†リガルド王国物語†〜Love&destiny〜(65/97)PDFで表示縦書き表示RDF


†リガルド王国物語†〜Love&destiny〜
作:AYAKA



第六十章 水と炎の幻想曲


 その微笑は見る男を虜にする絶対的な美しさを秘め、骨抜きにされ魂を抜かれた者はたちまちのうちに永遠に溶けることのない氷の中で眠り続けるという。
 ――冷酷なる精霊、氷の女神フラウ。
 しかし、フラウの本来秘められた実力は半分も発揮されてはいないようだった。あっけない。これが実直な感想。
 氷の精霊を召喚したのは、まだ一人前の精霊使いとは到底いえないような少女リリア。彼女はかの大妖精の血を引き継ぐ娘らしいが、それにしてもまさかこれほどに力もなければ精神的にも未熟な娘だったとは。
 ――次の精霊を呼びだされる前にやるか。
 どう考えても、次に召喚するとしたら上級の精霊だろう。まあ、使い勝手の悪い炎の精霊はないとして、来るとしたら水の精霊ってとこだろうか。そういえば、上級精霊は低級のものとは比べ物にならない力を有するのだとイリスが口にしていた。やられる気はないが、もうじき朝日が顔をだす時刻。延長戦だけはどうしても避けなければならない。
 その時だった――――
「潮の下で眠るあなた 囁くように消え入って 雨音のように確かにあって」
 なにやら詩のようなものを、リリアが口ずさみだしたではないか。まるで風のように澄んだ声で、深い響きを奏でる詠唱歌。
 ――させないよ。
 クロエはスッと足を踏みだし地面を軽く蹴った。そして一瞬のうちに詠唱を始めたリリアの後ろをとると、その背中目掛けて剣を切り払った。
「……ちぃ」
 しかしクロエの一撃はリリアを切り裂く事はなく、かわりにガキ―ンという耳障りな金属の衝突音を生んだ。
 火花が散る。ぶつかり合ったのは、銀に煌く剣と棘つきナックル。睨んだ先にあったのは、あの間抜けな青年の顔。そこに恐怖という感情は見えなかった。それだけ、この男には精霊使いの少女が大切らしい。
 ゼルはニッと挑戦的な笑いをこぼすと、がっしりとクロエの腕を掴んで逃げられないようにした。いくら剣術に優れたクロエといえど女であることには変わりない。だからくやしいが、力では男に敵わない。
 振り解いてやろうと抵抗していたクロエだったが、いきなり腹部に強い衝撃を喰らった。
 それはもう息が詰まるくらい強烈で、内臓が破裂したんじゃないかと思うくらい吐き気をもよおすものだった。ゼルに、容赦ない膝蹴りを入れられたのだ。
 うぐっと苦し紛れに呻き、よろりと体勢を崩しかけたクロエに迫ってきたのは、追い討ちをかけるような打撃攻撃の連続技。なんとか防御をしてみるも、数発の強打をもろに受けてしまった。
 けれどいつまでもやられているわけにはいかない。一瞬の隙をつきゼルから距離をとると、クロエはぺっと血混じりのつばを吐く。どうやら口内を切ってしまったらしく、鉄の味と血なまぐさい匂いがかなり心地悪い。
(口だけ達者で強くもないくせに、邪魔な男だ。よほど死に急いでいるんだね。だったら、希望通りに殺してやるさ)
 ギリッと奥歯が鳴る。ゼルに腹が立つというより、自分より下だと見下していた相手に攻撃されたことに苛立ちがつのっていく。
 こうなれば、どれほど実力の差があるのかを教えてやろうではないか。あの、ふざけた格闘男に。
 クロエは精神統一をはかり魔力を一気に高めると同時、闇魔法を発動させた。手元で燃えていた赤い炎はたちまちのうちに黒い炎へと変色し、腕に足に全身に、まるでクロエを包み込もうとするかのようにして、漆黒の霧が出現した。
 霧のひんやり冷たい感触に、燃え上がる黒の炎は灼熱。見た目だけだと視覚作用で黒い炎からはあまり熱を感じることはないが、かなりの超高温であることには違いない。なんせ、鉄も瞬時に溶かしてしまうのだから。
 リリアは詠唱の最終節を詠んでいるらしく、徐々に力の急上昇を肌で感じ取ることができる。
「残念だったね。あたしはやさしくないよ」
 みすみす召喚なんてさせてたまるものか。クロエは闇魔法によって格段に飛躍したスピードを最大限に生かし、そして剣でリリアの胸部に狙いを定める。
 めまぐるしく移り変わる視界の端も形を認識できないほどの猛スピード。獲物を駆る猛禽類のように、目の前の標的へと差し迫る。
 クロエの接近に気が付いたリリアだったが、もう遅すぎた。逃げる事など到底不可能。あとは、なすすべなく一瞬で心臓を突かれるのを待つだけ、その神聖なる体から新鮮な赤い血が四散するのを待つだけだった――――が。
 飛び散ったのは、別の血。貫いたのは、別の腕だった。
「――ゼル!」
 驚いたように見開かれるグリーンの瞳。張り叫ばれる、切羽詰った悲鳴。
 骨を僅かにそれてはいるが、腕を剣で貫かれたことで激痛に呻き叫ぶゼル。見事なくらいに、ゼルの右腕には剣の先が15センチほど食い込んでいた。
「なんだ、自分から死ににきたのか。手間が省けたよ」
 鼻の先で小さく笑い、クロエは腕を貫通している剣を横に払って引き抜いた。
 殺意の宿る紫水晶アメジスト。その視界にすごく鮮やかな深紅が散りばめられた。頬に感じた違和感。生暖かくぬめった液体が、顔を、首筋を、そして胸を斬新な赤い斑点模様に染め上げていく。
「良かったじゃないか。腕はまだかろうじて繋がってるようだね」
 骨と皮だけで繋がっている状態の、力なくぶらさがったゼルの腕。クロエはそこから、ゼルの痛みによがった表情へと視線を滑らせる。そして、無情な一べつをくれてやると胸から斜めにかけて第二撃目を走らせた。
 吐き気すら覚える生臭い血の匂い。だが長年嗅ぎなれた、新鮮な血の匂い。
 完全に地面へと崩れ去ったゼルを尻目に、大量に返り血を浴びたクロエは、髪にべっとりとまとわり付いた血に舌打ちをしながら、剣の先に付着した血をひとふりで綺麗にした。
 と、一瞬びくりと悪寒が背筋を駆け抜ける。凄まじいこの気配はもしや……
 気配をたどって視線を向けた先、そこには――――
「――ウンディーネ」
 水の精霊の姿があった。優雅な尾びれを羽衣のように漂わせながら、フラウとはまるで違ったオーラ。どこか慈しみ深く、それでいて恐怖感を抱くその不思議な雰囲気。
 いつの間に詠唱を終えていたのか、それはもういい。
 リリアは涙を浮かべてゼルに駆け寄るとしゃがみこんで、だらりともぬけの殻になったゼルの上半身を抱きかかえるように起こしていた。
『どうやら、私一人で貴女の相手をすることになりそうですね』
 水の粒子を輝かせながら、ウンディーネは美しい造りの顔を微笑ませた。
「あれじゃ、もう一体の召喚はムリだろうね」
 これは好都合じゃないか。
 クロエは身に着けていた漆黒のマントを脱ぎ捨てると、悠然と、自信に満ちあふれた強い眼差しでリリアに流し目をした。
 目と目が合った瞬間に引きつる少女の顔。涙の筋が、月明かりに一筋光る。
『水の粒子となって、消し去ってさしあげましょう』
 ひらりと両手を胸の前にかかげたウンディーネは、ゆっくりと目を閉じていき、まるで瞑想でもしているかのようにやわらかな呼吸をしている。この空間が、妙な静寂に包まれる。この隙を見逃すほどクロエは馬鹿じゃなかった。素早く、猫のように足音も消して瞑想中のウンディーネに忍び寄る。
 音の消え去った世界のように、静かに、月の光を反射させた剣だけが鋭く凶悪な刃を見せびらかす。
 ――――勝利
 そんな言葉が頭をよぎった次の瞬間、クロエの身体は何かもの凄い衝撃によって弾き飛ばされた。
 何かが破裂したようなそんな感触を肌に残したまま、地面の土に剣を突き刺しひらりと体勢を整える。
(なんだい、こりゃ)
 ウンディーネの浮かぶ空には無数の小さな球体が浮遊しており、やがて、ほんの数秒後にはそこら一体に散らばって浮かびだしたではないか。
 あれが、今の衝撃を生んだ原因だと考えて間違いなさそうだ。
 となれば、あのおそらく水で出来ていそうな球体には触れない方が無難だろう。
 という思想がお見通しなのか、どうやら球体はこちらに狙いを定めてくるらしく、ウンディーネが指を動かすとほぼ同時に四方八方から飛んできた。
 なんて厄介すぎる攻撃だろうか、これは。
 クロエはそれらを軽くかわし、そのままの勢いを利用して宙に跳び上がると、くるりと宙返りをしながら水の球体を切り伏せるという神業を見せた。
 ヒュッヒュッと臨近感あふれるスピード技がつむぎだすのはなんとも優雅な空中の舞い。
 息をのむほど美しい動きで、流れるように綺麗な光景だった。
 炎の熱で高温に達していたクロエの剣によって球体は蒸発し、夜の闇に薄く白の霧がたちこめた。


意味不明なサブタイトルでごめんなさい(笑)
そろそろ私的に長かった戦闘シーンも終わるはずです。
なんだか、ここ数話でクロエの性格があやふやになってきた気がするのは私だけでしょうか?(汗)

3月後半は仕事も忙しさを増すようなので、ちゃんと更新予定日に更新が間に合うかかなーりきわどいです。
一生懸命睡眠時間削っても頑張ろうとはおもいますが、どうか怒らないでやってください!
次の更新は23日を予定しています。











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