†リガルド王国物語†〜Love&destiny〜(60/95)PDFで表示縦書き表示RDF


†リガルド王国物語†〜Love&destiny〜
作:AYAKA



第五十五章 大火傷


「ん……」
 ぶるりと、クロードの隣にうずくまって眠っていたジュリアが寒そうに身を震わせた。
「……寒いのか?」
 と、聞いたのはもちろんクロードである。だが、ジュリアからの返事はなく、代わりに規則正しい安らかな寝息だけがスースーと耳に入ってきた。
 ――あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
 困ったことに、まったくわからない。このように暗い洞窟の内部では、クロードの時間に対する感覚は今や完全に鈍ってしまっていたのだ。それがどれほどかと問われてみれば、正直なところ今が朝か夜かもまったくわからないといった状態であって、気が変になってしまいそうな気さえする。
 お手上げだ、とばかりにため息を吐いたクロードは、岩壁を背もたれにしながら、隣で眠るジュリアの髪の束を掬った。
 さらりと、気持ち良い手触りが指の間をすり抜ける。
 栗色で波うつように綺麗なその髪質は、毎日欠かさずに手入れをしている証拠だろう。何というかまあ、綺麗好きなジュリアらしい。それから、これは今気が付いたのだが、ジュリアの髪からはとてもいい香りがする。女を全面にアピールしたようなどぎつい香水のそれではなく、もっと、どちらかといえば清楚な花の香りに近い。
 ついつい、クロードは鼻から匂いをスーッと吸い上げ、そしてうっとりと残り香を楽しんでいた。
「よく、眠ってるな」
 幸せそうな寝顔のジュリアを見つめていると、なんだろう、嬉しさがこみ上げてきて自然と頬がゆるむ。
 ――やっぱり……すごく愛しい。
 こうしていると、今すぐ抱きすくめたくなる。どうして、こんなにも彼女のことが好きで好きでたまらないのだろうか。ただの幼馴染で想い人とはわけが違う。それだけじゃなくて、もっと何かこう運命的なものというのか、赤い糸……そう、生まれた瞬間から自分とジュリアの小指は赤い糸で繋がれているかのような気がするのだ。 
 クロードがジュリアに抱く気持ちは“好き”ではない。これはもう“愛”の領域に浸っているのだ。
 好きなんていう言葉では片付けられないくらいに、今のクロードはジュリアに惚れている。
 ――彼女の全てが、俺を虜にするんだ。
 何度刺されても冷たくされてもめげずに愛を貫き通す男は、きっと自分くらいのものだろう。でも、その甲斐あってかジュリアも自分を愛してると言ってくれた。それが、どれだけ嬉しかったことか。
 ――もう、絶対に放さない。ジュリアは、俺のものだ。
 湖で初めて再会した時にはとても冷たい態度であしらわれ、正直かなり落ち込んだ。が、やっと報われたのだと思うと、クロードは幸せが絶頂に達して飛び上がりたいくらいに気持ちが高ぶってきた。
 そっとジュリアの手を握って持ち上げ、そしてフッと小さな微笑みを漏らすと、クロードは細くてまるで粉雪のように色白のジュリアの手の甲にひとつキスを落とした。
 今、クロードとジュリアは暖をとる目的で互いに体を寄せ合いながら、長時間の移動ですでに棒になりつつある足を休めることにしていた。
 といっても、別に裸で抱き合っているわけではない。
 クロードはわけあって上半身裸だが、ジュリアはもちろんのこと、クロードもちゃんと下半身には衣服を身に着けている状態である。それに、キスはあったがまだそれ以上はない。
 クロードとしては少し残念、いや、かなり残念なのだが……ここは仕方がないというものである。
 男なら誰しもが愛する者、しかもこんな美人となら、一度は寝てみたいと鼻の下を伸ばすだろう。だが、クロードはさすがにそこまでガツガツしていない。そもそも、こんな足場がすごく悪くて不安定な岩だらけの洞窟でなんて、幸せの行為に相応しい場所ではないだろう。むしろ、かけ離れている。
 こうして、クロードはジュリアの為にもぐっと思いとどまったのだった。
 それにしても、とクロードは表情を曇らせた。
 体の疲労が、凄まじいのだ。なにせ休みもせずにここまできたのだし、おまけにクロードは深い怪我を二カ所も負っているものだから、ここで少し休息をとることにしていた。でも――……
 クロードは、ふと自分の上半身に目をやった。重度の火傷を負った、怪我まみれの上半身。まるで焼き潰されたみたいな皮膚が、そこにはある。ま、実際焼き潰れているのだが。
 実はこれ、手当ての跡なのだ。ジュリアによって付けられた左肩の傷は、どうやら大きな血管を傷つけていたらしく、さらにわき腹は貫通してしまっていたことから、クロードは痛みに加えて大量の出血を伴っていた。このままでは確実に死んでしまう、それだけ酷い有り様だったのである。だが、ここには手当てをする道具も薬も何もあるはずがなかった。だから、クロードは最終手段を施したのだ。
「……っ、う」
 その時――まるで煮えたぎった鍋に投げ込まれてそのまま全身の皮を剥がれたかのような激痛が、クロードの体をびりりと襲った。
 とはいえ、実際そのような体験をしたことなんて当たり前のように無い。だから今のはちょっとした例え話なのだが、大火傷にはこのくらい激しい例えがぴったりだと思えた。
 クロードは、皮膚を焼き潰していたのだから。もちろん、ジュリアの炎魔法で、だ。
 つまり、もはや治癒不可能で致命傷だった左肩とわき腹の傷を、皮膚もろとも焼き潰して無理矢理傷口を塞いだというわけである。
 聞いただけでなんとも恐ろしくて鳥肌ものだが、実際、皮膚が焼かれる間これはもう死んだ方が楽なんじゃないかと思うほどの激痛に、クロードは何度も意識を飛ばしかけていた。
 虹色の川や綺麗な花畑が見えたなんて冗談じみた体験をしたのも、きっと今だから笑えるようなことなのだろう。もしそのままふらっと川を渡っていようものなら、絶対に笑えない。
 何とか無事に現実世界に戻ってきて一命を取り留め、そして今に至る。
 満足に動かすこともままならないこの体に、クロードは肩を落として深いため息を吐いた。これで、ため息は今日何度目だろうか。……色々な意味で。
 一番深かったため息といえば、やはりあれだ。
 ジュリアとキスをして、盛り上がって、そしてせっかく愛をささやき合ったのに。それからを、正直期待していた。ほんの少し前まで、愛する女との濃厚なキスに溺れ、そして熱に浮かされて抑えきれない衝動に囚われたクロードは、本能のままにジュリアの首筋に顔をうずめては、無我夢中に愛しい彼女の感触を楽しんでいたのである。
 そんなクロードにジュリアはなんだか恥ずかしがりながらも、くすぐったいと笑い素直にそれに応えてくれて、まるで熟したリンゴのように顔を真っ赤に染め上げつつ、口に含んだ瞬間にとろける飴みたいなとても甘く、それでいて男心を十二分にくすぐるような鳴き声を聴かせてくれていたのに。
 ……もちろん、こんな最低最悪な場所でジュリアを抱くわけにはいかない。
 それは、いくら両想いだからといっても一緒だろう。大切だからこそ、ちゃんとした場所で、お互いに心を決めてからじゃないといけない気がした。
 ――でも、少しくらいはいいだろうに。
 せめて、ジュリアは自分のものだという目立つ証が欲しかった。他の誰が言い寄ってきても、彼女は自分の女だというはっきりとした印を残したかったのだ。――が、神様は残酷だ。
 お互い気持ちが高ぶりそして熱い衝動に理性を狂わされていた真っ最中に、ズドーンと集中豪雨をもたらしたのである。
 この時ほど、神を恨んだことはない。ジュリアとのことで舞い上がっていたクロードだが、傷を負っていたことを忘れてはいけなかった。情けないことにクロードは大量出血で貧血をおこし、灼熱の炎で皮膚を焼くという一歩間違えたら死に直結しかねない緊急処置を余儀なくされたというわけだ。
 まあ皮膚が焼けているわけだから、空気に触れるだけでもとにかく痛い。よって、これ以上愛しいジュリアに触れるのもしばしお預け状態。
 それにジュリアももう熱が引いたのか、今はただ寒さに肩を抱きながら眠っているだけである。
 ただ、その首筋には赤い花びらが存在感たっぷりに散りばめられており、それを眺めながら、クロードはこの麗しの美女の心を自分という男の存在で一杯に染めあげられたことに満足しながら、うとうとと眠りに落ちていった。






「……あいつさ、どこにいるんだろうな?」
 夜の暗闇に紛れ、木の根元の穴に身を隠していたゼルは、顔だけをひょいっと出して、きょろきょろと辺りの気配を伺っていた。
「わかんない。でも、たぶん近くにいると思うの」
 だから気を抜かないで、とひそひそ声で喋りかけながら、隣で膝を抱えるようにしてうずくまっているのはリリア。
「……おう」
 今は深夜。月は厚い雲に覆い隠されていて、不気味な雰囲気がまるで見えない霧のように森一帯を埋め尽くしている。
 この峡谷の森は、どこか、幼い頃に読んだことがある絵本『迷いの森』の森を連想させた。
 ――なんか、やだぜ。
 ゼルはそう思いながら、首をがしがしとかいた。
 『迷いの森』――この森には常に不気味な白い霧が漂っていて、行方知れずになった子供の数は数え切れない。空にぽっかり浮かぶ月がにたにたと隙っ歯の妖しくて薄気味悪い笑い顔で森に入り込んだ子供を眺めては、真夜中零時の訪れと共に、森を黒い影が徘徊しだし、そして見つかった子供は食べられてしまう…………とかいったホラーチックな作品だったような気がする。
 凍てつくような冷たい風が、木の穴で身を寄せあいながら息を潜めている二人に悪戯するみたいに吹いてくる。
 ゼルは寒さに鼻をすすると、隣で震えるリリアを見た。
 けっこう露出した肩が、ものすごく寒いよと訴えかけてきているのが手に取るようにわかるようだ。
(あ〜寒ぃ……くっついたら怒るよな、やっぱ)
 うかつに鼻の下を伸ばして肩を抱いたりしてみろ。間違いなく、ゼルの顔は蜂に刺されたのかと疑いたくなるほどブクブクに腫れ上がるはずだ。しょうがなしに、ゼルはその妄想を却下した。
 クロードが谷底に落ちてから、既に数時間以上が経っていた。もうじき、夜も明けるはずである。
 ゼルもリリアも竜巻に巻き込まれてクロードとはぐれた後、なんとか二人でこの場所へと逃げてきたのだった。というのも、あのクロードの首を取ろうと狙っていたクロエとかいう女が、今度は自分達を標的に変えて、見たこともない奇妙な剣技でしつこく追ってくるのだ。
 リリアの中級精霊フラウで対抗しても、クロエは全く動じず、それどころかフラウの方が押され調子だった。
 クロードも探さないといけないのに、なんて厄介な女なんだ。
 悪態を吐きつつ、ゼルは夜空に見え隠れする月を見上げた。


大至急書いたのでおそらく所々変な文章だと思います。
それから金曜日に更新するとか言いつつ、とうとう日付が変わってしまいましたね(><;)

次の更新の予定はまだ未定です。というのも仕事が忙しくて執筆の時間が取れないんです。
でも更新日の報告や状態は明日か明後日あたりにちゃんとHPに書き込みしますので!!リンクしてますから気になる方はご覧ください。

次回もよろしくお願いします











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう