プロローグ
誰かの視線を感じた。
けれども振り返っても誰もいない。
「ねえ、どうしたの?」
キョロキョロとする隣にいた彼女が僕の心配をする。
「いや、何でもない」
そう、何でもないはずだ。
そうやって心に言い聞かせて僕らは街中を行く。
ふいにカアッと鳴き声が聞こえた。
カラスだ。
何処にでもいるようなカラス。
けれども僕はその鳴き声に背筋に寒いものが走る。
僕は体を抱え、震えていた。
「ねえ、本当に大丈夫?体調悪いの?」
「ああ、もしかしたら少し風邪をひいたかもね」
そんな僕の嘘を彼女は真に受けて、今日の献立の提案をしてくれている。
奴らの視線に気づかずに。
街路樹に止まっている黒い塊は確かな意思をもってそこにいる。
僕達を監視している。
それは被害妄想じみているのかもしれない。
けれど、そう思わずにはいられないだけの経験を僕はしている。
「ねえ、鍋とかよくない?栄養がいっぱい取れて、風邪によさそうな気がするし」
「そうだね」
僕は木の上のカラスを睨みつける。
その視線に気付いたのか、
「何?カラス見てるの?昂司って鳥好きだったけ?」
「いや、大っ嫌いだ」
僕はカラスに投げつけるように言い放つ。
そんな様子がおかしいのか、彼女はくすりと笑うのだった。
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