)がフィールドに集まり始めていく。

世紀の祭典オリンピック。これからメインイベントとして成長し陸上競技の華になる。長く語り継がれるであろう新種目。英国が考案をした種目が目の当たりになる一瞬である。

スタートピストルを鳴らす大会役員が颯爽と現れる。真っ赤なブレザーに身を包む小肥りな役員で晴れやかな笑顔を見せピストルを手に持っていた。

まもなくスタート。オリンピックスタジアムは緊張感が高まる。

英国の観衆はどんな競技が目の前で繰り広げられかと固唾を呑む。新種目という箸にも棒にも掛からない"くだらない陸上競技"で終始するかもしれない。プライド高い英国は愚かなる競技しか考案しないと非難かもしれない。

貴賓室の女王陛下。オペラグラスを片手にスタートに興奮していた。話相手の執事と共にオペラグラスで会場内をあっちこっち眺める。

どこにいるのかい私の孫は…英国オリンピック競技の新種目。ウィリアム王子の提唱による競技がスタートをする。第1競技種目は競歩である。

日本競歩競技連盟・日本陸上連盟から選手各々に新種目の説明会が行われた。オリンピックと世界選手権に選手派遣の選考会は渋谷の岸体育記念館であった。理事たちはさっそく日頃から競歩に汗を流す選手個人に通達をした。

英国オリンピック協議会から第1競技が競歩であると通達。英国オリンピック協議会は子細な項目を出場する国々に伝え同意を得ている。

英国オリンピックにおける新種目の趣旨。その要項の署名には英国ウィリアム王子の名があった。

英国オリンピック協議会はウィリアム王子が理事となっていた。受けるオリンピック参加国(日本)は協議会そのものがウィリアム王子であるとは思ってはいない。英国王室の存在は名誉なる協議会や理事会に冠をつけるのみ。あくまでも王室は"お飾り"であると思われた。だがウィリアム王子は理事会を指揮指導をしていた。英国オリンピックの主催はウィリアムの意向がかなり反映されていた。

渋谷の岸体育記念館に一本の国際電話が入る。この電話は日本競歩連盟・日本陸上連盟が待っていた。英国オリンピック協議会より公式に連絡があらかじめ入る。

ハロー

オリンピック競技場はけたたましいファンファーレである。満員の観客はトラックに注目をする。いよいよ新種目のスタートが近づいた。メイントラックに"新種目"の競技選手がきれいに並ぶ。

日本選手は大きく深呼吸をひとつする。新種目のトップバッターであり斬り込み隊長の役割である競歩の選手。緊張をするなっと言う方が無理であろう。フィールドからはコーチが手を口にあてアドバイスを飛ばす。
「いいか慌てるな。お前はトップでゴールしなくてもいいんだ。(この新種目は)第1競技のお前に5位以内を期待なんだ。日本陸上理事会としてもそこ(5位以内)にいることでオーケー。あまり欲張らずになっ。さあ行こうぜ」
言われた日本選手。俺の仕事は5番以内かっと呟く。

顔が曇る。

出場する競歩選手で10番目の持ちタイム(日本最高記録)である。5番以内となると自己新記録を樹立する必要がある。

バァーン

競歩のウォーカーたちは一斉に飛び出した。色鮮やかなユニフォームがトラックの中にザアッっと流れていく。各国のウォーカーたちは国の名誉と威信を背負い競歩競技独特の闊歩(両足着地)を繰り返す。

トラックを2周すると先頭から競技場を出てロンドンの郊外に消えていく。

競歩を眺める観客たち。頑張ってくれ、しっかりやれっと声援を送る。
「ヘェ競歩って面白いなあ」子供は帽子を被りなおしながら競歩をみた。
「競歩って僕初めて見たよ。1・2・1・2って思わずリズムを取ってしまう。なんかね、選手の長い足が棒になった感じで面白い。あのままずっと歩いて(ウォーキング)でいくんでしょ。疲れて来ないかなあ。僕は心配になるからずっと見ていたいよ」
英国の子供。まったくメディアには脚光を浴びない競歩というウォーカーに興味津々である。

ウォーカーたちは競技場を飛び出すとロンドンの繁華街に向かう。タッタタッタと正確な歩幅で距離を稼ぎ出す。ロンドンの街行く人々は間近に見る競歩を興味津々。競歩を初めて見る観客ばかりである。
「競歩って速いね。走ってはいけないんだね。両足が地についていないといけない。マラソンではないんだけど。うーん速いや」
トップ集団は20人。日本選手・英国選手入っていた。
「この"新種目レース"は我が国のウィリアム王子が考えたらしいんだ。これからどうなるかジックリ見ていきたいね」
ロンドンの街は序盤の競歩からじんわりと燃え出していく。

日本陸連に掛けられた一本の電話。

電話主は英国ウィリアム王子である。そこで英語の堪能な職員が対応をすることになる。
「わかりました。英語の通訳ならプロでございます。例え相手が王子であろうとなかろうと関係ございません」
気丈夫に職員は通訳を買って出た。

ウィリアム王子からの電話。日本陸連にはロンドンオリンピックの新種目が通達をされていた。だから王子は単に英国オリンピック協議会からの通達を確認する程度の電話である。

ハロージャパン

快活な声が電話口に鳴り響く。ウィリアム王子は手短かに英国オリンピックからの通達を読み上げた。
「日本からもオリンピック選手をロンドンに派遣をしてもらいたい。新種目は僕が特別に指針を与えている。英国陸上の栄光と名誉をかけて成功を望みたい」
ウィリアム王子は通達の通りに日本選手をロンドンオリンピックに派遣してもらいたいと重ねて強調をした。受ける通訳はマニュアルの通りだわっと安心をする。
「わかりましたウィリアム王子さま。日本陸連はご希望に添う形で有望な選手をロンドンに送るつもりでおります。ロンドンオリンピックの成功を祈っております」
通訳がかしこまりましたと答えると電話口でウィリアムはニッコリとしたようだった。

ウィリアムは続けて話をする。

(日本の)皇室は参加してくれるんだろうか。日本陸連からも出場をしてくれるように要請をしてもらいたい。

こちらはロンドンオリンピック競技場。新種目は競歩からである。競技場をスタートしたウォーカー選手は颯爽と市街地を駆け抜ける。トップ集団の国々は20ヵ国。さして大差がつかない。

トップバッターだという位置から選手個人は無闇に飛ばしてリタイアなどしないように気をつけていた感じである。
「よしうまくいったぞ。そのままそのまま集団の中で粘れ」
日本コーチは選手を集団に見つけたらゲキを飛ばす。タイムを見ると選手自身の持つ自己新を大幅に上回る好記録である。
「もう脚がもたないぞ。さすがオリンピックと言う舞台は違っていた。まもなくゴールだけどまだまだ競技をしていたい気分だ」
時折市街地からジャパン〜日本〜頑張ってくれっと声援が飛ぶ。声の調子から日本人であったり英国人であったり。言われた選手は余裕を持って手を挙げ応えた。
「日本頑張ってくれなんて。なんと言う快感だろう。見知らぬロンドンの街で声援されるなんて選手冥利に尽きるぜ」
さらに脚は快調に前に前に出た。普段よりもスムーズに動き始めてしまう。

この選手の持ちタイムからすると5位くらいでゴールのはず。今は快調に競技を続け4〜5位ぐらいにつけていた。市街地を抜け競技場に近くなると伴走するコーチは嬉しくなる。
「タイムからみたら自己新になる。しかも日本陸連から5位で充分と言われている。タイムも順位も条件をクリアしている。やれやれトップバッターの大役はまずはこなしてくれたな」
新種目の競歩はこれでお役御免となる。次は本番の競歩が控える。
「このタイムが弾き出せたらメダルも行けるぜ」
競歩のトップ集団は市街地からオリンピック競技場に戻って来る。オリンピックゲートをくぐるかくぐらないかで集団はバラけトップ争いが加熱化する。日本選手はとてもついていけず脱落をしてしまう。

トップ争いは英国・ロシア・アメリカ。前評判の通り()り合い(きそ)い合い。

英国とロシア。英国が前に出ようかとするとアメリカとロシアが歯を食いしばり前に出た。激しいデッドヒートであった。

オリンピック競技場は大声援である。地元英国の選手がトップを行くのだ。やんややんやの罵声からはっきりと英国頑張ってと声援が統一されていく。

王室貴賓室ではエリザベス女王が大喜び。
「ヒャア我が英国は…」
オペラグラスをしっかり握り英国選手の先頭争いを見守っている。

日本選手はトップから遅れたが第2集団にいる。ドイツ・デンマーク・日本・スペイン。

こちら第2集団も熾烈でクルクルとトップが入れ替わる。

日本選手は息が荒々しくなる。すでに自己新記録を更新してゴールを目指した。体力は限界を越えていた。オリンピックという舞台でいささか舞い上がりながら競技場に足を進めている。

「チクショウもう足が動いてくれない。もう少しリズミカルに足が前に出てくれたら」
ドイツやデンマークを振り切れるのに。

バックストレートからドイツに遅れていく。顔には悔しさが滲みでた。

日本とデンマークの5位争いとなる。日本の真横にいるデンマーク選手は同じく真っ赤な顔。顔面は気色なく疲労していた。

バックストレートを越えて行くとヨレヨレに競歩するデンマーク選手に声援が掛かる。

祖国デンマークのために。国王のために頑張ってゴールにいけ〜

祖国と聞かされると選手は疲労した脚がスッと前に出ていく。ヨレヨレの日本を僅かにリードしてしまう。このまま抜き返せなければ6位となる。いや後ろから選手は迫る。6位で収まるかどうか。

コーチはフィールドから励ました。
「腕を振れ〜ラストスパートしろ。お前なら勝てる。抜き返せ。前に脚を運べ。もう少しなんだ。とにかく腕だ。両手を1〜2〜!しっかり振れ」
細い長い脚である。長距離を刻みバネも筋力も失われ棒であった。バックフィールドを回り直線になる。朧な視界にゴールラインが見えた。デンマーク選手も同じである。

あのゴールラインを越えてしまいたい。頭の中では数メートル先のゴールを見ていた。

しかし目の前の景色がグニャグニャになってくる。軽い脳震盪を喰らってしまう。視野がおかしくなると足がまったく動いてくれない。すでに筋力が欠落した棒の足。ズシンと地面に落ちていく。
意識朦朧は如実。競歩の刻みがあやしくなる。

オッとデンマーク選手も同じでフラフラ。脱水症状で脚が前に出なくなる。お互いにフラフラ。肩を並べて左右に千鳥足となる。

観衆はどちらが先に倒れるか、いやゴールするか息を呑む。

ゴール手前でスッテンと日本が倒れた。後数歩でゴールである。競技場は騒然となる。ゴールできないとなると"次の競技"がスタートできない。

コーチは悲痛な声を浴びせる。
「頑張って立ち上がるんだ。ゴールはゴールはそこだぞ」
倒れてジッとしている。思考能力が停止している。

ステンと転ぶその横をフラフラなデンマーク選手が通り過ぎた。

アッ倒れた。

ゴール数センチでズデンと尻餅をついてしまう。お尻から倒れ気絶をした。そのまま大の字となった。

観客はワァ〜ワァと騒ぎ出す。ゴール寸前で何しているのだ。立ち上がれ。立ち上がれなければ後続に抜かれてしまうぞ。

ゴール前の転倒シーン。日本にもテレビ生中継をされた。
「あっどうして。後2〜3歩でゴールだぞ」

ワアワア〜

オリンピック競技場は観客の声援が地響きに変わる。

ウオオッ〜ゴォ〜ゴォ

気絶していた日本とデンマークが気を取り直し頭を振る。互いのコーチは選手に怒鳴る。いや涙を溜めて叫ぶ。

ゴールだ!ゴールしろ〜

手を伸ばし体をグイッとゴールラインに向けた。

とんでもない結末で日本選手は競歩を終えた。順位は10位。日本陸連の希望5位からかけ離れた結末であった。

翌日の競技は盲目マラソンと車椅子マラソンとなる。(身障者パラリンピックの種目を採用していた)

盲目のランナーたちが国の名誉をかけ長距離を競いそのまま車イスマラソンに直結していく。

英国ウィリアム王子はこのパラリンピック種目にことのほか興味であった。
「パラリンピック種目だが、競技者たちは真剣そのもの。普段観客にお目にかかれない種目であるから是非オリンピックにて披露をさせたい」

競技時間は近くなる。日本選手は最初の種目競歩でのハンディ(10位)をタイムロスさせてスタートである。

日本の盲目ランナーはパラリンピック金メダリストが選ばれた。
「日本のためにオリンピックで走れるなんて。名誉であり光栄ですよ。どんなことがあってもトップでゴールしたいです」
パラリンピック金メダリストは声を荒々しくして新種目"盲目のマラソンの部"出場要請を受諾した。

盲目ランナーには伴走者がつく。今回のレースは10キロ。伴走は5キロ前後。異なる伴走がつき競技要項には男女どちらでも構わないとなっていた。(一人の伴走も可能)

日本陸連は大会要項を参考にして歴代男女メダリストに声を掛けた。

この伴走には英国ウィリアムからの要請がある。
「伴走者は有名なランナーをつけて欲しい。テレビ中継を意識して国民がアッと思うような伴走ランナーをつけて欲しい」
ウィリアムとしては歴代マラソンランナーでも映画俳優ランナーでもとにかくテレビ映えする伴走を希望をした。

日本陸連は有名なランナーとしての趣旨をよくくみとれない。
「テレビ中継のために有名なランナーをつける。なんだろうテレビ映りだけを見据えてだろうか。しかし伴走とは言えある程度走れなければいけないはず」
日本陸連はマラソンメダリストから人選をした。

盲目のランナーは大喜びである。
「メダリストがですか。本当にですか。僕の憧れのランナーが伴走をしていただけるのですか。もう死んだつもりでゴールまで走りますよ。金メダリストとしてのプライドもあります」

オリンピック競技場。盲目ランナーはタイム差で次々スタートを切っていく。

トップクラスは英国・ドイツ・アメリカである。

英国は伴走に映画俳優が抜擢されていた。俳優は市民ランナーで盲目ランナーをグイグイ前に押し上げる走力もあった。
「おい俳優が伴走してやがるぜ。アクション映画さながらに金メダリストになって帰って欲しいぜ」
ロンドンの観衆は英国盲目ランナーと映画俳優に惜しみない拍手を送る。

ドイツ・アメリカは歴代マラソン金メダリストであった。オリンピック往年の陸上ファンには懐かしいランナーたちである。

日本はメキシコ五輪銀メダリストが伴走を務めてくれた。盲目ランナーは嬉しくてたまらない。
「君原さん。僕は頑張って走ります。どうか君原さんの栄光の走りで引っ張ってください」
スタートラインにつくまで金メダルが欲しい欲しいと君原に懇願をした。
「まあまあそうも根を詰めずに。出来るだけリラックスをして走りましょう。日本は第10位です。前半は抑えて走ります。後半に体が充分に温まるならば抜かせるだけ抜いて参りましょう。欲張りは禁物です」
君原自身もオリンピックという舞台で興奮をしていた。

タイムロス順。いよいよ日本がスタートをする。競技委員が君原たちをスタートラインに誘導する。
「さあいよいよです。緊張していますか。落ち着いて落ち着いて走りましょう。オリンピックを楽しみながら走りましょう」
尊敬する君原から最後のアドバイスを受けた。盲目ランナーの顔は真っ青になる。

競技委員が手招きをした。時計を眺めながら盲目ランナーの背後に手を回す。

(肩を)ストン

肩を叩かれレースは始まる。タイムロス10位から駆け出した。

伴走の君原はさあさあ頑張って頑張ってと盲目ランナーを元気づけていく。競技場を2周するとロンドン市街地に出ていく。

市街地はヤンヤヤンヤの沿道の声援である。盲目ランナーはよくわからないが、伴走ランナーはいずれも有名である。英国は映画俳優ランナー。スペインやブラジルは現役サッカー選手。イタリアとフランスはテニス選手であった。
「これはたまんないね。伴走は知らないランナーではないからさ」

君原は前半を抑え決して飛ばしはしなかった。
「よしよしこの調子で行こう。目の前にランナーが2人います。スパートかけて抜きますよ」
前半5キロは君原のアドバイスに従い自重。それでも無理なく順位10位→7位→5位とあがる。あまり飛ばした感覚がないまま順位だけはあがっていた。盲目ランナーは今まで体験したことのない余裕の走りをした。

5キロの看板を見た君原。ニコニコした柔和な顔をキリッとさせる。
「前半が終わります。さあいいですか、行きますよ。辛くなってきたら遠慮なく足を止めてください。大丈夫だと我慢されたら僕はガンガン走ります」
君原は勝負師になった。

オリンピックに出場する限りは金メダル。走りのスペシャリストはギアをセコンドに落としスピード加速をした。
「目の前に2ランナーいます。一気に抜きます」
君原はグイグイ加速をする。長距離ランナーなのか短距離スプリンターか。

5位→3位

残りは英国とアメリカである。
「さあ頑張って行きましょう。目の前に下り坂があります。上体を伸ばしてください。腕はしっかり振る。トップランナーが見えたら教えます」
伴走ランナー君原は金メダルにしか興味がなくなった。

オリンピック競技場。アメリカと英国の盲目ランナーが競い合いながら戻ってくる。
「英国がトップ。いや抜いた抜いた。アメリカがトップです。おっと英国が抜き返す」
各国のメディアはトップ争いを熱狂して伝えた。

トップがゲートをくぐりすぐ後ろ。日本はやってくる。

伴走ランナー君原は鬼の形相で競技場トラックを駆けていた。
「トップに追いつける!ラストスパート、頑張って頑張って。足をはねあげて。腕を振ります」
君原は盲目ランナーをグイグイ引っ張った。盲目ランナーはアゴはあがり苦しくてたまらなかった。
「君原さんが僕に金メダルを与えてくれる。苦しくても辛くても。尊敬する君原さんのために」
歯を喰いしばる。すでに足は限界を越えており、自分の足であるが今は伴走ランナー君原の足のようであった。

後10メートル。前のランナーは抜ける。スパートしていこう。二人抜け去れる。金メダルだ、行ける。

君原はグイグイ前に前に出た。盲目ランナーにも前にランナーがいると気配がわかる。
「抜けば金メダル。頑張っていけば金メダル」
足は自然に前に出る。苦しくてたまらなかった気持ちは消えかけていた。

第3コーナーを走り去る。前のランナーの荒い息がはっきり聞き取れる。

抜ける〜

君原はガンガン飛ばした。これがオリンピックランナーの走りだった。

ひと組抜いた。

第4コーナーを周り最終直線。ここからは短距離でありスパートだ。

君原はラストのラスト、息を止めてスパートを慣行する。伴走ランナーであることは頭の中からスポッと抜け落ちた。

ラスト20メートル。トップに並ぶ。君原も盲目ランナーも限界を越えて足を運び気力だけで走り去る。

ゴール〜

おめでとう日本!日の丸

オリンピック競技場。盲目ランナーたちが次々とゴールをしていく。日本はトップでゴールをし君原は上機嫌だった。
「まるで自分がメダルを獲得した気分だ。嬉しいね日の丸を挙げることができた」

この盲目10キロロードレースが終わると引き継いで車イスマラソンがスタートする。

車イスは健常者は参加できないパラリンピック種目。

パラリンピック種目もオリンピック種目と基本的に遜色のないところである。この車イスマラソンは唯一健常者のマラソンより格段にスピードがあり苛酷なサバイバルレースと言われている。

日本陸連は車イスの選手に難航をする。
「人材がいないぞ。そりゃあ日本記録保持者ぐらいはいるけど」
日本記録とオリンピック標準記録にかなり隔たりがあった。
「健常者が車イスに載って走りますはいけないのか。うーん」

車イスマラソン。マラソンと名乗るが走りはしない。腕力で車イスを操作して42.192キロを駆け抜けるわけである。なんせ車イスは"車クルマ"であるから下り坂などのトップスピードは時速80キロにも及び危険を伴う。スピードに怖がるならば金メダルは程遠い。

日本陸連は英国ウィリアムから要請があり人材を選手を探すことにした。
「腕力がありスピードに怖じけない選手。腕力なら重量挙げ選手。スピードなら競輪選手か。いや足は関係ないからなあ」
車イスに載せることができる人材はなかなか見つからなかった。その代わり日本全国からはこの方を選手に選んで欲しいと自薦他薦の申し出が殺到した。

英国の車イス選考。ウィリアム王子はこのレースに多大な期待を掛けていた。
「英国は車イスでブッチギリトップを争う。そのために最新鋭な車イスギアを考案してもらい選手に金メダルを取らせたい。いやロンドンオリンピックの花形競技に車イスを据えてやりたい」
並々ならぬ意気込みがあった。英国の車イス選手はウィリアム王子と浅からぬ関係があった。

ウィリアム王子はこのロンドンオリンピック開催を期に英国国王に就任をする。その際ウィリアムに祝杯を与えてくれるのが車イスマラソン競技ではないかと期待した。英国車イス選手はウィリアム王子の"恋人"の弟さんである。恋人は将来のお妃さまとなる。
「(義理の)弟は交通事故で下半身を失ってしまった。事故で足がなくなり失意のどん底に。そのあげく生きる意味を見失い自暴自棄だった」
若者がそんなことではいけないとウィリアム王子は心を痛める。何か熱中するものを、人生に糧となるような熱いものをと模索した。

辿り着いたのはパラリンピックであった。陸上・水泳・バスケ・テニス・アーチェリー。ウィリアム王子が提示した種目から義理弟は"車イス"マラソンを選んだ。
「ウィリアム殿下さま。いろいろとご心配をかけ申し訳ございません。僕は自暴自暴、何もかも嫌になったとはもう申しません。姉のためにも」
将来のお妃の弟が自棄になってドロップしてはいけない。これからは英国民から国王の義理弟として見られいくのだ。不様な人生は送ってなどいられない。

車イスマラソンを競技として選んでみたらウィリアム王子はいち早く"車イス"を進呈した。英国の最新鋭な車イス。F-1のレーシングカーのようなフォルムでありいかにもスピードが出るマシンであった。
「この車種は70〜80キロ平気で出せるらしい。生身な人間には恐怖を感じる速さ。しっかりトレーニングを詰んでくれ。パラリンピックでは英国代表に選んでもらえるように頑張ってくれ」
将来の"兄"に励まされ義理弟は堅く約束をした。

英国のために走りたいです。まずは英国でトップになります。

※義理弟はイングランドのサッカーチーム所属のゴールキーパーだった。プロではないがそれなりの運動能力は備えられている。

日本陸上協会。車イスマラソンの選手選考は難航していた。
「うーん人材がない。世界と闘える人材がいないんだ」

昨年の夏の日本陸連は途方に暮れた。そんな困難な状況の陸連にメールが届く。
「陸上には素人なのですがお伝えいたします。車イスマラソンに最適な選手を推薦したいと思うのです」
メール主は陸連にこの選手をスカウトに来て欲しいと結んでいた。

メール内容

カヌー・ボートの選手が交通事故に遭い足が不自由となった。一生歩けないと知り何もかもが嫌になり絶望をしている。ボート競技でオリンピック出場を狙う意識も薄れてしまう。(ボートは腕だけでなく全身運動ゆえダメである)

この子に何か打ち込めるものを与えてやりたい。毎日しおっとして陰気ではたまらない。

そこで目標になるものをと探しみたら辿り着いたがパラリンピックであった。

ボートで鍛えた腕力は車イスマラソンの腕力に充分に使える。パラリンピックならば本人も本腰を入れて打ち込めるのではないか。だから日本陸連からスカウトに来て欲しい。

メールの内容からこの選手の家族からであるとわかる(母親)。

陸連はボート競技を検索した。この選手を調べてみたくなり直に日本ボート協会に問い合わせた。
「すごい選手ですね。事故がなければオリンピック確実だそうですよ。本人は車イスマラソンやりたいのかなあ。それが問題だけど」
ボートで鍛えた腕。フルマラソンの走行距離にベストマッチするかどうかであった。

オリンピック競技場。タイム順に選手がスタートをする。トップには日本の車イスマラソンのマシンが立つ。

日本の車イスは流星型でスピードが出る最新鋭マシンである。

マシンに搭乗するのはボート選手である。
「日本陸連から連絡があったから今の僕がある」
選手は最新鋭のマシンをいとおしいように眺めた。
「青春の全てをボートに捧げた。そのボートが事故でダメになる。生きる喜び、生きる糧は目の前から消えかけてしまった。そんな矢先に」

最新鋭マシンは太陽に照らし出され燦々と光輝く。マシンは日本のスタッフが最高の技術を駆使をして作りあげていた。
「あの電話がなければ今の僕はなかった。陸連は命の恩人だとも言える」

マシンはスタートラインにゆっくりゆっくり運ばれた。スターターはピストルの用意をする。

選手はマシンに搭乗し気合いを入れた。

よーしいくぞ

バァーン

色鮮やかな日の丸が胸に見え盛んにタイヤを前に前に出す。マシンは颯爽と競技場を走り出した。マシンの調子はメカニックにより最高に仕上がり軽快である。

次にスタートは英国マシンである。オリンピック競技場にいる観衆はマシンに搭乗するのはウィリアム王子の義理弟だと知っている。週刊誌ではお妃がかなりのゴシップとなり噂である。
「ウィリアム王子が熱を入れて応援しているんだよ。可哀想に事故で足がなあ。だから車イスで復活し英国のために頑張ってくれ。お前が勝てば姉さんも喜んでくれるさ。将来の英国のためにな」
競技場は惜しみない拍手が起こる。

スタートラインに英国マシンはセットされスルスルと進む。トップの日本マシンを追いかける。 

英国マシンは勢いよく走り出す。勇敢な姿である。
「そう言えばウィリアム王子ってどこに消えちまったんだ。開会式から姿が見えないぜ」
英国マシンの流れるようなフォルムを見ながら雲隠れのウィリアムはちょっと話題になった。

日本英国とタイムロスでスタート。続くはドイツ・フランス・アメリカ。各国とも車イスというイメージがまったくない流星形フォーミュラマシンを用意し選手にあてがう。

さらに。

搭乗させる選手は目を見張るような経歴の持ち主ばかりであった(身障者は身障者)

日本-ボート選手
英国-サッカー選手
ドイツ-重量挙げ選手
フランス-腕立て伏せ世界チャンプ

いずれも腕力に覚えのある者が勢揃いである。

競技場を勢いよく飛び出した日本と英国。両者ともマシンの威力は大したもので僅かな推進力で時速は瞬く間に40〜50キロに達する。これだけのスピードが常時出たらカーレースそのものと遜色ないところ。
「速いカーレースだ。あの車イスなんてフォーミュラそっくりだぞ」
英国マシンは取り立てて派手に作ってある。ロンドンの郊外を走ることを想定してデザインから機能から作ってあった。

王子の義理弟が搭乗。王子としては英国マシンが金メダルへの激走を繰り広げると確信である。弟は王子の思いを意気に感じ派手なマシンをガムシャラに駆り立てる。

沿道の英国民はたまらない魅力を感じ声援を送る。
「(王子の義理弟が)英国のために走るんだ。声援をしてやれ。弟が金メダル取れるならお姉さんは王妃さまになってもいいぞ」
沿道のロンドンっ子は英国小旗をブルブル振り回す。英国マシンは調子よく沿道を駆け抜ける。

レースは前半を終える。

日本英国ドイツの3ヵ国が断トツのトップ。腕力がすべてな車イスマラソン。腕がすべてだった。

後半になるとさすがに選手各人は疲れてくる。下り坂をうまく利用して腕の回復をはかりながらレースを続行する。

日本マシンも英国マシンも前半飛ばし過ぎたためスピードダウンをしていく。それを横目にドイツマシンはスタコラっとトップに出た。
「悔しいぞ抜かれた。腕が疲れて前に出やしない。加速される下り坂で抜き返したいが。こんなにスピードの出るマシンで負けたとなると日本に帰れやしない」
目の前を軽快に走るドイツマシンを見据えた日本マシン。

英国マシンも同様に悔しいところ。後半は3ヵ国が入り乱れてトップ争いを繰り広げる。

競技場が近くなると緩やかな下りが続く。各国のマシンは最後の力をふりしぼりラストランである。
「この下りでトップスピードを維持した者が勝ちだ。頼む我が腕は余力があることを信じたい」
マシンはトップスピードに乗りビュンビュン飛ばしていく。フォーミュラのカーレースがそこにはあった。

競技場のゲートをくぐるとトップはトラックに戻ってくる。

マシンは英国・ドイツ・日本の順であった。3ヵ国には差がなくいくらでも順位はかわる。トラックの周回は手に汗握るレースになる。

「おい英国は!我が栄光なる英国は」
観衆は狂喜乱舞していく。王妃の弟が今まさに英国に栄光を与えようとしているのである。

英国マシンはトップに飛び出した。このまま加速してゴールをしたい。
「頼む頼む。このままゴールをさせてくれ。王子さまに王子さまに栄光を見せてあげたい」
弟は歯を食いしばり最後のランをマシンを全力で進める。腕はすでに麻痺をし感覚はなかった。

英国マシンを先に出しても日本とドイツは差をつけない。いくらでもゴール手前で追いつき抜き返してやると闘志をみせた。

第4コーナーをトップスピードで回る。このコーナリングは英国マシンが大きく膨れてしまいタイムロスをする。時間にすれば僅かなことだが。
「ああっ英国マシンが抜かれた」
コーナーをうまく回る日本マシン。冷静に走れ。したたかに走れ。外周を膨れた英国マシンを日本マシンはうまく抜く。

残りは直線コース。短距離100メートルはマシンで数秒である。

1位日本
2位英国
3位ドイツ

日本と英国の差はほとんどなかった。

翌日。大会の終盤に差し掛かるスケジュールである。

ロンドンオリンピック競技委員会は会場に詰め掛けた観衆と世界各国のメディアに通達を出した。

新種目はいよいよ最後の種目となります。各国の選手の皆さん頑張っていきましょう。フィナーレは華やかに、そして優雅にいきましょう。

観衆に配られたパンフレット。表紙には英国ウィリアム王子がニッコリ笑っていた。新種目はウィリアムのアイデアである。パンフレットの下には小さな文字が書き込みされていた。

…ウィリアム王子も参加する新種目

日本陸連協議会。英国ウィリアム王子からの要請にひとつひとつ答えていく。だが最後のひとつ、難色を示した。

日本国の皇太子に参加をしてもらいたい。

陸連から皇居に連絡が行くのは容易ならざる話である。
「なんで殿下がオリンピックに出場されなければならないのか」
陸連の理事は冷や汗をかいた。

皇太子にオリンピック出場要請は数日後に伝えられた。宮内庁の通達により厳かに。
「申し上げます。殿下さまに英国ウィリアム王子さまからオリンピック出場の要旨が参りました。つきましては日本国の皇室代表として殿下さまに出場を、競技をされて欲しいとのことでございます。英国ウィリアム王子と競いましょうとのことです」
皇太子は英国ウィリアムの通達に興味を持っていただく。
「私にオリンピック出場せよという話ですか。陸連からの通達を読みますと陸上レースを皇室や王室が行うようですね」
ウィリアム王子の提唱する新種目はフィナーレに『王様のレース』が盛り込まれていた。

皇居で皇太子は唸る。
「王様のレースですか。日本からは天皇陛下が出場ですが我が父は走れやしないですからねアッハハ」
英国ウィリアムはこのロンドンオリンピックに自ら出場をして金メダリストになるつもりか。メダリストとして英国王に就任をするつもりではないか。
「ウィリアム王子もよく考えていますね」
皇太子は出場を快諾した。やるからには勝ちたいとトレーニングを始めた。
「ジョッギングは皇居で毎日やってますから体力に自信があります。問題は速く走れと言われたら。うーんトレーナーをつけるかな」

皇太子は日本陸連に出場の意思を伝え、ついでにトレーニングコーチを要請した。
「私の希望なのですが箱根駅伝の大学生に見てもらいたいですね」
日本陸連は駒澤と順天堂に打診をした。

オリンピック競技場。新種目のフィナーレだと言われて観客は喜ぶ。
「おい聞いたか。このわけのわからない種目がいよいよ終わるらしいぜ。退屈以外何でもないやつだった」

競歩・盲目ランナー・車イスマラソン。最後に国王たちのロードレース。

また違う観客は手元のパンフレットを眺めた。
「なんか知らないが我が国のウィリアムが走るらしいぜ。英国の名誉とメンツを掛けて出場するらしい。このパンフレットには英国はウィリアムが代表って書いてあるぜ。ウィリアムって王子なんだろうな。同名の他人じゃあないだろう」
英国民はウィリアム王子が姿を見せないことを知ってる。英国開催のオリンピックではウィリアムの国王即位も執り行うとばかり期待していた。

オリンピック競技場の貴賓室内。女王エリザベスは朗報を聞く。
「陛下さま。いよいよウィリアム王子が姿を現します」

競技場に英国ウィリアム王子が選手として現れるとアナウンスもある。観客はざわめいた。
「ウィリアムは何をしたいのか。長く雲隠れをして英国民を心配させて。どうだろうウィリアム王子。オリンピックをどうするつもりなんだ」 
観客はウィリアム王子の真意をくみとれないまま"噂\"を繰り返した。

リーンリーン

貴賓室の電話が鳴る。王室にはむやみに連絡は入らない。執事は首をかしげながら電話に出た。イタズラではないか、一般英国人が番号をたまたま知り掛けてきたのではないか。

ハローエリザベス〜

驚きである。執事は腰を抜かさぬばかりであった。
「ウィリアム王子さまではありませんか」
電話はすぐにエリザベスに取り次がれた。孫からの久しぶりの連絡に祖母は嬉しくなる。雲隠れして心配をかけた孫のことは一瞬にして消えた。

ウィリアムは祖母に雲隠れしていたのはわけがあると説明をした。
「僕が競技場にいるといけないんだ。そのわけを今から教えてあげたい。オバアチャンしっかり観ていてくれよ。僕は英国代表として競技に出場する。出るからには金メダルさ。栄光の英国は国王が金メダルを獲得するんだ」
ウィリアムははしゃぎながら祖母に伝えた。

競技で優勝し金メダルを獲得。そのままウィリアム王子の国王就任宣言と王妃のお披露目。
「オバアチャン。僕は一気にすべてこなしてみせる」
ウィリアム王子は英国国王であるエリザベスに力強く宣誓をした。

ガチャン

エリザベスは電話を置く。ハテハテ孫は一体何が言いたいのかと頭をかいた。隣りにいる執事の顔をじろじろと見ているだけであった。

オリンピック競技場にバァーンバァーンっと花火が打ち上げられ競技が始まると報せた。

場内アナウンスが鳴り響く。
「栄光ある英国に世界の国々からようこそ。我が英国はただいまから新種目のフィナーレを迎えます。このフィナーレは世界の王室から」
アナウンスに王室と流れた瞬間、ウィリアム王子が颯爽と現れた。

ウォ〜ウィリアムだあ

競技場は怒濤な地響きが起こる。
「ウィリアムがいたぞ。ったくどこに雲隠れしていたのだ。しっかりロンドンオリンピックのために働かないといけないじゃあないか。ウィリアム聞いたかあ〜」
ウィリアムが現れたという喜びと悲哀が錯綜をする。

競技場のトラックには華やかな選手たちが勢揃いした。世界各国の王室/皇室が選手としてそこにいたのである。

日本国の代表は皇太子。忙しい公務をこなしながら毎日トレーニングに励んでオリンピックを迎えた。
「ジョッギングから高速レースまでなんでもいらっしゃい。私は日本のためにしっかり走りますよ。ランニングトレーナーが優秀だから安心をして走ります」
箱根のランナーたちからメンタルタフネスを学び鍛えられた皇太子である。

レース直前のウィリアム王子。時間の許すかぎり各国の王子/皇太子に挨拶をしていく。
「僕のわがままでレースに出させてしまい申し訳なかった。しっかりオリンピックを楽しんでもらいたい。英国でよい思い出を」

日本国の皇太子にも挨拶に来る。皇太子は英国留学時代にチャールズ皇太子と親睦を深めていた。
「ウチの親父(チャールズ皇太子)がいろいろお世話になりました。オリンピックを楽しんでいただきたい」
皇太子はにっこりしてありがとうと答えた。
「ウィリアム王子。私はこのレースに出場する限りは優勝を金メダルを狙います。ウィリアム。君には負けないよ」
しっかりとアスリートの顔であった。

ファンファーレが鳴りいよいよスタートである。

貴賓室のエリザベスはソワソワしてしまう。まさか孫のウィリアム王子が英国の代表としてオリンピックに出場するとは。

よーいドン!

各国の王子/皇太子は懸命に走り出した。タイムロスがあるため日本やドイツは真っ先に走り出す。日本国の皇太子はかっこよく飛び出していた。

※王室/皇室のいない国は大統領や為政者から選ばれた者が参加をしている。全員男子である。

トップ集団に日本ドイツ英国。日本国皇太子は軽快に足を進めレースを楽しむようすである。追随のドイツ。このランナーはドイツ政府の高官である。マラソン歴のある大臣で足に自慢であった。

日本国皇太子は颯爽とトップを走る。胸に刻まれた日の丸は誇らしげに見えた。後方からドイツ大臣が追いかけてくる。
「日本の皇太子なんか」
単なるお飾りではないかと甘くみていた。

トップを走る皇太子は快調である。毎晩暇さえあらば皇居の敷地をランニングした効果がでている。
「箱根のランナーたちに伴走してもらったおかげで快調だ。なにかと難しいペース配分も身につき楽にレースに没頭できる」
皇太子は背後にドイツがついてこようとも気になることはなかった。

ドイツ大臣は皇太子をスイッと抜く。足の運びが違うと見せつけるように追い越した。

抜かされた皇太子。チラッとドイツ大臣をみたら。
「おやっ追ってがやって来ましたね。私も少しペースメーカーが欲しいかなっと思った矢先です。遠慮なく"ラビット"にしてしまいましょう。なかなかよい走りでもありますしね」
皇太子は余裕でドイツ大臣の背後につく。ドイツの呼吸をつぶさに感じ呼吸から足の運びからと同調してみせた。

背後からの追随は箱根のランナーにはなくてはならないテクニックである。皇太子は思う存分にテクニックを伝授をされていた。
「うーん私は箱根のランナーですよ。正月に山を学生として走る気分になりました」
よりいっそう軽快な皇太子の足となった。

日本とドイツがトップ争いをしている後方。英国ウィリアム王子は懸命に追いかけていた。目視できる距離ゆえにどうしても飛ばしがちになる。
「僕は勝たなくてならない。このレースで優勝をして金メダルを取らなくてはいけない。英国のために。王室に期待を寄せる英国民のために」
ウィリアム王子も秘かにトレーニングを積んでいた。英国陸連の協力で一流コーチの指導かなりハードな練習を積み重ねていた。
「トップに追いつき追い抜く。もう少しだ頑張っていくぜ」
前半の折り返し地点。沿道の大声援を受け英国はトップに追いついた。

3人が仲良く併走する。折り返しを過ぎるとトップを走るドイツはアゴがあがってくる。前半に飛ばし過ぎて疲労していた。

みるみるうちにドイツが遅れ始めた。日本国皇太子はトップに出る。続いては英国ウィリアム王子。両者とも軽快な足取りでさらにスピードをあげた。
「ウィリアムには負けない。日英決戦になりつつあるが私は負けない。日本は勝たなくてはいけない。英国のためにウィリアムは走る。私は日本のためにだ」
皇太子は腕に力を入れて前に前に出る。頭の中には日の丸の小旗が盛んに翻る。ここまで来たのだから負けることはしたくなかった。

ウィリアム王子は歯を食いしばる。王子は優勝しか考えない。
「英国はこのレースに僕の走りを期待している。英国の王子は必ず優勝をもぎ取るものと思っている。英国民の諸君その通りだ。優勝は英国だ。金メダルは栄光と名誉の英国にありだ」
両国の王子と皇太子。互いに譲らず併走をする。

長い併走の末、オリンピック競技場に戻ってくる。ゲートをくぐる際は牽制をしあい互いに譲らずである。

トラックになると日本国皇太子がラストスパートを果敢に掛けた。みるみる英国ウィリアムを置いていく。

皇太子頑張ってぇ〜早い早い〜

バックストレートになると皇太子は短距離スプリンターのごとく駆け抜ける。しっかりした足取りはまだスプリント勝負も勝てる感じだった。

キックの力も強くこのまま優勝にいけると思われた。

しかし…

ガクン

ウッ

皇太子はいきなり左足に痙攣を走らせた。足首からふくらはぎに電気が走った。かなりな痛みである。
「痛っあ。しまった!アキレス腱のストレッチを怠ったか」
皇太子の足は思うに任せず進まない。減速を余儀なくされていく。ゴールまで200メートルを切る。
「おいどうしたんだ日本の皇太子は。ガクンってなっておかしいぞ」
英国の観衆はわけが分からず驚くばかりである。

皇太子の背後は英国ウィリアム王子。こちらは軽快にスタスタっと走る。
「ウィリアム王子がトップになるぞ。ゴールまでに日本の皇太子を抜ける。ウィリアム頑張ってくれ」

残り50メートル。皇太子は顔を真っ赤にして痙攣の痛みと戦う。足は悲鳴をあげてしまう。

ウィリアム王子も苦悩である。ゴール手前となるが思うように足は出ない。
「皇太子は抜けるのか。抜かなければ優勝できない。僕は英国王になれない。ちくしょう」
ギュッと歯をくいしばりラストスパート。

皇太子とウィリアム王子が並ぶ。追いついたウィリアムは疲弊しており思うように抜けない。

皇太子は痛みさえなければアキレス腱が機能すれば。

ゴールまで残り10メートル。

皇太子は飛び上がる。左足は機能しないとみて強引に引っ張った。ウィリアム王子と皇太子。ほぼ同時にゴールテープを切る。

ゴールイン

ざわめいていたオリンピック競技場。一瞬にして静寂となる。勝ったのは誰か。

英国ウィリアム王子か。

日本国皇太子か。

電光掲示板は優勝者の名前が点灯しない。機械で判明しているから一瞬で優勝者などわかるはずである。ならば両者同時ゴールだろうか。

場内アナウンスが流れる。
「お客様に申し上げます。しばらく時間をください。ただいまのレースは…」
優勝が判明しないのでしばらく待ってほしいと言われた。

待つこと数分である。競技場のファンファーレが高らかに鳴り響く。

英国の軍隊が行進を始め貴賓席の女王エリザベスに最敬礼をする。

エリザベスはにこやかに笑いかけた。

女王エリザベスのにこやかに笑う傍ら。たった今競技を終えたウィリアムが現れた。

先程までのスポーツウェアはすでになく英国国王としてのそれである。盛装した凛々しき青年は背後に英国の象徴マントを翻していた。

ウィリアムの姿が貴賓席にある。ウィリアムから数歩遅れて立つのは日本国の皇太子であった。皇太子も盛装していた。

女王エリザベスは軍隊の最敬礼が終わりしだい宣誓文を読み上げた。

今ここに…ウィリアム王子を…

エリザベスは宣誓の前文だけを読み上げると一息つく。胸が高まりどうしても読み上げられない。

女王エリザベスの背後にはウィリアムが黙ってジッとしていた。

我が国英国は栄光と名誉の…(涙)

エリザベスはついに涙がこぼれ落ちた。目頭が熱くなりハンカチが必要である。

"今ここにウィリアムを英国国王とします"この宣誓がどうしても言えなかった。

おばあちゃんのエリザベス女王。孫のウィリアムに私の横に立ちなさいと手招きをした。

ウィリアムはついに来たっと緊張する。

皇太子は拍手をしながらウィリアムにエールを送った。
「プリンスウィリアム。いや、KINGウィリアム。おめでとう。栄光と名誉の英国の国王に幸あれ」

ウィリアム王子。君は金メダル・王妃・クラウン(国王)と獲得することができた。素晴らしい国王の誕生である。

ウィリアムが金メダルを獲得できたのはひとえに私の尽力があったればこそだ。忘れないように。

1902年締結の日英同盟は昔の話だが。

今新たに日英を結びつける絆を見い出していきたい。


オリンピック陸上種目を遅い順に競歩から並べたら面白いかと思ってみたのですよ。

皇太子さんご苦労様でした

2012年のロンドンオリンピックまで時間があるのでもう一度書き直したい。













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