†リガルド王国物語†〜Love&destiny〜(29/95)PDFで表示縦書き表示RDF


†リガルド王国物語†〜Love&destiny〜
作:AYAKA



第二十七章 それは邪悪なる悪魔か


 足場の狭くて不安定な崖。しかし崖というよりは、大きな岩だらけの斜面が急な下り坂、というほうが幾分しっくりくる。この崖はどうやら、丘の半分がザックリ削り取られて出来たような感じなのである。
 それほどの高さはないとはいえ、ひとたび足を踏み外してしまえば、真下に落下して骨折だけではすまされないだろう。
「あと、ちょっと……」
 ゼルはクロードを背負ったまま、ゼーゼー呼吸を荒げながらゆっくりゆっくりと下の遺跡を目指していた。
「あーちっきしょ、重い重いおも〜い! コイツ、一体何キロあんだったく」
 時々、意識がなくずるりと落ちてくるクロードをよっと担ぎ直しては、クロードの意外と重い体重にぶつくさ文句をもらす。クロードときたら、平均的な体系のわりには、よく鍛えあげられた無駄のない筋肉のせいか、思っていたよりも重かったのである。わりと細身なゼルからしてみれば、クロードのそのたくましい肉体美は羨ましいこと限り無いが、この時ばかりは別である。担ぐのも一苦労。正直しんどい。
 ガララ…と音を立てて転げ落ちる石粒や土砂が、一歩踏みだす度にさっきから雪崩れのように発生していた。
 ゼルが汗水たらしてようやく崖下まで下り立つと、危なっかしい動きのリリアも、少し遅れをとったがなんとか無事に下りてきた。が、最後に勢い余って加速してしまったのか、ちょこちょこした足の運びがやけに速くなり、しまいにはゼルの胸にぶつかるようにして止まった。
「うきゃ! …っ…鼻、うっちゃった」
「大丈夫――……?」
 どわっと慌ててリリアを受け止めた後、クロードを背負ったままのゼルはバランスをなんとか持ちこたえ、痛そうに涙を溜めて鼻をさするリリアに心配の眼差しを向けた。しかし、悲しいかな男という生き物は。
「も……もにゅんもにゅんのふわんふわぁん……」
 リリアの顔に向けたはずの視線はいつの間にやら、しっかりと自分とリリアの間でむにゅっと潰されている豊かな園へと降り注がれていたのである。
 ――や……やわらけぇぇ
 巨乳の何とも言えないやわらかな感触が、自分の胸板へともろにあたっていて。全神経が、我先にとリリアと触れ合った場所に集まってくる。そして心臓から送られる全部の血液が、一気に頭に密集してかけ上っていく感覚に、ゼルはだらしなくたらりと鼻から鼻血を垂らしてしまった。
「きゃ、どこ見てるのよゼルのエッチ! そんなにみ、見ないでよッ」
 ゼルの視線が一心に自分の胸に降り注がれていることにようやく気がついたのであろう。リリアは恥ずかしそうに両手でサッと胸を隠すと、まるで怒ったリスのようにプンスカ頬を膨らませながら、顔を真っ赤に染めて先に歩いて行ってしまった。
 ゼルは危うくふわふわした巨胸の楽園へと意識が旅立つ寸前で我に返り、こんな時に不謹慎だとは思いつつも、未だに残るリリアの胸の感触にサルみたいに鼻の下を伸ばすのであった。



 その頃丘の上では――――
「フン……実にみにくい姿だ」
 丘の中腹に立ち、その鋭い切れ長な眼をノームに向けつつ、銀髪の男はクスリと嘲笑った。
『ぬんぬん。愛嬌ある姿だと言ってもらいたいんだな』
 ジトリ。互いに牽制けんせいしたままで睨み合い、今のところは、どちらも動く様子も見せなかった。しかし、まるで細い糸が張ったような緊迫した空気は変わらない。
「愛嬌? 戯言はよせ。これならば、まだナメクジの方が可愛いというものだ」
『ぬん! お前は昔っから鼻にかかる奴なんだなッ。そんな性格だから里のみんなに嫌われるんだな』
「フフ……別に、貴様らに嫌われようと私はかまわないさ。むしろ、貴様らとの馴れ合いなんぞこちらから願い下げというものだ」
 男は優雅に銀の髪をかきあげると、自信げに薄ら笑いを浮かべたまま指をパチンと鳴らす。
 すると、それまではそよそよと緩やかに吹いていた風がいきなり荒れ狂いだし、青かった空を黒々とした厚い雲が覆い、やがては巨大な竜巻を生みだしたではないか。
 竜巻はそこらかしこの枯れ木や岩を巻き上げ、さらにはギュルギュルともの凄い威力で回転しながら、一直線にノーム目掛けて突き進んできた。
 ――ぬぬ、これはまずいんだな。
 ノームは身の危険を察知し、その奇妙な姿からは想像もつかないほど、なんとも素早い動きで地中に潜った。長くて鋭利な爪で硬い地中を掘り進み、そして男の気配を微弱な超音波を放つことで感じ取りながら、やがてある一点目掛けて一気に地上へと飛びだす。
「――くっ」
 ノームの読みは見事にあたり、そこには男がいた。足元を崩された男はサッと安全な場所へ飛び退こうとしたが、そこへすかさずノームの今度は強力な超音波攻撃が炸裂する。
『くらえ、至近距離からのオイラの超音波なんだな』
 空気が波紋状に振動し、超音波は容赦なく男を直撃したようだった。その証拠に男は少し離れた大岩に激突したのである。
『……“裏切り者のイリス”、これでとどめなんだな』
 大地が再びうごめき、丘が次第にその姿を削り陥没していく。代わりにこの場に現れたるは、それはそれは巨大で鋭く尖った大地の槍。
 槍がその全貌をさらしだした瞬間、ノームは銀髪の男――イリスが吹き飛んだ大岩に向けて、最大級の土の槍を投げ放った。
 ゴオオォォと大空を裂きながら、巨大な土槍はイリスを標的にして飛び、あっというまに大岩もろとも約一キロ四方の荒野を砕き、そして荒野の大地にバキバキッと亀裂が生まれた。
 こんな攻撃をそれも直撃でくらってしまっては、いくらイリスであろうとも即死は間違いないだろう。
 そう高をくくっていたノームは、勝利の雄叫びを上げて余裕綽綽に大地を太鼓のように打ち鳴らした。
 だが、その時――――
「貴様のその油断が、戦場では命取りになるのだ。覚えておけ」
 突如、もくもくと天に向かってあがる土煙の中からイリスの静かな声が響いたかと思うと――――
 ズズズ……と奇怪なノイズと共に、未だに暗雲たちこめる大空が、裂けた。そしてそこから、ゆっくりと、長い爪を生やした悪魔のような気色悪い手がヌッと現れ、空に空いた漆黒の空間を徐々に裂きながら広げていく。
『――ッ。ぬぅ!』
 サーッと、一気にノームの全身から血の気が引いていった。それまで沸き起こってい勝利の喜びも、まるで地中深くにグッと押し込まれてしまったかのように。
 避けた場所の空には、今だ空間を裂き広げ続ける奇怪な両手と、黒と紫色の不気味な光を放つ魔法陣が怪しく浮かんでおり、そこいら一帯が歪んでいるように見える。そして。そこに描かれた紋様は、精霊の中でもまぎれもなく最凶だと語り継がれる邪悪な精霊のもの。そう、“闇の精霊ケノン”の紋様であったのだ。
 闇の精霊召喚は、精霊召喚の中でも最も重罪なる禁忌とされるもの。決して、呼び出してはならない精霊。そのことを精霊であるノーム自身もよく知っていたし、そもそも闇の精霊を呼び出せる者がエルフの女王以外にいたというのか。
 ノームはジリッ…と数歩後退し、警戒の低い唸りを発した。上級精霊――邪悪なる悪魔ケノン。
 同じ上級精霊である水のウンディーネや炎の帝王イフリーティアと比較しても、その秘めたる力の差は歴然としている。ましてや、中級精霊である自分ごときが敵うことなどあるはずもない。
(地中深くに潜り込めば……なんとか奴の攻撃を避けられるかもしれないんだな)
 そうである。地中の奥深くまで身を隠せば、なんとか、これから放たれるであろうケノンの恐ろしい攻撃を回避することができるやもしれない。しかし、ノームにはその行動にためらいがあった。
 もしここで地中に逃げ込んでしまえば、丘の反対側に広がる遺跡は跡形もなく消滅してしまう可能性が大なのだ。仮に運良くそれを免れたとしても、リリアとゼルと傷を負ったクロードがまだ遺跡に辿り着けていないならば、三人は確実に死ぬ。
 そうこうしているうちに、とうとう決断の時はやってきた。



「ねえ……今」
「ん?」
 遺跡の入り口付近に倒れているひび割れた石柱を乗り越えながら、リリアはハッとした表情で丘を振り返った。そんなリリアの様子に、先を歩いていたゼルもなんだなんだというように立ち止まる。
 ――この感じ……大気が震えてる……
 微妙な大気の変化に、リリアは困惑の色を見せた。どんなに微かな変化も、敏感なリリアにはそれが感じ取れるのだ。
 倒れた石柱のすぐ傍には小さな水溜りができており、二羽の小鳥が羽をバサバサさせながら水浴びをしている。しかし、小鳥達はすぐに水浴びをやめ、怯えたようにどこかへ飛び立ってしまった。
 ――まさか……
 この禍々まがまがしい気配、見上げた空はどんよりと紫がかっていて。そしてなによりもこの空間のひずみ。嫌な、とてつもなく不吉な予感が脳裏を駆け巡る。
 ――あの人ならやりかねないわ。
 リリアは依然として立ち止まったまま、首飾りをきゅっと握りしめた。首飾りからは今だに微弱な黄色の輝きが漏れているが、こころなしかそれは段々光を失っているようにも感じられる。
「どした? なんかあったか?」
 すでに祭壇へと続く階段のふもとにいたゼルが心配そうに戻ってきたが、途中で足を止めて声だけかけてきた。きっと、クロードを背負ったまま横なぎに倒れている石柱を超えるのは大変なのだろう。
「ううん、なんでもないの。さ、急ぎましょう」
 ここでゼルに余計な心配をかける訳にはいかないだろうと、あえて笑顔を作る。
 今はともかく、安全な場所でクロードの傷の治療が最優先なのだ。遺跡の奥、祭壇にさえ辿り着けたら、あとはとにかく運任せ。光の神にすがるほかない。
「ノーム……お願い。あと少しでいいから持ち堪えて」
 もくもくと激闘を告げる煙やら地響きが断続的に続く崖の上の丘を見つめながら、祈るようにリリアは瞳を閉じた。


最近シリアスな雰囲気が続いているような・・・気がしてなりませんっ(汗)
作者としても、もっと恋愛色豊かにいけるように頑張りますので!

ちなみに、精霊についての補足です。
上級:闇のケノン・水のウンディーネ・炎のイフリーティア
中級:氷のフラウ・土のノーム
下級:風のシルフィー

といった階級があります。それでは、次回もぜひ読んでみてください♪











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう