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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

八泊目

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2人を送ってから……

 結局、喜多専務の都合で出発が少し遅れたため、行くのは2箇所となった。
 最初に行く候補地は、八王子、川越、川口。
 そこにはうちの会社の支店とかがあるわけではない。
 なんでそこが候補地なのかオレにはまったくわからなかったが、とりあえず時間的に川口の緑化センターとかいう場所によることになった。
 オレは2人をおろしたあと、駐車場でマイ・スーパーカーである【アウトランナーPHEV・エボリューション】の中でテレビを見ながら待っていた。
 実はここ、道の駅が併設されていて、川口産の安行寒桜の花、柚子の実、山椒の葉を使用したオリジナルのアイス【樹里安アイス】というのが売っているのだが、残念ながらアイスを食べたい気分ではない。
 しかし、ここは道の駅としての名物ってそのぐらいしかないので、わざわざここを目指してくることはもうないかもしれない。
 ならば、やはり食べておくべきかと、もやもや悩んでいる打ちに、2人が戻ってきてしまった。
 しかも、非常に浮かない顔を2人そろってしている。
 事情がわからないので、どうしましたとも聴くに聴けない雰囲気だ。
 いったい、喜多専務はなんのためにここを見に来たのか。
 思い当たるところといえば、専務の配下にあるレジャー施設開発企画部門ぐらいだが……。

「すまんが、大前君。次は、木角コーポレーションの本社に頼む」

「了解っす。……すいませんね、喜多専務。いつもの車と違って乗り心地が悪いっすよね」

 後ろに専務が乗りこみ、助手席には十文字女史。
 てっきり後ろに女史も乗るのかと思ったが、ごく自然に助手席に乗ってきた。
 まあ、狭くはないが特別広いわけでもないからな、後部座席。

「いやいや。そんなことはない」

 喜多専務が少し笑いながら答える。

「急に車をだしてくれただけでも本当に助かるよ。それに、高さがあるので乗り降りだけは気になるが、乗ってしまえばなかなか快適だ。特に静かさはすばらしい」

「ですよね! 静音性はすごいっすよ。特に今は電気で走っているんで、めちゃくちゃ静かじゃないですか?」

 車を褒められ、つい嬉しくてプチ自慢。
 まあ、このぐらいはいいよな。

「ああ。走っている時も本当に静かだ。普段のもハイブリッドだがね、これはまた格段と静かだよ」

「ボディの遮音性も高級車並っすからね!」

 相棒が褒められ、鼻高々。
 そんなオレを専務が面白そうに笑う。

「あははは。大前君は、この車を気にいっているんだね」

「ええ。もちろんっす。今のオレがいるのは、この車のおかげですからね」

 そうだ。
 オレはこいつで逃げて、こいつに連れて行かれ、こいつで戦って、こいつで戻ってきた。
 オレの愚かさ、弱さ……そういったオレ自身のことをこいつに教わったようなものだ。
 そして、これからもこいつに乗っていろいろなところに行ってみたい。
 そこで別のオレを見つけてみたい。
 オレの足であり、家でもある、この車で。

「そうか。ならば、最近の大前君の仕事ぶりも、この車のおかげなのかな」

「うっす。……あ、はい。そうです!」

 オレの自信たっぷりな返事に、また喜多専務は笑った。
 まあ、仕方ないだろう。
 専務はきっと、オレの言っている意味をちゃんと理解してはいないはずだ。
 せいぜい「高い車を無理して買っちゃったから、仕事をがんばらないといけないと思っている」ぐらいかもしれない。

「でも、いい車ですよね。私も欲しくなりましたよ」

 十文字女史が助手席から、すごく優しい表情で笑顔を向けてくれた。
 ヤバい。
 その破壊力は、ダイナマイトで頭を吹っ飛ばされるぐらいの勢いだ。
 会社では、いつもきついキリッとした瞳と、きゅっと締められた唇の強ばった表情なのに、今はオレの車の助手席で優しく微笑みながら、親しみのある言葉をかけてくれているのである。
 少し前なら信じられないような、夢見るシチュエーションだ。
 心臓がバクンバクンとしてしまい、オレは何も話せないまま正面を向く。
 興奮するわけにはいかない。
 車の運転に集中だ!

「ほう。十文字さんも車に興味があるのかね」

「はい。こういうアウトドア思考の車でしたら」

「ああ。君はアウトドア派だったね。なるほど」

 専務と女史の会話に耳だけを傾ける。
 そう。女史はアウトドア派。
 そのおかげで、女史と話すことが増えたのだ。
 1度、ランチへ行って車の話をしてから、実は2度、その後にディナーへ行っている。
 しかも、女史から誘われてだ。
 社内人気ナンバー1の女性だよ? それに誘われて2人きりでだよ?
 つーか、すごくねー? すごいよね?
 オレどうしたの?
 マジ、モテ期ってやつ?

(……ってまあ、話している内容は、車とアウトドアの話ぐらいなんだけどね)

 そうなんですよー。
 色っぽい話はなし。
 昔のオレなら、きっとガツガツと口説きにいったりしたんだろうけど。
 つーか、口説きたいのは口説きたいんですよ、正直ね。
 でもね、なんかキャラとか、アズとか、さらに最近はミヤの顔までちらついてきてしまうんですよ、脳裏に。
 でもまあ、そのおかけで女史も2度もディナーに誘ってくれたんだと思うんだけどね、今となって思えば。
 ガツガツしてこなくて、気楽に趣味の話を話せる友達……たぶん、女史にとってオレはそういうポジション。
 つーか、オレは底辺社員ですからね。
 そんなところで、変な期待しませんよ。
 最近のオレ、けっこう自分のことわかってきましたから。

「はい。到着しました」

 木角という会社は、もともと財閥系の総合総社だ。
 とにかくでかい、うちの会社なんて比べものにならないぐらいでかい。
 ここに一睨みでもされたものならば、うちの規模でも簡単に潰されかねない力がある。
 この会社についてオレが知っているのは、まあそのぐらい。
 あとはよく知らないが、とにかく本社も立派ででかい。
 ビルは何階あるのか知らないが、超高層ビル。
 しかも自社ビル。
 地下駐車場だけでも、ちょっとしたショッピングモールかと思うぐらいの規模がある。
 オレはその駐車場に止めると、トランクルームから専務の荷物をとりだした。
 なんか高そうな茶菓子とか入っている箱が、紙袋に入っている。
 とりあえずオレは荷物持ちとしてそれを手にし、玄関ホールまで2人につきそった。

「ありがとう、大前君。時間が読めないから、あとは直帰してくれ。今日は本当にすまなかったね。ガソリン代はあとでだすから、十文字さんに請求してくれ」

 気重な表情の喜多専務が、力なく微笑を見せる。
 いつも自信満々な専務にしては珍しい顔だ。

「大前君、ありがとう。気をつけて帰ってね」

 十文字女史もどこか顔色が悪い。
 もしかして、これからの会合はあまり良くない話なのだろうか。
 こればかりは、オレごときが口をだせる話ではないはずだ。
 とりあえず、心の中で2人の成功を祈って見送った。

「……ん? なんかやってるのか」

 帰ろうとした、その時だった。
 ホールに併設されているレストランで、なにかイベントらしきものをやっているのを見つけた。
 ガラス張りのレストランでは、いつも並んでいるであろうテーブルが少し片づけられ、立食パーティのような雰囲気となっていた。

(ええっと……『お取引先各位。名刺をご提出いただければ、中の飲み物と食べ物を自由にお楽しみいただけます』……だと!?)

 オレは入り口の看板を見てから、中を覗く。
 ビールを飲んでいる客がいる。
 それも何種類もあるようだ。
 さらにおつまみ料理も用意されているらしい。

(明日は土曜日……ここの駐車場なら引き取りに来られる……ってか、このままここで寝て異世界に行ってもいいか……)

 オレはビールに誘われるままに、その会場に足を運んだ。
※参考

●道の駅川口・あんぎょう
http://www.jurian.or.jp/
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