花嫁道中
このイラストは鹿汰様(http://10773.mitemin.net/)によるものです。
ジャンル:指定なし
必須要素:男性は烏天狗
濡羽色の翼は飾りにしては生々しく艶めいていた
霧雨の様な静寂に潜む呼吸と一緒にさわわと揺れる背中
「飯綱からいらっしゃいましたか、それとも高尾山からいらっしゃいましたか」
「出羽山から参りました」
いつの間にか立っていたその人は、どうやら俗世の人ではなさそうだ
黒い着物に長い髪 両方同じ色をして、夜とも漆とも違う深み
「あなたはどこからいらっしゃいましたか」
「どこだと思われますか」
薄く軽やかな羽衣と霧がかった視界で鮮やかに色づく傘を掲げる
一体私がどこからきてどこへ行くのか
あなたが知っていること あなたとつくっていくこと
のびた背丈、のびた髪、のびた想い
変わりましたね、というにはその過程を私は知らない
あなたも同じだろうからか 久しく見る笑顔は初めて見るはにかんだ笑みだった
数十年ぶりに見ても明日見ても しばらくは初めての顔になるのだろう
もう数十年たったら いつもの顔だと思えればいい
「では行きましょう。道中、風にはお気をつけて」
「はい、参りましょう。道中、私にはお気をつけて」
彼が私の背に腕をまわす。ふわり、と足元に風がふきつける
私の薄羽と傘が飛んでいく。遠く遠く飛んでいく
迷いとともに流れる、憂いとともに流れる
そこには確かに、みずみずしく咲く桃色の花が泳いでいた